異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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④態度一変 もう嫌われた?

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 治療院のある海辺の町、その隣りの町にロティルの自宅はある。隣りと言っても徒歩1時間ほどは かかるので気軽に行ける近所という訳では無い。1人で住んでいるので、たまに荷物を整理するくらいにしか戻らず、旅先で宿をとる事の方が今は断然多い。
 とりわけ、ジゼ達の善意で治療院に宿泊させてもらうのが日常になっており、ありがたい事に、ほぼロティル専用の部屋もある。第2の自宅と呼んでも過言ではないかもしれない。

「泊まっていくんでしょ?」
「う~ん⋯⋯」

 ロティルがポーラからの問いかけに悩んでいるのは、以前と違って現在はカヤミがここで暮らしている⋯⋯よく知りもしない自分が寝泊まりしていたら気が休まらないのではないか、と心配があったからだ。


俺がよくてもなぁ
やっと慣れて落ち着いてきたくらいじゃないのか
でも いつも泊まってるのに そうしないのも逆に避けてるように思われるかな?
どうするのが正解なのか


 ロティルが赤い髪の頭を抱えたり、頬杖をついて葛藤している間にポーラは いそいそと2階へ上がっていく。すぐに下りてくると顔のシワを一層深くしたニッコリ顔で伝えてきた。

「部屋の窓開けておいたからね。荷物も置いてきたわよ」
「⋯⋯ありがと」

 結局、ポーラのペースに乗せられ悩んだ時間も徒労に終わり、いつも通り宿泊する運びとなった。


まぁ いいか
慣れていけば気遣いなんて必要なくなる


 2階の部屋に行くとソファに両腕を広げながら寄り掛かり、フゥ⋯⋯と 一息つき壁に目をやった。今は隣がカヤミの部屋になっているらしい。
 今度は天井を見上げ、先ほど診てもらったことを思い返す。


カヤミ か
初対面だから あんなに緊張したのかなぁ 俺
ジゼの診察とは全然違う
気恥ずかしいというか こそばゆくて⋯⋯
顔を誰かに触れられるなんて普段ないから

指が柔らかくて しっとりして
あの人の手だから心地良かったのかな?

あと俺の⋯⋯左右色の違う この目のことを好意的に言ってくれたりさ

それに ──── 綺麗な顔してる し⋯⋯


 頭の中に巡るカヤミの姿、笑顔。未知の体験をしたような味わったことのない不思議な気持ち。ジゼの診察より良かったかも⋯⋯とすら思うロティルの顔と背中がジワリと熱くなってくる。


⋯⋯ただ あの柔らかい笑顔は
何だろう うまく言えないけど
なんか 違和感があるんだよな⋯⋯



「シーツ持ってきたわよ」

 考え込んでいると、開けっ放しだったドアからポーラが顔をのぞかせた。

「ありがと ポーラ、悪いね毎回。世話になってばっかり」
「何言ってんの。気にしなさんな!
院で使う薬草をロティルカレアが持ってきてくれるようになってから、随分楽になってるのよ。持ちつ持たれつでしょ」

 ポーラは大きな口を開け、豪快にダハハと笑ってロティルの肩を叩く。

「カヤミ はさ、ジゼと一緒に午後も診察してんの?」
「そうね。仕事しっぱなしで無理しなけりゃ良いんだけど、同じ医者なら自分が何か役に立てれば、って本人が」
「ああ、それで気が紛れてたり楽になるならいいんじゃないかな」

 シーツをベッドマットに掛ける作業を2人でしながら、ロティルは また彼についての質問をした。正直、関心は普通より湧いている。

「ジゼが、カヤミと最初 海岸で会ったって言ってたけど⋯⋯どんな感じだったの?」
「あぁ、カヤミ本人が言っていたのは⋯⋯」


 

 ある日の早朝、カヤミは職場の病院への出勤途中に急に強い風に襲われた。空が ぐにゃりと歪むのを目の当たりにし、白い光を浴びて気がついたら知らない暗い森にいたという。朝だったはずが辺りは真っ暗で、上空には満月が輝く。
 幸い森はすぐ抜ける事ができ、月明かりを頼りに浜辺まで何とか出ると当てもなく何時間も歩き続けた。

 そうして 日の出から しばらくした頃には、体力も限界に近づいて⋯⋯そんな状態で砂浜に座り込んでいたカヤミに声を掛けたのは、朝の海岸を散歩中だったジゼ。

「君どうした? 泥だらけじゃないか。靴も履かないで」
「⋯⋯⋯⋯ ⋯⋯」
「⋯⋯あまり見ない格好だな⋯⋯間違っていたら申し訳ないが⋯⋯ もしかして、ここの人間ではないのかな?」

