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第三十六話 ざわ……ざわ……
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───ホウリの父さんについて───
詳細不明
☆ ☆ ☆ ☆
「さて、2人とも準備はいいな?」
「うむ」
「う、うん」
この街に来て6日目、ついに俺たちはこの街で最大の裏カジノを見つけ出す事が出来た。その入り口が人通りの少ない裏路地にひっそりたたずむBAR『white』だ。年季が入っている窓や扉、古くなっているのか点いたり消えたりを繰り返している照明と一見すると裏カジノの入り口に見えないようにカモフラージュされている。ここが裏カジノの入り口だと一般人に言っても信じて貰えないだろう。
意を決してBARの扉を開けようと手を掛けようとすると、腰の当たりに違和感を感じた。振り向いてみると、ノエルが不安そうな顔で俺の上着の裾を握りしめていた。そんなノエルに俺は優しく声をかける。
「不安か?」
「……うん」
「確かに今から行く所は危険な場所だ。だがな、ノエルには俺もフランもついている。俺たちが居る限りノエルに危険は訪れさせない。約束しよう」
「……うん!」
「よし、終わったら皆でハンバーグ食べような」
「ハンバーグ!?やったー!」
不安そうな表情が少し綻ぶ。だが、裾を握る力が弱まっていないことから内心は不安なんだろう。
「フラン、ここからは急に攻撃が飛んでくることもある。常に周囲には注意しておけ」
「うむ、お主にもノエルにも指一本触れさせん」
世界最強が同行しているんだ。俺も注意しておくが恐らくは大丈夫だろう。
準備はもう済んでいる。後は実行に移すだけだ。
「よし、いくぞ」
壊れかけのドアノブを捻り扉を開ける。
BARの中にはグラスを拭いているマスターらしきタキシード姿の男がいた。店内のバーカウンターには一人も座っておらず、レコードから暗めのバラードが寂しく響いていた。
マスターは俺たちを一瞥した後、特に反応せずにグラスを拭き続ける。俺はカウンターに座ってマスターに声をかける。
「マスター、マティーニを1杯とレッドアイを3杯」
俺の言葉にマスターのグラス拭く手が止め、俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
「悪いね。今レッドアイを切らしている」
「じゃあ、マティーニをモヒートに変更で」
「すぐに準備しよう」
そう言うとマスターは店の奥へと引っ込んでいった。
待つ事1分、急に何処からか金属が擦れあう音が響き渡り壁が二つに割れた。店の奥からマスターが戻ってきて中に入るように促す。俺たちは促されるままに中に入る。
さて、俺の準備は吉と出るか凶とでるか、ギャンブルといくか。
☆ ☆ ☆ ☆
「思ったよりは小さいのう」
「大規模なもの作ったらすぐに憲兵に見つかるからな。だが、小規模でも金が動く量も武装の量も国営のカジノより上だ。油断するなよ」
「分かっておる」
裏カジノは体育館の半分のサイズの広さで十数人の客とディーラー、監視の黒服がいるだけと小規模に見える。肝心のゲームもポーカー台が2つにルーレット台が1つと少ない。だが、素人目に見ても高価な装飾品がいたるところに飾られている。つまり、これだけの
ちなみに、このカジノには普段は見えていないが国営の比じゃない程の武装がある。国の法律が届かない分、何かあると即座に殺される恐れがあるからフランが居るとはいえ気をつけるに越した事は無い。
「で、ここからどうする?」
「まだるっこしいことは抜きだ。ラスボスを呼び出す」
辺りを見渡して手ごろな黒服に声をかけ袋を差し出す。
「すみません」
「なんでしょうか」
「オーナーに取り次いでもらえますか?」
「断る。なぜ貴様のような素情も知らない奴を取り次がないといけない?」
「まあまあ、そう言わずに。『キムラホウリ』って言えば通じますから。ついでにこの金も1億チップに換えてくれます?」
「……チッ、分かった」
俺の名前を出した瞬間、黒服の表情が強張る。そして、乱暴に袋をひったくると奥へと消えて行った。
