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第三十五話 このように稼ぐのだ
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───ギャンブル───
法律によりこの世界では大規模なギャンブルはダメルでしか行えない。ダメルのギャンブルの種類は豊富で、ポーカーやルーレット、スロットなど大小100種類以上のギャンブルがあり、一日に10億Gの金が動くと言われている。なおイカサマがバレた場合は死罪となるのでお勧めはしない。─────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
「お前いいかげんにしろよ?」
「正直すまんかったと思っておる」
夕日が橙色に染めている道を歩きながら、夕飯であるサンドイッチを片手にフランを睨みつける。フランはバツが悪そうに視線をそらすと、手元のホットドッグを口に運ぶ。
タキシードやドレスに着替えた俺たちは国営のカジノへ向かっていた。今は冒険者のエリアを歩いているから周りの奴らの恰好も防具や武器を付けている奴らばかりだから歩き食いしても問題ない。カジノへ近づいていくにつれて身なりのいい奴らが増えていくから、それまでには食い終わらないとな。
「しかしノエルをカジノに連れて行くのはちと抵抗があるのう」
「それは仕方ない。都合上フランにはカジノに同行してもらう必要があるし、ノエルとフランは一緒に居てもらう必要があるからな」
「確かにそうなんじゃが、教育に悪いような気がしてのう」
「大丈夫だ。俺も7歳からカジノに行ってるが立派に育っている」
「……やはり教育に悪いな」
否定出来ないのが何よりも心苦しい。
というか、ノエル自身がカジノというものを理解しているのか怪しい。少し質問してみるか。
「ノエル、今から行くところがどんな所か知っているか?」
「テーマパーク!」
「違うからな?そんな楽しい所じゃないからな?」
「え?でも大人の人達が目をキラキラさせながら時間を忘れるほどゲームに熱中するところなんだよね?ロワお兄ちゃんが言ってたよ?」
「とりあえずロワは後で締めとく」
あながち間違っていないのがたち悪い。悪気は無いんだろうが、もっと言い方あっただろ。
食後のジュースを飲みながら不思議そうな顔をしているノエルにカジノについて説明する。
「カジノはお金を賭けてゲームをするところだ」
「どんなゲーム?」
「沢山あるぞ。トランプもルーレットもスロットもある。上手く行けば賭けた金を100倍にすることが出来るぞ」
「お金が必要なんだよね?ホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんだったら簡単にお金を増やせるね」
「ところが、そうもいかんのじゃよ」
「どういうこと?」
「国営のカジノは儲けられる金額が決まっておるのじゃ」
簡単に説明すると、カジノ毎にランクがあり儲けられる金額が決まっている。俺たちが向かっているカジノは最高ランクのカジノだが一度に儲けることが出来る金額は1000万Gだ。それを超えると1週間は金を賭けてのゲームが出来なくなる。のめり込み過ぎて破産するのを防ぐ為なんだが、目標は3億Gであるため全く足りていない。
「じゃあどうするの?」
『そこで出てくるのが裏カジノだ』
ノエルの質問に俺は念話で答える。こんなヤバい話を往来で話していたら憲兵にとっ捕まる。念には念を入れておかないとな。
『裏カジノ?」
「裏カジノは国営以外のカジノの事で稼げる金額の上限がないのが特徴だ。もちろん利用する奴らはマフィアや犯罪者が多い』
『悪い人が集まるってこと?』
『少なくとも碌な奴は集まらぬのう』
『ちなみに、裏カジノに入るのは色々と条件がある。その中の一つが総資産だ」
『えーっと、お金がいっぱい必要ってこと?』
『ああ、他にも色々とあるが現状だと金が一番足りていないんだ』
裏カジノに入るには最低で2000万G必要になる。国営のカジノに行く理由は総資産を2000万Gまで増やす事にある。
『国営カジノで使える軍資金は100万Gだ。俺とフランで分けるから、50万Gを1000万Gまで増やして貰う。制限時間は1時間だ』
『割と無茶を言うのう。本来ならばブーイングものじゃぞ?』
『最強の魔王様には造作もないだろ?』
『まあのう』
ドヤ顔で胸を張るフラン。こいつと相性がいいギャンブルもあるし何とかなるだろう。
俺は念話を中断し言葉で会話を再開する。
「国営カジノの中では俺とノエルがペアで、フランは一人で行動な」
「ノエルはフランお姉ちゃんと一緒じゃないの?」
「ノエルにも一応ギャンブルも教えておこうと思っている。本来は3人で行動する予定だったが、誰かのおかげで時間が押してるから別行動にせざるおえなかった」
「……こっちを見るでない」
「まあ、やっちまった事は仕方ない。今度は時間厳守しろよ?」
「分かっておる」
本当に分かってるのか?まあ、今は信じておくか。
カジノでの行動を確認をしながら歩いていると、いつの間にか周りの人の様子が分かっている事に気がつく。
さっきまでは冒険者が目立っていたが、今はドレスやタキシードと言った身分の高そうな人たちが多い。そんな周りの様子に気がついたのか、フランの動きが少しだけぎこちなくなる。
「どうした?緊張しているのか?」
「う、うむ、こういうのは慣れていなくてのう」
「以外だな。パーティーとかで慣れていなのか?」