 脱水の為なのか声も出せず、頷くのが精一杯のカヤミ。限界に近そうな様子にジゼは慌てて動いた。

「別世界からくる人間が たまにいる、なんて噂かと思っていたが、まさか本当に⋯⋯ あぁ、こりゃスマン。急がないと!
すぐウチに来なさい。もう少しだけ歩けるかな」

 散歩に出たジゼが、人を連れて帰って来たことにポーラは大層驚いてはいたが、すぐに手厚く保護した。
 原因はわからないが、突然 別の次元から来る人間が極稀にいるという話をしても、カヤミは悲観するわけでもなく、大きな反応も見せなかったという。帰る方法もわからないので、もし良ければここで暮らしていいと提案すると、すんなりとそれに従った。

 カヤミ とだけ名乗り、年齢は24歳で医者として働き始めたばかりだったと明かす。


        

 カヤミが、こちらに来て約5カ月。日常生活にも慣れてきて、治療院の手伝いを始める。診察もするようになり、1ヵ月程経過。
 
 そして、今日 初めて ロティル と出会った。


「普段は物静かなほうだけど、診察中は愛想良く笑うから上手くやれてると思うわよ。色んな事も知ってて頭の良い子だし! それに努力家よ~」
「⋯⋯ふぅん」

 ポーラの話を興味深く聞いていたロティル。1階へ降りた際、カヤミが診察してる様子を影から覗いてみた。自分の時と同じように柔らかな物腰、最後は笑顔で「お大事に」


⋯⋯元の場所へ 帰りたいわけではないのかな




 夕方になり診察終了の時刻を迎えた。仕事を終えたカヤミが部屋に戻る為に階段を登って来る音がする。重量感のない音にポーラではないな と、ロティルは すぐに気がついた。


部屋も隣りだし 泊まっている間は顔も合わす
ひとつ屋根の下 一緒に過ごすんだから
改めて ひとことくらい挨拶でもしておこうか


 ドアを開けると、丁度そこには脱いだ白衣を腕に抱え、眼鏡を外すカヤミの姿があった。黒い半袖のシャツから引き締まった白い二の腕がのぞく。

「あ、 ちょっとだけいい?」
「!  さっきの⋯⋯ ロティル  カ⋯⋯?」
「ロティルカレア だ。 診察お疲れさま」
「⋯⋯どうも」

 自分の名前を覚えてもらえていなかったロティルは少々寂しい気持ちを感じつつも、会話を続ける。

「俺、よく ここに泊まらせてもらってて。今日から何日か居るから。まぁ よろしく」
「ポーラから聞いてます。 了解です」

 話しかけられた瞬間は驚いた心情が顔に出たカヤミだが、その時だけだった。表情は ほぼ変わらず淡々とした無機質な口調。
 それでも、眼鏡を取ったカヤミの印象の変化にそそられ、ロティルは ついつい視線を送り続けてしまう。


随分変わるんだな
さっきはそんなに わからなかったけど身体つきは
細い⋯⋯ 腰も⋯⋯

眼鏡がないと視線が ちょっと鋭く見えて
なんだか魅了される目で⋯⋯
美人 なんて言い方が合ってる気が


「⋯⋯⋯⋯ あとは、何か?」
「い や、 ご めん」
「失礼します」
「あ」

 小首をかしげ、怪訝な顔で不機嫌そうに言い放つと、ふいっとカヤミは部屋に入って行ってしまった。正に、あっという間に1人にされ、唖然として立ち尽くすロティル。


診察中と別人か ってくらい 違うんだけど⋯⋯?
眼鏡だけの問題じゃなくって

「お大事に」
って あんなに優しい声と笑顔で言ってたときと
かなりの温度差⋯⋯
表情も 態度も 声も 冷たい感じで

⋯⋯もしかして 怒らせた?
確かに 今 かなり見過ぎた
いやらしい視線みたいで相当良くなかったかも 

もしくは 診察の時の やり取り とか?
カヤミはこっちに来て不安な気持ちでいて
死んでしまっても⋯⋯なんて思うくらい辛い状態だったのに
俺がそんなこと言うな なんて意見を押し付けたから?

⋯⋯もう嫌われたのかな  
早くない? 会って数時間
第一印象が悪いよりも ジワジワ嫌がられた感⋯⋯


 カヤミの豹変ぶりに自身の落ち度が原因ではないかと悶々と悩み続け、ロティルは すっかり気分が滅入ってしまった。




 夕げの食卓で交わされる会話の中にロティルの姿はない。

「ロティルカレア、今日は夕食いらないって言ってたわ」
「旅の疲れでも出たのかねぇ? 大丈夫かなぁ」
「⋯⋯⋯⋯ロティルカレア か」
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