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第七十話 わしもじゃ わしもじゃみんな!!
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───闘技大会 持ち込み道具───
闘技大会には武器以外で道具を持ち込むことが出来る。ただし、なんでも持ち込める訳ではなく魔道具などを持ち込む事は出来ない。また、持ち込める道具の数は決められてないがアイテムボックスを含めてすべてを身に着けた上で、戦闘が出来なくてはいけない。大会運営は多すぎるのではないかと判断した場合は、参加者に道具を身に着けての戦闘を行わせる。────────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
闘技大会の前日の夕飯、クラン家の屋敷内のとある一室で俺達は最後の打ち合わせをしていた。
四角いテーブルにスターダストの面々が座っている。
「全員いるな。今から大会前の最後の打ち合わせを始める」
「はーい」
俺は目の前の大皿からクッキーを数枚掴んで口に放り込む。ゆっくりと味わった後に再び口を開く。
「今回の大会に出場するのは俺とロワとミエルの3人だ」
1週間前の予選に参加した俺達は全員本戦への出場を決めた。正直、ロワとミエルだったら予選を突破する事は出来ると思っていたから想定内だ。
俺の言葉にロワは照れたように頬を掻く。
「はい、何とか予選は突破出来ました。まだ、実感が湧きませんが……」
「数千の出場者にの中から本戦に出場出来たんだ。自信を持て」
「そうだ、ロワは強い。自分を信じろ」
「ホウリさん、ミエルさん、ありがとうございます」
「ただ調子には乗るなよ?勝てる奴にも勝てなくなるからな?」
「肝に銘じておきます」
カロンとの勝負の記憶が蘇ったのか表情が硬くなるロワ。良い表情だ。油断して勝てる程、本戦は甘くないからな。
「言うまでもないが、俺達の目的はこの中の1人が優勝して裁判を開くことだ」
「ホウリが優勝する必要はないんじゃな」
「裁判を開く事が条件だからな。最悪俺が負けてもいい」
まあ、負けるつもりはないが。
「僕らが対戦で当たった場合はどうするんですか?」
「次の対戦相手を見て決める」
「僕がホウリさんと当たった時に、僕が勝っちゃうこともあるんですか?」
「あり得るな」
ロワと相性のいい相手もいるし、状況によってはロワに勝ちを譲ってもいいだろう。
「俺は基本的に全ての出場者の対策をしているが、確実に勝てるとは言えない相手もいるからな。その時はお前たちが頼りだ。信じてるぞ」
「ホウリさん……」
ロワが感動した目で俺を見てくる。そんなロワに俺は笑顔を作って答える。
「最終的に勝てばよかろうだ。どんな手を使っても勝ってこい」
「ホウリさん……」
「台無しじゃよ」
どんな手でも言い過ぎかもしれないが、勝ち残らないと優勝の可能性が低くなる。死ぬ気で勝ってもらわないとな。
俺の話を聞いていたノエルが恐る恐ると言った様子で手を上げる。
「どうしたノエル?」
「ノエルはお留守番なの?」
「そうじゃな、可愛そうじゃがここに居た方が安全じゃしな」
「大会を見物するにもチケットが無いし、それしかないだろう」
ミエルの言う通り、闘技大会は昔から続く人気のイベントのため、チケットがプレミアム化している。しかも、金さえあれば手に入る訳でもないためかなり厄介だ。
そのため、全3日すべてのチケットを取る事はかなり難しい。
「まあ、難しいだけだったら何の問題もないがな」
俺は懐から複数枚の闘技大会のチケットを取り出す。さぞや驚くと思ったが皆の反応はかなり薄い。
「どうした?驚かないのか?」
「お主ならこの程度用意しておるとは思っとった」
「だが良いのか?一応追われている身だろう?」
「フランと一緒なら問題ないだろ。ノエルには色々な技術を教えているから万が一攫われてもなんとかなるだろうし」
「そうじゃな、そういう事ならノエルとの見物も悪くないであろう」
「そういう事だ。この屋敷でじっとしているよりはいいだろ?」
俺はチケットを3枚ずつ全員に渡す。
「これで入場できる筈だ。自分の出番以外は客席で見ておいてくれ。無くすなよ?」
「ありがとうホウリお兄ちゃん!」
「ありがとうございます!」