「あったりもするがわしの仕事は基本的にはデスクワークじゃ。時々あるパーティーでも会う奴らは知り合いしかおらんかった」
「それを500年をやってたのか?大変だな」
「お主ほどではない。……あ」
「どうした?」
「……旅に行く許可を貰ったんじゃが、半年に一度は書類を整理しに魔国へ戻らねばならん事を思い出した」
「半年後……、闘技大会が終わってすぐだな」
俺の言葉にフランの表情に絶望が浮かべながらブツブツとつぶやく。
「嫌じゃ……もう書類の山は嫌なんじゃ……」
「あれだ、強く生きろ」
今にも死にそうなフランを慰めていると、遠くにカジノが見えてきた。
「わぁ!大きい!」
「国が運営しているもので最大のカジノだ。下手な貴族の屋敷よりも大きい」
眩しい程のライトが高さが20mは優に超えているカジノ全体を照らし、ネオンサインにはカジノの名前である『jackpot』という文字が輝いている。
様々な人が行きかう中、カジノの入り口で俺たちは最後の確認をする。
「いいか、制限時間は3時間しかないからな?今回遅れたら本当にマズイからな?」
「分かっておるわい。では行ってくる」
フランは俺の言葉を軽く流すと、カジノ内へと足早に消えて行った。あの様子だと絶対に分かっていないとは思うが今は信じておくとしよう。
俺はため息を吐くとノエルに微笑みながら手を差し出す。
「俺たちも行くぞ。迷子にならないようにしっかりと手をつないでおけよ」
「うん!」
ノエルも笑顔で俺の手を取り、俺達の3時間にも及ぶ激闘の火ぶたが切って下された。
☆ ☆ ☆ ☆
「フラッシュだ」
「……私の負けですね」
対戦相手であるシルクハットの紳士の役は5のワンペア、俺はクラブのフラッシュ。俺の勝ちのため、賭けたチップをディーラーが俺の手元にチップを運んでくる。
俺がプレイしてるゲームは有名なギャンブルであるポーカー。対戦相手を募って賭けているんだが、10戦して6勝。今日はツキまくっている。
もちろんイカサマはしていない。想定だと勝率は6割程度だったが今の所は8割方勝てている。
「良く分からないけどホウリお兄ちゃんすごーい!」
「おう」
ノエルの笑顔に俺も微笑み返す。今のチップの総額は500万、想定よりも早く終わりそうだな。
「次は私と勝負してくれませんか?」
再度時間の計算をしていると、向かいの席に眼鏡の男が座ってきた。おとなしそうな見た目で一見するとギャンブルなんてやりそうにない。外見なんて当てに出来ないのは散々経験してきたがな。
俺は相手を観察しながら答える。
「勿論ですよ」
「ありがとうございます」
男は少し微笑んで向かいの席に着き、テーブルの上にチップの山を築いた。見たところ軽く800万Gは超えている。
勝ち取ったにしろ金をチップに換えたにしろ、ただの一般人とは考えにくいな。
俺は男の観察を続けつつ笑顔で話しかける。
「国営のカジノは初めてですか?」
「はい、興味はあったんですが中々来る機会が無くて」
顔に笑みを貼り付けたまま男は答える。言葉とは裏腹に相手の表情に余裕を感じる。勝負を続けながら相手の思惑を探ってみるか。
俺は1万Gのチップを10枚差し出す。
「掛けるチップを決めるぞ。俺からは10万Gを───」
「まどろっこしいのは無しにしましょう」
そう言うと男はチップの山を前に差し出す。
「あなたの掛けチップはあるだけで構いません。ドロップ(棄権)は無し。一発勝負でいきましょう」
俺の勝負を見てこのルール、しかも賭け金最大か。余程のギャンブラーか何か企んでいるか。どちらにせよ真っ向勝負は愚策だな。
後ろのディーラーを手招きして呼び寄せる。
「何でしょうか?」
「紙とペンを貸してくれませんか?」
「は、はい」
ディーラーから紙とペンを受け取り、紙に文字を書く。そしてメモとギルドカードをディーラーに渡す。
「確か今日は領主さまが来てますよね?これを渡して貰いますか?」
「これは?」
「渡せば分かります」
不思議そうな顔のディーラーだったが、メモを読んだ途端にみるみると顔を青くする。
「こ、これって……」
「色々と言いたいでしょうがとりあえず領主さまに見せてください」
「わ、分かりました……」
ディーラーは小走りでカジノの奥へと消えて行った。
「何を話していたんですか?」
「後で話します。それよりも……」
俺は手持ちのチップを全て差し出しニヤリと笑う。
「その勝負受けよう」
「GOOD!そうでなくては面白くない!」
興奮した男は声をカジノ中に響き渡らせ、カジノ内の全員が俺たちへと注目する。男の顔からおとなしそうな表情は消え、代わりに狩りをする獣のごとく荒々しい表情が現れる。
カジノ内の全員が注目する中、男はそのまま立て続けに喋り続ける。
「いいよ!油断が無いその目!ためらいなく全額掛けるその度胸!それでこそ、この『エース』の獲物にふさわしい!」
「獲物だ?まさか俺がお前に狩られるだけだとでも?」
「無論その通りだ」
エースは表情を変えずに即答する。
「君は私に狩られるだけの存在。せいぜい足掻きたまえ」
「……分かった。もうお前と話す事は無い」
「つれないねぇ、もっと───」
突如、雄弁だったエースの言葉が詰まった。視線は俺の後ろに注がれており、体は小刻みに震えている。エースだけじゃない、周りの奴らも黙って俺の後ろを注視している。
振りかえってみると、初老の男を連れてディーラーが戻ってくる所が見えた。見た目は普通だが、一般人にしては纏っている雰囲気が異様だ。あの爺さん何者だ?
