母が田舎の実家に戻りますので、私もついて行くことになりました―鎮魂歌(レクイエム)は誰の為に―

吉野屋

文字の大きさ
40 / 46
第五章

9.怨念

しおりを挟む
 東神家夫人が失踪した直後、ご当主は直ぐに警察へ連絡した。夫人は元々欝病の様な様子もあったという使用人達の証言もあり、徘徊しているのではないかと思われる為、家の裏に続く山林を早朝から警察と消防で山狩りを行ったが見つかっていない。家の前に河が流れている為、河沿いの捜索もヘリコプターと警察犬を使い捜索されたが何も見つからなかった。

 この村では有線を使い、痴呆による老人の徘徊等で行方不明が出た場合は放送で地元民にも情報を流すのだがご当主の判断でそれは止めてもらったそうだ。それは、夜更けに家を飛び出て行った夫人の様子が普通では説明できないような有様だったからのようだ。

 東神家の裏山には定期的に人の手が入れられており、林道にも手入れがされているが、警察犬は全く役にたたなかったらしい。熊や猪といった大きな獣が出没するのでそれに怯えるといった事は考えられるが、尋常ではなくどの犬も怯えてまともな捜索にはならなかったらしい。

 今日も午前中は捜索を行っていたそうだが、何も手掛かりはないそうだ。捜索のヘリコプターも山の捜索に飛ばされていると聞いた。どうりでやけにヘリコプターが飛んでいる音がするなと思ったはずだ・・・。

 そういえばヘリコプターって山で遭難した時の捜索に使うけど、捜索を依頼した家族は後で高額な料金を請求されると聞いた事がある。災害時には自衛隊や警察のヘリが使われるけど、あれは県知事の要請が必要なので、民間の救助ヘリに遭難者の家族が依頼するらしい。

 例えば、民間の救助ヘリを要請すると1時間で済む案件ならば100万円以内で収まる位の要請料が発生するようだ。場所や条件にもよるけど、普通1時間で遭難の捜索が済むなんて事はなさそうだと思う。つまり何日も捜索を要請すればとんでもない金額に膨れ上がる。だから山登りが趣味の人は、もしも自分が遭難することがあってもヘリコプターは頼まなくていいという人がいるみたいだ。


 東神家の裏山の奥というと他県に繋がる深い山々が続き、人の手も入っていないので分け入るのは危ない。山の状態から見ても、人が入った様子も見られなかったという。


 夫人が居なくなった当日は、午前零時過ぎに地震の様な揺れが何度も起き、家に亀裂が入る様な音がした事で、寝ていたご当主とお兄さんは家が崩れるのではないかと思い、部屋に籠っている夫人の元へ駆けつけようとしたそうだが、二人が寝間着のまま出て来た所で、獣の様な唸り声と共に四つ足で這いまわる夫人に遭遇したという。

「家内は人とは思えない様な身のこなしで、そのまま中庭へ続く縁側の大きいガラス張りの窓を突き破り、庭に飛び出ると屋敷の裏に向かって暗闇に消えて行きました。どう考えても、あれにその様な事が出来るはずがないと思うのですが、実際に目の当たりにして、考えも変わりました。私には理解できない世界の話なので、今までお世話になっていた百家神社に来てもらうしかありません。・・・もし、過去の私がもっと注意深く物事に配慮できる者であれば、前妻と息子を失わずに済んだのかも知れないと思うとたまらない気持ちになりますが、今はとにかく妻と息子を守りたいのです」

 ご当主の言葉に百家くんのお祖父さんは頷いた。

「昔から因縁のある井戸の事ですから、私共の方で対処させて頂きます。家に残っている文献によると、当時は恨みの念が強く、祓うという事は出来なかったという記述がされています。そのため封印を施し、年に一度それをかけ直すという方法がとられたのです」

「あの、長い年月かければ、人を恨む気持ちというのは薄れていくんでしょうか?」

 これはお兄さんの問いだ。

「どうでしょう・・・これは私自身の解釈の仕方ですので他の考えもあると思いますが、人であれば時間が解決しますが、恨む気持ちが強すぎて悪霊に・・・いや、もうこれは怨霊ですね。怨霊になった者はすでに人ではない。それが凝り固まった怨念は凶悪な悪意でしかありません。だから話はもちろん通じず、祓うという事ももはや簡単ではありません。もし一時祓えたとしてもまた戻って来ます。だから当時は封じるしかなかったのでしょう。怨念を鎮めるように常に気にかけ祈りを捧げる事を続けていれば様子も違っていたのではないかと思うのです。―――――東神家の場合、結果として長い年月のうちに封じられたまま忘れられてしまいました。祀り、祈り、鎮める約束は果たされていませんので、留まり行き場を失った怨念はますます強く育ち、何かを切っ掛けに噴出してしまった。この何かとは、誰かが故意に封印を切ったのだと思われます」

「・・・一体誰がそんな事をしたのでしょうか?」

「さあ、見ていた訳ではないので分かりませんが、故意と言っても本人の意思などではなく精神に干渉され操られたのでしょう。そういったものに狙われるのはつけ入りやすい心の弱い人です。―――――ですが、その時誰かがそれをしなくても、次の機会に別の誰かが狙われます。もしかしたらご当主だったのかもしれない。それほどにここに封じられていた障りは恐ろしいものです」

 ご当主の問いにお祖父さんは答えた。お祖父さんが言いたいのは、怨霊に操られ封印を切った人を責めても仕方がない事だということだろう。元の原因の“障り”を絶たなくてはこの東神家は後がない状態だ。

「―――――私は、何をすれば良いのでしょう・・・もう、何もかも遅いのでしょうか?」

「いいえ、大丈夫です。まずはもう一度封じて、井戸のあった場所に怨霊を祀る社を作りましょう」

 お祖父さんはそう言った。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...