【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした

圭琴子

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第19話 和解

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 そのあとの休み時間から、ハシユカはベタベタくっついてくるようになった。
 俺はニコリともせずに仏頂面だったけど、周りは異変を感じ取っていた。

「四季……ハシユカと付き合ってんのか?」

 げっ。信じられないような顔で通りすがりに呟いてきたのは、ナベだった。

「ち……違げぇよ」

「四季って照れ屋なんだよね~。今日から付き合い始めたの!」

 ナベは俺の態度に違和感を覚えたようで、小声で訊いてきた。

「アーヤじゃないのかよ」

 教室で綾人のことは話したくなかったから、俺も小声で返した。

「脅されてんだ」

「……こないだは悪かった。ビッチしか会ったことなかったからよ。俺に出来ることがあったら言ってくれ」

 俺が発情期じゃないからか、しおらしくナベが呟く。
 顔を近付けて内緒話をする俺たちに、ハシユカが拗ねて声を高くした。

「なぁに、秘密の話? 彼女なんだから、秘密はなしよ」

「ちょっと待っててくれ」

 俺はナベに言って、ノートに殴り書きして破り、クシャクシャに丸めて手渡した。

「これ、投げといて」

 ごく自然に言ったんだけど、ナベは不思議そうな顔をした。

「投げる? 何処に?」

 俺はその反応にちょっと苛ついて、早口で言う。

「ゴミ箱に決まってんだろ」

「……ひょっとして、捨てるって事か?」

 ああ。『投げる』って方言なんだな。知らなかった。
 俺は少しバツが悪そうに答える。

「そうだ」

 思いがけず、ナベは笑った。初日に見せた、朗らかな笑みで。

「ふぅん。北海道弁って、面白いな」

 紙くずをブレザーのポケットに突っ込んで、ナベは教室を出て行った。
 ゴミ箱は教室内にもあったから、意味を汲んでくれただろうか。
 俺は紙切れにこう書いた。

『ハシユカにバレた!』

     *    *    *

 昼休みになってもハシユカはベッタリだったけど、昼飯は友達と屋上で食べると言うと、意外にもすんなり許しをくれた。
 三年C組の窓からは、副理事長室に続く渡り廊下が見渡せる。
 それに、女子の人間関係は複雑だ。
 彼氏が出来たからといって、急に二人で昼飯なんか食べようものなら、ひんしゅくを買うのが目に見えていた。

 俺は購買でマーブルチョコパンとホットドックを買って、ひと気のない屋上に急ぐ。
 そっと扉を開けると、目当ての人物の声がしていた。

『大好きだよ、ツキ。俺たち……』

「シィ」

 声をかけると、台詞が途切れて、角からヒョイと綺麗な顔が覗いた。

「四季くん!」

「邪魔して悪りぃ」

「ううん。四季くんなら、大歓迎」

 俺はシィの隣に座って、ホットドッグを牛乳で流し込む。

「撮影、凄かったな。鳥肌たった。でも風見海があんなシーンやるなんて、非難もあるんじゃねぇか?」

 シィは初めて会った時みたいに、サンドイッチ片手に台本を開いてる。

「良いんだ。話題作になる事は間違いなしだから、マネージャーとも話し合って、子役のイメージから脱却することにしたんだ」

「へぇ……凄げぇ勇気だな」

 サンドイッチをかじって、シィは笑う。

「それより、アーヤとは上手くいってる?」

 急に話を振られて、俺はちょっとむせて、牛乳を飲み込んだ。

「あれ? そうでもない?」

「それが……両想いなのは確かなんだけどよ。副理事と生徒の恋愛なんて大っぴらには出来ねぇし、おまけにクラスの女子にバレちまった。バラさない代わりに、付き合えって言われて、綾人と会うことも出来ねぇ」

 シィは、顔のパーツを中心に集めるように、キュッと顔を歪めた。

「何それ。四季くんが好きなのはアーヤなのに、それでも付き合えって言うの?」

「ああ。我が儘の塊みたいな奴でよ。人の話聞かねぇし」

「ぼく、解決策を考えてみるよ。好きでもない人と付き合うなんて、嫌だよね」

「ありがてぇ。俺は綾人と会えねぇから、何とかしたくても出来ねぇんだ。助けてくれ」

 昼休みが終わるチャイムが鳴る。俺たちは拳を作って触れ合わせて、それぞれの教室に帰っていった。

 帰りもハシユカがベッタリだったけど、俺はスラックスのポケットに両手を突っ込んで、返事もせずに無視して帰った。
 それでもハシユカは楽しそうだった。
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