8 / 43
第二章
ルイスの裏切り
しおりを挟む私の夫ルイスは、このゼノディクス王国の近衛騎士をしている。
近衛騎士は貴族出身で、身目麗しい者が選ばれると言われるだけあって、ルイスは金髪碧眼のとても美しい男だった。
彼の仕事の休みは週2日あり、月決めなので何曜日が休みだとか決まりはないようだ。前の月に休みは決められ、都合がある場合はその時に申請する事になっている。
先日医療神院で間違いなく『おめでたです』と言われたので、夫のルイスに報告しようとしていた矢先に、その日に限って、城の夫から急ぎの速達が届いた。
夫は一緒に暮らすようになっても実家に帰る事もなく、理由は分からないが、本当に実家と縁を切っているのだなとミリアムは思っていた。
そう言えば、ルイスはとても優しくよく出来た夫だったが、こと自分の実家の事に関してはミリアムに何も言わなかった。
そして、そのせいかミリアムが言い淀んでいるミリアムの事情にも立ち入ろうとしなかった。
それは、ミリアムにとって気分的にも楽であったし、それまでのルイスとの付き合いで、ルイスがとてもまじめで人をだます様な人間ではないと思っていたので、そのうち時期がくれば自分もルイスもそれぞれの事情をお互いに話す事になるだろうと漠然と思っていた。
実際、子供が出来たと言う事で、今その時期が来ていると思ったのだが‥
そして、城の夫から届いた速達の内容が、『実家の兄が事故で亡くなり、急遽連絡が入りドルモア伯爵家の領地に呼び戻される事になった』とあった。
『葬式等の事もあり、しばらく実家の領地から戻るのに時間がかかると思われるので、生活費と一緒に速達を送る』とあった。
確かに、ルイスからの手紙の中には、数か月分の生活費分の紙幣が入れられていた。
お金の面ではミリアムは自分の家を建てる事が出来る程お金を持っている。けれどそういう話はルイスとも話した事もなく、強い魔力を持っているだとか、ギフトがあるとか、治癒魔法が使えるとか、そんな話もしたことがない。
つまり、今までそんな事は二人の生活には何の関係もなかったわけだ。
本人が実家とは縁を切っていると言っていたのだし、お兄さんが亡くなったと言う事でミリアムが不安に思う様なことはなかった。
今まで、この世界で家族に恵まれず、知らず愛情に飢えていたミリアムは、ルイスに溺愛されてどっぷりつかり込んでいた。ここにきて、「あれ」と思った訳だ。
「私、ルイスの事何にも知らない」と‥
ルイスの実家の領地が何処であるだとか、両親がどんな人だとか、勿論知らない。
冷静になって考えて見たら、どんだけ頭腐ってたんだろって思った。
そして、それから2ケ月、全く、何の連絡もない。
いくら忙しかったって、手紙位出せるよね。
‥ついに、あれから4ケ月が経過した。
ミリアムは生まれて来る子供の事もあるので、王都で世話になっている『銀の小鳩亭』の主人と女将さんに相談した。
主人の名前はガルド。女将さんの名前はメリルと言う。
主人のガルドさんは、知り合いで、ルイスの同僚でもあったゼスクアさんに話を聞いてくれた。
よくルイスとつるんで『銀の小鳩亭』に来ていた人だ。ルイスがずっとミリアムを口説いていたのを知っている人の一人だった。
すると、とんでもない事が分かった。ゼスクアさんも私が放置されているなんて知らなかったようで、非常に驚いていたそうだ。
その後の話をする前に、ガルドさんとメリルさんに、とてもショックな事を聞くようになるが良いか?と聞かれた。聞かなければ前に進めないので、お願いしますと言った。
なんと、ルイスは近衛騎士を辞めそのまま実家のあるグラント地方のドルモア領に戻ったと言うのだ。その後、荷物等は、ドルモア家の者が取に来て、ルイスは来なかったそうだ。
ルイスは亡くなったお兄さんと二人兄弟だったらしく、お兄さんのお嫁さんだった人をそのまま奥さんに貰い、次期ドルモア伯爵として、今は領地の運営の勉強をしていると言う。
とりあえず、頭真っ白になったけれど、はっきりしている事は、私は捨てられたと言う事だろう。
そして、連絡もしてこないという事は、私の事をどうでも良いと思っているという事になる。
ミリアムはこの世界に生まれて、自分が庶子で苦労したので、自分の子供をそんな目に合わせたくない。
もしもミリアムが前世の記憶のない年相応の娘だったら泣き叫んでいたかも知れないが、そう言えば前世でも二股掛けられて居たことあったよな、とか、よくある前世の事例を思い出し、ひとまず冷静になった。
相手に対する『好き』という思いが急激に冷めて行く。なんと自分がおバカであった事か!
こうなったのは自分の責任でもある。だが、あいつは許さん…
安定期でもあるので、変装してドルモア領のルイスがどうしているのか見に行く事にして、久しぶりに茶髪のカツラを被ってみた。
ドルモア領の領主の館は、ユニックにあると聞いた。王都からは馬車で一日の距離だが、私は妊婦なので半日移動したら、その街で宿泊し、2日かけて旅行気分で行くことにした。
前世では、自分の姉もシングルマザーやっていた。姉の旦那が妻の妊娠中に浮気をしたのだ。絶対許さないと切れた姉に離婚届を突き付けられ、旦那はあわあわしていたが結局開き直って離婚して、浮気した相手と結婚した。
元旦那は姉にしっかり慰謝料と養育費を取られ、結局その浮気して結婚した相手との間には子供が出来なかった。姉はその後、別のバツイチの男性と結婚し、子供は他には作らず二人で可愛がり結構幸せに暮らしていた。
あれだけ私に好きだ好きだと言って来たルイスが何故、私を裏切って領地に戻ったのか真相を知ってからどうするかは考えようと思った。
28
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる