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第3幕・Empowerment(エンパワーメント)の章〜③〜
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6月15日(木)
甲子園球場のスタンドは、騒然としている。
打った瞬間、打球の行方を確信したのか、マウンド上の湯浅京己は、その場にしゃがみ込んだ。
外野手が一歩も動かずに見送った白球は、バファローズファンの待つレフトスタンド中段まで届く大アーチを描く。
1週間前と違い、その光景をテレビで見ながら、僕は、
「ハァ……やっぱり、こうなったか……」
と、つぶやく。
2対1と、1点差で迎えた9回表。
一発長打のある打者が揃うバファローズの上位打線を迎えるにあたり、
(今日は、二死から杉本に逆転の一発を浴びる展開かな……?)
という悪い予感が頭をよぎっていたのだが、ソロホームラン2本という多少の誤差はあったものの、ラオウの愛称で知られる杉本裕太郎に勝ち越しホームランを打たれるという点は、ほぼ予想通りだった。
仙台でのイーグルス戦とは異なり、まだ、9回裏の攻撃の機会は残されていたものの、試合の流れと打順の巡りから考えて、同点あるいは逆転の機会が訪れる、という希望を抱くことはできなかった。
悲観したとおり、その最後の攻撃では、ランナーが1人出たものの後続が続かず、そのまま敗戦となる。
これで、今シーズンの交流戦の成績は、6勝8敗1引き分けとなり、この時点で、交流戦優勝の可能性は、ほぼ断たれたと言って良い。
(ちなみに、イーグルス戦のあとの北海道でのファイターズ戦も、移籍した江越にホームランを打たれるなど、1勝2敗と負け越している)
9連勝と勢いに乗って交流戦に突入し、その初戦を村上頌樹の好投で制した時には、
(今年は、初めての交流戦優勝を狙えそうだな……)
と、取らぬパ・リーグの皮算用をしていたのだが、その楽観的な予測は、世界一の激甘スイーツと言われるインドのグラブジャムン(小さく丸めて揚げたカステラ状のモノをシロップ漬けにしたお菓子)よりも、甘かったかも知れない。
これが、5~6年くらい前までのように、セ・リーグ全体の成績が落ち込むような状況なら、まだ救いはあるのだが……。
今年は、ベイスターズやジャイアンツが、交流戦でも、バファローズやホークス相手に善戦している。
素人の僕の目から見ても、球威やコントロールが、昨シーズンのデキに戻っていない湯浅に守護神の役目を担わせるのは厳しいだろう。
金曜日から始まるホークスとの三連戦を前に、暗澹たる思いを抱えながら、僕は週末を迎えた。
【本日の試合結果】
阪神 対 オリックス 3回戦 阪神 2ー3 オリックス
阪神・伊藤将司、バファローズ・山岡泰輔の好投で始まった試合は、4回表に先制を許すも、その裏、前川右京と伊藤将司自身のタイムリーで逆転に成功。
そのままのスコアで最終回を迎えたが、抑えの湯浅京己が、バファローズの中軸、頓宮裕真と杉本裕太郎にホームランを打たれ、逆転負け。
翌日、湯浅は一軍の登録が抹消され、二軍での調整することとなった。
◎6月15日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:36勝21敗 2引き分け 貯金15
順位:首位(2位と3ゲーム差)
6月18日(日)
日曜日の夕方、初夏の明るい夕焼けを見ながら、僕は甲子園浜の海岸を歩いていた。
前日の土曜日の試合で、湯浅のあとに抑え投手となった岩崎優が、最終回にホークス打線に捕まって逆転負けし、この日も、中盤までは両チームがお互いに譲らない投手戦を繰り広げていたものの、7回に5点を奪われて均衡が崩れたため、意気消沈してしまった僕は、試合の途中ながら、テレビを消し、海岸沿いにサイクリングに出掛けたのだ。
湾岸沿いの高速道路を臨むベンチに自転車を止め、海岸沿いを歩きながら夕陽を眺めていると、モヤモヤとした気持ちが少しだけ晴れていくような気がした。
考えてみれば、奈緒美さんと球場で試合を観戦し、楽しい(と感じていたのは、自分だけではないと信じたい)二次会の時間を過ごしたのは、たった2週間前のことだった。