「ホウリお兄ちゃん、この人……」
「ああ、その感覚は間違っていない」
ノエルも爺さんの異様な雰囲気を感じ取ったのか、俺の服の裾をつかんで小刻みに震えている。
そんな怯えと興味が入り混じる視線を注がれている中、爺さんは顔色変えずにディーラーが立っていた位置に立つと口を開いた。
「わしの名前は『ジャファ・ブラッド』。この街、ダメルの領主である。貴様がホウリであるか?」
「はい、私がホウリでございます。メモはご覧いただけましたでしょうか?」
「うむ、中々面白い事を考えるな。オダリムの領主のお墨付きもあるようじゃし特別に許可しよう」
ジャファは俺のギルドカードを差し出してくる。ギルドカードを受け取ると、呆けていたエースが我を取り戻したのか、立ちあがって叫び出した。
「私を差し置いて話を進めるな!領主さまが何故ここに居る!」
「俺が呼んだ。このゲームは領主立会いの下、特別ルールで行う」
「特別ルール?」
「イカサマが許される。その代わりイカサマを見破られても負けだ。シンプルでいいだろ?」
「……ククク、何を考えているか分からないがその選択を後悔させてやろう」
自信満々な表情で座りながらエース。
同意が得られたと見たジャファはトランプを手に取り、手際良く混ぜながら口を開く。
「ルールは4つ。1つ、イカサマはしてもよい。2つ、イカサマを看破されても敗北、3つ、イカサマの看破は互いの手札を公開した後にする。4つ、この勝負に限りイカサマは不問にする。よいな?」
「ふむ、1つだけよいだろうか?」
「なんじゃ?」
「そのトランプを調べさせて貰おう。何か仕込んであるかもしれないからな」
エースがジャファの手にあるトランプを指差す。
「ふむ、ホウリはどうだ?」
「異論はない。ただし、俺にも調べさせろ」
「両者の同意が得られた。まずはエースから調べるが良い」
ジャファルはエースにトランプの束を手渡す。
エースはトランプの束を受け取ると裏返したり広げたりする。1分以上調べた後、しっかりとトランプを切ってジャファルへと返す。
「次はホウリの番じゃ。存分に調べるがよい」
ジャファルは今度は俺へとトランプ束を渡す。
俺はトランプの束を手に取り数秒眺めると、そのままジャファルへと返す。
「もう良いのか?せめてトランプを切るとかせんのか?」
「別にいい」
「それなら良いが。では、ゲームを始める」
ジャファルは宣言すると、俺たちにトランプを配り始める。その様子を見ながらエースは不敵に笑う。
「やはり君は狩られる側のようだな」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。トランプを調べも切りもせずに返すとは、私の見込み違いでしたかな?」
「それはどうかな。俺は運がいいんだぜ?」
エースはあざ笑うかのような表情で配られたトランプに手を掛ける。
「ではどちらが運がいいか試してみようではないか」
エースは勢いよくトランプをめくり
「!?」
表情が絶望に染まった。
「どうした?動揺しているぞエース」
「き、貴様……」
忌々しげに睨み付けてくるエースを無視してトランプを捲る。エースはそんな俺の態度が癪に触ったのか立ち上がって絶叫する。
「イカサマだ!」
「イカサマの看破は手札を公開した後だ。早く手札をチェンジしろ」
「クゥ……、に、2枚チェンジだ」
「俺は1枚」
エースは2枚、俺は1枚のトランプをそれぞれ捨て、新たなトランプを受け取る。
エースは眉間にしわを寄せながら手札を睨みつけている。
「で、本来ならここでコールかドロップかを決める所だが、最初に決めた通りドロップは認められない。分かっているな?」
「ぐぬぬ……」
「自分の手札を確認したな。両者手札公開じゃ!」
ジャファの言葉を合図に俺とエースは手札を公開する。
「3の……ワンペアだ」
「Aの4カード、俺の勝ちだ。で、イカサマなんだろ?納得いくまで調べろよ」
「もちろんだ!ディーラー、さっさと調べろ!」
俺はため息を吐いて立ち上がりながら手を広げる。
「心行くまで調べてくれ」
「失礼します」
ディーラーがズボンのポケットから上着の袖まで詳しく調べる。一通り調べた後、ディーラーはとある装置を取り出す。
「『腕輪』をお出しいただけますか?」
「はいはい」
俺は右手に嵌められた腕輪を取り出す。
カジノ内では表裏問わずにイカサマの対策をしている。その一つがこの腕輪だ。
この腕輪はアイテムボックスをこのカジノ内に居る限り封じるものだ。そして、ディーラーが取り出した装置は腕輪が一度も外されていないかを調べる装置だ。
ディーラーは俺の腕輪を丁寧に調べると、装置を置き俺に頭を下げた。
「大変失礼いたしました。問題ございませんでした」
「大丈夫です、気にしてません」
「ふざけるな!俺にも調べさせろ!」
ディーラーは申し訳なさそうに謝ってくるが、エースは納得していないのか掴みかからんとする勢いで迫ってくる。仕方がない、納得いくまで調べさせよう。
エースは俺のポケットから上着の袖、果ては靴の中まで調べ始める。そして、5分掛けてじっくりと調べた後、靴を叩きつける。
「クソッ!」
「もういいか?さっさと行きたいんだが?」
「クソッ!クソッ!何故だ!何故私が負けたのだ!」
悔しさからか地団太を踏み俺を睨み付ける。
そんなエースを見た俺は軽く手を手を振る。
「!?」
すると、先程まで無かったトランプがいつの間にか手に握られていた。再び手を降ると瞬く間にトランプは消える。
「なんで負けたか?単にお前の腕が俺より数段劣っているだけだ」
俺の言葉に呆然としているエースを背に俺はポーカーテーブルを後にする。
「ノエルいくぞ」
「う、うん」
俺の言葉で我にかえったノエルは小走りに俺に付いてくる。
ポーカーテーブルから数分移動した後、ノエルが遠慮がちに口を開いた。
「ホウリお兄ちゃん1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「イカサマしたの?」
