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29話 無職じゃないオオカミさんだよっ!
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ミリアさん達によって隅々までピッカピカに磨かれた次の日。いよいよギルド長なる人と対面する事になった。
若干緊張しているけれどそれは私だけではないみたいで、朝からミリアさんが私のお腹を撫でるのを止めてくれない。撫でられるのは好きだけど、そろそろ禿げるよ?
「折角だもの。目一杯おめかししましょ」
そう言ってアリーシャさんが私の毛を、手にした櫛で梳いていく。更には何処か良い匂いのする…多分香油的なものかな? 瓶から垂らしたそれを手に広げて、私の毛に揉み込んでいく。すると途端にふわりとした甘い花の香りが私の鼻を掠めた。
「アヤメは不思議と良い匂いがするから必要ないかとも思ったのだけれど…折角だしね」
「本当に不思議なんですよね…お陰で私の睡眠の質が上がるので有難いのですが」
ほぼ毎日私の事枕にしてますからね、ミリアさん。そして毎回涎垂らしてるから、その熟睡様も分かるというもので。あっ、ちゃんと綺麗にしてますよ! ……アリーシャさんが。
十分に毛を梳き終えた後は、私の尻尾にリボンを結んで、右前脚に元首輪を着けて貰えば準備は万端! さぁ何時でも来るが良い!
◆ ◆ ◆
ガレフさん達がギルド長を呼びに行っている間ミリアさんとアリーシャさんに餌付けされる事暫く。私の優秀な耳が安全地帯に近付く足音を捉えた。
私が不意に頭を上げて入口を見た事で、ミリアさん達もつられてそちらへと視線を投げる。そのまま少し待つと、まず最初にガレフさんが入ってきた。
「戻ったぞ」
「おかえりなさい。そして…待っていたわ、クーリア」
入ってきたガレフさん達の後ろから現れた見慣れぬ女の人に向けて、アリーシャさんがそう呼んだ。クーリアっていうのはギルド長の名前かな?
「……その子が?」
「ええそうですよ。可愛いでしょう?」
「可愛い…まぁ、可愛いは可愛いわね」
少なからず好印象を持って貰えたようで、思わず尻尾も荒ぶりますよ。可愛いは正義ですからねっ!
とりあえず立ち話も何だという事で、ガレフさんがギルド長……クーリアさんを連れ立って私の方へと近付いてくる。
「入った時にも大きいと思ったけれど…近付くとその大きさが改めて分かるわね…」
「大人二人を背に乗せても平然としていましたからね。もしかすると三人でも余裕かもしれません」
そうだね。多分いけるんじゃないかな? 重みを感じた事はないから、純粋に私の背の大きさ分乗せられると思う。
「荷物持ちとしても優秀なのね…あぁ忘れるところだったわ。初めまして、私はクーリア。ハリアロスの冒険者ギルドにおいてギルド長を任されている者です」
私のことをジーッと見ていたクーリアさんだったけれど、唐突に姿勢を正して胸に手を当て、自己紹介をしながら軽くお辞儀をしてくれた。それだけで凄く優しそうで誠実そうな人だと分かるね。ちょっと安心。
私からも自己紹介をしておきたいんだけど、生憎私は喋れないのでそれはミリアさんにお任せする。
「この子がアヤメです。私が怪我をして窮地に陥った際、ポーションを分けてくれたとても優しい子なんです」
「ええそう聞いているわね。それで私としてはその本人…本狼? であるアヤメに聞いておきたい事があるのだけれど…実は最近、見ず知らずの誰かに助けてもらったという冒険者が増えているの。アリーシャ達が言うにはそれはアヤメの仕業だという事だけれど、合っているかしら?」
クーリアさんの言葉にしっかりと頷く。予めアリーシャさんから聞かれていたから、私としても疑う余地が無い。
「成程…にしても本当に言葉を理解しているのね」
「アヤメは賢いですからね」
ふふんと自慢げに胸を張るミリアさん。ミリアさんって私の事になると途端にIQ下がるよね……。