それが、わずか、十四日程度で、これほどまでに心が沈むことになるとは思ってもみなかった。
贔屓球団の成績に一喜一憂し、自分の心のバランスが左右されるなんて、バカバカしい――――――。
そんなことは、僕自身も十分に理解しているけれど……。
投打ともに噛み合わないチームの状況と自分の置かれた現状がリンクしているように感じられ、どうにも、気持ちを落ち着けるのに時間がかかる。
そう、僕の気分が沈みがちなのは、あの日以降、奈緒美さんにLINEでメッセージを送っても、返信が途絶えがちになり、少しずつ既読スルーをされることが増えていたからでもある。
彼女の今の仕事は多忙だとは思うので、なかなか返信が来ないのも仕方ないとは考えているけど……。
相手を想う気持ちが強くなり始めた時期に、コミュニケーションを取れない状況が続くのは、 焦れったく、歯がゆく感じてしまう。
そんな身勝手な自分自身の感情に気づき、自己嫌悪に陥ってしまう、負の感情のループを抑える術を僕は持っていなかった。
我がチームの状況に話しを戻すと、交流戦前は、6ゲームもあった2位ベイスターズとのゲーム差は2に縮まり、レギュラーシーズン再開直後の首位攻防戦の結果によっては、1ヶ月の間、快走してきた首位の座を明け渡すことになる。
それでも、
(交流戦は流れが悪かっただけ……セ・リーグ同士の戦いなら、まだまだ勝てるはず……)
と、悲観せずに構えていたんだけど……。
【本日の試合結果】
阪神 対 福岡ソフトバンク 3回戦 阪神 0ー9 ソフトバンク
才木とスチュワート・ジュニア、両投手の好投で6回まで両チーム無得点。0対0で迎えた7回表に、ホークスが阪神の中継ぎ陣を攻め、一挙に5点を挙げて試合を決してしまう。その後も8回・9回に追加点をあげて、9対0のワンサイド・ゲームに。
終盤は、ホークスの選手層の厚さを感じさせる試合展開だった。
阪神は、交流戦の全日程を終え、7勝10敗1引き分けで、12球団中10位と低迷した。
◎6月18日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:37勝23敗 2引き分け 貯金14
順位:首位(2位と2ゲーム差)
甲子園球場のスタンドは、騒然としている。
打った瞬間、打球の行方を確信したのか、マウンド上の湯浅京己は、その場にしゃがみ込んだ。
外野手が一歩も動かずに見送った白球は、バファローズファンの待つレフトスタンド中段まで届く大アーチを描く。
1週間前と違い、その光景をテレビで見ながら、僕は、
「ハァ……やっぱり、こうなったか……」
と、つぶやく。
2対1と、1点差で迎えた9回表。
一発長打のある打者が揃うバファローズの上位打線を迎えるにあたり、
(今日は、二死から杉本に逆転の一発を浴びる展開かな……?)
という悪い予感が頭をよぎっていたのだが、ソロホームラン2本という多少の誤差はあったものの、ラオウの愛称で知られる杉本裕太郎に勝ち越しホームランを打たれるという点は、ほぼ予想通りだった。
仙台でのイーグルス戦とは異なり、まだ、9回裏の攻撃の機会は残されていたものの、試合の流れと打順の巡りから考えて、同点あるいは逆転の機会が訪れる、という希望を抱くことはできなかった。
悲観したとおり、その最後の攻撃では、ランナーが1人出たものの後続が続かず、そのまま敗戦となる。
これで、今シーズンの交流戦の成績は、6勝8敗1引き分けとなり、この時点で、交流戦優勝の可能性は、ほぼ断たれたと言って良い。
(ちなみに、イーグルス戦のあとの北海道でのファイターズ戦も、移籍した江越にホームランを打たれるなど、1勝2敗と負け越している)
9連勝と勢いに乗って交流戦に突入し、その初戦を村上頌樹の好投で制した時には、
(今年は、初めての交流戦優勝を狙えそうだな……)
と、取らぬパ・リーグの皮算用をしていたのだが、その楽観的な予測は、世界一の激甘スイーツと言われるインドのグラブジャムン(小さく丸めて揚げたカステラ状のモノをシロップ漬けにしたお菓子)よりも、甘かったかも知れない。
これが、5~6年くらい前までのように、セ・リーグ全体の成績が落ち込むような状況なら、まだ救いはあるのだが……。
