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第三章 ベリンガム帝国の異変
<2>いざ、街へ
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「エリス様、許可が出ました。レヴィ様より屋敷の蔵書も図書館へもご自由にどうぞとのことです」
一人で済ませた朝食の後、ダイニングの隣にある家族用の小さな――といっても俺が住んでいたラムズデール家の部屋の5倍以上は広い――居間に通されてお茶を飲んでいるとマークがやってきた。
「やった! さっそく今日から図書館へ行ってみたいんだ、ですが」
「かしこまりました。エリス様、私ども従者に敬語をお使いになる必要はございません。どうぞお楽に」
「わかった、ありがとうマーク」
「お礼を言われるようなことは何も。仕事ですので。図書館へ向われる際はこちらの者を護衛につけます。シェーン、入って来い」
「失礼します」
扉の向こうからくぐもった声が聞こえ、直後に一人の青年が入ってくる。まだ20代だろうか。マークよりも今の俺と年が近い気がする。
藍色の短髪に緑色の目すっきりとした目は隙がない。いかにも騎士団長の従者といった風体だ。
「エリス様、はじめまして。シェーン・リンチと申します。今後、外出なさる際はお供させていただきます」
「よろしく、シェーン」
「では私はこれで」
立ち去ろうとするマークに声をかけた・
「レヴィは?」
「……レヴィ?」
一瞬、マークの顔が険しくなる。呼び捨てはまずかっただろうか。
「あ、レヴィ様は?」
「すでに戦地へ向われました。戻られる日がおわかりになりましたら、お知らせに上がります。では」
あっという間にマークの姿が見えなくなる。
「じゃあさっそくだけど、王立図書館に案内してもらえるか?」
「かしこまりました。ご準備の時間を考えまして、1時間後にお部屋にお迎えに上がります」
「ああ、よろしく」
1時間後、リアムとともにシェーンを待ってると彼は時間きっかりに現れた。
「エリス様、シェーンでございます。お迎えに上がりました」
「ああ、ちょっと入ってきてもらえるか?」
「失礼しま……」
部屋に足を踏み入れた瞬間、シェーンは目を丸くした。
「どうした?」
「お部屋の様子がずいぶんと変わられたようですね」
「ああ、知ってるんだ? 前の部屋」
「ええ。エリス様がいらっしゃることが決まってから急いで改装いたしましたので。ラムズデール家は桃色がシンボルカラーと聞いておりましたが、これは……」
驚くのも無理はない。ピンクと白のファンシーな部屋は今は黒と赤で覆われている。
「確かにラムズデールのシンボルカラーはあの色だったんだけど、俺あんまり好きじゃなくてさ。せっかく改装してくれて申し訳ないけど、色を変えちゃだめなんて言われてないから、平気だよな?」
「ええ。おそらく」
シェーンは頷く。だが今度は困ったような顔で俺の出で立ちに視線を移した。
「ところでその格好は……」
俺がいま着ているのは実家からもってきた外出着である。何年も同じものを修繕しながら着ているせいで、だいぶくたびれている。
正直言って隣に立っているリアムよりもみすぼらしい格好なのだ。
「これじゃダメかな? でもごめん、俺の外出着ってこれしかないんだよ」
「……は?」
シェーンの緑色の目が零れ落ちそうなくらいまで見開かれている。
「俺の家、いろいろあってさ。まあ今度説明するけど――」
「エリス様、こちらに」
俺の言い訳に言葉を被せるようにして、シェーンは部屋の中を進んでいく。奥の扉を開けると、そこにはたくさんの洋服が吊るされていた。
「こちらのご衣裳はすべてエリス様のためにレヴィ様がご用意なされたものです。こちらにお着換えになってから出かけましょう」
「いいのか、こんなにたくさん……」
部屋の中を見分した際、この部屋がクローゼットだというのはわかっていた。だが今世で身に染みついた貧乏倹約生活のために、こんな上等な衣服を手に取るは憚られたのだ。
「もちろんです。というかあなた様は今までいったい……」
言い淀むシェーンに申し訳ない気持ちになる。まさか大貴族の子息が、使用人同然の暮らしをしていたなんて、思うわけがないよな。
用意されていた中で、一番シンプルな黒い衣装に袖を通す。シェーンはまだ少し不満そうだったが飾り立てると身動きが取りにくくなるし、装飾品は重い。昔から変わらないが、衣装は何よりも着心地と動きやすさが大事だ。