「それでアリーシャ達から事の真相を知って、私から一つアヤメに提案したい事があるの。もう既にアリーシャ達からは聞いているかもしれないけれど改めて…アヤメの人助けを、ギルド職員の公的な業務として組み込んでみませんか?」
「簡単に噛み砕いて言えば、アヤメがギルド所属のモンスターになるって事ね。でも人と違って給金に意味が無いけれど、その点は考えているの?」
「一応ギルドが販売しているテイマー向けの餌を対価とするつもりだったけれど…」
ふむ。まぁそれが妥当なのかな。私としては趣味が仕事になるだけだし、そんなに報酬に関して興味も無いから問題は無いね。ただご飯はミリアさん達が用意してくれるから、報酬として貰っても無駄になるだけかもしれないけど。
「アヤメはそれでいいのですか?」
「グルゥ」
「……正直対価には見合っていないように思うのですけれど、アヤメが納得しているのなら私が口を挟むのは違いますね」
ミリアさん的には納得しかねる内容っぽくて、ギュッと私の毛を掴みながら顔を顰めてしまった。でもそれだけ私の為を思ってくれているという事の証左なのだから、嬉しくないはずが無い。ただミリアさんにそんな表情は似合わないからベロベロしてあげよう。
「わぷっ!?」
「あらあら…ほらアヤメ。契約の話があるからそれくらいにして頂戴」
おっと。そういえばお仕事なのだし契約するのは当然だよね。仕方無い。ミリアさんは解放してあげよう。
「えっと…ここまで簡単に纏まるのは予想外だったけれど、取り敢えずこれが用意してきた契約書ね。齟齬が無いかどうか一度読んで…って、読めるの?」
「どうかしら? 言葉は理解しているけれど、文字はガイアメルクの方のものを書いていたし…読める?」
アリーシャさんが分かりやすいように私の目の前に持ち上げてくれたので、どれどれと目を通してみる。ふむ……ミミズがのたくったような文字としか思えないね。一応ミリアさんと勉強はしてたんだけど、これはまたそれと違ったもののように思える。
「読めなそうだから私が代読するわね。…って、これエルフ語じゃないの。アヤメどころか他の人でも読めないわよ」
「あ、あら? 別の契約書を持って来てしまったのかしら…」
「そのようね。内容も全く関係無いもののようだし…」
ふむ? どうやらそもそも私の知らない文字だったらしい。エルフ語なんてあるんだね。流石異世界。
どうするのかと思ったのだけれど、契約書の予備もないという事なのでアリーシャさんが魔法契約なるものをすれば良いんじゃないかと言い出した。
「魔法契約は互いに魔力を交換して行う契約の一種で、互いの魂に刻まれる為に破る事は出来ず双方の合意が無い限り破棄する事も出来ないという極めて強力な契約ですよ。アヤメにとっては、テイムが一番身近な魔法契約かもしれませんね」
私が首を傾げていた事に気付いたミリアさんが耳元でそう説明してくれた。成程、テイムも魔法契約の一つなのね。
「ギルド所属のモンスターになるのだからある意味正しい対応だと思うし」
「それは…まぁ、そうね。アヤメもそれでいいかしら?」
他に手段もなさそうだし、頷く。アリーシャさんが気兼ねなく会話をしている相手だから信頼はあるしね。
「じゃあ一旦文字に起こして……アリーシャ、確認してくれる?」
「どれどれ…」
サラサラとあっという間にクーリアさんが小さな紙に内容を書き起こすと、それをアリーシャさんに手渡す。そして内容を確認したアリーシャさんが頷き、私にも見せながら読んでくれた。内容としては仕事内容と報酬、契約期間についてで、特に気になる点もなかったから同意の意を込めて頷く。
「じゃあ…《汝此処に契を示す》」
書いた紙を持って短くクーリアさんが呟くと、ぽわっと白い光の玉がクーリアさんから浮かび上がった。それが手にした紙に吸い込まれると、今度は私から勝手に金色の光の玉が飛び出して同じように吸い込まれる。すると二つの光の玉を吸い込んだ紙がクーリアさんの手を離れて独りでに浮かび上がり、光を纏って二つに分裂した。そして一方はクーリアさんの方へ、もう一方は私の方へと飛んでくると、ポンっと音を立てて形を成した。これは…?
