異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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㉖怒りの色が漏れる瞳

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 往復、景色や空気を味わう余裕は皆無だった。最近の一人旅は心にゆとりがないことが多い。
 行きよりも早い時間で治療院に到着すると診察室をチラリと覗く。カヤミの働いている姿を一目確認すると2階へと上がった。


仕事中なんだし杞憂だったか
⋯⋯俺は 今日から明日までカヤミの部屋に居ていいんだよな?
間違ってないよね⋯⋯?


 緊張と本当に入って良いのか という疑念に駆られ、カヤミの部屋の前で足を止める。
 すると隣の部屋の扉が開き、薄荷色の寝間着を着用したレンデュラが出てきた。そして、顔を合わせるなり、何の躊躇もせず声を掛けてくる。

「あ、どうも  部屋借りてま~す」
「⋯⋯いえ」

 軽い口調で挨拶すると、ロティルの全身を品定めでもするかのようにジロジロと見た。
 そんな失礼な視線に元から無かった彼に対する好感度が益々下がり、疎ましいと感じる気持ちは上昇していく反比例状態。好かれたいと微塵も思っていない為、愛想もなく雑な応対になるロティル。

「へぇ、剣使う人なんだ。ここで暮らしてるの?」
「まぁ、そんな感じ」
「ふ~ん。じゃあ、一緒に居られるんだね」
「何が?」
「カヤミさん と」
「!」

 ふいにカヤミの名前を出されて、ロティルの目元がピクリとなった。対照的にレンデュラはずっとヘラヘラと笑って能天気に話す。

「羨ましいなぁ。カヤミさん優しいし、綺麗だし。いいよね、あの人。オレもたった1日じゃなくて、いくらでもここにいたいのに。延長出来ないかなぁ」


何で それを俺に言ってくるわけ?


「ねぇ?  カヤミさん」
「えっ⋯⋯」

 レンデュラが声を掛けた方向、後ろを見ると白衣姿のカヤミが階段下に居た。

「朝、オレがカヤミさんのとこ走って行ったら睨んでたよねぇ、ロティルカレアさん。
あ、名前は院長に教えてもらったんで。部屋使わせてもらってるし?」
「⋯⋯っ!?」


朝 こっちに気付いてたのか
コイツ⋯⋯なんで わざわざカヤミに そんなこと
何を言うつもりで


 レンデュラの発言や行動が読めず、落ち着かないロティルの額が少々汗ばんでくる。

「そういえば~⋯⋯オレが住んでる場所って城下町なんだけど⋯⋯何年か前に、やたら強い騎士が城にいたんだって親が言ってて」
「⋯⋯」
「剣士で、赤い髪で、目の色が左右で違う人。オッドアイなんて滅多にいないし。多分ロティルカレアさんだって思ってるんだけど? 条件一致しすぎだもん」
「⋯⋯そう思うなら、そうなんじゃないの」

 ロティルが2年ほど前まで騎士をしていた遠方の城。恐らく、その城下町に住んでいると思われるレンデュラ。知らず知らずの内に、すれ違うくらいは していたのかもしれない。
 何となく、全面的に認めるのは癪に障るのでハッキリとは返答しなかった。

「あぁ、あと、その騎士には兄がいるってのも聞いたなぁ。お兄さんは、まだ城の騎士副団長してるんでしょ。城勤めなんて、かなり名誉なことなのに、弟は何で辞めちゃったの? もったいない」
「⋯⋯  君に言う必要ないし、もう俺と、その人は関係ないから。興味本位に首突っ込まないでくれない?」

 その次に出された話題に、ロティルは眉間にシワを寄せ、露骨に不快感を示した険しい顔になった。発した声は低音で抑揚なく、瞳からも怒りの色が漏れ出ている。

「え~怖ぁ⋯⋯ でも、オレがカヤミさんの手握ってた時の方が もっと怖い顔してたかな」
「⋯⋯悪いけど、あんまり話をしたくない」

 ロティルはレンデュラを一瞥もせず言い放つと、イラつきを全く隠さない態度で足早に部屋へと入って行った。階段下で一部始終を見ていたカヤミは、上がって来て追いかける。

「カヤミさん、オレの部屋に来てよー 院長と交代すればいいじゃん」
「⋯⋯すみません、今 忙しいので。申し訳ないです」

 カヤミはレンデュラからの頼みを長く悩むこともなく 断ると、頭をペコリと下げ、ロティルと同じ部屋へと消えた。

「や~っぱり、そっち行っちゃうんだ。つまんないの」
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