そんな黒服の様子をおかしく思ったのかフランが疑問を口にする。
「なあ、あの黒服の様子おかしくないか?お主、また何かしたのか?」
「下準備として、ここらの裏カジノを荒らしまくった。その噂がいい感じに届いてるみたいだな」
「……確か朝から晩までわし達と居ったよな?そんな事いつしていた?」
「お前たちが寝た後だな」
「お主の睡眠時間を聞いてもよいか?」
「1日5分だ」
「もう少し寝ろ」
「ノエルの事に決着がつくまでは無理だ」
俺の言葉にフランは呆れたように首を振る。俺だって1日1時間は寝たいが、時間が無い以上しかたがない。幸い、身体は半年は持つ計算だから安心して突っ走っていける。
そうこうしていると、黒服が豪華なドレスに身を包んだ女性を連れてきた。指には煌びやかな指輪を、首には高そうなネックレスを身につけており、一目でここのオーナーである事が分かる。
オーナーは俺の前に立つと獲物を見つけたかのように不敵に微笑む。
「あんたが裏カジノを荒らしている『キムラ・ホウリ』かい?」
「ああ、あんたがここのオーナーの『ダモン』だな?」
「そうさね、本来だったらあんたみたいな雑魚と話す事は無いんだけどね。お情けで会ってやったのさ」
「お情け?荒らされたら困るから止めてくれって泣きつきに来たんだろ?」
「は!口の減らないガキだね」
俺の挑発を一蹴するダモン。そのまま、懐から青色チップ取り出し俺に差し出す。
「お望みの一億チップさね。さて、要件を聞かせてもらおうかね」
「単刀直入に言おう。『審判の台』で俺とギャンブルしてほしい」
審判の台という言葉を聞いたダモンの表情から余裕が消える。
審判の台とはオッズが普通より高いルーレット台のことだ。そのオッズなんと通常の100倍。つまり、最低オッズの赤か黒で勝っても200倍になるってことだ。
更に、この台でギャンブルをするときは金以外にそいつの大事な物を賭けなくてはならない。命、身分、家族、恋人、なんでも賭ける事が出来る。勝負の結果がそいつの人生を左右する。それが、審判の台だ。
ダモンは何かを探るような様子で会話を続ける。
「何が目的さね」
「金と……もう一つ」
にやりと笑いながらダモンの胸元に指を突きつける。
「その首飾りをいただこうか」
「!?」
ダモンの表情に明らかに動揺が走る。
首飾りをかばうように手で覆いながら俺を睨む。
「……お前は何者さね」
「さあな。そんなことより、受けるのか、受けないのかどっちだ?」
俺は畳みかけるように喋り続ける。俺の言葉にダモンは考え込んでしまった
ここで俺の挑発を受けなかった場合、ここにいる人たちに逃げたという認識を与えてしまう。これは評判で成り立っている裏カジノには致命的だ。だから、ダモンは受けると答えるか───
「条件が1つあるさね」
「なんだ?」
「あんたが負けた時はあたしの奴隷になってもらおうかね」
無茶な要求をしてこちらを引かせるかだ。
ダモンは注意深くこちらを見据えてくる。今引けば見逃してやるって事だろう。
俺はダモン向かい、笑顔を崩さずに答える。
「分かった。早速始めよう」
領地を敵に回してんだ。今さらこの程度で来て引き下がれるか。
「……そうかい、じゃあ付いてきな」
引く気が無い事を察したのかダモンがカジノの奥へと進む。俺達もダモンの後に続きカジノの後へ進む。
「……なんか見られておらぬか?」
「怖いよぉ……」
フランとノエルの言葉通りダモンが出てきたと同時に、ここにいる全員の視線が俺たちに注がれていた。しかも、国営カジノで注がれていた興味本意の視線ではなく邪魔者を見るような悪意ある視線だ。
「そりゃそうだろ。めったに表に出ないオーナーが訳分からない奴と一緒に歩いてんだ。良い印象はないだろう。特に害は無い───」
俺は言葉の途中で顔面に飛来する何かの気配を感じて2本の指で受け止める。受け止めたものを見てみるとそれが投げナイフである事が分かった。すぐに飛んできた方向を確認するが人ごみによって犯人の姿は確認出来ない。
「害がなんじゃ?」
「……特に害が無いという甘い考えは捨てて気をつけろよ」
