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第六章
ルイスからの手紙
しおりを挟む皇太子妃の騒ぎは今の所、内々に納められ、外に漏らさないようにされている。
アレン様に聞いた話だと、ベルダ王国では、もう一人の王弟べレラルド公の突然死により国葬が行われたとの連絡は入ったが、病の特定が出来ていないと言う理由で、国への使者等は断られている。
ベルダのバーバラに関しての視察依頼もあげているが、それもベレラルド公の突然死を理由に断られている。
ゼノディクスとしては、ベルダ内に入りたいのだが、相手がそれを許さない。
それにしても、ベレラルド公が亡くなったとは、それが本当ならばアレン様とロアンジュ様の呪詛返しの先がベレラルド公爵だったとも思われる。
そしてロアンジュ殿下の話だと、間違いなくプラトリア公爵は存在していたと言う話だ。そして冷遇されていたのも本当らしいが、彼が呪詛の使い手だったかどうかはわからないとの事だった。
もともとベルダの王族は呪いを扱う能力と言うよりは、ささやかな祝福を与える程度の能力だったのだと言う。それが突如として異質で邪悪なものに変わった日、エレストラの使者が厄災を置いて行ったのだと言うのだ。
そして、プラトリア公爵は身の危険を感じたのか、王族の様子がおかしくなり始めた頃に密かに国を出奔したらしいと言う事だった。
ここに来て、アレン様の黒龍の呪いが解かれ、ゼノディクスと言う国をロアンジュ殿下を使いバーバラで意のままにしようと言う計画は頓挫した事になる。
エレストラを動かしているのがベストルとなると厄介な事となるのだそうだ。
過去の歴史、ゼノディクスとベストルは何度もやり合ってきたそうだが、結局魔法戦争となると能力が互角、そして、戦争を吹っかけて来るのはいつもベストル側。
ここ何代か戦争を行わずに来たのにまたちょっかいを出してきたようだ。しかも、今回は質が悪い。自分達は手を汚さず、高見の見物だ。
ベストルの当代はまだ二十歳の王だと言う話だった。
ゼノディクスの今代はぼんくらである。そこを狙ったのかも知れないとアレン様が言ったので、誰かに聞かれやしないかとヒヤヒヤした。
皇太子のヤナス殿下は今はちょっとロアンジュ殿下の事で落ち込んでいるけれども彼自身はハッセ家の兄弟の力によりかなり使える人物に育ったのだそうだ。
怒りを燃料に、この辛い時期を乗り越えて欲しい。だって危機がやって来ているのだ。降りかかる火の粉は自分で振り払わなくてどうすると言うのだ。
ゼノディクスの魔法師団の力を駆使し、各国の情勢を調べ、ベストルの動向を調べて行く。
そんな時に、ルイスからの手紙が届いた。別れてから2年近く経つが彼がどうしているかと思うような事もなく過ごしてきた。過去の優しい時間を懐かしむ事があっても、彼自身に会いたいとか思うわけないじゃん。
何故手紙が届いたのかと言うと、ルイスと同僚だった近衛騎士のゼスクアさんから、銀の小鳩亭のご主人に言付けられたのだ。
一応、銀の小鳩亭のガルドさんとメリルさんとは手紙のやり取りをしているのだ。
それで、ゼスクアさんにもガルドさん達にも、アンドレアの事はルイスに言わないように口止めしていたのだが、別の近衛騎士の同僚が銀の小鳩亭の客で、そこからルイスに子供が出来ていたと言う話が漏れたようだった。
なんと、ルイスは結局故郷のドルモア領も、妻のシェリーも捨て王都に舞い戻って来ていたのだ。
近衛騎士に復帰は出来なかったけれども、城の兵士として試験を受けなおしたらしい。今は城の兵士寮に居ると書いてあった。
内容は要約すると、『よりを戻したい』と言う事だった。
何を馬鹿な事を言っているのかと思うが、結局彼には他に何も残っていないのだろう。
ドルモア領に私が赴いた時に、ルイスにも相手のシェリーにも、子供が出来ないように身体の一部を弄っておいたのだ。
彼があのあと謝罪を入れに来れば、元に戻すことも考えていたが、結局来る事はなかった。
子供作っておいて責任取れない人に子供は必要ないだろうと思ったのだ。貴族は子供が出来なければ親戚関係から養子を貰い後を継がす事が出来るので、問題はないだろうと思った。
それは正解だったようだ。ゼスクアさんの手紙によると、領地の復興もせず2年足らずで逃げ帰るようなヘタレだったと言う事だ。でもガッカリした、本当はどんなに大変でも自分が選んだ道だ、やり遂げてほしかった。
『もう一度やり直したい』
『子供に会いたい』
『やっぱり愛しているのは君だけだった』
途中で読むのが嫌になり、燭台の火を付け、暖炉に放り込んだ。けれど、もちろん彼の懇願を聞く気はない。
でも、変に期待を持たせるのも嫌だったので手紙を書いた、ゼスクアさんに伝えてもらうように、ガルドさんとメリルさんにも手紙を書いた。もう会う気もよりを戻す気もない事を…
そして、ルイスにはとどめの様だが、子供に合わせる気がない事、私自身会いたいと思わない事、実家に帰ったので(ホントは違うけど)生活は何も心配ないし、子供もちゃんと教育させる事が出来る事を手紙に綴った。
彼がちゃんと生活するようになれば、アレをこっそり直してあげてもいいと思う位には、ほんと何とも思わない相手になってしまった。
この時点でもう私には彼はなんの関わり合いにもならないだろう相手だと思っていた。
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