魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第七章 真実の愛

<1> メイフェア山へ

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「なーんで自力で登んなきゃいけねんだよ! こんなん魔力使えば一瞬だろ」
最前列を歩いているアリルが叫んだ。その声は苛立ちを含んでいる。

俺たちは今、狼神を再訪するためにメイフェア山を登っているのだ。俺の側を歩く2匹の黒毛の狼たちの目には困ったような色が浮かんでいる。どうやら他の神が狼神を訪ねてくるのは数百年ぶりで、彼らも経験がないらしい。

「俺、歩くの好きじゃねえんだっつの……クソが」
止まらないアリルのレヴィが冷たい声で反応する。

「ここは狼神の神域です。仮にもあなたも神なのですからむやみに魔力を使ってはいけないことぐらいおわかりでしょうに」

途端にアリルが勢いよく振り返った。
「はァ? ていうかおまえに話しかけてねえんだけど」

「そうですか。しかしながらエリス様に聞いても返答は同じでしょう。無駄口を叩いてると体力が削がれますよ」

あからさまに小バカにしたような口調にこっちが焦ってしまう。俺は隣を歩くレヴィの服の裾を軽く引っ張った。

「おい、相手は神だぞ。あんまり反抗的な態度は取らないほうがいいぞ」
「神である前に僕にとっては恋敵です」
「あんなの冗談に決まってるだろ」
「冗談だとしても許せません」

とりつくしまのない対応に、これ以上会話を続けることを諦める。

数日前、俺の念が通じたのかアリルに迫られているところをレヴィはすぐに助けにきてくれたのだ。最初は俺も焦ったけれど、俺たちの反応を楽しんでいるような態度にアリルがからかっているのだとわかった。

だがレヴィは本気で怒り、すぐさま俺とアリルを引き離した。アリルは終始ゲラゲラ笑っていたが、レヴィの機嫌は夜になっても治らなかった。

自分が来るまでにアリルに何をされたのか、細かく尋問されたりキスされた手の甲を何度も何度も洗われて正直とても疲れてしまった。

それ以来、レヴィはアリルに対して警戒心と敵意を剥き出しにするようになっているのだ。
一方のアリルはますます面白がって俺にちょっかいをかけてくる。

そんな日常に我慢ならなくなったのか、レヴィは早々に狼神を再訪する手はずを整えた。
本来であれば力の譲渡以外で狼神と会うことは許されないのだが、アリルが会いたがっていると伝えたとこ狼神側はすぐに応じてくれたらしい。

そうして今に至る。

アリルは暴言を吐き出しながらどんどん進んでいく。今度こそ明らかにレヴィに向けたもののようだったが当の本人は完全に無視を決め込んでいる。
この険悪な空気から早く解放されたい一心で、頭の中を無にして歩みを進めた。
どれくらい歩いたのだろうか。やがて突然、視界が開ける。

「あーっ! やっっと着いたな!!」
アリルが両腕を空に向けて大きく伸びをする。

「疲れた……」
俺は両ひざに手をついた姿勢で呼吸を整える。昔ならきっと息ひとつ乱さないで登れたのに。まだまだ体力をつけなければ。

「大丈夫ですか? エリス様。少し水分を摂取されたほうがいいかもしれません」
そう言うとレヴィは小さな銀の水筒を取り出した。

「いいのか? でもこれ、おまえのだろ?」
「いえ。エリス様のために持ってきたものです。どうぞ」

レヴィはコップになっている水筒の蓋に中身を注いで俺に差し出す。
「本当にいいのか?」
「もちろんです」
「ありがと」

蓋を受け取って、中身を一気に飲み干す。レモンの香りのついた爽やかな冷たい水が、身体中に染みわたっていく。

「うまそー。俺にもくれよ」
「ダメです。これはエリス様のためだけに持ってきたものですので」

レヴィは嫌味なくらい綺麗な笑顔で水筒を素早くしまった。
「おまえ……とことん嫌な奴だな」
「そうでしょうか。正直なだけですよ」
「正直ぃ? 心が狭くて性格が悪いだけだろ」
「心が狭いのは認めますが、性格の悪さはお互いさまでは?」
「このクソガキ……ッ!」

アリルの全身から青白い炎のようなオーラが噴出した、その瞬間。

「私の神域でくだらない争いをするな」
前回と同じように強い風が吹き、真っ赤な目の巨大な狼が姿を現した。
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