「勿論だ。方法としてはエースのトランプを抜いて新しくトランプを入れただけだがな」
「あの一瞬でそこまでの事を……、あれ?」
そこまで説明されたノエルが不思議そうに首をかしげる。
「ここに入るとき持ち物検査があったよね?ホウリお兄ちゃん、トランプは最初から持ち込んでたの?」
「今回はイカサマするつもりなかったから持ち込まなかった」
「あれ?じゃあ、あのトランプは何処から?」
「領主さま」
「へ?」
「領主さまから貰った」
俺がメモに書いたない内容は二つ。一つはさっきのギャンブルのルール。そしてもう一つはイカサマ用のトランプを用意することだ。まさか本当に持ってきてくれるとは思って無かったが。
「え、いつ貰ったの?」
「ギルドカードを返してもらった時にこっそりとな」
「全然気付かなかった……。あれ?領主様って審判なんだよね?そんな事していいの?」
「いい訳ないだろ、審判が一方に肩入れしてんだぞ?」
「へ?」
「けどな、あの中で一番の権力者である領主様に逆らえる奴はいない。時にはこういう権力者を味方につける事も必要になってくるぞ」
「うーん、よくわからないや」
「少し難しいからな。これから少しづつ覚えていけばいい」
「うん!」
ともかく、色々と胡散臭かったがこれで1000万Gは溜まった。後はフランと合流してカジノを出るだけだな。
辺りを見渡してみるが人が多すぎてフランが見つからない。集合場所は入口付近と決めてあるが早く合流出来るに越した事はない。もう少しだけ探してみるか。
ノエルと手を繋ぎながら少し歩きまわってみるが、やはりフランは見当たらない。
「フランいないな。少し早いが入口に向かうか」
「…………」
「ノエル?」
物静かなノエルに違和感を覚えて足を止めるとノエルが一点を見つめている事に気がつく。
「ホウリお兄ちゃん、あれなぁに?」
「あれは……、ルーレットだな」
「ルーレット?」
「簡単に言うと玉が何処に入るかを当てるゲームだな。確立が低い所に掛けるとそれだけ倍率も高くなる」
「ちょっと見てみたい!」
ノエルが目をキラキラさせてルーレット台を指差す。
そうだな、時間に余裕もあることだし、ワンゲーム位なら大丈夫か。
「よし、少しみてみるか」
「わーい!」
ノエルの手を引いてルーレット台へと向かう。ルーレット台には4人の客がルーレットを楽しんでいた。
俺はゲームの邪魔にならないように後ろからルールを説明する。
「さっきも言ったが、ルーレットはディーラーが玉を投げ込んで玉が何処に入るかを予想するゲームだ。台には0と00、1~36の数字とredとblackという枠があるからこの枠の中にチップを入れて賭ける。1人1つの枠にしか置けないのは注意だ」
「何処に賭ければいいの?」
「堅実にいくならredかblackだな。倍率は2倍と少ないが当たる確率は38分の18と高い。1つの数字に賭ける事もできるが38分の1と低いが当たると36倍と非常に倍率が高い」
「うーん、じゃあ赤か黒に賭けるのがいいの?」
「基本的にはそうだが例外がある」
「例外?」
そう、ここが地球のルーレットと大きく違うところだ。
「たとえば、7に賭けた人とredに賭けた人がいたとする」
「うん」
「玉が7に入った場合、倍率が高い方に賭けたチップ以外は没収される」
「えーっと、いまの場合だと赤に賭けた人も募集されるって事?」
「その通りだ」
堅実に賭けた奴が勝負にでた奴に負ける、中々面白い仕組みだと思う。
「チップは置いたらそのまま?」
「ディーラーが玉を投げ入れた後に『No more bet』と宣言されるまではチップの移動と増減が出来る」
「うーん、難しい……」
「聞くよりは見た方がいいだろう。百聞は一見に如かずだ」
「うん!」
ノエルが真剣に台を見つめている。さて、台には3、10、21に一人ずつ、redに3人、blakcに1人か。さて、何処に落ちるのか見物だな。
ディーラーが玉を取り出して、ルーレットにセットすると勢いよくはじいた。玉は勢いよく回り始めると徐々に勢いをなくしてく。ここまで、誰もチップを触ろうとしない。
「……No more bet!」
ディーラーがNo more betの宣言をする。結局は誰もチップを動かすことは無かった。全員が黙って玉の行方を見守っている。全員遊びなれてるな。これなら、いい勝負が見られ────
「いけ!そこじゃ!10に止まれぇぇぇぇ!」
前言撤回。見覚えのある奴のせいで色々と台無しだ。
ノエルも気が付いたのか服の裾を引っ張ってくる。
「ホウリお兄ちゃん、あれってフランお姉ちゃんだよね?」
ノエルの言葉に答えず、フランの背後に回り込む。
「27じゃと!?えーい!もう一回じゃ!今度は掛け金を倍に───」
「何をしている?」
「…………へ?」
フランの首が壊れたロボットの様に回る。フランの表情がみるみると青に染まっていく。
数秒の沈黙の後、フランが絞り出すように声を発する。
「な、なんでお主がここにいるんじゃ?」
「…………1つだけ聞く。もう稼ぎ終わってるんだよな?」
「そ、それは…………」
マグロ以上の速度で泳いでいる目を見て疑惑が確信に変わる。
……頭が痛くなってきた。
「話は後だ。いくら残っている?」
「えーっと、5万Gじゃな」
「それだけあれば10分あればいけるな。さっさと行ってこい」
「は、はひ!」
おもいっきり噛んだ後に脱兎のごとく駆け出すフラン。
またサボられたら堪ったもんじゃない。気が進まないが見張っておくか。
「スマン、ルーレットはお預けだ」
「ノエルは大丈夫だよ。それよりフランお姉ちゃんをおいかけよ?」
「それもそうだな」
俺達も人混みの中に消えたフランを追いかける。フランの姿は見えなくなったが俺は迷いなく人混みのなかを駆け抜ける。
「フランお姉ちゃん見えなくなっちゃったよー」
「心配するな、あいつの行き先は分かっている。スロットコーナーだ」
「スロット?」
「簡単に言うと変わっていく絵柄をボタンで止めて揃えたらチップが増えるゲームだ」
