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第3幕・Empowerment(エンパワーメント)の章〜②〜
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♪ 選択問題は アかイで答えろ~
♪ 記述式の問題は 飛ばせ江越
延長12回引き分けの試合を最後まで見届けた翌日、僕は中学校の先生に相談された「小テストのオンライン化」するためのフォーマットを作りつつ、脳内で鼻歌を再生していた。
僕が脳内で再生していたメロディは、右打者の長距離砲と期待され、前のシーズンも広い守備範囲と俊足を買われて、試合に途中出場することの多かった江越大賀のヒッティングマーチの替え歌だが、それは、彼が移籍したファイターズとの対戦が、この週末に迫っていることとも関係していた。
ビジターでの戦いで、ライオンズには負け越したものの、本拠地甲子園で、今シーズン好調のマリーンズとの対戦を2勝1引き分けと、無敗で終えたことから、引き続き、我がチームの好調さは疑いようもなかった。
この週は、仙台でイーグルス、球場が開設されたばかりの北海道エスコンフィールドでは、ファイターズとの連戦が待っている。
僕の見立てでは、交流戦が始まるまでパシフィック・リーグの下位に甘じているライオンズ、イーグルス、ファイターズとビジターで対戦し、好調な上位チームであるバファローズ、マリーンズ、ホークスとの対戦を本拠地甲子園で迎えられる今年の交流戦は、有利になると考えていた。
(チーム状態が好調な上に、対戦のめぐり合わせまで良いなんて、今年はツキがあるな~)
などと、能天気に構えていたのだ。
担当授業のない空き時間に、職員室に戻ってきた山脇先生との会話の内容も弾んだモノになる。
「中野くん、昨日の試合、最後まで見てた?」
「えぇ! 結局、最後まで見てしまいました……もう少しで勝てそうだったんですけど、惜しかったですね~」
「9回の大山のフェンス直撃の当たりが、スタンドに入ってたらなぁ……」
「たしかに、あれがサヨナラホームランになってたら、と思うと……」
「そうやろう? 5回の逆転ホームランと合わせて、めっちゃカッコ良かったのに……けど、ロッテも、あとからあとから、良いピッチャーが出てくるなぁ」
苦笑しながら話す山脇先生の言葉にうなずきながら、返答する。
「たしかに、パ・リーグのピッチャーは、みんな速くて強いボールを投げてくる印象がありますよね。交流戦で、調子を落とさなければ、良いんですけど……」
そう答えつつも、
(今週は、ビジターの戦いとは言え、下位のチーム相手やし……どれだけ悪くても三勝三敗の五分、できれば四勝二敗以上の成績で行ってほしいな)
などと、楽観的に構えていた。
安定感の増した、村上・伊藤将司・大竹・才木のローテーションで、1週間で三敗以上するなど考えられないくらい、チームの好調ぶりに疑っていなかったのだけど――――――。
※
6月8日(木)
試合が終わった瞬間、僕はテレビ画面を呆然と見つめるしかなかった。
1点リードのまま迎えた9回裏、ここまで無敗の抑え投手・湯浅京己が、二死一・二塁と、勝利まであとアウト1つというところまで迫りながら、イーグルスの2番打者・小深田大翔に、サヨナラ3ランホームランを被弾したのだ。
決して大柄な選手ではない、2番打者のどこにそんなパワーがあるのか、と感じるが、高めに浮いたストレートを弾き返した打球は、阪神ファンの陣取るライトスタンド(楽天モバイルパークは、一塁・ライト側がビジター応援席になっている)に吸い込まれていった。
サヨナラ負けのいらだちを抑えるべく、スマホで何度もチェックしていたYAHOO!の野球速報アプリを開くと、セ・リーグ2位のベイスターズも、ホークスを相手に同じく9回裏で1点リードしながらも、サヨナラのピンチを迎えていた。
すぐに、テレビのチャンネルをホークス対ベイスターズ戦に切り替えて、ホークスのサヨナラ勝ちに期待したのだが……。