なんとか準備を整えた俺は、シェーンとリアムを連れて馬車へと乗り込んだのだった。
一人で済ませた朝食の後、ダイニングの隣にある家族用の小さな――といっても俺が住んでいたラムズデール家の部屋の5倍以上は広い――居間に通されてお茶を飲んでいるとマークがやってきた。
「やった! さっそく今日から図書館へ行ってみたいんだ、ですが」
「かしこまりました。エリス様、私ども従者に敬語をお使いになる必要はございません。どうぞお楽に」
「わかった、ありがとうマーク」
「お礼を言われるようなことは何も。仕事ですので。図書館へ向われる際はこちらの者を護衛につけます。シェーン、入って来い」
「失礼します」
扉の向こうからくぐもった声が聞こえ、直後に一人の青年が入ってくる。まだ20代だろうか。マークよりも今の俺と年が近い気がする。
藍色の短髪に緑色の目すっきりとした目は隙がない。いかにも騎士団長の従者といった風体だ。
「エリス様、はじめまして。シェーン・リンチと申します。今後、外出なさる際はお供させていただきます」
「よろしく、シェーン」
「では私はこれで」
立ち去ろうとするマークに声をかけた・
「レヴィは?」
「……レヴィ?」
一瞬、マークの顔が険しくなる。呼び捨てはまずかっただろうか。
「あ、レヴィ様は?」
「すでに戦地へ向われました。戻られる日がおわかりになりましたら、お知らせに上がります。では」
あっという間にマークの姿が見えなくなる。
「じゃあさっそくだけど、王立図書館に案内してもらえるか?」
「かしこまりました。ご準備の時間を考えまして、1時間後にお部屋にお迎えに上がります」
「ああ、よろしく」
1時間後、リアムとともにシェーンを待ってると彼は時間きっかりに現れた。
「エリス様、シェーンでございます。お迎えに上がりました」
「ああ、ちょっと入ってきてもらえるか?」
「失礼しま……」
部屋に足を踏み入れた瞬間、シェーンは目を丸くした。
「どうした?」
「お部屋の様子がずいぶんと変わられたようですね」
「ああ、知ってるんだ? 前の部屋」
「ええ。エリス様がいらっしゃることが決まってから急いで改装いたしましたので。ラムズデール家は桃色がシンボルカラーと聞いておりましたが、これは……」
驚くのも無理はない。ピンクと白のファンシーな部屋は今は黒と赤で覆われている。
「確かにラムズデールのシンボルカラーはあの色だったんだけど、俺あんまり好きじゃなくてさ。せっかく改装してくれて申し訳ないけど、色を変えちゃだめなんて言われてないから、平気だよな?」
「ええ。おそらく」
シェーンは頷く。だが今度は困ったような顔で俺の出で立ちに視線を移した。
「ところでその格好は……」
俺がいま着ているのは実家からもってきた外出着である。何年も同じものを修繕しながら着ているせいで、だいぶくたびれている。
正直言って隣に立っているリアムよりもみすぼらしい格好なのだ。
「これじゃダメかな? でもごめん、俺の外出着ってこれしかないんだよ」
「……は?」
シェーンの緑色の目が零れ落ちそうなくらいまで見開かれている。
「俺の家、いろいろあってさ。まあ今度説明するけど――」
「エリス様、こちらに」
俺の言い訳に言葉を被せるようにして、シェーンは部屋の中を進んでいく。奥の扉を開けると、そこにはたくさんの洋服が吊るされていた。
「こちらのご衣裳はすべてエリス様のためにレヴィ様がご用意なされたものです。こちらにお着換えになってから出かけましょう」
「いいのか、こんなにたくさん……」
部屋の中を見分した際、この部屋がクローゼットだというのはわかっていた。だが今世で身に染みついた貧乏倹約生活のために、こんな上等な衣服を手に取るは憚られたのだ。
「もちろんです。というかあなた様は今までいったい……」
言い淀むシェーンに申し訳ない気持ちになる。まさか大貴族の子息が、使用人同然の暮らしをしていたなんて、思うわけがないよな。
用意されていた中で、一番シンプルな黒い衣装に袖を通す。シェーンはまだ少し不満そうだったが飾り立てると身動きが取りにくくなるし、装飾品は重い。昔から変わらないが、衣装は何よりも着心地と動きやすさが大事だ。
なんとか準備を整えた俺は、シェーンとリアムを連れて馬車へと乗り込んだのだった。
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