魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第六章 解呪と試練

<2>ブロンプトン山へ

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そうしてついにレヴィの旅立ちの日がやってきた。
前日に嫌というほど魔力供給をさせられたせいで、唇が腫れぼったくなってしまった気がする。

早朝、迎えの馬車に乗り込むレヴィを見送った。二度寝をしようと思っていたのだが、これから始まる計画への緊張と高揚で眼が冴えている。
仕方がないので、頭の中でもう何度目かわからない計画の復習に勤しむ。

レヴィのことだ。絶対に俺に監視をつけているに違いない。
監視というと言葉は悪いが、自分がいない間に俺になにか危険なことがあったらすぐに分かるようにはしているだろう。

(過保護なんだよなあ……)
アランの魂が引き継いだ魔力だけでなく、エリスはもともと膨大な魔力を保有していた。

能力のない神官の誤診と、エリス自身の心問題で開花していなかっただけで。
むしろ前世よりも膨大な魔力を保有しているのだ。

そんなわけでレヴィに気づかれないように抜け出すには、俺の身代わりを置いて置く必要がある。

(まあ、その辺の対策もバッチリだけどな)
自分の髪の毛から作り出した分身を身代わりにするもりだ。分身を作り出すのはバスルーム。レヴィもさすがにそこまで監視をしてはいないだろう。

そのあとは魔力で気配を消して、瞬間移動してしまえば問題ない。
女神との対話は長くても1時間だろう。女神だけではない、神々が人間と対面する時間は短いと文献に書かれていた。

さらに月の女神が姿を現すのは毎月の満月の夜、1時から数時間らしい。
狼神との対面も時間にしたら1時間もなかったはずだ。

ちょうどいいことに、満月は今日の深夜。それまでに準備を整えて出発すれば、どんなに遅くても明日の昼間には戻ってくることができるはずだ。

(絶対にレヴィの呪いを解いて、自由にしてやるんだ!)
心の中で決意を新たにして、女神との対話について頭を巡らせる。女神は一般にプライドが高い。

礼儀を尽くして話をする必要があると言われているので、十分に気をつけないと
話を聞いてもらえないかもしれない。

神々への正しい挨拶の練習などをしているうちに、気がつくとあっという間に夜になっていた。

夕食を終えてバスルームへ向かう。
お湯の中には今日のために用意した特別な浄化作用のある塩を入れる。

月の女神に会うためには、この浄化も必要なのだ。
7日間、月光を浴びた塩に月下美人の花びらと月桂樹の葉を混ぜる。

その塩を入れたバスタブに入浴することで、身体を清めるのだ。
ちなみにお湯ではなく冷水だ。

冷たさをこらえながら入浴を終え、身体を拭く。
洗髪して抜けた髪の毛に魔力を込めて呪文を呟くと、あっという間に目の前に俺自身が現れた。

ちなみに分身は同じ格好で現れるので、バスルームには全裸の俺が二人いる状態になっている。

前世ではよく使っていた魔法だけれど、今世では初めてだ。
「俺、いまこんな顔してんのか……」

まじまじと今の自分を眺めてしまう。
ピンクベージュの髪に蜂蜜色の目。黒髪で赤い目をしていた以前よりもずっと柔和な雰囲気に見える。

あとはやっぱり細い。以前は幼少期からそれなりに鍛えていたので、ある程度の筋肉はあった。

(まあずっと使用人扱いだったしロクなもん食ってなかったもんな)
とは言いつつ、改めて自分の身体を鍛え直そうという気にになる。

「頼むな! 俺」
分身の肩を軽く叩く。

「任せとけよ、俺!」
分身は親指を立てて答えてくれる。分身を保てる時間は限られている。急がなければ。

バスルームで一瞬にして気配を消してクローゼットへ向かう。
「とりあえずお前はこれな」

分身には夜着を渡して、この日のために密かに準備していた礼服に袖を通す。
王族が女神に対面するには決まった礼服がある。
白い絹と銀糸で作られた礼服には決まった数のムーンストーンが縫い付けられている。
「なんか眩しい衣装だな」

ベッドに入った分身が苦笑する。
「仕方ねえだろ。女神サマとの対面には服装も決まってんだから。じゃ、行ってくる。フェンリル!」

呼びかけるとソードラックからフェンリルが飛んでくる。
「じゃ、行ってくるわ」

あらかじめ引いておいた魔法陣に足を踏み入れる。
「おう! 頑張ってこいよ俺!」
分身に見送られて俺はブロンプトン山へと向かった。

一瞬で到着した山の麓はとても水を打ったように静まり返っている。
入口を塞ぐように生い茂る茨に向かって右の人差し指を振ると、茨は静かに左右に割れた。

恐る恐る手を伸ばすと、なんの抵抗もなく中へ入ることができた。
「よかった……。王族は中に入れるってのは本当だったんだ」

まずは第一関門はクリアだ。
山の中へ入るべく一歩踏み出したその瞬間。

「えっ!?」
強い力で腕を後ろに引っ張られた。まさか。そんははずは。

恐る恐る振り返ると、レヴィが立っていた。
「レ、レヴィ……」

「……エリス様。どういうことか説明していただけますか?」
月の光が逆光になっていて表情がよく見えない。だが地を這うような声からは強い怒りを感じる。

「あ……あの、えーと……」
言葉が出てこない。頭の中が真っ白になり、俺はその場から動けなくなってしまった。
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