魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第六十話 さあ、お前の罪を数えろ

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─────料理─────
この世界の料理は始めの日本人が残したレシピが多く使われている。そのため、日本で食べられているような食事が多く洋食や和食の概念がある。しかし、材料や物理法則が若干異なっているため、日本で食べられている料理とは味や見た目が異なっている料理もある。──────Maoupediaより抜粋



☆  ☆  ☆  ☆ 




「うーん、このテリーヌは美味しいです」
「この鳥の炭火焼きも美味い。うちのシェフ顔負けだな」
「一度食っただけで同じものが作れるとは、便利な男じゃ」
「それは誉め言葉として受け取っておく」


 ある日の昼、俺は4人にフルコースを作っていた。メニューはこの前にエンゼ家で出されたものと同じだ。エンゼ家にいた時にロワが食事を楽しめなかったからその埋め合わせだ。
 4人がフルコースを堪能している中、俺はエプロンを外しながら外出の準備をする。


「俺はそろそろ行く。後片付けは任せたぞ」
「うむ、行ってまいれ」
「いってらっしゃーい」


 4人がデザートを食べている頃を見計らって俺は家を出ていく。
 大通りに出た俺は移動しながら今日の予定を頭で確認する。まずはヒートメタルに助っ人だな。その後はあそこに行って……。瞬間、後ろから強烈な視線を感じ取る。俺以外に向けられている物か気のせいかと思ったが、感覚的に俺に向けられている物で間違いないようだ。
 建物の窓で後方を確認するがそれらしい人物をは見当たらないし怪しい気配も感じられない。だが、視線はあるとなると、姿はここに無いが見られていると考えていいな。視線の強さから推測するに人数は4人。……心当たりがあるな。だが、まだ結論付けるには早い。もう少し様子を見よう。
 考えをまとめていると、目的地である食堂であるヒートメタルにたどり着く。正体は探り続けるとして今はここでやるべき事をやろう。そう考えた俺は、ヒートメタルの中へ入る。


「ジャージャー麺1つね」
「こっちはラーメンね!」
「はいはい、少し待ってろよ。よう、ホウリ君!さっさとこれに着替えろ」


 店へ入ると客の声と共に年期が入ってエプロンが顔面に飛んできた。俺はエプロンを付けながら店の様子を確認する。客はほぼ満員みたいだが、料理はあまり行き渡っていない。店長が伝票を持ちながらテールを行ったり来たりしているのを見るに、まだ店を開けたばかりみたいだ。なるほど、足りていないのは料理だな。


「オーダー取ったら口頭でいいから俺に知らせろ。高速で料理を仕上げる」
「了解!頼りにしてるぜ!」


 食材や調理器具のある場所は把握しているから問題ないな。厨房に入った俺は聞き取れた注文の料理を作り始める。数分でいくつかの料理を作り終えた俺は盛り付けて料理を並べる。


「チャーシュー麺おまち!」
「ホイコーローまだなんだけど!」
「すみませーん!タンタンメンとチャーハン追加で!」
「はいよ!」


 料理を作りながら客の声を聞いていると、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。あいつが店にいるのか?一度配膳しながら確かめてみるか。


「ホウリ君!天津飯とタンタンメンとチャーハンとホイコーローとチャーシュー麺追加で!」
「分かった、全部料理出来ているので持っていってくれ」
「助かるよホウリ君」
「礼は客足が減ってから聞いてやる」


 大慌てで入ってきた店長からオーダーを聞いて料理を作る。配膳や会計の人手も足りていないし他の業務も手伝うか。
 料理を作り終えた俺はお盆に料理を乗せて店内に向かう。声的にタンタンメンとチャーハンを頼んだのはあいつの筈だ。店内を見渡すと俺の予想通り、お目当ての奴がテーブルで水を飲んでいた。俺はそいつの前に料理を並べる。


「タンタンメンとチャーハンおまち!」
「お、ホウリじゃねえか。どうしたんだ?」
「店長がバイトが来れないから店を開けられないって嘆いていたからランチタイムだけ手伝ってるんだ」
「へー、お前も大変だな」
「他人事みたいだが、俺が居なかったらお前らも飯が食えてないんだからな?感謝しろよ?」
「ははー、ホウリ様ー」
「嘘くせえ」