「すぐに稼げるの?」
「確率が低い分、当たれば大きい。その中でもあいつがやる台は10種類の絵柄が秒間1000回変化する物を10個揃える鬼畜台だ。目押しはほぼ不可能だし全ての絵柄が揃うのは100億分の1、確率が低い分当たれば1万倍になるが、普通の人はまず寄り付かない」
だが、フランなら話は別だ。秒間1000回程度ならビタ押しも楽勝だろう。
移動で2分、一発で当てたとして3分、絶対に怪しまれるから身体検査に5分、合計10分はかかる計算だ。
「そろそろスロットコーナーだ。鬼畜台は他の台より二周りは大きいからすぐに────」
「「「おおおお!」」」
俺が言い終わる前に奥の人混みのから歓声が騰がる。十中八九フランだ。
「すみません、通してください」
はぐれないようにノエルと手を繋ぎながら人混みを掻き分ける。人混みを抜けると案の定、10個の7が並んだスロット台とその前で観衆に手を降っているフランが見えた。どうやら無事に終わったみたいだ。
「フラン!」
「おお、ホウリか。言われた通り1000万G稼いだぞ」
「最初からそうしろ」
「本当に申し訳ない」
「……ともかく、これで下準備は終わった。明日からの行動は1つのミスが命取りになる。気を引き閉めて行くぞ!」
「うむ!」
「うん!」
法律によりこの世界では大規模なギャンブルはダメルでしか行えない。ダメルのギャンブルの種類は豊富で、ポーカーやルーレット、スロットなど大小100種類以上のギャンブルがあり、一日に10億Gの金が動くと言われている。なおイカサマがバレた場合は死罪となるのでお勧めはしない。─────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
「お前いいかげんにしろよ?」
「正直すまんかったと思っておる」
夕日が橙色に染めている道を歩きながら、夕飯であるサンドイッチを片手にフランを睨みつける。フランはバツが悪そうに視線をそらすと、手元のホットドッグを口に運ぶ。
タキシードやドレスに着替えた俺たちは国営のカジノへ向かっていた。今は冒険者のエリアを歩いているから周りの奴らの恰好も防具や武器を付けている奴らばかりだから歩き食いしても問題ない。カジノへ近づいていくにつれて身なりのいい奴らが増えていくから、それまでには食い終わらないとな。
「しかしノエルをカジノに連れて行くのはちと抵抗があるのう」
「それは仕方ない。都合上フランにはカジノに同行してもらう必要があるし、ノエルとフランは一緒に居てもらう必要があるからな」
「確かにそうなんじゃが、教育に悪いような気がしてのう」
「大丈夫だ。俺も7歳からカジノに行ってるが立派に育っている」
「……やはり教育に悪いな」
否定出来ないのが何よりも心苦しい。
というか、ノエル自身がカジノというものを理解しているのか怪しい。少し質問してみるか。
「ノエル、今から行くところがどんな所か知っているか?」
「テーマパーク!」
「違うからな?そんな楽しい所じゃないからな?」
「え?でも大人の人達が目をキラキラさせながら時間を忘れるほどゲームに熱中するところなんだよね?ロワお兄ちゃんが言ってたよ?」
「とりあえずロワは後で締めとく」
あながち間違っていないのがたち悪い。悪気は無いんだろうが、もっと言い方あっただろ。
食後のジュースを飲みながら不思議そうな顔をしているノエルにカジノについて説明する。
「カジノはお金を賭けてゲームをするところだ」
「どんなゲーム?」
「沢山あるぞ。トランプもルーレットもスロットもある。上手く行けば賭けた金を100倍にすることが出来るぞ」
「お金が必要なんだよね?ホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃんだったら簡単にお金を増やせるね」
「ところが、そうもいかんのじゃよ」
「どういうこと?」
「国営のカジノは儲けられる金額が決まっておるのじゃ」
簡単に説明すると、カジノ毎にランクがあり儲けられる金額が決まっている。俺たちが向かっているカジノは最高ランクのカジノだが一度に儲けることが出来る金額は1000万Gだ。それを超えると1週間は金を賭けてのゲームが出来なくなる。のめり込み過ぎて破産するのを防ぐ為なんだが、目標は3億Gであるため全く足りていない。
「じゃあどうするの?」
『そこで出てくるのが裏カジノだ』
ノエルの質問に俺は念話で答える。こんなヤバい話を往来で話していたら憲兵にとっ捕まる。念には念を入れておかないとな。
『裏カジノ?」
「裏カジノは国営以外のカジノの事で稼げる金額の上限がないのが特徴だ。もちろん利用する奴らはマフィアや犯罪者が多い』
『悪い人が集まるってこと?』
『少なくとも碌な奴は集まらぬのう』
『ちなみに、裏カジノに入るのは色々と条件がある。その中の一つが総資産だ」
『えーっと、お金がいっぱい必要ってこと?』
『ああ、他にも色々とあるが現状だと金が一番足りていないんだ』
裏カジノに入るには最低で2000万G必要になる。国営のカジノに行く理由は総資産を2000万Gまで増やす事にある。
『国営カジノで使える軍資金は100万Gだ。俺とフランで分けるから、50万Gを1000万Gまで増やして貰う。制限時間は1時間だ』
『割と無茶を言うのう。本来ならばブーイングものじゃぞ?』
『最強の魔王様には造作もないだろ?』
『まあのう』
ドヤ顔で胸を張るフラン。こいつと相性がいいギャンブルもあるし何とかなるだろう。
俺は念話を中断し言葉で会話を再開する。
「国営カジノの中では俺とノエルがペアで、フランは一人で行動な」
「ノエルはフランお姉ちゃんと一緒じゃないの?」
「ノエルにも一応ギャンブルも教えておこうと思っている。本来は3人で行動する予定だったが、誰かのおかげで時間が押してるから別行動にせざるおえなかった」
「……こっちを見るでない」
「まあ、やっちまった事は仕方ない。今度は時間厳守しろよ?」
「分かっておる」