俺はロワとノエルにチケットを渡そうとする。しかし、渡そうとした瞬間のロワとノエルの満面の笑みを見て俺は不安を覚える。
「……お前たち本当に無くさないか?」
「大丈夫です!」
「任せて!」
やけに自信満々なのが逆に不安だ。ちょっと質問してみるか。
「ちなみに、このチケットはどこに置くつもりだ?」
「肌身離さず持ち歩きたいのでポケットの中に入れておきます」
「楽しみだからまくらの下に置くー」
「フラン、ミエル、ロワとノエルのチケットを管理してくれ」
「うむ」
「了解した」
「「なんで!?」」
ロワのチケットをミエルに、ノエルのチケットをフランに渡す。
「ちょっと待ってください!なんで僕らには渡してくれないんですか!」
「不公平だー!」
「アイテムボックスを使わない時点で信用出来ないんだよ。ポケットなんて無くしやすい場所の筆頭じゃねぇか」
「分かりました、アイテムボックスに入れておきます!」
「だからチケット頂戴!」
「断る」
「ホウリさん(お兄ちゃん)!!」
こいつらの事だから、楽しみすぎてアイテムボックスからチケットを取り出して、そのまま無くす可能性が高い。替えがきかないものだし無くされたら困る。ミエルとフランに預けておいた方が無難だろう。
「当日には渡すから我慢するんじゃな」
「「はーい……」」
あからさまに落ち込む2人。無くされたら困るし2人には申し訳ないがチケットは当日までお預けだな。
「では、大会は皆で観るのだな?」
「それなんだが、俺は基本的に観戦はしない」
「そうなんですか?」
「俺は大会中も情報を集める事になる。もし負けてもお前らのどちらかが残っている場合は情報収集を続けることになるな」
「じゃあ、ノエル達と試合はみられないの?」
「そうなるな。俺達は全員負けた場合は急いで王都を離れるから一緒に観戦は出来ないな」
「そうなんだ……」
「ごめんな」
ノエルが残念そうな表情になる。少しかわいそうだが、全力で勝ちにいかないと優勝できるか分からない現状、情報収集は念入りに行っておきたい。
「それと、俺は大会中は正体を隠すからそのつもりでいてくれ」
「変装でもするのか?」
「変装もするが、名前も変える。俺だって事は絶対に隠し通す」
闘技大会は基本的に強ければよかろうの精神に則って名前を隠しても出場できる。へんな奴が優勝する事もあるみたいだが、なぜか改善はされていないみたいだ。俺としては有難いが。
俺の言葉に疑問を持ったのかフランが首を傾げる。
「なぜ正体を隠す?別にバレてもよいじゃろ?」
「俺は武器が新月しかないって広く知られてるからな。それだけでかなり状況が厳しくなる」
「確かにそうだな」
武器がバレるのはそれだけで厳しい。しかも、俺は呪いの木刀だから他の投げ道具なんかも使えないとう事もバレることになる。不利な状況が更に不利になる訳だ。
「そういう訳だから、俺の事は他言しないようにしてくれ」
「はーい」
「よろしい。最後になるが、これが出場者のステータスのリストだ。確認しておいてくれ」
俺は念のため全員にリストを配る。
ミエルはリストをパラパラとめくった後にため息を吐く。
「ステータスや使用武器だけでなく、弱点や直近の戦績までも書いてある。よくもここまで集められたな?関心を通り越して呆れたぞ」
「何としても勝たないといけないからな。このくらいは必要だろう」
「それはそうじゃが出来るかは別じゃろ」
出来ないは死に直結する。だったら、全力を尽くすのは当然だろう。
「とにかく、全員のステータスや武器は確認しておくように。以上、明日に備えて早く寝るように」
☆ ☆ ☆ ☆
2週間前、受付にて
「次の方どうぞー」
私は闘技大会の参加申し込みを笑顔で受け付けながら心でため息を吐く。
この闘技大会の受付を始めて早2時間、一向に人が途切れる気配がない。
「おねがいしまーす」
「お預かりします」
腰に剣を吊り下げた男から書類を受け取る。この書類には出場する時の名前、持ち込み武器、その他の道具が書かれている。もっと細かいことも書かれているが、大まかな内容はこの3つだ。闘技大会では事前に申請したもの以外には持ち込めないため、参加者は考えに考えた物を提出する。
私の仕事はこの書類を問題がないか確認し受付番号を渡す事だ。確認する事としては、持ち込み禁止の物が申請された場合は、受付の拒否をしたりもする。
私は書類に不備が無い事を確認し男に受付番号を渡す。
「受理しました。受付番号をどうぞ」
受付番号を受け取った男は立ち去っていき、次の参加者がやってくる。この流れを何時間も繰り返さないといけないと思うと気が滅入る。そんな気持ちを押し込めつつ、笑顔で次の参加者を呼ぶ。
「次の方どうぞ」
私は次の人を見た瞬間、思わず言葉を失った。
その人はフードを目深にかぶって、顔には鉄の仮面をかぶっていた。綺麗な銀髪でどこか怪しげな雰囲気が漂っている。男か女すらも分からない。だが、私が注目したところはその人の恰好じゃない。正直なところ、見た目が奇抜な人は沢山見てきた。
その人が他の人と違う所、それは……
「これお願いします」
圧倒的な書類の分厚さだった。ちょっとした小説位の厚さはある。
「お、お預かりします」
私は出来るだけ気持ちを表情に出さないように書類を受け取る。
軽く見た所、大半はその他の道具みたい。だけど、流石に私だけじゃ判断が出来ない。
私はフードの人に奥の部屋に入るように促す。フードの人は特になのを言うでも無く、指示に従っておくの部屋へと入っていった。
とりあえず、これ以降は私がやる事は無い。上の人に任せよう。
ちなみに、道具はアイテムボックスを含めて全て持ち運べるようにしないといけない。あれだけ多ければ身に着けるのは無理だろう。今までも多すぎる道具を申請して却下された人はいたが、あれだけ多い人はいなかった。
ちなみに、道具は受理さえされれば後から申請を取り消しても問題はない。申請を取り消した場合はその後の試合で使えなくなるので注意が必要だ。
例外として武器として申請されたものが破損した場合は同じ武器の補給が認められる。
「まあ、心配なのは分かるけどあれだけの道具を持とうとするなんて無茶が過ぎるでしょ」
私は気になる気持ちを抑えて次の人を呼んだ。
☆ ☆ ☆ ☆
私は受付のバイトが終わって控室から出ようとする。すると、同じく帰ろうとしていた先輩とばったり会った。
「お疲れ様でーす」
「お疲れさん」
挨拶もそこそこに家に帰ろうとすると、業務中にあったフードの人の事を思い出した。
「先輩、一ついいですか?」
「なに?」
「今日、フードの人が申請に来てたと思うんですけど、どうなりました?」
十中八九、拒否されたと思うがその後どうなったか知りたい。先輩が担当した筈だし聞いておいてもいいかもしれない。
私の言葉に先輩は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「あー、あの人ね」
「何かあったんですか?文句をいっぱい言われたとか?」
「別にそうじゃない。ただ……」
先輩は数秒だけ言葉を詰まらせると話し始めた。
「……全部受理された」
「へ?」
私が素っ頓狂な声を出すと、先輩はかなり複雑な表情で頷く。
「確かに信じられないかもしれない。だが、本当に全部受理された」
「えっと、全部の道具を身に着けてある程度は戦闘が出来ないといけないですよね?」
「戦闘したんだよ、それもかなり強かった」
「本当ですか?」
あれだけの道具を身に着けて戦闘が出来るなんて信じられない。けど、先輩がいうならそうなのだろう。
「でも、道具を沢山持ち込む人って優勝した試しがないですよね?」
この大会は生半可な道具で優勝はできない。現にこれまでの優勝者で最多の持ち込み数は5つとなっている。沢山の道具を扱えるようにするよりも、自分の特技を伸ばした方が効率がいいからだ。この事から出場者は紙1枚に収まるように申請する人が多い。
「確かにな、あれだけの道具を使いこなすのは常人には出来ないだろうな」
「だったら、無駄な努力って事ですかね?」
「でもな……」
私の言葉を聞いた先輩はニヤリと笑うと口を開いた。
「あれだけの道具を全て使いこなせれば、誰にでも勝てると思わないか?」
「まあ、そうかもしれないですけど……」
それが出来る人が無い事は今までの優勝者から分かる。万が一いたとしても、優勝出来る可能性は低いだろう。多分、予選の突破も難しい筈だ。
「先輩はその人が優勝すると思うんですか?」
「さあな、今までの参加者に居ないタイプだし全く分からん。けどな、意外とああいう奴が優勝しちまうかもしれないぞ?」
そう言うと、先輩は手をひらひらと振って廊下の先へと歩いて行った。私は不思議に思いながらもそのまま家へと帰ったのだった。