 空いた容器を回収しながらそいつと話をする。容器を回収した俺は厨房に戻り容器を洗う。ラーメンの中のスープを流しに流すふりをしてスープの中に手を入れるとビニールの感触が手に伝わってくる。俺はビニールを取ると周りに見えないように手に隠す。本来ならばこんなに警戒することも無いのだが、今は不自然な視線があるから用心するに越したことは無い。
 片手でビニールを破り中の紙を取り出す。そのまま紙の表と裏の感触を確かめると、わずかに凹凸があるのが分かった。
 この紙をスープに入れた人物はさっき俺と話していた『ジリン・レンジ』だ。俺はこの街のすべての情報屋とやり取りをしているがジリンはその一人だ。ジリンの特徴は値段は高いが情報の質や受け渡しの際の秘匿性が高いことにある。
 ジリンの情報の受け渡しは紙で行われるが渡される紙には何も書かれていない。では、どうやって情報を伝えるかというと、紙にかすかな凹凸を作り暗号化して伝えるという方法を取っている。仮に誰かが紙を見たとしても何も書かれていないため内容が分からない。凹凸に気付いたとしても解読方法は客にしかされていないため秘匿性はかなり高い。さらに触るだけで情報を確認できるため、自然に情報を確認出来るのも良い。
 情報を把握した俺はコンロの中に紙を入れて火に掛ける。これで万が一にでも情報が洩れる事はないな。
 しかし、この情報は……どうしたものかな。受け取った情報を頭の中で反芻しながら俺は料理を続けた。


☆☆1時間後☆☆



「おつかれさーん」
「はいはい、おつかれ」


 客をすべて捌き終わった店内で店長は煙草を吹かす。


「いやー、バイトが全員来れないと聞いた時はどうなるかと思ったね」
「本当だよ、俺が居なかったら営業できてなかったぜ?」
「そこは本当に感謝しているよ。けど良いのか?本当に給料もらわないで?」
「困ったときはお互い様だろ?俺が困っている時に助けてくれればいい」
「そうか。ならお言葉に甘えて」


 今欲しいのは金じゃなくて情報だ。今、恩を売っておけばとっておきの情報が手に入るかもしれないし金をはい受け取らないのが得策だな。
  店長はよく冷えたビールをコップに注ぐと一気に呷る。


「かあ、仕事終わりのビールは格別だな」
「そういえば、前に店に来た時も忙しそうだったよな?確か有名人が来てたとか?」
「そうなんだよ、次の闘技大会で優勝候補と言われている人が来てな。その時もバイトがさぼっていて大変だったよ」


 情報屋からの情報も大切だがこういう何気ない会話の情報も大切だ。気になる事もあるし色々聞いておこう。10分程、店長と話した後、俺は店を出て次の目的地へと向かう。
 俺は歩きながら背後からの視線の正体を探る。見た限りでは跡をつけてくる奴はいない。だが視線はヒートメタルにいるときも感じていた。こうなってくるとスキルによる尾行しか考えられないな。しかも、姿も気配もないとなると遠くから視界だけを飛ばしている筈だ。そんな芸当出来る奴は一人しかいない。
 あいつら、訓練や情報収集をさぼって下らないことしやがって。なんとかして撒くか追い払わないと。……待てよ?今日の予定的にこいつらを利用出来るんじゃないか?……よし、今回の件は保険が欲しかったしもう少し泳がせておこう。
 考えがまとまった俺はそのまま大通りから裏路地へと入っていく。この辺りの地理は把握している。ここを進んでいくとあいつがいる筈だ。
 夕日に照らされている裏路地を進んでいくと、お目当ての奴が空き箱の上で寝ているのを見つけた。いつは頭から三角形の可愛らしい耳を生やし、長い尻尾を生やした生き物────真っ白な猫だった。飼い猫のようで首には首輪と円柱状の名札が付いている。
 俺が猫に近付くと、猫はゆっくりと目を覚ました。ゆっくりと手を伸ばすと猫は俺の手を匂いをしばらく嗅いでくる。すると、猫は俺の足へとすり寄ってきた。
 猫はしばらく俺の足にすり寄ると、寝転んでお腹を見せてきた。俺がお腹や顎を撫でると、猫は気持ちよさそうにゴロゴロと声を出す。その間に俺は持っていた円柱状の名札と首輪の名札を入れ替える。
 実はこいつはただの猫ではない。とある情報屋の受け渡し人(猫)である。こいつの名札は中を開けることが出来るカプセルであり、その中に紙が入っている。情報の依頼や受け渡しは首輪のカプセルで行われる。そのため、この情報屋の素顔は誰も知らない。知っているのは情報屋の名前が『キャット』であるというだけだ。
 ちなみに、キャットと金銭のやり取りは発生せず、情報の物々交換となっている。俺が入れ替えたカプセルには俺が得た情報が入っており、それを猫がキャットに持っていけば取引は完了となる。
 俺がキャットを利用する理由はいくつかあるが、大きな理由は2つある。1つは情報の質が高いという事。もう一つは……


「おー、よしよし」


 可愛い猫と触れ合えるという事だ。キャットが使っている猫は何匹かいるがどの猫の毛並みも良く人に慣れている。情報のやり取りのついでに思いっきり猫と戯れるのも一つの目的になっている。
 カプセルを取り換えた俺は数分に渡り猫を可愛いがる。


「そろそろ移動する時間だな」


 名残惜しさを感じながらも俺はポケットから猫用のエサを取り出す。そのエサを空き箱の上に置くと猫は空き箱に飛び乗ってエサを食べ始めた。特定のエサを食べさせることで猫たちはキャットの元へと帰っていく。これで本当に取引は終了だ。夢中でエサを食べている猫を背に俺は次の目的地へと向かう。
 正直な事を言うと、もっと猫と戯れたかったが仕方ないな。
 裏路地を抜けた俺は仕事から帰る人で賑わってきた大通りを進んでいく。相変わらず背後から視線が付いてきている。あいつらの視線と確定しているから気にしないでいいな。俺は歩きながらキャットから受け取った情報を確認する。……なるほどな。
 情報が書いてあった紙を破ってアイテムボックスへ仕舞う。これで必要な情報はそろったな。
 俺は大通りを歩き続けて『bar ルナトリガー』という店の前で立ち止まる。


「さて、今日の本命だ」


 barの扉を開けて中へと入ると、既に他の客が酒を楽しんでいた。俺はグラスを磨いているマスターに声を掛ける。


「マスター、今日も部屋を借りるぜ」
「……どうぞ」


 物静かなマスターから許可をもらい奥の小部屋へと向かう。部屋の中でタキシードへ着替えた俺はそのまま席に座る。
 俺が席に座ると同時に扉からノックが聞こえた。


「どうぞ」


 俺が声をかけると、扉開けて一人の女性が入ってきた。


「席に座ってください」


 俺が向かいの席に座るように促すと、女性は何も言わずに席に座った。俺はまだ視線がある事を確認し、女性に優しく話しかける。


「今日はどうしたんですか?」


 俺の言葉に女性は無言で黙っている。言うべきかどうか迷っているのだろう。こんな時には無理に言わせようとせずに待つのが効果的だ。
 俺が何も言わずに待っていると女性はおもむろに口を開いた。


「彼氏に浮気されているんですけどどうしたらいいんでしょうか?」


 ……なるほどな。色々と聞く必要があるみたいだ。


「詳しく話を聞かせてくれないか?」
「実は……」


 俺は一通り話を聞く。話がまとまっていないが要は他の女性と


「つまりは、彼氏が他の女性と歩いているのを見ちゃった訳だ」
「そうなんです!彼氏に直接聞こうかと思ったんですけと、怖くて聞けなくて……」
「確かに怖いよね。その女性に見覚えは?」
「前に同級生って紹介された人でした」
「なるほどね。二人はどこに?」
「色んな宝石店に行ってました。夜にはこの店にも来ていたんですよ」


 その後も俺は黙って女性の話を聞く。よし、聞きたい事は全て聞けたな。
 女性は一通り話し終わると机に突っ伏して泣きだしてしまった。


「もう嫌!愛していたのに裏切られるだなんて!私耐えられない!」


 とりあえず、聞きたい事は聞けたし適当なこと言って追い出そう。


「本当に裏切られているんですかね?」
「ぐすん……どういう事?」
「失礼ですが、もうすぐ誕生日か何かがあるんじゃないですか?」
「なんでわかるの!?」
「やっぱり」


 俺は笑顔を崩さずに説明を始める。


「恐らく、彼氏さんは誕生日のプレゼントを選んでいるのでしょう。一緒にいた女性はプレゼントを選ぶのに付き合っていたと考えるのが妥当ですね。この店に来たのも夜にあなたと来るためでしょう」
「……そんなの想像じゃない」