本当に分かってるのか?まあ、今は信じておくか。
カジノでの行動を確認をしながら歩いていると、いつの間にか周りの人の様子が分かっている事に気がつく。
さっきまでは冒険者が目立っていたが、今はドレスやタキシードと言った身分の高そうな人たちが多い。そんな周りの様子に気がついたのか、フランの動きが少しだけぎこちなくなる。
「どうした?緊張しているのか?」
「う、うむ、こういうのは慣れていなくてのう」
「以外だな。パーティーとかで慣れていなのか?」
「あったりもするがわしの仕事は基本的にはデスクワークじゃ。時々あるパーティーでも会う奴らは知り合いしかおらんかった」
「それを500年をやってたのか?大変だな」
「お主ほどではない。……あ」
「どうした?」
「……旅に行く許可を貰ったんじゃが、半年に一度は書類を整理しに魔国へ戻らねばならん事を思い出した」
「半年後……、闘技大会が終わってすぐだな」
俺の言葉にフランの表情に絶望が浮かべながらブツブツとつぶやく。
「嫌じゃ……もう書類の山は嫌なんじゃ……」
「あれだ、強く生きろ」
今にも死にそうなフランを慰めていると、遠くにカジノが見えてきた。
「わぁ!大きい!」
「国が運営しているもので最大のカジノだ。下手な貴族の屋敷よりも大きい」
眩しい程のライトが高さが20mは優に超えているカジノ全体を照らし、ネオンサインにはカジノの名前である『jackpot』という文字が輝いている。
様々な人が行きかう中、カジノの入り口で俺たちは最後の確認をする。
「いいか、制限時間は3時間しかないからな?今回遅れたら本当にマズイからな?」
「分かっておるわい。では行ってくる」
フランは俺の言葉を軽く流すと、カジノ内へと足早に消えて行った。あの様子だと絶対に分かっていないとは思うが今は信じておくとしよう。
俺はため息を吐くとノエルに微笑みながら手を差し出す。
「俺たちも行くぞ。迷子にならないようにしっかりと手をつないでおけよ」
「うん!」
ノエルも笑顔で俺の手を取り、俺達の3時間にも及ぶ激闘の火ぶたが切って下された。
☆ ☆ ☆ ☆
「フラッシュだ」
「……私の負けですね」
対戦相手であるシルクハットの紳士の役は5のワンペア、俺はクラブのフラッシュ。俺の勝ちのため、賭けたチップをディーラーが俺の手元にチップを運んでくる。
俺がプレイしてるゲームは有名なギャンブルであるポーカー。対戦相手を募って賭けているんだが、10戦して6勝。今日はツキまくっている。
もちろんイカサマはしていない。想定だと勝率は6割程度だったが今の所は8割方勝てている。
「良く分からないけどホウリお兄ちゃんすごーい!」
「おう」
ノエルの笑顔に俺も微笑み返す。今のチップの総額は500万、想定よりも早く終わりそうだな。
「次は私と勝負してくれませんか?」
再度時間の計算をしていると、向かいの席に眼鏡の男が座ってきた。おとなしそうな見た目で一見するとギャンブルなんてやりそうにない。外見なんて当てに出来ないのは散々経験してきたがな。
俺は相手を観察しながら答える。
「勿論ですよ」
「ありがとうございます」
男は少し微笑んで向かいの席に着き、テーブルの上にチップの山を築いた。見たところ軽く800万Gは超えている。
勝ち取ったにしろ金をチップに換えたにしろ、ただの一般人とは考えにくいな。
俺は男の観察を続けつつ笑顔で話しかける。
「国営のカジノは初めてですか?」
「はい、興味はあったんですが中々来る機会が無くて」
顔に笑みを貼り付けたまま男は答える。言葉とは裏腹に相手の表情に余裕を感じる。勝負を続けながら相手の思惑を探ってみるか。
俺は1万Gのチップを10枚差し出す。
「掛けるチップを決めるぞ。俺からは10万Gを───」
「まどろっこしいのは無しにしましょう」
そう言うと男はチップの山を前に差し出す。
「あなたの掛けチップはあるだけで構いません。ドロップ(棄権)は無し。一発勝負でいきましょう」
俺の勝負を見てこのルール、しかも賭け金最大か。余程のギャンブラーか何か企んでいるか。どちらにせよ真っ向勝負は愚策だな。
後ろのディーラーを手招きして呼び寄せる。
「何でしょうか?」
「紙とペンを貸してくれませんか?」
「は、はい」
ディーラーから紙とペンを受け取り、紙に文字を書く。そしてメモとギルドカードをディーラーに渡す。
「確か今日は領主さまが来てますよね?これを渡して貰いますか?」
「これは?」
「渡せば分かります」
不思議そうな顔のディーラーだったが、メモを読んだ途端にみるみると顔を青くする。
「こ、これって……」
「色々と言いたいでしょうがとりあえず領主さまに見せてください」
「わ、分かりました……」
ディーラーは小走りでカジノの奥へと消えて行った。
「何を話していたんですか?」
「後で話します。それよりも……」
俺は手持ちのチップを全て差し出しニヤリと笑う。
「その勝負受けよう」
「GOOD!そうでなくては面白くない!」
興奮した男は声をカジノ中に響き渡らせ、カジノ内の全員が俺たちへと注目する。男の顔からおとなしそうな表情は消え、代わりに狩りをする獣のごとく荒々しい表情が現れる。
カジノ内の全員が注目する中、男はそのまま立て続けに喋り続ける。
「いいよ!油断が無いその目!ためらいなく全額掛けるその度胸!それでこそ、この『エース』の獲物にふさわしい!」
「獲物だ?まさか俺がお前に狩られるだけだとでも?」
「無論その通りだ」
エースは表情を変えずに即答する。
「君は私に狩られるだけの存在。せいぜい足掻きたまえ」
「……分かった。もうお前と話す事は無い」
「つれないねぇ、もっと───」
突如、雄弁だったエースの言葉が詰まった。視線は俺の後ろに注がれており、体は小刻みに震えている。エースだけじゃない、周りの奴らも黙って俺の後ろを注視している。
振りかえってみると、初老の男を連れてディーラーが戻ってくる所が見えた。見た目は普通だが、一般人にしては纏っている雰囲気が異様だ。あの爺さん何者だ?