二死二・三塁、一打サヨナラ勝ちのチャンスに、ホークスの1番打者・中村晃は、ショートゴロでゲームセット。
つい、十分ほど前までは、野球速報アプリを確認しながら、
(阪神は逃げ切り、ベイスターズはサヨナラ負けでゲーム差が開くな……)
と、一人で、ほくそ笑んでいたのだが……。
まさか、我がチームが逆転負けを喰らい、2位のベイスターズにゲーム差を縮められるとは思っていなかった。
それにしても―――――――。
速球とフォークの精度から活躍が期待され、今シーズンから本格的に抑え投手として配置されたものの、先週のマリーンズ戦では、(エラー絡みとは言え)3点のリードを守りきれなかった湯浅京己の状態は心配である。
いや、湯浅だけなく、この日は、なんとかセーブを挙げたものの、ここまで3敗しているベイスターズの山崎康晃も、すでに、5月初旬にはカープの抑え投手の役を降ろされた栗林良吏も、そして、ここまで2勝無敗12セーブと成績は安定しているように見えるジャイアンツの若き守護神・翁田大勢も、決して状態は良くないという。
春先のWBCで、日本の世界一奪還に貢献した投手たちが、ペナントレースに入ってから、それぞれ状態の上がらないままの投球を続けているのは気がかりだ。
週が明けた直後までは、カケラほども感じていなかった不安が、僕の中でムクムクと大きくなってきた。
【本日の試合結果】
東北楽天 対 阪神 3回戦 楽天 6xー4 阪神
イーグルス2点リードで迎えた8回表に、阪神は、大山のタイムリー、渡邉諒の犠牲フライなどで3点を奪い、逆転に成功。盤石のリリーフ陣で、このまま逃げ切るかと思われたが……。
9回裏に四球のランナー2人を背負った守護神・湯浅が、イーグルスの2番打者・小深田に痛恨のサヨナラ3ランを浴びて敗戦。
前の週のライオンズ戦に続いて、ビジターの試合で、パ・リーグの下位チームに負け越し。
◎6月8日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:35勝17敗 2引き分け 貯金17
順位:首位(2位と4.5ゲーム差)
♪ 記述式の問題は 飛ばせ江越
延長12回引き分けの試合を最後まで見届けた翌日、僕は中学校の先生に相談された「小テストのオンライン化」するためのフォーマットを作りつつ、脳内で鼻歌を再生していた。
僕が脳内で再生していたメロディは、右打者の長距離砲と期待され、前のシーズンも広い守備範囲と俊足を買われて、試合に途中出場することの多かった江越大賀のヒッティングマーチの替え歌だが、それは、彼が移籍したファイターズとの対戦が、この週末に迫っていることとも関係していた。
ビジターでの戦いで、ライオンズには負け越したものの、本拠地甲子園で、今シーズン好調のマリーンズとの対戦を2勝1引き分けと、無敗で終えたことから、引き続き、我がチームの好調さは疑いようもなかった。
この週は、仙台でイーグルス、球場が開設されたばかりの北海道エスコンフィールドでは、ファイターズとの連戦が待っている。
僕の見立てでは、交流戦が始まるまでパシフィック・リーグの下位に甘じているライオンズ、イーグルス、ファイターズとビジターで対戦し、好調な上位チームであるバファローズ、マリーンズ、ホークスとの対戦を本拠地甲子園で迎えられる今年の交流戦は、有利になると考えていた。
(チーム状態が好調な上に、対戦のめぐり合わせまで良いなんて、今年はツキがあるな~)
などと、能天気に構えていたのだ。
担当授業のない空き時間に、職員室に戻ってきた山脇先生との会話の内容も弾んだモノになる。
「中野くん、昨日の試合、最後まで見てた?」
「えぇ! 結局、最後まで見てしまいました……もう少しで勝てそうだったんですけど、惜しかったですね~」
「9回の大山のフェンス直撃の当たりが、スタンドに入ってたらなぁ……」
「たしかに、あれがサヨナラホームランになってたら、と思うと……」
