捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋

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第五章

ロアンジュ殿下

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 ロアンジュ殿下の体調は徐々に悪くなっているはずだ。彼女の知らぬ間に彼女の呪縛から放たれた者がどんどん増えて行く。それはあっと言う間に身の内にとどめて置くことの出来ない事態になって行くだろう。

 二日も経たない内に、アレン様の屋敷に突然皇太子殿下が現れた。紋章は入っていないがいかにも高級そうな馬車がエントランスに横付けされ、先ぶれにより玄関で待っていたアレン様と私に、縋り付く様子で、ロアンジュ殿下の様態が急に悪くなり、治癒師の治療が効かないとおっしゃった。

 まあ、そりゃそうだろう。だって呪い返しが身体に返っているのだから。

 「アレン、エミリアン嬢に来てもらいたいのだ。彼女ならなんとか出来るかもしれない」
 
 「その前に、お前に治癒魔法をかけさせてくれないか、お前も随分疲れているようだ」

 「いや、私の事よりもロアンジュを…」

 それを遮り、アレン様が皇太子殿下の腕を取り、私に寄越して来た。

 私はその手に自分の手を重ねた。


 そのとたん、シャドラ様の時よりも凄まじい瘴気が吹き上げた。

 驚いた皇太子殿下は両手で顔を覆い身構えた。

 「な、なんだ!!、アレン今のは何だ!」


 「今のはお前にかかっていた呪いが身体から出て行ったのさ」

 「なぜ、私に呪いなど!」

 「ロアンジュ殿下の体調は、彼女がゼノディクスでかけた呪いを解けば良くなるだろう、そうでなければ此方が全ての呪縛を御身にお返ししてロアンジュ殿下がお亡くなりになるのが先になる」


 「ロアンジュが…ロアンジュがなぜ、」

 皇太子殿下には全く何も知らせていないのだから分からないだろうが、呪縛は解けたので説明すれば通じるはずだ。

 けれども、だからと言って彼女がどう出るかはわからない。彼女がもし全ての呪いを解いたとしても、今後西の塔への幽閉は免れない。

 ただ、もう一つしておかねばならない事がある。もしかすると、彼女を本当の意味で救うことが出来るかもしれない。

 その後、時間をかけてアレン様が皇太子殿下とこの屋敷の中で話をし、皇太子殿下の気持ちが落ち着くのを待ってロアンジュ殿下のもとへ行く事になった。

 前もって魔法師団をアレン様が動かし、余計な邪魔が入らないように王城自体に結界石を要所要所に配置し、アレン様の強力な結界を張ってある。

 新しく私の治癒魔法のデータを組み込んだ結界石はベルダの呪縛を寄せ付けない。バーバラによる浸食を完璧に防いでいるようだ。


 

 静かに王族の住居区に入り、皇太子宮へと抜ける。
皇太子の為の宮はロアンジュ殿下の好きな花で埋め尽くされ甘い香りがそこそこで香った。

 ロアンジュ殿下がベルダから連れてきた侍女等は全て取り調べにまわされ、別の信用の置ける者達にすげ替えられた。彼女の呪縛が効く相手はこの宮にはもう居ない。

 「ロアンジュ、エミリアンを連れて来た」

 皇太子殿下の言葉に起き上がる事も出来ない状態のロアンジュ殿下は瞳だけを動かして此方を見た。
たった二日で精彩を欠き、美しかった人がまるで別人の様に目を落ち窪ませげっそりとやつれている。
それなのに、目だけはギラギラと親の仇でも見る様に、アレン様やエミリアンをねめつけていた。

 「ロアンジュ殿下、お久しぶりにございます。エミリアンでございます」

 「ロアンジュ、エミリアンにそなたに治癒魔法をかけて貰おうと思う」
 
皇太子殿下がロアンジュ殿下の両手を握り、私に向いた。

 「エミリアン、頼む」

 「はい」

 皇太子殿下の手の上から自分の手を重ねエミリアンはロアンジュ殿下に治癒魔法を施した。

 そのとき、竜巻でも起きたかのような風が吹き荒れた天蓋の薄物のカーテンは、風が止んだ時ズタズタに破れ、部屋中がひっくり返したようになっていた。

 皇太子殿下はロアンジュ殿下に被さり、彼女を守ろうとされていた。

 エミリアンはアレンに抱きしめられた。


 事が終わった後の部屋の惨状を見て凄いとおもったが、この、ギューされてる状況はどうしよう、アレン様の腕の中で一人ワタワタしているエミリアンだった。

 それにしても、やっぱりロアンジュ殿下にはベルダ王国の誰かが強力な呪縛をかけていたようだ。吹き荒れた呪縛の残滓は相手に戻ったはずだ。


 ロアンジュ殿下は自分を守るようにベッドにおおい被さっていた皇太子をゆっくりと押して起き上がらせると、
自分も半身を起こし両手を上にあげ目を閉じて、吐息の様な音を口ずさんだ。


 「殿下、ヤナス殿下もうしわけございません、私の仕掛けた呪縛は全て解きました、本当に申し訳ございませんでした。この罪は、如何様にもお受けいたします」

ロアンジュ殿下はベッドから起き上がり、床に座ると頭を付けて服従の形をとる。

 「ロアンジュ、一体誰がこの様な事を考えたのだ、まさかそなたではあるまい」

 「申し訳ございません、我が一族がおかしくなりはじめたのは…父であるベルダ王にエレストラからの使者が来てからなのです」

 「エレストラ…なぜ、かの国が?」

 「エレストラは西の帝国の属国ではないか」

 エミリアンにはさっぱり話の内容が分からなかった。今、口を挟むべき所ではなさそうなので、あとでアレン様に聞くことにした。


 ロアンジュ殿下の取り調べは彼女の身柄を王族の幽閉塔と言われる西の塔に移してから行われる事になり。衛兵や魔術師団の者達に連れられ彼女は皇太子宮を後にした。

 
  
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