「魔法契約はその契約内容が示された物が最終的に生成されるんです。その形は様々で…これはイヤリングのようですね」
「基本肌身離さず身に付けておくものだから、身に付けやすいものになって良かったわね」
成程、契約書の写しみたいなものかな。出来上がったイヤリングは銀色の枠に紫色の石が嵌められていて、その形は何かの花弁の様に見える。
「着けてあげますねっ!」
ウキウキとした様子でミリアさんが私の右耳へとそのイヤリングを着けてくれた。そして手鏡で私に見せてくれたのだけれど…ごめんミリアさん。ちょっと小さ過ぎて見えないわ。でも似合ってるって言われたし多分似合ってるんだろう。…ミリアさんなら何でも似合ってるって言いそうだけど。
「これで契約は完了ね。じゃあ業務についてなのだけれど、一先ずギルド所属を示す腕章を……」
そう言いながらその腕章を取り出したクーリアさんだったけれど、その視線がスーッと私の脚に滑った瞬間言葉を途切れさせた。……別に太くないもん。身体の大きさ的には妥当なんだから仕方無いじゃん。
「……まぁ、一旦置いておきましょう。それでこれがアヤメに渡しておくアイテム袋ね。中には冒険者ギルドで一般的に販売しているポーション類が入っているわ」
気を取り直して次に取り出したアイテム袋は、かなりの大きさがあった。形としては横長のボストンバッグみたいな感じで、口が大きいから私でも頭を突っ込んで取り出しやすそう。
「これが品目表ね。後でアリーシャ達と一緒に確認しておいて。それで肝心の業務内容なのだけれど、基本今まで通り窮地に陥った冒険者を助けて欲しいの。ただ使うのはそのアイテム袋に入ったポーションね。それと渡した冒険者にはサインを貰うか、この水晶板にギルドカードをかざして貰って頂戴」
ふむふむ…今まで無償だったけれど、これからはちゃんと支払ってもらうって事かな。ギルドの備品扱いだろうし、それは理解出来る。ただ…水晶板とギルドカードとは何ぞや?
「ギルドカードは冒険者が必ず持っている身分証のようなものですね。個人の情報なども全て記録されていて、専用の装置…この場合水晶板ですね。これを用いる事で支払い記録などを付ける事も出来るのですよ」
「罪状なんかも記録されるし、ギルド所属の職員から提示を求められた場合は余程の理由が無い限り断る事は出来ないの。もし拒否するようなら実力行使も許されるわ」
「だからアヤメの事を舐めて提示しないような冒険者がいたら、容赦無くやっちゃっていいからね。もう冒険者ギルドの正規職員扱いなんだから」
……遠慮無くってどこまでだろう。い、一旦押し倒すくらいに留めておいた方がいいかな…?
若干緊張しているけれどそれは私だけではないみたいで、朝からミリアさんが私のお腹を撫でるのを止めてくれない。撫でられるのは好きだけど、そろそろ禿げるよ?
「折角だもの。目一杯おめかししましょ」
そう言ってアリーシャさんが私の毛を、手にした櫛で梳いていく。更には何処か良い匂いのする…多分香油的なものかな? 瓶から垂らしたそれを手に広げて、私の毛に揉み込んでいく。すると途端にふわりとした甘い花の香りが私の鼻を掠めた。
「アヤメは不思議と良い匂いがするから必要ないかとも思ったのだけれど…折角だしね」
「本当に不思議なんですよね…お陰で私の睡眠の質が上がるので有難いのですが」
ほぼ毎日私の事枕にしてますからね、ミリアさん。そして毎回涎垂らしてるから、その熟睡様も分かるというもので。あっ、ちゃんと綺麗にしてますよ! ……アリーシャさんが。
十分に毛を梳き終えた後は、私の尻尾にリボンを結んで、右前脚に元首輪を着けて貰えば準備は万端! さぁ何時でも来るが良い!
◆ ◆ ◆
ガレフさん達がギルド長を呼びに行っている間ミリアさんとアリーシャさんに餌付けされる事暫く。私の優秀な耳が安全地帯に近付く足音を捉えた。
私が不意に頭を上げて入口を見た事で、ミリアさん達もつられてそちらへと視線を投げる。そのまま少し待つと、まず最初にガレフさんが入ってきた。
「戻ったぞ」
「おかえりなさい。そして…待っていたわ、クーリア」
入ってきたガレフさん達の後ろから現れた見慣れぬ女の人に向けて、アリーシャさんがそう呼んだ。クーリアっていうのはギルド長の名前かな?
「……その子が?」
「ええそうですよ。可愛いでしょう?」
「可愛い…まぁ、可愛いは可愛いわね」
少なからず好印象を持って貰えたようで、思わず尻尾も荒ぶりますよ。可愛いは正義ですからねっ!
