負けヒロインに花束を!

遊馬友仁

文字の大きさ
26 / 57

第2章〜ふられたての女ほど おとしやすいものはないんだってね〜⑪

しおりを挟む
 上坂部葉月かみさかべはづきや生徒会の先輩たちと、ひばりヶ丘学院・演劇部の観劇に出掛けてから、2日後の月曜日のこと――――――。
 教室に入ると、先週までとは、また少しクラスの雰囲気が変わっていることに気づいた。

 週末までは、まるで何かに遠慮するように、後方の席の久々知大成くくちたいせいと会話をすることを極力避けていた上坂部だったが……今日は、二週前に行われたカラオケに参加する前までと同じように、男子と女子が混じった幼なじみのグループと談笑している。

 さらに、オレが意識して彼女を見るようになったからだろうか、心なしか、上坂部の雰囲気が変わったような気がする。
 窓際の席で、笑顔で会話を交わしている委員長と副委員長の様子をそれとなく観察していると、一週間前、オレを空き教室に連れ込んだ女子生徒が、こちらの席にやってきた。

「立花、いま、ちょっと良い?」

 大島睦月おおしまむつきは、そう言って、席を外すことをうながす。
 彼女に誘われるまま教室を出て、先週、上坂部が交際を申し込まれた、人気ひとけの少ない昇降階段のところまで来ると、大島は、ゆっくりと切り出した。

「立花、お疲れさま。今日の葉月の様子を見ると、アナタに頼んでおいたことは、上手く行ってるみたいね」

「まあ、なんとか、上坂部と二人で話す時間を作ることが出来たからな。あと、あいつを説得するときに、大島の名前を出したけど、それは構わなかったんだよな?」

「そうね、アナタがその方が説得力があると判断したのなら、別に問題ないわ」

 オレの問いかけに、彼女は穏やかな表情でうなずく。そして、続けて、こんなことをたずねてきた。

「ところで、葉月は、見た目からも変わろうとしているみたいだけど……アナタ、あのコに何か言ったの?」

「いや、オレは、、相談に乗っている動画を見つけたから、そのことを伝えただけだ。それより、今日は、上坂部の雰囲気が、いつもと違うような気がしたけど、やっぱりそうなのか?」

 オレが、そう答えると、大島は軽く微笑みながら、キッパリと言い切る。

「まあ、アナタにナチュラルメイクのノウハウなんて、あるわけないし、それも当然と言ったところかしら。でも、葉月の意識をあそこまで変えられるなんて、その動画のアドバイザーは、よっぽど優秀だったのね」

「そうだぞ! オレがオススメしたのは、白草四葉ちゃんのお悩み相談だからな!」

 オレが、ドヤ顔で返答すると、クラスメートは、あきれた様子でつぶやく。

「どうして、アナタが、自慢気に語っているのか、意味がわからないんだけど……」
 
 いや、実際に上坂部が、四葉ちゃんの話したことに影響を受けたのなら、オレも、それなりの役割を果たした、と言えるんじゃないのか……? そう反論しようとしたが、ここで、自分の功績を語ろうとしても意味がないことなので、黙っておくことにした。
 そんな、こちらの様子には構うことなく、大島は言葉を続ける。

「葉月の気持ち……というか、覚悟が決まったのなら、もう私たちに出来ることは無いかも知れないけど……立花、アナタはこのあと、どうするつもり?」

「たしかに、ここで一区切りにしておく方が良いかも知れないとは思うが……一学期の間にしておきたいことがあるんだ」

「あら、そうなのね……だけど、来週からは、期末テストも始まるのに、これからナニをしようって言うの?」

「あぁ、期末試験が終わったあと、ちょっとしたイベントがあるからな。そこに、上坂部と久々知を一緒に誘えないかと考えているんだ」

 オレが言い終わると、大島は、「ふ~ん」とつぶやいたあと、何事かを考えながら返答する。

「そう言うことなら、私にも出来ることがあれば、協力させてもらうわ。アナタには、先週、色々と動いてもらったからね」

 彼女の返答に、「そうか……助かる」と答えたあと、オレは気になっていることを聞いてみた。

「でも、どうして、大島は上坂部のことについて、ここまで協力してくれるんだ?」

 これまで、クラスメートとほとんど関わりを持ってこなかったオレが言うのもナンなのだが、大島睦月おおしまむつきも、あまり積極的にクラスの連中と交流を持つタイプではない。彼女は、同じ吹奏楽部の浜小春はまこはると、二人で一緒に行動することが多く、クラスの誰とでも別け隔てなく話す、上坂部と久々知のクラス委員コンビが、大島たちとクラスメートのコミュニケーションを取り持っているのが現状だ。
 オレの問いに、大島は、また少しだけ表情を緩めて答える。

「一年のときに、小春がクラスで孤立しかけてたことがあったんだけど……葉月は、そのことを気にかけて、クラスのみんなとの仲を取り持ってくれたんだ。だから、なにかあれば、彼女のチカラになりたくて……」

 そうだったのか……。
 さすがは、クラス委員気質というか、上坂部葉月らしいエピソードではある。

 そういうことであれば、余計に、健気な副委員長を応援したくなるという気持ちが湧いてくる。
 
 そう考えたオレは、週末にピッコリシアターで行われた舞台を観劇したメンバーのことを思い返しながら、市内の神社で開催される初夏のイベントに想いを馳せていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...