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②海辺の治療院・彼との初対面
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ロティルが城の騎士を辞め、旅をし始めて約2年。今年で22歳を迎えた。
剣の扱いは昔から秀でていたが、たまには魔獣の討伐で怪我もする。旅をしながら薬草の知識は かなり身につけたので、自分のみで何とか治療し完治させてしまう。
しかし、深い傷や著しく体調を崩した時などには 治療院を頼らざるを得ない。
治療院は城下町等の大きな街にしか常設されていないので、移動の手間も多かった。中規模ながら海辺の町には珍しく治療院があり、ジゼという優秀な老医師が妻のポーラと経営をしている。
80歳のジゼは遥か昔に城で宮廷医師として仕えていた時期もあり、騎士をしていたロティルとも知り合いであった。宮廷医師を退職後に治療院を開院した事を聞き、昔のよしみで、そちらによく顔を出すようになる。
カヤミとの出会いは およそ半年前 ────
数カ月来ていなかったロティルが海辺の治療院を訪れると、初めて見る人物が診察室にいた。
「お大事に」
優しく微笑み、物腰柔らかく患者に声を掛けていたのは淡い青髪の若い男性。金縁の眼鏡をかけて、長めの白い服を羽織っている。
新しい医者?
雇ったのかな
「やぁ、ロティルカレア! 随分久しぶりだなぁ。
生きて帰ってきて良かった!」
「ジゼ! 元気だった!? 俺そんな簡単に死なないってば。ちょっと遠出してたからさ⋯⋯
診察室にいる あの人って⋯⋯誰?」
豊かな白いヒゲを蓄えた顔をクシャクシャにしながら満面の笑みでジゼは迎えてくれた。久々の再会を互いに喜びながら、先程見かけた白い服の青年についてロティルが尋ねる。
「あぁ、今ウチで暮らしてるんだ。半年くらい前だったか⋯⋯外で困っててな」
「困ってた⋯⋯?」
荷物と腰に装着していた剣を置きながら、ジゼの話に耳を傾ける。
「明け方に近くの海岸で座り込んでたんだ。
しばらく彷徨ってたみたいで、怪我も少しして⋯⋯靴も履いてなくてね」
「服装も持ち物も見たことのない感じの物ばかり。ここの場所や地名を説明しても全然知らなかったの。記憶喪失とかではないみたいだけれど⋯⋯」
「どうして『ここ』に いるのか、わからない⋯⋯って」
訪れた際、先に挨拶を済ませていた妻のポーラも、共に説明をし始めた。その内容を聞いてロティルがハッとする。
「それ ⋯⋯もしかして『異次元の旅人』⋯⋯かな?」
「うん⋯⋯恐らく⋯⋯としか、詳しく知ってるのか?」
「そういう人がいるって、旅先で何度か耳にした。
突然どこからか現れて、本人は何もわからない。
知らない国の名前を言っていたり、服とかも変わった物が多いから、こことは違う世界から飛ばされてきたんじゃないかって」
『異次元の旅人』の話は、各地で噂はされているが、その当事者らしき人物と会うのはロティルも初めてだった。謎が多く、説明出来る事はあまりにも少ない。
「いきなり こんな場所に来て、どうしようもないだろう。ここに身を置くように言って暮らしているんだ」
「誰も知り合いがいないし、行く当てなんかないからね。1人でどうにかしようとするのは危険過ぎる。ここなら、ひとまず安心だな」
とりあえずジゼ達のおかげで彼の身の安全が確保されたという事実に、ロティルはホッと胸を撫で下ろす。
「持っていたカバンに荷物が少し。それから彼は医療の心得がある」
「医者なのか! だから さっき診察室に」
「つい最近は診察や手当てを手伝ってもらうようになったんだよ。扱う薬は前と全く違うみたいで。覚えるまでは難しいけど、かなり頑張ってくれてるよ」
「へえ⋯⋯」
「お、診察は終わったかい? カヤミ」
「うん 全部終わった」
「!」
ロティルは振り返り、ジゼが声を掛けた先に視線をやると、渦中の人物が立っていた。
身長183センチのロティルより10センチ以上は低いと思われる背丈。羽織っている白い服が長いので全身は よくわからないが、手足等を見る限りは、どちらかというと華奢である。切れ長の青紫色の目が印象的だった。
カヤミ っていう名前なのか
「ロティルカレア、折角だから話を聞いてあげてくれないか? 年齢も確か近い」
「俺は構わないけど⋯⋯」
ロティルはチラリとカヤミの方に視線だけをやる。構わない と口にしたものの、本人が望んでいるのかどうかも わからないのに話を聞いてやれ、と言われても⋯⋯という気持ちも正直ある。澄ました顔を見ているだけでは、カヤミの感情の動きは全く読めない。
「カヤミ、ロティルカレアは旅をしてて、君のように突然 別の世界に飛ばされてきた人間の事を、私より多少は知っていると思う。話をしてみたらどうかな」
「⋯⋯⋯⋯ どっちでも」
ジゼからの提案にカヤミは表情をほとんど変えず、暗めの声で 一番曖昧な返答をする。
あ~ ほら、やっぱり⋯⋯と、ロティルは思う。が、焦るジゼを立てる為に自らカヤミに声をかけてみた。
「だったら、腕の怪我もついでに診てもらいたいんだけど⋯⋯ 時間外でも いい?」
「⋯⋯⋯⋯ わかりました。じゃあ、診察室へ どうぞ」
「あ、はい」
カヤミは長い間のあと、ロティルに一瞬チラリと目をやってから承諾の返事をすると、診察室へと先に移動した。
ジゼは満足そうに うんうん、と頷いている。ロティルは、片手を上げジゼに挨拶するとカヤミの後をついて行く。
「じゃ、診てもらってくるよ」
まぁ⋯⋯これで 話すきっかけは出来た と
剣の扱いは昔から秀でていたが、たまには魔獣の討伐で怪我もする。旅をしながら薬草の知識は かなり身につけたので、自分のみで何とか治療し完治させてしまう。
しかし、深い傷や著しく体調を崩した時などには 治療院を頼らざるを得ない。
治療院は城下町等の大きな街にしか常設されていないので、移動の手間も多かった。中規模ながら海辺の町には珍しく治療院があり、ジゼという優秀な老医師が妻のポーラと経営をしている。
80歳のジゼは遥か昔に城で宮廷医師として仕えていた時期もあり、騎士をしていたロティルとも知り合いであった。宮廷医師を退職後に治療院を開院した事を聞き、昔のよしみで、そちらによく顔を出すようになる。
カヤミとの出会いは およそ半年前 ────
数カ月来ていなかったロティルが海辺の治療院を訪れると、初めて見る人物が診察室にいた。
「お大事に」
優しく微笑み、物腰柔らかく患者に声を掛けていたのは淡い青髪の若い男性。金縁の眼鏡をかけて、長めの白い服を羽織っている。
新しい医者?