そして、大会の1週間前、私の元にはフードの人が予選を突破したという知らせが届いたのであった。
闘技大会には武器以外で道具を持ち込むことが出来る。ただし、なんでも持ち込める訳ではなく魔道具などを持ち込む事は出来ない。また、持ち込める道具の数は決められてないがアイテムボックスを含めてすべてを身に着けた上で、戦闘が出来なくてはいけない。大会運営は多すぎるのではないかと判断した場合は、参加者に道具を身に着けての戦闘を行わせる。────────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
闘技大会の前日の夕飯、クラン家の屋敷内のとある一室で俺達は最後の打ち合わせをしていた。
四角いテーブルにスターダストの面々が座っている。
「全員いるな。今から大会前の最後の打ち合わせを始める」
「はーい」
俺は目の前の大皿からクッキーを数枚掴んで口に放り込む。ゆっくりと味わった後に再び口を開く。
「今回の大会に出場するのは俺とロワとミエルの3人だ」
1週間前の予選に参加した俺達は全員本戦への出場を決めた。正直、ロワとミエルだったら予選を突破する事は出来ると思っていたから想定内だ。
俺の言葉にロワは照れたように頬を掻く。
「はい、何とか予選は突破出来ました。まだ、実感が湧きませんが……」
「数千の出場者にの中から本戦に出場出来たんだ。自信を持て」
「そうだ、ロワは強い。自分を信じろ」
「ホウリさん、ミエルさん、ありがとうございます」
「ただ調子には乗るなよ?勝てる奴にも勝てなくなるからな?」
「肝に銘じておきます」
カロンとの勝負の記憶が蘇ったのか表情が硬くなるロワ。良い表情だ。油断して勝てる程、本戦は甘くないからな。
「言うまでもないが、俺達の目的はこの中の1人が優勝して裁判を開くことだ」
「ホウリが優勝する必要はないんじゃな」
「裁判を開く事が条件だからな。最悪俺が負けてもいい」
まあ、負けるつもりはないが。
「僕らが対戦で当たった場合はどうするんですか?」
「次の対戦相手を見て決める」
「僕がホウリさんと当たった時に、僕が勝っちゃうこともあるんですか?」
「あり得るな」
ロワと相性のいい相手もいるし、状況によってはロワに勝ちを譲ってもいいだろう。
「俺は基本的に全ての出場者の対策をしているが、確実に勝てるとは言えない相手もいるからな。その時はお前たちが頼りだ。信じてるぞ」
「ホウリさん……」
ロワが感動した目で俺を見てくる。そんなロワに俺は笑顔を作って答える。
「最終的に勝てばよかろうだ。どんな手を使っても勝ってこい」
「ホウリさん……」
「台無しじゃよ」
どんな手でも言い過ぎかもしれないが、勝ち残らないと優勝の可能性が低くなる。死ぬ気で勝ってもらわないとな。
俺の話を聞いていたノエルが恐る恐ると言った様子で手を上げる。
「どうしたノエル?」
「ノエルはお留守番なの?」
「そうじゃな、可愛そうじゃがここに居た方が安全じゃしな」
「大会を見物するにもチケットが無いし、それしかないだろう」
ミエルの言う通り、闘技大会は昔から続く人気のイベントのため、チケットがプレミアム化している。しかも、金さえあれば手に入る訳でもないためかなり厄介だ。
そのため、全3日すべてのチケットを取る事はかなり難しい。
「まあ、難しいだけだったら何の問題もないがな」
俺は懐から複数枚の闘技大会のチケットを取り出す。さぞや驚くと思ったが皆の反応はかなり薄い。
「どうした?驚かないのか?」
「お主ならこの程度用意しておるとは思っとった」
「だが良いのか?一応追われている身だろう?」
「フランと一緒なら問題ないだろ。ノエルには色々な技術を教えているから万が一攫われてもなんとかなるだろうし」
「そうじゃな、そういう事ならノエルとの見物も悪くないであろう」
「そういう事だ。この屋敷でじっとしているよりはいいだろ?」
俺はチケットを3枚ずつ全員に渡す。
「これで入場できる筈だ。自分の出番以外は客席で見ておいてくれ。無くすなよ?」
「ありがとうホウリお兄ちゃん!」
「ありがとうございます!」
俺はロワとノエルにチケットを渡そうとする。しかし、渡そうとした瞬間のロワとノエルの満面の笑みを見て俺は不安を覚える。
「……お前たち本当に無くさないか?」
「大丈夫です!」
「任せて!」