 女性の言葉に俺は笑いながら首を縦に振る。


「確かに想像です。しかし、浮気されているというのも想像にすぎません。そうですね?」
「…………」
「僕からのアドバイスとしては、彼氏さんと話し合ってみることをお勧めします。どちらの場合もあり得ますが、確かめないと不信感だけが募りますからね」
「もしも浮気されていたら?」
「その時は……」


 俺はいたずらっぽく笑って胸に手を当てて話す。


「また僕に相談しに来てね」
「……分かった。私、彼氏と話してみる。ありがとう」


 女性は流していた涙を拭うと笑顔で部屋から出ていった。
 さて、女性も追い払えたしあいつらも追い払うとするか。俺は紙とペンを取り出すと文字を書き始める。文面はあいつらに向けてあるって分かればいいから名前は書いて、最初から分かってた感を出して、『フラン、ロワ、ミエル、ノエルへ。流石に相談室に来るのはやり過ぎだ。今日はここまでにしておけ』っと。これでいいな。
 書き終えた数秒後、ずっと纏わりついてた視線が跡形もなく消えた。どうやらスキルを解除したみたいだな。これでゆっくりと次の客と話が出来る。


「次の方どうぞ」


 俺が扉越しに声をかけるとタキシードを着たガタイのいい男が不機嫌そうに入ってきた。
 俺はいつも通りの営業スマイルを顔に張り付ける。


「席に座ってください」
「…………」
「今日はどうされました?」
「『どうされました?』じゃない。お前が呼び出したんだろうが」


 男はより一層不機嫌な表情になりながら吐き捨てるように言う。俺は申し訳なさそうな表情を作って手を合わせる。


「悪い、少しふざけ過ぎた」
「……それで、何がわかったんだ?」


 男────副憲兵長のシガレット・ココアが眉間にしわを寄せて睨んでくる。
 俺はシガレットの質問に答えず逆にシガレットに質問する。


「それよりも、あの女は捕まえられたのか?」
「……俺達が声をかけた瞬間に全力で逃げられた。今は全人員を捜索に充てている」
「やっぱりな。流石に警戒されているか」
「……お前の事だ。何か保険があるのだろ?」
「まあな、数時間後にはあの女は捕まっている」
「……その言葉を信じよう」


 さて、今の状況を説明しよう。先日、俺は憲兵長に多数の被害を出している結婚詐欺師を見つけたと報告した。それが、さっきの女性客『シャロット・オールス』だ。名前を偽って金をだまし取るスタンダードな結婚詐欺師だが、特徴は逃げ足の速さにある。捕まえようとしても光の速さで逃げるため全く捕まらない。たとえこの部屋に追い詰めたとしても捕まえるのは無理だろう。憲兵の悩みの種の一つだ。
 俺の話を聞いたシガレットは更に眉間に皺を寄せて睨みつけてくる。


「……それだけであれば俺をここに呼ばないだろう?さっさと要件を話せ」
「話が早くて助かる。俺を見てくれ」


 俺はこの近辺の地図を広げる。地図には色んな店に赤で丸がついている。
 シガレットは眉間の皺を深くして地図を睨みつける。眉間の皺が深すぎて逆に地図が見え辛いと思うがな。


「……赤丸はこの前襲われた宝石店だな」
「その通り」


 1ヵ月前、様々な宝石店が襲撃され現金や宝石が盗まれそうになる事件があった。この事件は宝石店が立て続けに襲われたという事もあり、かなりセンセーショナルに報じられた。


「……あの事件はかなり派手だったにもかかわらず、目撃者がいないため犯人は捕まっていない。犯人は透明になれるスキル持ちだと俺達は考えている」
「俺も同感だ。そしてその犯人が分かった」
「……本当か?」


 シガレットが睨みつける先を地図から俺に変える。悪気が無いのは分かっているが、何も知らない人がシガレットを見たら恐怖で泣きだすだろう。


「……どうやって犯人を特定した?」
「簡単だ、王都で羽振りが良くなった奴の情報を洗っていっただけだ。憲兵も何人か目星をつけていただろ?何ヵ月か掛ければ犯人を特定できただろう」
「……お前は1ヵ月で特定したがな」
「個人の方が得やすい情報もあるからな」


 今回は割と法律ギリギリの情報屋もいたが、あえて言う必要もないだろう。


「……それで、誰が犯人だ?」
「そこで出てくるのがさっきの結婚詐欺師だ」
「……どういうことだ?」
「端的に言おう。さっきの結婚詐欺師に騙されているのが犯人だ」
「……ほう?」


