【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした

圭琴子

文字の大きさ
6 / 47

第5話 保健室

しおりを挟む
 俺は学校に着いてすぐ、保健室に行った。保健の先生は居なかった。都合が良い。
 一番奥のベッドに潜り込もうと思ったら、先客が居た。
 あどけない寝顔を見せた、シィだった。

 そうか。今、撮影中だって言ってたな。仕事で疲れてんだろう。
 それにしても、無防備過ぎる。
 俺はベッドを仕切るカーテンを引いてやった。

「ん……」

 シィが、人より遅い変声期前の軽やかなボーイソプラノで呻いた。
 しまった。起こしちまったか。

「先生……?」

「いや。俺だ。起こしちまって悪りぃな」

 カーテンの隙間から顔を出すと、寝惚け眼(まなこ)で大きな瞳を瞬いた後、ふにゃりとシィは笑った。

「あ。四季くん」

「ああ」

「四季くんも寝に来たの?」

「ああ。だけど、喧嘩してきたところだから、すぐには眠れそうもねぇ」

 シィが、可愛らしく小首を傾げる。
 男になんか興味のない俺でさえ、誘惑されてしまいそうな仕草だった。

「喧嘩? 暴力はよくないよ」

「いや。口喧嘩だ」

「あ……それで目が赤いの? 四季くん、泣いた?」

 咄嗟に俺は目を逸らした。

「な……泣いてなんか、ねぇよ」

「誰にも言わないから、警戒しなくて良いよ。ぼく、仕事が忙しくて友達が居ないから、言いふらす相手も居ないんだ。昨日、四季くんと気が合いそうだなって思って、嬉しかった。友達に……なって、くれないかな」

 断られるっていう不安からか、語尾は途切れ途切れに発された。
 αにも、『孤独』っていう悩みがあるんだな。
 俺は人並みに不安な声を出すシィに親しみを覚えて、微笑んだ。

「ああ。俺も転校ばっかしてたから、ろくに友達って居たことねぇんだ。改めてよろしく、シィ」

「嬉しい! ありがとう、四季くん」

 それから俺たちは、色んな話をした。
 シィは仕事は楽しいけど忙し過ぎるって愚痴、俺は綾人に送って貰ったけど気に食わねぇって愚痴。Ωだってことは、勿論伏せてる。
 人並みにミーハーな俺は、シィの話す映画の撮影の事が興味深かった。

「俺、お前が子役の時のドラマ、覚えてるよ」

「え? どれかな」

「母親に捨てられて、孤児院と少年院を転々とするやつ」

「ああ……『お母さん、さよなら』だね。十四歳未満だから、児童自立支援施設って言うんだよ。あれ、視聴率良かったみたい」

「お袋が泣きながら観てたよ」

 少し口篭もって、俺は打ち明けた。友達、だもんな。

「実は……俺も、少し泣いた」

「あはは。嬉しいな。役者冥利に尽きるね」

「今は、映画撮ってんのか?」

「うん。『ボクとアタシの秘密の蜜月』っていう映画。ぼく、この映画でイメチェンするんだ。可愛い役や可哀想な役が多かったけど、実の父親とのベッドシーンがあるんだ。あ、まだ内緒だけどね」

 発表前のことを話してくれるシィと、本当の友達になれた気がして、俺は何だか胸の辺りが暖かかった。
 綾人の前で流した涙は、すっかり乾いて明るい気分になっていた。

 シィが、口に手を当てて小さく欠伸する。つられて俺も、大欠伸をした。
 欠伸を終えて、俺たちはクスリと笑う。

「眠くなった?」

「ああ。寝るか」

「おやすみ、四季くん」

「ああ、おやすみ。シィ」

 俺たちは挨拶を交わし、仕切りカーテンを閉めて、清潔なベッドに潜り込んだ。
 放課後まで、一度も目を覚まさずに、俺は昏々(こんこん)と眠り続けた。

 野球部の球を打つ音で目を覚まし、保健の先生に身体が弱いから度々来ます、と挨拶をして、その日は学校に寝に来たようなものだった。
 仕事なのか、シィはもう居なくなっていて、俺はまたブラブラと気怠げに足を運んで家路に着いた。
 癖でポケットに手を突っ込んだら、シィのLINEのIDが書かれたメモが入ってた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む

中屋沙鳥
BL
フロレル・ド・ショコラ公爵令息は希少なオメガとしてシュクレ王国第一王子でアルファのシャルルの婚約者として望まれる。しかしシャルルは、王立学園の第三学年に転入してきた子爵令息ルネに夢中になってしまう。婚約者が恋に落ちる瞬間を見てしまったフロレル。そしていころには仲の良かった義弟アントワーヌにも素っ気ない態度をされるようになる。沈んでいくフロレルはどうなっていくのか……/誰が一番腹黒い?/テンプレですのでご了承ください/タグは増えるかもしれません/ムーンライト様にも投稿しております/2025.12.7完結しました。番外編をゆるりと投稿する予定です

庶子のオメガ令息、嫁ぎ先で溺愛されています。悪い噂はあてになりません。

こたま
BL
男爵家の庶子として産まれたサシャ。母と二人粗末な離れで暮らしていた。男爵が賭けと散財で作った借金がかさみ、帳消しにするために娘かオメガのサシャを嫁に出すことになった。相手は北の辺境伯子息。顔に痣があり鉄仮面の戦争狂と噂の人物であったが。嫁いだ先には噂と全く異なる美丈夫で優しく勇敢なアルファ令息がいた。溺愛され、周囲にも大事にされて幸せを掴むハッピーエンドオメガバースBLです。間違いのご指摘を頂き修正しました。ありがとうございました。

【完結】この契約に愛なんてないはずだった

なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。 そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。 数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。 身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。 生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。 これはただの契約のはずだった。 愛なんて、最初からあるわけがなかった。 けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。 ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。 これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

処理中です...