やけに自信満々なのが逆に不安だ。ちょっと質問してみるか。
「ちなみに、このチケットはどこに置くつもりだ?」
「肌身離さず持ち歩きたいのでポケットの中に入れておきます」
「楽しみだからまくらの下に置くー」
「フラン、ミエル、ロワとノエルのチケットを管理してくれ」
「うむ」
「了解した」
「「なんで!?」」
ロワのチケットをミエルに、ノエルのチケットをフランに渡す。
「ちょっと待ってください!なんで僕らには渡してくれないんですか!」
「不公平だー!」
「アイテムボックスを使わない時点で信用出来ないんだよ。ポケットなんて無くしやすい場所の筆頭じゃねぇか」
「分かりました、アイテムボックスに入れておきます!」
「だからチケット頂戴!」
「断る」
「ホウリさん(お兄ちゃん)!!」
こいつらの事だから、楽しみすぎてアイテムボックスからチケットを取り出して、そのまま無くす可能性が高い。替えがきかないものだし無くされたら困る。ミエルとフランに預けておいた方が無難だろう。
「当日には渡すから我慢するんじゃな」
「「はーい……」」
あからさまに落ち込む2人。無くされたら困るし2人には申し訳ないがチケットは当日までお預けだな。
「では、大会は皆で観るのだな?」
「それなんだが、俺は基本的に観戦はしない」
「そうなんですか?」
「俺は大会中も情報を集める事になる。もし負けてもお前らのどちらかが残っている場合は情報収集を続けることになるな」
「じゃあ、ノエル達と試合はみられないの?」
「そうなるな。俺達は全員負けた場合は急いで王都を離れるから一緒に観戦は出来ないな」
「そうなんだ……」
「ごめんな」
ノエルが残念そうな表情になる。少しかわいそうだが、全力で勝ちにいかないと優勝できるか分からない現状、情報収集は念入りに行っておきたい。
「それと、俺は大会中は正体を隠すからそのつもりでいてくれ」
「変装でもするのか?」
「変装もするが、名前も変える。俺だって事は絶対に隠し通す」
闘技大会は基本的に強ければよかろうの精神に則って名前を隠しても出場できる。へんな奴が優勝する事もあるみたいだが、なぜか改善はされていないみたいだ。俺としては有難いが。
俺の言葉に疑問を持ったのかフランが首を傾げる。
「なぜ正体を隠す?別にバレてもよいじゃろ?」
「俺は武器が新月しかないって広く知られてるからな。それだけでかなり状況が厳しくなる」
「確かにそうだな」
武器がバレるのはそれだけで厳しい。しかも、俺は呪いの木刀だから他の投げ道具なんかも使えないとう事もバレることになる。不利な状況が更に不利になる訳だ。
「そういう訳だから、俺の事は他言しないようにしてくれ」
「はーい」
「よろしい。最後になるが、これが出場者のステータスのリストだ。確認しておいてくれ」
俺は念のため全員にリストを配る。
ミエルはリストをパラパラとめくった後にため息を吐く。
「ステータスや使用武器だけでなく、弱点や直近の戦績までも書いてある。よくもここまで集められたな?関心を通り越して呆れたぞ」
「何としても勝たないといけないからな。このくらいは必要だろう」
「それはそうじゃが出来るかは別じゃろ」
出来ないは死に直結する。だったら、全力を尽くすのは当然だろう。
「とにかく、全員のステータスや武器は確認しておくように。以上、明日に備えて早く寝るように」
☆ ☆ ☆ ☆
2週間前、受付にて
「次の方どうぞー」
私は闘技大会の参加申し込みを笑顔で受け付けながら心でため息を吐く。
この闘技大会の受付を始めて早2時間、一向に人が途切れる気配がない。
「おねがいしまーす」
「お預かりします」
腰に剣を吊り下げた男から書類を受け取る。この書類には出場する時の名前、持ち込み武器、その他の道具が書かれている。もっと細かいことも書かれているが、大まかな内容はこの3つだ。闘技大会では事前に申請したもの以外には持ち込めないため、参加者は考えに考えた物を提出する。
私の仕事はこの書類を問題がないか確認し受付番号を渡す事だ。確認する事としては、持ち込み禁止の物が申請された場合は、受付の拒否をしたりもする。
私は書類に不備が無い事を確認し男に受付番号を渡す。
「受理しました。受付番号をどうぞ」
受付番号を受け取った男は立ち去っていき、次の参加者がやってくる。この流れを何時間も繰り返さないといけないと思うと気が滅入る。そんな気持ちを押し込めつつ、笑顔で次の参加者を呼ぶ。