今年は、ベイスターズやジャイアンツが、交流戦でも、バファローズやホークス相手に善戦している。
素人の僕の目から見ても、球威やコントロールが、昨シーズンのデキに戻っていない湯浅に守護神の役目を担わせるのは厳しいだろう。
金曜日から始まるホークスとの三連戦を前に、暗澹たる思いを抱えながら、僕は週末を迎えた。
【本日の試合結果】
阪神 対 オリックス 3回戦 阪神 2ー3 オリックス
阪神・伊藤将司、バファローズ・山岡泰輔の好投で始まった試合は、4回表に先制を許すも、その裏、前川右京と伊藤将司自身のタイムリーで逆転に成功。
そのままのスコアで最終回を迎えたが、抑えの湯浅京己が、バファローズの中軸、頓宮裕真と杉本裕太郎にホームランを打たれ、逆転負け。
翌日、湯浅は一軍の登録が抹消され、二軍での調整することとなった。
◎6月15日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:36勝21敗 2引き分け 貯金15
順位:首位(2位と3ゲーム差)
6月18日(日)
日曜日の夕方、初夏の明るい夕焼けを見ながら、僕は甲子園浜の海岸を歩いていた。
前日の土曜日の試合で、湯浅のあとに抑え投手となった岩崎優が、最終回にホークス打線に捕まって逆転負けし、この日も、中盤までは両チームがお互いに譲らない投手戦を繰り広げていたものの、7回に5点を奪われて均衡が崩れたため、意気消沈してしまった僕は、試合の途中ながら、テレビを消し、海岸沿いにサイクリングに出掛けたのだ。
湾岸沿いの高速道路を臨むベンチに自転車を止め、海岸沿いを歩きながら夕陽を眺めていると、モヤモヤとした気持ちが少しだけ晴れていくような気がした。
考えてみれば、奈緒美さんと球場で試合を観戦し、楽しい(と感じていたのは、自分だけではないと信じたい)二次会の時間を過ごしたのは、たった2週間前のことだった。
それが、わずか、十四日程度で、これほどまでに心が沈むことになるとは思ってもみなかった。
贔屓球団の成績に一喜一憂し、自分の心のバランスが左右されるなんて、バカバカしい――――――。
そんなことは、僕自身も十分に理解しているけれど……。
投打ともに噛み合わないチームの状況と自分の置かれた現状がリンクしているように感じられ、どうにも、気持ちを落ち着けるのに時間がかかる。
そう、僕の気分が沈みがちなのは、あの日以降、奈緒美さんにLINEでメッセージを送っても、返信が途絶えがちになり、少しずつ既読スルーをされることが増えていたからでもある。
彼女の今の仕事は多忙だとは思うので、なかなか返信が来ないのも仕方ないとは考えているけど……。
相手を想う気持ちが強くなり始めた時期に、コミュニケーションを取れない状況が続くのは、 焦れったく、歯がゆく感じてしまう。
そんな身勝手な自分自身の感情に気づき、自己嫌悪に陥ってしまう、負の感情のループを抑える術を僕は持っていなかった。
我がチームの状況に話しを戻すと、交流戦前は、6ゲームもあった2位ベイスターズとのゲーム差は2に縮まり、レギュラーシーズン再開直後の首位攻防戦の結果によっては、1ヶ月の間、快走してきた首位の座を明け渡すことになる。
それでも、
(交流戦は流れが悪かっただけ……セ・リーグ同士の戦いなら、まだまだ勝てるはず……)
と、悲観せずに構えていたんだけど……。
【本日の試合結果】
阪神 対 福岡ソフトバンク 3回戦 阪神 0ー9 ソフトバンク
才木とスチュワート・ジュニア、両投手の好投で6回まで両チーム無得点。0対0で迎えた7回表に、ホークスが阪神の中継ぎ陣を攻め、一挙に5点を挙げて試合を決してしまう。その後も8回・9回に追加点をあげて、9対0のワンサイド・ゲームに。
終盤は、ホークスの選手層の厚さを感じさせる試合展開だった。
阪神は、交流戦の全日程を終え、7勝10敗1引き分けで、12球団中10位と低迷した。
◎6月18日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:37勝23敗 2引き分け 貯金14
順位:首位(2位と2ゲーム差)
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