周りの視線よりもフランの視線が痛い。オーナーがいる中で直接手を出してくると思う訳ないだろ。だから俺は悪くない。
「さあ、これが『審判の台』さね」
フランの冷たい視線に耐えているとダモンの案内の元で審判の台へと辿り着く。
「これが審判の台か。確かに普通の台とは違うな」
審判の台は普通のルーレット台と違い白と黒だけで彩られている。チップを賭ける台やルーレット本体も白と黒のみであり他の色が一切として無い。吸い込まれそうなほど深い黒と一片の曇りもないほど白、デザインはシンプルでありながら引き込まれる見た目は芸術品としても素晴らしい一品だ。
ダモンは愛おしそうに審判の台を撫でながら話し始める。
「私は昔、何も持っていなかった。だけどね、この子で金、権力、武力、色んなものを勝ちとってきた」
そして俺の方へ向くとニヤリと笑いながら話を続ける。
「この子で勝負する限り私は負けない」
「何が言いたい?」
「あんたが何をたくらんでいようと無駄ってことさ」
正面から勝負するつもりが無い事がバレてるな。だったら、仕掛けについて探るか。
「……へぇ、何か仕掛けでもあるのか?」
「勝負をフェアにする仕掛けがあるさね。イカサマはするだけ無駄だよ」
言い方から察するにこれ以上話すつもりはないみたいだな。探るだけ無駄だな。
俺はごまかすように手を打ちならし、強引に話を元に戻す。
「分かった、フェアに行こう。始める前に賭ける物を確認するぞ。俺は俺自身を」
「私はこの首飾りを」
ダモンは首飾りを外し黒服に渡す。
「言っとくけど、盗もうとは思わない方がいいさね」
「まだ蜂の巣になりたくないから心配するな」
黒服の男たちに睨まれながら盗みを働く程考えなしじゃない。
「……盗んだほうが早いではないのか?」
考えなしがここにいた。
「それじゃあ、始めるさね。今更逃げようとは思わないことだね」
ダモンが指を鳴らすと後ろの黒服がディーラーのポジションへとつく。
「ちょっと待て」
「何だい、何か文句でもあるのかい」
その様子を見た俺は意義を申し立てる。
「大ありだな。お前の部下がディーラー?イカサマし放題じゃねぇか」
「私は卑怯な手は使わない」
「信じられるか。たとえば……、あいつなんかどうだ?」
俺は観衆の中から茶髪のチャラそうな男を指さす。
指を差された男は驚いたように自分を指さす。
「お、俺っすか?」
「お前はこのカジノの関係者に見えないし一番信用できる。名前は?」
「『モヨウ』っす。でも自分なんかにディーラーが出来るんすか?」
「最悪、玉を投げて数字に入ればいい」
「うーん、よく分かんないっすけど了解っす」
「ダモンもいいな?」
「……あんたがいいなら異論はないさね」
よし、これで準備は整った。これでゲームが始められる。
「他に言いたいことはないかい?」
「ああ、始めよう。まずは俺がチップを置かせてもらおう」
さて、どこに置いてもそこまで変わらないし適当に置くか。
俺はblackにチップを置き、ダモンにチップ置くように促す。
「あんたの番だぜ」
「そうさね、あんたがblackなら私はwhiteに掛けるかね」
そう言うと、ダモンはwhiteにチップを置く。ダモンの行動を注視するが特に怪しい行動はとっていない。
「この台は普通と違って玉を投げた段階でチップを移動できない。いいね?」
「異存はない」
一度賭けたらそれっきりってことだ。変える意味はあまりないし、問題はないだろう。
俺たちが話し合っている中で、モヨウが黒服にディーラーのやり方を教わっている。
「投げる時には力は込めすぎないように気を付けてください」
「えっと、こうっすか?」
「はい、それで結構です」
たどたどしいながらも、何とか玉を投げるモヨウ。どうやら、腕に問題はないようだ。
「さて、もう言いたいことは無いね」
「ああ、始めるぞ」
ダモンの言葉に観衆たちのどよめきが大きくなる。
これでやることは済んだ。後は野となれ山となれって奴だ。
「おいおい、どっちが勝つんだ」
「賭けるか?」
「じゃあ俺はダモン様に100万G」
「俺は新人ギャンブラーに50万G」
呑気な観衆と対照的にモヨウはガチガチに緊張している。
「じゃ、じゃあ投げるっすよ?」
「別に失敗しても殺したりはしないよ」