「次の方どうぞ」
私は次の人を見た瞬間、思わず言葉を失った。
その人はフードを目深にかぶって、顔には鉄の仮面をかぶっていた。綺麗な銀髪でどこか怪しげな雰囲気が漂っている。男か女すらも分からない。だが、私が注目したところはその人の恰好じゃない。正直なところ、見た目が奇抜な人は沢山見てきた。
その人が他の人と違う所、それは……
「これお願いします」
圧倒的な書類の分厚さだった。ちょっとした小説位の厚さはある。
「お、お預かりします」
私は出来るだけ気持ちを表情に出さないように書類を受け取る。
軽く見た所、大半はその他の道具みたい。だけど、流石に私だけじゃ判断が出来ない。
私はフードの人に奥の部屋に入るように促す。フードの人は特になのを言うでも無く、指示に従っておくの部屋へと入っていった。
とりあえず、これ以降は私がやる事は無い。上の人に任せよう。
ちなみに、道具はアイテムボックスを含めて全て持ち運べるようにしないといけない。あれだけ多ければ身に着けるのは無理だろう。今までも多すぎる道具を申請して却下された人はいたが、あれだけ多い人はいなかった。
ちなみに、道具は受理さえされれば後から申請を取り消しても問題はない。申請を取り消した場合はその後の試合で使えなくなるので注意が必要だ。
例外として武器として申請されたものが破損した場合は同じ武器の補給が認められる。
「まあ、心配なのは分かるけどあれだけの道具を持とうとするなんて無茶が過ぎるでしょ」
私は気になる気持ちを抑えて次の人を呼んだ。
☆ ☆ ☆ ☆
私は受付のバイトが終わって控室から出ようとする。すると、同じく帰ろうとしていた先輩とばったり会った。
「お疲れ様でーす」
「お疲れさん」
挨拶もそこそこに家に帰ろうとすると、業務中にあったフードの人の事を思い出した。
「先輩、一ついいですか?」
「なに?」
「今日、フードの人が申請に来てたと思うんですけど、どうなりました?」
十中八九、拒否されたと思うがその後どうなったか知りたい。先輩が担当した筈だし聞いておいてもいいかもしれない。
私の言葉に先輩は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「あー、あの人ね」
「何かあったんですか?文句をいっぱい言われたとか?」
「別にそうじゃない。ただ……」
先輩は数秒だけ言葉を詰まらせると話し始めた。
「……全部受理された」
「へ?」
私が素っ頓狂な声を出すと、先輩はかなり複雑な表情で頷く。
「確かに信じられないかもしれない。だが、本当に全部受理された」
「えっと、全部の道具を身に着けてある程度は戦闘が出来ないといけないですよね?」
「戦闘したんだよ、それもかなり強かった」
「本当ですか?」
あれだけの道具を身に着けて戦闘が出来るなんて信じられない。けど、先輩がいうならそうなのだろう。
「でも、道具を沢山持ち込む人って優勝した試しがないですよね?」
この大会は生半可な道具で優勝はできない。現にこれまでの優勝者で最多の持ち込み数は5つとなっている。沢山の道具を扱えるようにするよりも、自分の特技を伸ばした方が効率がいいからだ。この事から出場者は紙1枚に収まるように申請する人が多い。
「確かにな、あれだけの道具を使いこなすのは常人には出来ないだろうな」
「だったら、無駄な努力って事ですかね?」
「でもな……」
私の言葉を聞いた先輩はニヤリと笑うと口を開いた。
「あれだけの道具を全て使いこなせれば、誰にでも勝てると思わないか?」
「まあ、そうかもしれないですけど……」
それが出来る人が無い事は今までの優勝者から分かる。万が一いたとしても、優勝出来る可能性は低いだろう。多分、予選の突破も難しい筈だ。
「先輩はその人が優勝すると思うんですか?」
「さあな、今までの参加者に居ないタイプだし全く分からん。けどな、意外とああいう奴が優勝しちまうかもしれないぞ?」
そう言うと、先輩は手をひらひらと振って廊下の先へと歩いて行った。私は不思議に思いながらもそのまま家へと帰ったのだった。
そして、大会の1週間前、私の元にはフードの人が予選を突破したという知らせが届いたのであった。
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