雇ったのかな
「やぁ、ロティルカレア! 随分久しぶりだなぁ。
生きて帰ってきて良かった!」
「ジゼ! 元気だった!? 俺そんな簡単に死なないってば。ちょっと遠出してたからさ⋯⋯
診察室にいる あの人って⋯⋯誰?」
豊かな白いヒゲを蓄えた顔をクシャクシャにしながら満面の笑みでジゼは迎えてくれた。久々の再会を互いに喜びながら、先程見かけた白い服の青年についてロティルが尋ねる。
「あぁ、今ウチで暮らしてるんだ。半年くらい前だったか⋯⋯外で困っててな」
「困ってた⋯⋯?」
荷物と腰に装着していた剣を置きながら、ジゼの話に耳を傾ける。
「明け方に近くの海岸で座り込んでたんだ。
しばらく彷徨ってたみたいで、怪我も少しして⋯⋯靴も履いてなくてね」
「服装も持ち物も見たことのない感じの物ばかり。ここの場所や地名を説明しても全然知らなかったの。記憶喪失とかではないみたいだけれど⋯⋯」
「どうして『ここ』に いるのか、わからない⋯⋯って」
訪れた際、先に挨拶を済ませていた妻のポーラも、共に説明をし始めた。その内容を聞いてロティルがハッとする。
「それ ⋯⋯もしかして『異次元の旅人』⋯⋯かな?」
「うん⋯⋯恐らく⋯⋯としか、詳しく知ってるのか?」
「そういう人がいるって、旅先で何度か耳にした。
突然どこからか現れて、本人は何もわからない。
知らない国の名前を言っていたり、服とかも変わった物が多いから、こことは違う世界から飛ばされてきたんじゃないかって」
『異次元の旅人』の話は、各地で噂はされているが、その当事者らしき人物と会うのはロティルも初めてだった。謎が多く、説明出来る事はあまりにも少ない。
「いきなり こんな場所に来て、どうしようもないだろう。ここに身を置くように言って暮らしているんだ」
「誰も知り合いがいないし、行く当てなんかないからね。1人でどうにかしようとするのは危険過ぎる。ここなら、ひとまず安心だな」
とりあえずジゼ達のおかげで彼の身の安全が確保されたという事実に、ロティルはホッと胸を撫で下ろす。
「持っていたカバンに荷物が少し。それから彼は医療の心得がある」
「医者なのか! だから さっき診察室に」
「つい最近は診察や手当てを手伝ってもらうようになったんだよ。扱う薬は前と全く違うみたいで。覚えるまでは難しいけど、かなり頑張ってくれてるよ」
「へえ⋯⋯」
「お、診察は終わったかい? カヤミ」
「うん 全部終わった」
「!」
ロティルは振り返り、ジゼが声を掛けた先に視線をやると、渦中の人物が立っていた。
身長183センチのロティルより10センチ以上は低いと思われる背丈。羽織っている白い服が長いので全身は よくわからないが、手足等を見る限りは、どちらかというと華奢である。切れ長の青紫色の目が印象的だった。
カヤミ っていう名前なのか
「ロティルカレア、折角だから話を聞いてあげてくれないか? 年齢も確か近い」
「俺は構わないけど⋯⋯」
ロティルはチラリとカヤミの方に視線だけをやる。構わない と口にしたものの、本人が望んでいるのかどうかも わからないのに話を聞いてやれ、と言われても⋯⋯という気持ちも正直ある。澄ました顔を見ているだけでは、カヤミの感情の動きは全く読めない。
「カヤミ、ロティルカレアは旅をしてて、君のように突然 別の世界に飛ばされてきた人間の事を、私より多少は知っていると思う。話をしてみたらどうかな」
「⋯⋯⋯⋯ どっちでも」
ジゼからの提案にカヤミは表情をほとんど変えず、暗めの声で 一番曖昧な返答をする。
あ~ ほら、やっぱり⋯⋯と、ロティルは思う。が、焦るジゼを立てる為に自らカヤミに声をかけてみた。
「だったら、腕の怪我もついでに診てもらいたいんだけど⋯⋯ 時間外でも いい?」
「⋯⋯⋯⋯ わかりました。じゃあ、診察室へ どうぞ」
「あ、はい」
カヤミは長い間のあと、ロティルに一瞬チラリと目をやってから承諾の返事をすると、診察室へと先に移動した。
ジゼは満足そうに うんうん、と頷いている。ロティルは、片手を上げジゼに挨拶するとカヤミの後をついて行く。
「じゃ、診てもらってくるよ」
まぁ⋯⋯これで 話すきっかけは出来た と
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