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第二章
ドルモア領
しおりを挟むルイスの様子を見に行こうと思ってから、まずやった事は、彼が借りていた借家を貸してくれていた家主さんに返す事だった。
これも銀の小鳩亭のガルドさんにお願いして、ルイスの友人だったゼスクアさんから家主さんに話をつけて貰った。
ルイスがゼスクアさんを介して借りた家だったからだ。
私は王都に来てから『銀の小鳩亭』の2階の空き部屋を借りていたので、そこに戻る事にした。
銀の小鳩亭のガルドさんとメリルさんが店を始めた頃、二人で店の2Fに住んでいたのだが、そのうち店の裏に家を別に建てたので2Fが空いたのだ。
キッチンもリビングも寝室もあって子供が生まれても住むには十分広い。ガルドさんもメリルさんもそうしろと言ってくれているので、遠慮なくそうさせて貰う事にした。
自分の荷物は増やしていなかったので、引っ越しも簡単に済んだ。ルイスの身の回りの物は、ゼスクアさんから彼に手紙を出して貰い、処分するのかしないのか、家の者に取に来させるのか聞いて貰う事にした。
ゼスクアさんは、私の事をどうするつもりなのかルイスに先日も手紙を出して聞いてくれたようだが、返事が返ってこなかったそうだ。
なので、今回はひと月以内返事がないのならばその時は全て大家さんに処分して貰う旨をしたためてもらった。
そして、私はルイスとは今後一切、なんの関係もないので、連絡を取ろうなどと思わないでくれと付け加えて貰った。
送る手紙の承認はゼスクアさんとガルドさんのサイン付きで、神殿の内容証明便を使い、見ていない、知らないと言わせないようにして貰った。
1.ルイスが仕事を辞めて領地に帰る事を事実婚の相手ミリアムに知らせなかった事。
2.ルイスが借りた借家をそのまま放置して領地に帰った行った事。
3.事実婚の相手ミリアムを放置したまま、彼女の妊娠の有無を確認せず、領地で兄の妻だった女性と結婚した事。
その貴族にあるまじき不道徳な行いにより、ミリアムには以後近づかない事。
証人/ ゼスクア・ジェビエン
ガルド『銀の小鳩亭』店主
という様な内容だった。
ゼスクアさんは、ルイスの同僚で近衛騎士である。ジャビエン伯爵家の3男なので彼が貴族としての証人に立ってくれた。やはり、こういう事は貴族相手だと、貴族の証人が居ないと弱いのだ。だからとても有難かった。
そして、この神殿の内容証明便が届く頃、人知れず私はドルモア伯爵領のユニックの街に馬車から降り立った。
まず、行って見て思った事は、この伯爵領はあまり栄えていないと言う事が伺えた。
インフラの整備が遅れている。領民の為の公共の物にお金が使われていない、それなのに領主の館の煌びやかな事。
ど田舎にある実家の子爵家の領地に比べても、場所も王都に近く、領地も伯爵領なので規模も広いのに、ハッキリ言って街並みを見るだけでも、古くさびれたとても貧しい遅れた領地だ。
それに比べて実家の領地は、規模こそ狭いがだいぶ豊かだった。ちゃんと領民の為を考えた領地造りをされていた。
だが、それは当たり前の事で、全ては自分達に戻って来る事だからだ。
ドルモア伯爵領の領主の館のあるユニックと言う街はそれでも来るまでに目に入った他の領内の町よりもマシだったが、これは立て直そうと思えば並々ならぬ努力が必要になるだろう。
ユニックで唯一の宿屋も、良い部屋を頼んだのだが、井戸が枯れていて今は水がでない、川から運んで使っているがとてもフロの用意は出来ないと言われた。
領主の館があるので、各ドルモアの領地の役人などが領主の館に用事がある時に利用するらしく、唯一の宿屋なので一応泊り客はいるようだ。
しかし、体も拭けないなんてとんでもないと、こっそり井戸の場所を見に行くと、確かにつるべを落としてみても水音もしない。完全に枯れ切っているようだ。
しかし、領主の住む街すら、水路や水回りを考えて造っていないなど、ダメすぎるだろう。
まず、ミリアムは井戸の傍に立ち、自分の得意な『水呼び』をした。浅い井戸なので、もっと奥の水のある地下から水自体を呼びながら回転を起こしボーリングする。水脈は間違いなくあるのだから少し深くしてやれば良い、ミリアムの実家であるノーマ子爵家のお得意な水魔法のおかげで、かの地は水路の配備は万全である。
まあ、最初は泥水が噴き出るだろうが、直ぐに落ち着かせる事も出来る。
なんだったら、ここにだけ大気中の水分を呼び寄せ、小規模の雨を降らせることも可能だろうが、なにせ自分は妊婦だし、そこまでする義理はないだろう。疲れる事はしない主義である。
そして、多分ここの井戸だけ水が出ると言う事が領主の耳に入れば、ルイスが来るのではないだろうか?
なので、ちょっと派手な演出を仕掛けて見る事にした。
当然、宿屋の主人や女将、そして従業員も井戸から吹き上がる水に大喜びした。その噂はあっと言う間に街中に広がり、水を求めてたくさんの人が詰めかけた。
宿屋の従業員に、このドルモア家の家系はどんな魔法を使う事が出来るのかそれとなく聞いてみると、領主は風系の魔法が使えるが、魔力も弱くあまり領地の経営には関係ないので皆気にしていないと言う事だった。
事故で亡くなった長男も、魔力持ちだが力は弱かったらしい。ルイスに至ってはほとんど魔力なしだったそうだ。
長男は大雨で土砂災害の起きた他領の境界である谷にある村を視察中に二次災害に巻き込まれ亡くなったそうだが、父である領主よりも領民の事を考え、領地中を動き回って改革案を考えてくれていた人の急死に領民は皆がっかりしていた。
だが、領主が次男を呼び戻し、その次男も兄の意志を継ぎ頑張っているようだと言っていた。
普通、貴族で魔力なしの男子で次男以下となると、冷遇対象だったかもしれない。この国では長男が後継ぎと決まっている。
それであれば、自分の力で騎士になるとか、官僚になるとかで食べて行くしかない。けれどもそういう事は、貴族ではよくあることだ。
だが、まだ次男ならば今回のような事があるので、スペアー対象でもあるのに、何故ルイスは完全に家と縁を切っているような様子だったのだろうか?
そうこうしている内に、表通りに面した2Fの窓から見ていると、宿屋の前に家紋入りの馬車がやって来た。後続には水を入れる為の大きなブリキで出来たタンクのような物が乗せられた荷馬車が何台も連なっている。
宿屋の前で馬車が止まると、御者が馬車の扉を開けた。
中から出てきたのは、ルイスだった。あとから着飾った貴婦人も出てきた。あれが奥方なのか…。
奥方を見た時、ミリアムはとても複雑な気持ちになった。何故って…ミリアムと同じプラチナブロンドに水色の瞳をしていたからだ。
ミリアムによく似た容姿をしていたのだ。
背格好もそっくりだった。
「なぁに…そおいう事なの?、私はつまりスペアーだったって事?」
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