とりあえず立ち話も何だという事で、ガレフさんがギルド長……クーリアさんを連れ立って私の方へと近付いてくる。
「入った時にも大きいと思ったけれど…近付くとその大きさが改めて分かるわね…」
「大人二人を背に乗せても平然としていましたからね。もしかすると三人でも余裕かもしれません」
そうだね。多分いけるんじゃないかな? 重みを感じた事はないから、純粋に私の背の大きさ分乗せられると思う。
「荷物持ちとしても優秀なのね…あぁ忘れるところだったわ。初めまして、私はクーリア。ハリアロスの冒険者ギルドにおいてギルド長を任されている者です」
私のことをジーッと見ていたクーリアさんだったけれど、唐突に姿勢を正して胸に手を当て、自己紹介をしながら軽くお辞儀をしてくれた。それだけで凄く優しそうで誠実そうな人だと分かるね。ちょっと安心。
私からも自己紹介をしておきたいんだけど、生憎私は喋れないのでそれはミリアさんにお任せする。
「この子がアヤメです。私が怪我をして窮地に陥った際、ポーションを分けてくれたとても優しい子なんです」
「ええそう聞いているわね。それで私としてはその本人…本狼? であるアヤメに聞いておきたい事があるのだけれど…実は最近、見ず知らずの誰かに助けてもらったという冒険者が増えているの。アリーシャ達が言うにはそれはアヤメの仕業だという事だけれど、合っているかしら?」
クーリアさんの言葉にしっかりと頷く。予めアリーシャさんから聞かれていたから、私としても疑う余地が無い。
「成程…にしても本当に言葉を理解しているのね」
「アヤメは賢いですからね」
ふふんと自慢げに胸を張るミリアさん。ミリアさんって私の事になると途端にIQ下がるよね……。
「それでアリーシャ達から事の真相を知って、私から一つアヤメに提案したい事があるの。もう既にアリーシャ達からは聞いているかもしれないけれど改めて…アヤメの人助けを、ギルド職員の公的な業務として組み込んでみませんか?」
「簡単に噛み砕いて言えば、アヤメがギルド所属のモンスターになるって事ね。でも人と違って給金に意味が無いけれど、その点は考えているの?」
「一応ギルドが販売しているテイマー向けの餌を対価とするつもりだったけれど…」
ふむ。まぁそれが妥当なのかな。私としては趣味が仕事になるだけだし、そんなに報酬に関して興味も無いから問題は無いね。ただご飯はミリアさん達が用意してくれるから、報酬として貰っても無駄になるだけかもしれないけど。
「アヤメはそれでいいのですか?」
「グルゥ」
「……正直対価には見合っていないように思うのですけれど、アヤメが納得しているのなら私が口を挟むのは違いますね」
ミリアさん的には納得しかねる内容っぽくて、ギュッと私の毛を掴みながら顔を顰めてしまった。でもそれだけ私の為を思ってくれているという事の証左なのだから、嬉しくないはずが無い。ただミリアさんにそんな表情は似合わないからベロベロしてあげよう。
「わぷっ!?」
「あらあら…ほらアヤメ。契約の話があるからそれくらいにして頂戴」
おっと。そういえばお仕事なのだし契約するのは当然だよね。仕方無い。ミリアさんは解放してあげよう。
「えっと…ここまで簡単に纏まるのは予想外だったけれど、取り敢えずこれが用意してきた契約書ね。齟齬が無いかどうか一度読んで…って、読めるの?」
「どうかしら? 言葉は理解しているけれど、文字はガイアメルクの方のものを書いていたし…読める?」
アリーシャさんが分かりやすいように私の目の前に持ち上げてくれたので、どれどれと目を通してみる。ふむ……ミミズがのたくったような文字としか思えないね。一応ミリアさんと勉強はしてたんだけど、これはまたそれと違ったもののように思える。
「読めなそうだから私が代読するわね。…って、これエルフ語じゃないの。アヤメどころか他の人でも読めないわよ」
「あ、あら? 別の契約書を持って来てしまったのかしら…」
「そのようね。内容も全く関係無いもののようだし…」
ふむ? どうやらそもそも私の知らない文字だったらしい。エルフ語なんてあるんだね。流石異世界。
どうするのかと思ったのだけれど、契約書の予備もないという事なのでアリーシャさんが魔法契約なるものをすれば良いんじゃないかと言い出した。