「ひいいぃ!」
ダモンがモヨウを睨みつけ、モヨウが更に怯える。
元の目つきが鋭すぎるせいで脅しているようにしか見えない。
「い、いくっす!」
モヨウは意を決して震える手で玉を投げる。すると、モヨウの手から玉が離れた瞬間ルーレット台全体がシャボン玉のような膜に包まれた。
「なんじゃこれ?」
「これがイカサマ防止システム『天の聖域』さね。この膜に包まれた後に置かれたものは例外なく弾かれる。出目を見てこっそり移動させるなんてできないってことさ。あんた達にできることは祈る事だけさ」
ダモンが勝ち誇ったように笑う。大方俺達がイカサマをすると思ってるんだろう。その通りだから何も言えないが。
玉が勢いよく転がるのを見て、言われた通りにノエルが手を合わせる。
「お願いします神様……」
「あの神に祈るのは止めておけ。下手したら願った方向と逆の結果になるぞ」
徐々に玉の勢いが無くなっていき、注目しているからか観衆の声も小さくなる。
そして、玉の勢いが完全になくなり、とある番号に止まる。止まった番号を確認すると、モヨウは重々しく口を開く。
「『whiteの7』っす」
そう、間違いなく玉はwhiteの7へと入ったのであった。
詳細不明
☆ ☆ ☆ ☆
「さて、2人とも準備はいいな?」
「うむ」
「う、うん」
この街に来て6日目、ついに俺たちはこの街で最大の裏カジノを見つけ出す事が出来た。その入り口が人通りの少ない裏路地にひっそりたたずむBAR『white』だ。年季が入っている窓や扉、古くなっているのか点いたり消えたりを繰り返している照明と一見すると裏カジノの入り口に見えないようにカモフラージュされている。ここが裏カジノの入り口だと一般人に言っても信じて貰えないだろう。
意を決してBARの扉を開けようと手を掛けようとすると、腰の当たりに違和感を感じた。振り向いてみると、ノエルが不安そうな顔で俺の上着の裾を握りしめていた。そんなノエルに俺は優しく声をかける。
「不安か?」
「……うん」
「確かに今から行く所は危険な場所だ。だがな、ノエルには俺もフランもついている。俺たちが居る限りノエルに危険は訪れさせない。約束しよう」
「……うん!」
「よし、終わったら皆でハンバーグ食べような」
「ハンバーグ!?やったー!」
不安そうな表情が少し綻ぶ。だが、裾を握る力が弱まっていないことから内心は不安なんだろう。
「フラン、ここからは急に攻撃が飛んでくることもある。常に周囲には注意しておけ」
「うむ、お主にもノエルにも指一本触れさせん」
世界最強が同行しているんだ。俺も注意しておくが恐らくは大丈夫だろう。
準備はもう済んでいる。後は実行に移すだけだ。
「よし、いくぞ」
壊れかけのドアノブを捻り扉を開ける。
BARの中にはグラスを拭いているマスターらしきタキシード姿の男がいた。店内のバーカウンターには一人も座っておらず、レコードから暗めのバラードが寂しく響いていた。
マスターは俺たちを一瞥した後、特に反応せずにグラスを拭き続ける。俺はカウンターに座ってマスターに声をかける。
「マスター、マティーニを1杯とレッドアイを3杯」
俺の言葉にマスターのグラス拭く手が止め、俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
「悪いね。今レッドアイを切らしている」
「じゃあ、マティーニをモヒートに変更で」
「すぐに準備しよう」
そう言うとマスターは店の奥へと引っ込んでいった。
待つ事1分、急に何処からか金属が擦れあう音が響き渡り壁が二つに割れた。店の奥からマスターが戻ってきて中に入るように促す。俺たちは促されるままに中に入る。
さて、俺の準備は吉と出るか凶とでるか、ギャンブルといくか。
☆ ☆ ☆ ☆
「思ったよりは小さいのう」
「大規模なもの作ったらすぐに憲兵に見つかるからな。だが、小規模でも金が動く量も武装の量も国営のカジノより上だ。油断するなよ」
「分かっておる」
裏カジノは体育館の半分のサイズの広さで十数人の客とディーラー、監視の黒服がいるだけと小規模に見える。肝心のゲームもポーカー台が2つにルーレット台が1つと少ない。だが、素人目に見ても高価な装飾品がいたるところに飾られている。つまり、これだけの