「ホウリお兄ちゃん、この人……」
「ああ、その感覚は間違っていない」
ノエルも爺さんの異様な雰囲気を感じ取ったのか、俺の服の裾をつかんで小刻みに震えている。
そんな怯えと興味が入り混じる視線を注がれている中、爺さんは顔色変えずにディーラーが立っていた位置に立つと口を開いた。
「わしの名前は『ジャファ・ブラッド』。この街、ダメルの領主である。貴様がホウリであるか?」
「はい、私がホウリでございます。メモはご覧いただけましたでしょうか?」
「うむ、中々面白い事を考えるな。オダリムの領主のお墨付きもあるようじゃし特別に許可しよう」
ジャファは俺のギルドカードを差し出してくる。ギルドカードを受け取ると、呆けていたエースが我を取り戻したのか、立ちあがって叫び出した。
「私を差し置いて話を進めるな!領主さまが何故ここに居る!」
「俺が呼んだ。このゲームは領主立会いの下、特別ルールで行う」
「特別ルール?」
「イカサマが許される。その代わりイカサマを見破られても負けだ。シンプルでいいだろ?」
「……ククク、何を考えているか分からないがその選択を後悔させてやろう」
自信満々な表情で座りながらエース。
同意が得られたと見たジャファはトランプを手に取り、手際良く混ぜながら口を開く。
「ルールは4つ。1つ、イカサマはしてもよい。2つ、イカサマを看破されても敗北、3つ、イカサマの看破は互いの手札を公開した後にする。4つ、この勝負に限りイカサマは不問にする。よいな?」
「ふむ、1つだけよいだろうか?」
「なんじゃ?」
「そのトランプを調べさせて貰おう。何か仕込んであるかもしれないからな」
エースがジャファの手にあるトランプを指差す。
「ふむ、ホウリはどうだ?」
「異論はない。ただし、俺にも調べさせろ」
「両者の同意が得られた。まずはエースから調べるが良い」
ジャファルはエースにトランプの束を手渡す。
エースはトランプの束を受け取ると裏返したり広げたりする。1分以上調べた後、しっかりとトランプを切ってジャファルへと返す。
「次はホウリの番じゃ。存分に調べるがよい」
ジャファルは今度は俺へとトランプ束を渡す。
俺はトランプの束を手に取り数秒眺めると、そのままジャファルへと返す。
「もう良いのか?せめてトランプを切るとかせんのか?」
「別にいい」
「それなら良いが。では、ゲームを始める」
ジャファルは宣言すると、俺たちにトランプを配り始める。その様子を見ながらエースは不敵に笑う。
「やはり君は狩られる側のようだな」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。トランプを調べも切りもせずに返すとは、私の見込み違いでしたかな?」
「それはどうかな。俺は運がいいんだぜ?」
エースはあざ笑うかのような表情で配られたトランプに手を掛ける。
「ではどちらが運がいいか試してみようではないか」
エースは勢いよくトランプをめくり
「!?」
表情が絶望に染まった。
「どうした?動揺しているぞエース」
「き、貴様……」
忌々しげに睨み付けてくるエースを無視してトランプを捲る。エースはそんな俺の態度が癪に触ったのか立ち上がって絶叫する。
「イカサマだ!」
「イカサマの看破は手札を公開した後だ。早く手札をチェンジしろ」
「クゥ……、に、2枚チェンジだ」
「俺は1枚」
エースは2枚、俺は1枚のトランプをそれぞれ捨て、新たなトランプを受け取る。
エースは眉間にしわを寄せながら手札を睨みつけている。
「で、本来ならここでコールかドロップかを決める所だが、最初に決めた通りドロップは認められない。分かっているな?」
「ぐぬぬ……」
「自分の手札を確認したな。両者手札公開じゃ!」
ジャファの言葉を合図に俺とエースは手札を公開する。
「3の……ワンペアだ」
「Aの4カード、俺の勝ちだ。で、イカサマなんだろ?納得いくまで調べろよ」
「もちろんだ!ディーラー、さっさと調べろ!」
俺はため息を吐いて立ち上がりながら手を広げる。
「心行くまで調べてくれ」
「失礼します」
ディーラーがズボンのポケットから上着の袖まで詳しく調べる。一通り調べた後、ディーラーはとある装置を取り出す。
「『腕輪』をお出しいただけますか?」
「はいはい」
俺は右手に嵌められた腕輪を取り出す。
カジノ内では表裏問わずにイカサマの対策をしている。その一つがこの腕輪だ。
この腕輪はアイテムボックスをこのカジノ内に居る限り封じるものだ。そして、ディーラーが取り出した装置は腕輪が一度も外されていないかを調べる装置だ。
ディーラーは俺の腕輪を丁寧に調べると、装置を置き俺に頭を下げた。
「大変失礼いたしました。問題ございませんでした」
「大丈夫です、気にしてません」
「ふざけるな!俺にも調べさせろ!」
ディーラーは申し訳なさそうに謝ってくるが、エースは納得していないのか掴みかからんとする勢いで迫ってくる。仕方がない、納得いくまで調べさせよう。
エースは俺のポケットから上着の袖、果ては靴の中まで調べ始める。そして、5分掛けてじっくりと調べた後、靴を叩きつける。
「クソッ!」
「もういいか?さっさと行きたいんだが?」
「クソッ!クソッ!何故だ!何故私が負けたのだ!」
悔しさからか地団太を踏み俺を睨み付ける。
そんなエースを見た俺は軽く手を手を振る。
「!?」
すると、先程まで無かったトランプがいつの間にか手に握られていた。再び手を降ると瞬く間にトランプは消える。
「なんで負けたか?単にお前の腕が俺より数段劣っているだけだ」
俺の言葉に呆然としているエースを背に俺はポーカーテーブルを後にする。
「ノエルいくぞ」
「う、うん」
俺の言葉で我にかえったノエルは小走りに俺に付いてくる。
ポーカーテーブルから数分移動した後、ノエルが遠慮がちに口を開いた。
「ホウリお兄ちゃん1つ聞いていい?」
「なんだ?」
「イカサマしたの?」
「勿論だ。方法としてはエースのトランプを抜いて新しくトランプを入れただけだがな」
「あの一瞬でそこまでの事を……、あれ?」
そこまで説明されたノエルが不思議そうに首をかしげる。
「ここに入るとき持ち物検査があったよね?ホウリお兄ちゃん、トランプは最初から持ち込んでたの?」
「今回はイカサマするつもりなかったから持ち込まなかった」
「あれ?じゃあ、あのトランプは何処から?」
「領主さま」
「へ?」
「領主さまから貰った」
俺がメモに書いたない内容は二つ。一つはさっきのギャンブルのルール。そしてもう一つはイカサマ用のトランプを用意することだ。まさか本当に持ってきてくれるとは思って無かったが。
「え、いつ貰ったの?」