 シガレットが興味深そうに眉を上げる。そんなシガレットに俺は説明を始める。
 まず、膨大な借金がある人物がある日をきっかけに借金を返済したという噂を聞いた。そいつを調べていくと宝くじが当たった事や遺産がもらえた等と言った大金が絡む出来事が全くなかった。つまり、何かしらの非合法の手段で金を稼いだ可能性が高い。ここで俺はそいつが強盗犯でないかと疑った。
 調べていく内にそいつが借金をした理由が分かった。あの結婚詐欺師に貢いでいた訳だ。借金で首が回らなくなった男は手っ取り早く金を稼ぐために強盗をすることにした。だが、武器で強盗をしようにも金があるところは武装しているところが多く、武装していない所は金が少ない。どうしようか考えた男はある人物を思い出した。友人でありバイト仲間である女が透明になるスキルを持ってたのだ。これが有れば不意を突いて金を奪える。女と共犯になった男は計画を実行し見事に成功させた。男は大金を手に入れ借金を完済して女に貢ぎ始めた。


「これが動機ってとこだ」
「……だが状況証拠に過ぎない。証拠はあるのか?」
「あるぜ」
 
 
 俺はそいつらのバイト先であるヒートメタルに行って店長に話を聞いた。そいつらは揃ってバイトをさぼる事が多いらしい。今日もそいつらはシフトが入っていたらしいが見事にバックレてた。そいつらは一緒に何をしているか?そいつらが強盗だった場合、考えられるのは次に強盗する場所の偵察だろう。現に結婚詐欺師はそいつらが一緒にいるのを見ている訳だしな。つまり、結婚詐欺師がそいつらを見た場所が次に襲撃される可能性があるってことだ。


「……それが証拠か?」
「いや、証拠はこれだ」


 俺はアイテムボックスから宝石が沢山ついた腕輪を取り出す。腕輪を見たシガレットは眉間の皺が無くなる程に目を見開いて驚愕する。


「……これは、盗まれていたキングブレスレット!?」
「のレプリカだ。精巧に出来ているだろ?」


 俺の言葉にシガレットが大きく息を吐く。キングブレスレットとは、数年前に盗まれたという装飾品だ。売れば3代は遊んで暮らせる金になるという程に高価な装飾品であり、いまだにキングブレスレットを捜索する人が後を絶たないという。憲兵も必死に捜索しているが手掛かりすら見つかっていない。もしも見つかれば大々的に表彰されるだろう。


「……脅かすな」
「いいじゃねぇか。立派な証拠なんだからよ」
「……これが証拠になるのか?」
「ああ、説明は酒でも飲みながらやろう」


 キングブレスレットのレプリカを付けた俺はシガレットを連れて小部屋から出る。
 小部屋から出た俺達はカウンターに並んで座る。


「マスター、マティーニを1つ」
「……俺はゴブレットアイ」
「かしこまりました」


 ゴブレットアイとはこの世界特有のフルーツであるドラの実の果汁をスピリタスで割ったカクテルだ。度数が高すぎて普通の人は一滴で酔いつぶれると言われている。
 マスターがシェイカーを振っているのを見ながら俺は説明を始める。
 

「まずはこのブレスレットをどこから手に入れたのかを話すか。探し出すのから大変だったんだぜ?なにせ、あった場所が……」


 俺はブレスレットをシガレットに見せびらかせながら、手に入れるのがどれだけ大変だったかを熱弁する。数分に渡る熱弁の間、シガレットは迷惑そうな視線を俺に向けながらも、口を挟まずに俺の話を聞いている。
 

「どうぞ、マティーニとゴブレットアイです」
「ありがとう」


 俺はカクテルグラスに入ったマティーニを一口飲む。


「マスターのカクテルは最高だな。ここのを飲むと他の店でカクテル飲めなくなっちまうな」
「お褒めに預かり恐縮です」


 マスターは恭しく礼をする。するとシガレットは苛立ったようにゴブレットアイを飲み干す乱暴にテーブルに置く。


「……いい加減にしろ。なぜ俺がこんなどうでもいい話を長々と聞かされなくてはならないんだ」
「言っただろ?証拠を見せるためだ」
「……どういう事だ?」
「こういう事だよ!」