ちなみに、このカジノには普段は見えていないが国営の比じゃない程の武装がある。国の法律が届かない分、何かあると即座に殺される恐れがあるからフランが居るとはいえ気をつけるに越した事は無い。
「で、ここからどうする?」
「まだるっこしいことは抜きだ。ラスボスを呼び出す」
辺りを見渡して手ごろな黒服に声をかけ袋を差し出す。
「すみません」
「なんでしょうか」
「オーナーに取り次いでもらえますか?」
「断る。なぜ貴様のような素情も知らない奴を取り次がないといけない?」
「まあまあ、そう言わずに。『キムラホウリ』って言えば通じますから。ついでにこの金も1億チップに換えてくれます?」
「……チッ、分かった」
俺の名前を出した瞬間、黒服の表情が強張る。そして、乱暴に袋をひったくると奥へと消えて行った。
そんな黒服の様子をおかしく思ったのかフランが疑問を口にする。
「なあ、あの黒服の様子おかしくないか?お主、また何かしたのか?」
「下準備として、ここらの裏カジノを荒らしまくった。その噂がいい感じに届いてるみたいだな」
「……確か朝から晩までわし達と居ったよな?そんな事いつしていた?」
「お前たちが寝た後だな」
「お主の睡眠時間を聞いてもよいか?」
「1日5分だ」
「もう少し寝ろ」
「ノエルの事に決着がつくまでは無理だ」
俺の言葉にフランは呆れたように首を振る。俺だって1日1時間は寝たいが、時間が無い以上しかたがない。幸い、身体は半年は持つ計算だから安心して突っ走っていける。
そうこうしていると、黒服が豪華なドレスに身を包んだ女性を連れてきた。指には煌びやかな指輪を、首には高そうなネックレスを身につけており、一目でここのオーナーである事が分かる。
オーナーは俺の前に立つと獲物を見つけたかのように不敵に微笑む。
「あんたが裏カジノを荒らしている『キムラ・ホウリ』かい?」
「ああ、あんたがここのオーナーの『ダモン』だな?」
「そうさね、本来だったらあんたみたいな雑魚と話す事は無いんだけどね。お情けで会ってやったのさ」
「お情け?荒らされたら困るから止めてくれって泣きつきに来たんだろ?」
「は!口の減らないガキだね」
俺の挑発を一蹴するダモン。そのまま、懐から青色チップ取り出し俺に差し出す。
「お望みの一億チップさね。さて、要件を聞かせてもらおうかね」
「単刀直入に言おう。『審判の台』で俺とギャンブルしてほしい」
審判の台という言葉を聞いたダモンの表情から余裕が消える。
審判の台とはオッズが普通より高いルーレット台のことだ。そのオッズなんと通常の100倍。つまり、最低オッズの赤か黒で勝っても200倍になるってことだ。
更に、この台でギャンブルをするときは金以外にそいつの大事な物を賭けなくてはならない。命、身分、家族、恋人、なんでも賭ける事が出来る。勝負の結果がそいつの人生を左右する。それが、審判の台だ。
ダモンは何かを探るような様子で会話を続ける。
「何が目的さね」
「金と……もう一つ」
にやりと笑いながらダモンの胸元に指を突きつける。
「その首飾りをいただこうか」
「!?」
ダモンの表情に明らかに動揺が走る。
首飾りをかばうように手で覆いながら俺を睨む。
「……お前は何者さね」
「さあな。そんなことより、受けるのか、受けないのかどっちだ?」
俺は畳みかけるように喋り続ける。俺の言葉にダモンは考え込んでしまった
ここで俺の挑発を受けなかった場合、ここにいる人たちに逃げたという認識を与えてしまう。これは評判で成り立っている裏カジノには致命的だ。だから、ダモンは受けると答えるか───
「条件が1つあるさね」
「なんだ?」
「あんたが負けた時はあたしの奴隷になってもらおうかね」
無茶な要求をしてこちらを引かせるかだ。
ダモンは注意深くこちらを見据えてくる。今引けば見逃してやるって事だろう。
俺はダモン向かい、笑顔を崩さずに答える。
「分かった。早速始めよう」
領地を敵に回してんだ。今さらこの程度で来て引き下がれるか。
「……そうかい、じゃあ付いてきな」