「ギルドカードを返してもらった時にこっそりとな」
「全然気付かなかった……。あれ?領主様って審判なんだよね?そんな事していいの?」
「いい訳ないだろ、審判が一方に肩入れしてんだぞ?」
「へ?」
「けどな、あの中で一番の権力者である領主様に逆らえる奴はいない。時にはこういう権力者を味方につける事も必要になってくるぞ」
「うーん、よくわからないや」
「少し難しいからな。これから少しづつ覚えていけばいい」
「うん!」
ともかく、色々と胡散臭かったがこれで1000万Gは溜まった。後はフランと合流してカジノを出るだけだな。
辺りを見渡してみるが人が多すぎてフランが見つからない。集合場所は入口付近と決めてあるが早く合流出来るに越した事はない。もう少しだけ探してみるか。
ノエルと手を繋ぎながら少し歩きまわってみるが、やはりフランは見当たらない。
「フランいないな。少し早いが入口に向かうか」
「…………」
「ノエル?」
物静かなノエルに違和感を覚えて足を止めるとノエルが一点を見つめている事に気がつく。
「ホウリお兄ちゃん、あれなぁに?」
「あれは……、ルーレットだな」
「ルーレット?」
「簡単に言うと玉が何処に入るかを当てるゲームだな。確立が低い所に掛けるとそれだけ倍率も高くなる」
「ちょっと見てみたい!」
ノエルが目をキラキラさせてルーレット台を指差す。
そうだな、時間に余裕もあることだし、ワンゲーム位なら大丈夫か。
「よし、少しみてみるか」
「わーい!」
ノエルの手を引いてルーレット台へと向かう。ルーレット台には4人の客がルーレットを楽しんでいた。
俺はゲームの邪魔にならないように後ろからルールを説明する。
「さっきも言ったが、ルーレットはディーラーが玉を投げ込んで玉が何処に入るかを予想するゲームだ。台には0と00、1~36の数字とredとblackという枠があるからこの枠の中にチップを入れて賭ける。1人1つの枠にしか置けないのは注意だ」
「何処に賭ければいいの?」
「堅実にいくならredかblackだな。倍率は2倍と少ないが当たる確率は38分の18と高い。1つの数字に賭ける事もできるが38分の1と低いが当たると36倍と非常に倍率が高い」
「うーん、じゃあ赤か黒に賭けるのがいいの?」
「基本的にはそうだが例外がある」
「例外?」
そう、ここが地球のルーレットと大きく違うところだ。
「たとえば、7に賭けた人とredに賭けた人がいたとする」
「うん」
「玉が7に入った場合、倍率が高い方に賭けたチップ以外は没収される」
「えーっと、いまの場合だと赤に賭けた人も募集されるって事?」
「その通りだ」
堅実に賭けた奴が勝負にでた奴に負ける、中々面白い仕組みだと思う。
「チップは置いたらそのまま?」
「ディーラーが玉を投げ入れた後に『No more bet』と宣言されるまではチップの移動と増減が出来る」
「うーん、難しい……」
「聞くよりは見た方がいいだろう。百聞は一見に如かずだ」
「うん!」
ノエルが真剣に台を見つめている。さて、台には3、10、21に一人ずつ、redに3人、blakcに1人か。さて、何処に落ちるのか見物だな。
ディーラーが玉を取り出して、ルーレットにセットすると勢いよくはじいた。玉は勢いよく回り始めると徐々に勢いをなくしてく。ここまで、誰もチップを触ろうとしない。
「……No more bet!」
ディーラーがNo more betの宣言をする。結局は誰もチップを動かすことは無かった。全員が黙って玉の行方を見守っている。全員遊びなれてるな。これなら、いい勝負が見られ────
「いけ!そこじゃ!10に止まれぇぇぇぇ!」
前言撤回。見覚えのある奴のせいで色々と台無しだ。
ノエルも気が付いたのか服の裾を引っ張ってくる。
「ホウリお兄ちゃん、あれってフランお姉ちゃんだよね?」
ノエルの言葉に答えず、フランの背後に回り込む。
「27じゃと!?えーい!もう一回じゃ!今度は掛け金を倍に───」
「何をしている?」
「…………へ?」
フランの首が壊れたロボットの様に回る。フランの表情がみるみると青に染まっていく。
数秒の沈黙の後、フランが絞り出すように声を発する。
「な、なんでお主がここにいるんじゃ?」
「…………1つだけ聞く。もう稼ぎ終わってるんだよな?」
「そ、それは…………」
マグロ以上の速度で泳いでいる目を見て疑惑が確信に変わる。
……頭が痛くなってきた。
「話は後だ。いくら残っている?」
「えーっと、5万Gじゃな」
「それだけあれば10分あればいけるな。さっさと行ってこい」
「は、はひ!」
おもいっきり噛んだ後に脱兎のごとく駆け出すフラン。
またサボられたら堪ったもんじゃない。気が進まないが見張っておくか。
「スマン、ルーレットはお預けだ」
「ノエルは大丈夫だよ。それよりフランお姉ちゃんをおいかけよ?」
「それもそうだな」
俺達も人混みの中に消えたフランを追いかける。フランの姿は見えなくなったが俺は迷いなく人混みのなかを駆け抜ける。
「フランお姉ちゃん見えなくなっちゃったよー」
「心配するな、あいつの行き先は分かっている。スロットコーナーだ」
「スロット?」
「簡単に言うと変わっていく絵柄をボタンで止めて揃えたらチップが増えるゲームだ」
「すぐに稼げるの?」
「確率が低い分、当たれば大きい。その中でもあいつがやる台は10種類の絵柄が秒間1000回変化する物を10個揃える鬼畜台だ。目押しはほぼ不可能だし全ての絵柄が揃うのは100億分の1、確率が低い分当たれば1万倍になるが、普通の人はまず寄り付かない」
だが、フランなら話は別だ。秒間1000回程度ならビタ押しも楽勝だろう。
移動で2分、一発で当てたとして3分、絶対に怪しまれるから身体検査に5分、合計10分はかかる計算だ。
「そろそろスロットコーナーだ。鬼畜台は他の台より二周りは大きいからすぐに────」
「「「おおおお!」」」
俺が言い終わる前に奥の人混みのから歓声が騰がる。十中八九フランだ。
「すみません、通してください」
はぐれないようにノエルと手を繋ぎながら人混みを掻き分ける。人混みを抜けると案の定、10個の7が並んだスロット台とその前で観衆に手を降っているフランが見えた。どうやら無事に終わったみたいだ。
「フラン!」
「おお、ホウリか。言われた通り1000万G稼いだぞ」
「最初からそうしろ」
「本当に申し訳ない」
「……ともかく、これで下準備は終わった。明日からの行動は1つのミスが命取りになる。気を引き閉めて行くぞ!」
「うむ!」
「うん!」
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