「魔法契約は互いに魔力を交換して行う契約の一種で、互いの魂に刻まれる為に破る事は出来ず双方の合意が無い限り破棄する事も出来ないという極めて強力な契約ですよ。アヤメにとっては、テイムが一番身近な魔法契約かもしれませんね」
私が首を傾げていた事に気付いたミリアさんが耳元でそう説明してくれた。成程、テイムも魔法契約の一つなのね。
「ギルド所属のモンスターになるのだからある意味正しい対応だと思うし」
「それは…まぁ、そうね。アヤメもそれでいいかしら?」
他に手段もなさそうだし、頷く。アリーシャさんが気兼ねなく会話をしている相手だから信頼はあるしね。
「じゃあ一旦文字に起こして……アリーシャ、確認してくれる?」
「どれどれ…」
サラサラとあっという間にクーリアさんが小さな紙に内容を書き起こすと、それをアリーシャさんに手渡す。そして内容を確認したアリーシャさんが頷き、私にも見せながら読んでくれた。内容としては仕事内容と報酬、契約期間についてで、特に気になる点もなかったから同意の意を込めて頷く。
「じゃあ…《汝此処に契を示す》」
書いた紙を持って短くクーリアさんが呟くと、ぽわっと白い光の玉がクーリアさんから浮かび上がった。それが手にした紙に吸い込まれると、今度は私から勝手に金色の光の玉が飛び出して同じように吸い込まれる。すると二つの光の玉を吸い込んだ紙がクーリアさんの手を離れて独りでに浮かび上がり、光を纏って二つに分裂した。そして一方はクーリアさんの方へ、もう一方は私の方へと飛んでくると、ポンっと音を立てて形を成した。これは…?
「魔法契約はその契約内容が示された物が最終的に生成されるんです。その形は様々で…これはイヤリングのようですね」
「基本肌身離さず身に付けておくものだから、身に付けやすいものになって良かったわね」
成程、契約書の写しみたいなものかな。出来上がったイヤリングは銀色の枠に紫色の石が嵌められていて、その形は何かの花弁の様に見える。
「着けてあげますねっ!」
ウキウキとした様子でミリアさんが私の右耳へとそのイヤリングを着けてくれた。そして手鏡で私に見せてくれたのだけれど…ごめんミリアさん。ちょっと小さ過ぎて見えないわ。でも似合ってるって言われたし多分似合ってるんだろう。…ミリアさんなら何でも似合ってるって言いそうだけど。
「これで契約は完了ね。じゃあ業務についてなのだけれど、一先ずギルド所属を示す腕章を……」
そう言いながらその腕章を取り出したクーリアさんだったけれど、その視線がスーッと私の脚に滑った瞬間言葉を途切れさせた。……別に太くないもん。身体の大きさ的には妥当なんだから仕方無いじゃん。
「……まぁ、一旦置いておきましょう。それでこれがアヤメに渡しておくアイテム袋ね。中には冒険者ギルドで一般的に販売しているポーション類が入っているわ」
気を取り直して次に取り出したアイテム袋は、かなりの大きさがあった。形としては横長のボストンバッグみたいな感じで、口が大きいから私でも頭を突っ込んで取り出しやすそう。
「これが品目表ね。後でアリーシャ達と一緒に確認しておいて。それで肝心の業務内容なのだけれど、基本今まで通り窮地に陥った冒険者を助けて欲しいの。ただ使うのはそのアイテム袋に入ったポーションね。それと渡した冒険者にはサインを貰うか、この水晶板にギルドカードをかざして貰って頂戴」
ふむふむ…今まで無償だったけれど、これからはちゃんと支払ってもらうって事かな。ギルドの備品扱いだろうし、それは理解出来る。ただ…水晶板とギルドカードとは何ぞや?
「ギルドカードは冒険者が必ず持っている身分証のようなものですね。個人の情報なども全て記録されていて、専用の装置…この場合水晶板ですね。これを用いる事で支払い記録などを付ける事も出来るのですよ」
「罪状なんかも記録されるし、ギルド所属の職員から提示を求められた場合は余程の理由が無い限り断る事は出来ないの。もし拒否するようなら実力行使も許されるわ」
「だからアヤメの事を舐めて提示しないような冒険者がいたら、容赦無くやっちゃっていいからね。もう冒険者ギルドの正規職員扱いなんだから」
……遠慮無くってどこまでだろう。い、一旦押し倒すくらいに留めておいた方がいいかな…?
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