引く気が無い事を察したのかダモンがカジノの奥へと進む。俺達もダモンの後に続きカジノの後へ進む。
「……なんか見られておらぬか?」
「怖いよぉ……」
フランとノエルの言葉通りダモンが出てきたと同時に、ここにいる全員の視線が俺たちに注がれていた。しかも、国営カジノで注がれていた興味本意の視線ではなく邪魔者を見るような悪意ある視線だ。
「そりゃそうだろ。めったに表に出ないオーナーが訳分からない奴と一緒に歩いてんだ。良い印象はないだろう。特に害は無い───」
俺は言葉の途中で顔面に飛来する何かの気配を感じて2本の指で受け止める。受け止めたものを見てみるとそれが投げナイフである事が分かった。すぐに飛んできた方向を確認するが人ごみによって犯人の姿は確認出来ない。
「害がなんじゃ?」
「……特に害が無いという甘い考えは捨てて気をつけろよ」
周りの視線よりもフランの視線が痛い。オーナーがいる中で直接手を出してくると思う訳ないだろ。だから俺は悪くない。
「さあ、これが『審判の台』さね」
フランの冷たい視線に耐えているとダモンの案内の元で審判の台へと辿り着く。
「これが審判の台か。確かに普通の台とは違うな」
審判の台は普通のルーレット台と違い白と黒だけで彩られている。チップを賭ける台やルーレット本体も白と黒のみであり他の色が一切として無い。吸い込まれそうなほど深い黒と一片の曇りもないほど白、デザインはシンプルでありながら引き込まれる見た目は芸術品としても素晴らしい一品だ。
ダモンは愛おしそうに審判の台を撫でながら話し始める。
「私は昔、何も持っていなかった。だけどね、この子で金、権力、武力、色んなものを勝ちとってきた」
そして俺の方へ向くとニヤリと笑いながら話を続ける。
「この子で勝負する限り私は負けない」
「何が言いたい?」
「あんたが何をたくらんでいようと無駄ってことさ」
正面から勝負するつもりが無い事がバレてるな。だったら、仕掛けについて探るか。
「……へぇ、何か仕掛けでもあるのか?」
「勝負をフェアにする仕掛けがあるさね。イカサマはするだけ無駄だよ」
言い方から察するにこれ以上話すつもりはないみたいだな。探るだけ無駄だな。
俺はごまかすように手を打ちならし、強引に話を元に戻す。
「分かった、フェアに行こう。始める前に賭ける物を確認するぞ。俺は俺自身を」
「私はこの首飾りを」
ダモンは首飾りを外し黒服に渡す。
「言っとくけど、盗もうとは思わない方がいいさね」
「まだ蜂の巣になりたくないから心配するな」
黒服の男たちに睨まれながら盗みを働く程考えなしじゃない。
「……盗んだほうが早いではないのか?」
考えなしがここにいた。
「それじゃあ、始めるさね。今更逃げようとは思わないことだね」
ダモンが指を鳴らすと後ろの黒服がディーラーのポジションへとつく。
「ちょっと待て」
「何だい、何か文句でもあるのかい」
その様子を見た俺は意義を申し立てる。
「大ありだな。お前の部下がディーラー?イカサマし放題じゃねぇか」
「私は卑怯な手は使わない」
「信じられるか。たとえば……、あいつなんかどうだ?」
俺は観衆の中から茶髪のチャラそうな男を指さす。
指を差された男は驚いたように自分を指さす。
「お、俺っすか?」
「お前はこのカジノの関係者に見えないし一番信用できる。名前は?」
「『モヨウ』っす。でも自分なんかにディーラーが出来るんすか?」
「最悪、玉を投げて数字に入ればいい」
「うーん、よく分かんないっすけど了解っす」
「ダモンもいいな?」
「……あんたがいいなら異論はないさね」
よし、これで準備は整った。これでゲームが始められる。
「他に言いたいことはないかい?」
「ああ、始めよう。まずは俺がチップを置かせてもらおう」
さて、どこに置いてもそこまで変わらないし適当に置くか。
俺はblackにチップを置き、ダモンにチップ置くように促す。
「あんたの番だぜ」
「そうさね、あんたがblackなら私はwhiteに掛けるかね」
そう言うと、ダモンはwhiteにチップを置く。ダモンの行動を注視するが特に怪しい行動はとっていない。
「この台は普通と違って玉を投げた段階でチップを移動できない。いいね?」
「異存はない」