「そうやろう? 5回の逆転ホームランと合わせて、めっちゃカッコ良かったのに……けど、ロッテも、あとからあとから、良いピッチャーが出てくるなぁ」
苦笑しながら話す山脇先生の言葉にうなずきながら、返答する。
「たしかに、パ・リーグのピッチャーは、みんな速くて強いボールを投げてくる印象がありますよね。交流戦で、調子を落とさなければ、良いんですけど……」
そう答えつつも、
(今週は、ビジターの戦いとは言え、下位のチーム相手やし……どれだけ悪くても三勝三敗の五分、できれば四勝二敗以上の成績で行ってほしいな)
などと、楽観的に構えていた。
安定感の増した、村上・伊藤将司・大竹・才木のローテーションで、1週間で三敗以上するなど考えられないくらい、チームの好調ぶりに疑っていなかったのだけど――――――。
※
6月8日(木)
試合が終わった瞬間、僕はテレビ画面を呆然と見つめるしかなかった。
1点リードのまま迎えた9回裏、ここまで無敗の抑え投手・湯浅京己が、二死一・二塁と、勝利まであとアウト1つというところまで迫りながら、イーグルスの2番打者・小深田大翔に、サヨナラ3ランホームランを被弾したのだ。
決して大柄な選手ではない、2番打者のどこにそんなパワーがあるのか、と感じるが、高めに浮いたストレートを弾き返した打球は、阪神ファンの陣取るライトスタンド(楽天モバイルパークは、一塁・ライト側がビジター応援席になっている)に吸い込まれていった。
サヨナラ負けのいらだちを抑えるべく、スマホで何度もチェックしていたYAHOO!の野球速報アプリを開くと、セ・リーグ2位のベイスターズも、ホークスを相手に同じく9回裏で1点リードしながらも、サヨナラのピンチを迎えていた。
すぐに、テレビのチャンネルをホークス対ベイスターズ戦に切り替えて、ホークスのサヨナラ勝ちに期待したのだが……。
二死二・三塁、一打サヨナラ勝ちのチャンスに、ホークスの1番打者・中村晃は、ショートゴロでゲームセット。
つい、十分ほど前までは、野球速報アプリを確認しながら、
(阪神は逃げ切り、ベイスターズはサヨナラ負けでゲーム差が開くな……)
と、一人で、ほくそ笑んでいたのだが……。
まさか、我がチームが逆転負けを喰らい、2位のベイスターズにゲーム差を縮められるとは思っていなかった。
それにしても―――――――。
速球とフォークの精度から活躍が期待され、今シーズンから本格的に抑え投手として配置されたものの、先週のマリーンズ戦では、(エラー絡みとは言え)3点のリードを守りきれなかった湯浅京己の状態は心配である。
いや、湯浅だけなく、この日は、なんとかセーブを挙げたものの、ここまで3敗しているベイスターズの山崎康晃も、すでに、5月初旬にはカープの抑え投手の役を降ろされた栗林良吏も、そして、ここまで2勝無敗12セーブと成績は安定しているように見えるジャイアンツの若き守護神・翁田大勢も、決して状態は良くないという。
春先のWBCで、日本の世界一奪還に貢献した投手たちが、ペナントレースに入ってから、それぞれ状態の上がらないままの投球を続けているのは気がかりだ。
週が明けた直後までは、カケラほども感じていなかった不安が、僕の中でムクムクと大きくなってきた。
【本日の試合結果】
東北楽天 対 阪神 3回戦 楽天 6xー4 阪神
イーグルス2点リードで迎えた8回表に、阪神は、大山のタイムリー、渡邉諒の犠牲フライなどで3点を奪い、逆転に成功。盤石のリリーフ陣で、このまま逃げ切るかと思われたが……。
9回裏に四球のランナー2人を背負った守護神・湯浅が、イーグルスの2番打者・小深田に痛恨のサヨナラ3ランを浴びて敗戦。
前の週のライオンズ戦に続いて、ビジターの試合で、パ・リーグの下位チームに負け越し。
◎6月8日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:35勝17敗 2引き分け 貯金17
順位:首位(2位と4.5ゲーム差)
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