 俺は両手に持っていたパチンコ玉を振り向かずに後ろに弾く。


「ぎゃあ!」
「わぎゃ!」


 すると、パチンコ玉は見えない何かに命中し床に落ちる。それと同時に何者かの悲鳴が店内に響き渡った。
 俺は見えない何かに手を伸ばすと、掴みあげて床に組み伏せる。すると、こん棒を持った男の姿が徐々に表れだし、ついには全身が見えるようになった。


「……そいつは!」
「油断するな!まだあと一人いるぞ!」


 俺は入口方面に向かって持っていた玉を弾き飛ばす。すると、玉は誰かに命中するとピンク色の蛍光塗料がそいつに付着する。
 そいつは大慌てで店の扉を開けると外へと出ていった。


「……逃がさん」


 そう呟くとシガレットは蛍光塗料が付いた人物を追って店を飛び出していった。



☆  ☆  ☆  ☆ 



 数分後、シガレットは他の憲兵たちを連れて店へと戻ってきた。


「よう、遅かったな。もう一人は捕まえたのか?」
「……勿論だ。そいつを連行する。引き渡せ」
「あいよ」


 俺は腕を縛り上げてさるぐつわをした男を憲兵へと引き渡す。男は悔しそうな顔をしながら連行されていった。
 静かになった店で俺達はbarのカウンターに座る。


「……それで?あいつらはなんだ?」
「宝石店の襲撃犯だ」
「……なぜ宝石店の襲撃犯がここに?」
「奴らの目的はこれだよ」


 俺は腕に着けているキングブレスレットを掲げ説明する。
 男と女は何度か宝石店を下見したが自分たちが襲撃して以降、どの店もセキュリティが上がっていて簡単に襲撃できそうになかった。だが、今まで以上に金を貢いだ男や、贅沢な生活に慣れてしまった女はどうしても金が欲しかった。そんな中で、男と女はある噂を耳にする。伝説のキングブレスレットがどこかの金持ちの手にあるらしい。しかも、そいつはとある日にとあるbarで友人にキングブレスレットを自慢しに行くらしい。男と女は半信半疑ながらも宝石店の下見のついでにとあるbarも下見することにした。それがこのbarだ。噂の日である今日、男と女はこのbarに来てみた。すると、噂通り、キングブレスレットを身に着けた金持ちが友人らしき男に自慢しているではないか。噂が真実だと確信した男と女はすぐさま金持ちに襲い掛かろうとした。


「話の続きはさっき見た通りだ」
「……あいつらはお前にはめられた訳だ」
「そういう事。一番の証拠は現行犯逮捕だろ?」


 俺の言葉にシガレットは呆れながらも頷く。
 物的証拠を得るのに1週間はかかりそうだったから手っ取り早く罠にかけた。逮捕さえ出来れば後は余罪を憲兵で調べればいい。犯人が分かっていれば余罪を調べるのも時間はかからないだろう。


「そういうことで、俺の仕事はおしまい。後は憲兵で頑張ってくれ」
「……待て、まだ終わっていないぞ」


 barから出ていこうとした俺をシガレットが呼び止める。


「なんだ?」
「……お前はあの結婚詐欺師も数時間後には捕まえると言っていた。それはどうなる?」
「それは違うな。俺は『数時間後には捕まえる』とは言っていない。『数時間後には捕まっている』って言ったんだ」
「……何が違う?」
「数時間後には分かるさ」


 俺はそう言い残すと目つきが鋭いシガレットを残してbarから出ていったのであった。



☆  ☆  ☆  ☆ 



「皆さん、今日の新聞見ました?」
「ああ、昨日の夜に宝石店の襲撃犯と結婚詐欺師が捕まったのだろう?結婚詐欺師に関しては憲兵所の前に縛られた状態で発見されたとか」
「そうなんですよ。どっちも難しい事件だって言われてましたけど、同じ日に解決しちゃうだなんて良かったですね」
「…………そうじゃな」
「フランお姉ちゃんどうしたの?いつもよりも眠そうだよ?」
「昨日の夜中、ホウリに街に連れ出されてのう。おかげで寝不足じゃ」
「何をしていたんですか?」
「機密事項らしく他言できぬ。もし喋ると……」
「喋ると?」
「例の紙をばら撒くを脅されておる」
「あー、それは話せませんね」
「まったく、なぜわしだけこんな目に合わなければならんのじゃ。……barで見た女を探して捕まえろだなんて、いくらわしでも時間が掛かる事を言いおって」
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