一度賭けたらそれっきりってことだ。変える意味はあまりないし、問題はないだろう。
俺たちが話し合っている中で、モヨウが黒服にディーラーのやり方を教わっている。
「投げる時には力は込めすぎないように気を付けてください」
「えっと、こうっすか?」
「はい、それで結構です」
たどたどしいながらも、何とか玉を投げるモヨウ。どうやら、腕に問題はないようだ。
「さて、もう言いたいことは無いね」
「ああ、始めるぞ」
ダモンの言葉に観衆たちのどよめきが大きくなる。
これでやることは済んだ。後は野となれ山となれって奴だ。
「おいおい、どっちが勝つんだ」
「賭けるか?」
「じゃあ俺はダモン様に100万G」
「俺は新人ギャンブラーに50万G」
呑気な観衆と対照的にモヨウはガチガチに緊張している。
「じゃ、じゃあ投げるっすよ?」
「別に失敗しても殺したりはしないよ」
「ひいいぃ!」
ダモンがモヨウを睨みつけ、モヨウが更に怯える。
元の目つきが鋭すぎるせいで脅しているようにしか見えない。
「い、いくっす!」
モヨウは意を決して震える手で玉を投げる。すると、モヨウの手から玉が離れた瞬間ルーレット台全体がシャボン玉のような膜に包まれた。
「なんじゃこれ?」
「これがイカサマ防止システム『天の聖域』さね。この膜に包まれた後に置かれたものは例外なく弾かれる。出目を見てこっそり移動させるなんてできないってことさ。あんた達にできることは祈る事だけさ」
ダモンが勝ち誇ったように笑う。大方俺達がイカサマをすると思ってるんだろう。その通りだから何も言えないが。
玉が勢いよく転がるのを見て、言われた通りにノエルが手を合わせる。
「お願いします神様……」
「あの神に祈るのは止めておけ。下手したら願った方向と逆の結果になるぞ」
徐々に玉の勢いが無くなっていき、注目しているからか観衆の声も小さくなる。
そして、玉の勢いが完全になくなり、とある番号に止まる。止まった番号を確認すると、モヨウは重々しく口を開く。
「『whiteの7』っす」
そう、間違いなく玉はwhiteの7へと入ったのであった。
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※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
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気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
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…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
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建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
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山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
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下昴しん
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高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
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この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
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