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第八十九話 だ……駄目だ まだ笑うな……
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───スイトとビタル───
スイトとビタルは双子であり、本名をそれぞれ「スイト・フォガー」と「ビタル・フォガー」という。兄であるスイトは大雑把で明るい性格だが、記憶力に優れており一度見たものは忘れることはなく、直感も優れている。一方、弟のビタルは暗く他人を寄せ付けない性格だが、思考力に優れており、数々の事件を解決してきた。2人揃ったときに解決できない事件はないと言われているが、ビタルが中々スイトと裁判をしようとしないため、意外にも2人揃う事は少ない。────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
裁判当日、私は逃げ出すことなく検察席に立っていた。
上手くいけば、今日で決着をつけることも出来るだろう。私にとっての正念場といっても良いだろう。
「……よし」
頬を軽くたたいて気合を入れる。せっかくホウリさんが私を信じてくれたんだ。その想いには答えたい。
隣にいたスイトさんはそんな私をスイトさんが微笑ましそうに見てくる。
「おー、気合入ってるな」
「スイトさん、よろしくお願いします」
「よろしくな。でもよ、サポートが俺でいいのか?ビタルとかの方がいいんじゃないか?」
ビタルさんが不思議そうに尋ねてくる。確かにビタルさんは部屋で爆薬を使っちゃうような人だ。他の人からしたら正気を疑われると思う。現に検察室でビタルさんにサポートをお願いした時は精神科を紹介された。
念の為に言っておくが、私は気が狂ったわけではなく、ちゃんと考えがあってビタルさんに頼んだのだ。
「確かにビタルさんはちょっと変わってますけど、知識は検察の中で一番です。その力を私に貸して欲しいんです」
「そう言われたのは初めてだ。嬉しいぜ」
私の言葉にビタルさんが笑顔を深める。いつも笑っているような人だが、今は本当に嬉しそうな笑みだ。今言ったことも本心だが、実はもう一つ理由があるんだけど、今は黙っておこう。
「そういえば、ホウリは重症を負ったと聞いたが大丈夫なのか?」
「ホウリさんのお仲間から命を取り留めたと聞きました。ですが、意識は戻っていないらしいです」
ミエルさんからは念のため昨夜の出来事は話さない方が良いと言われた。何も分からない素振りをすることで私の身を守るためらしい。何も知らなくても襲われる可能性がある訳だけど、何もしないよりはマシだろう。
「そういえば、昨日、連続殺人犯が捕まったって聞いたんですけど何かあったんですか?」
私は何も知らないフリをして聞く。
「そうなんだよ。長年追ってた殺人犯が急に出頭してきてな。しかも怯えていて尋問が楽過ぎるんだよ。過去の犯行は聞いてもいないのに話し出すしよ。俺たちとしては難事件が解決して安心したような、拍子抜けのような感じだ」
「誰が捕まえたんですか?」
「さあな。いつの間にか憲兵所の前に縛られて放置されてたんだとよ。あのチイラに勝てるんだから只者じゃないのは確かだけどな」
スイトさんに嘘をついている様子はない。どうやら、フランさんの存在は憲兵には知られていないようだ。
「で?今日はどうすればいいんだ?ホウリから何か聞いてたりするのか?」
「ホウリさんからは仕込みだけは聞いていますが、戦略は私が考えました。それに……」
「それに?」
「戦い方はホウリさんから学びました」
「そうか、頑張れよ」
スイトさんが力いっぱい私の背中を叩く。力が強すぎて肺から空気が強制的に吐き出される。
「ごはっ!」
「あ!悪い!」
せき込む私の背中をスイトさんが優しくさする。その様子を見ていたのか、向かいの席から噴き出すような笑い声が聞こえた。
せき込みながら向かいの弁護席を見ると、バカにしたように笑っているパンケがいた。
「はっはっは、傑作だな。保護者がいないと、なにも出来ないと見える。まるで飼い主がいない時の子猫みたいだな?」
私は何も言い返さずにパンケを睨みつけるだけに留める。確実にこいつらがホウリさんと私を襲ったんだ。今すぐにでも殴りかかりに行きたい気分だ。
だが、ホウリさんから煽りに乗るのは意味が無いと学んだ。私は腸が煮えくり返る気持ちを抑えて、ぐっと堪える。
「ああん?俺のどこが子猫だぁ?ぶっ飛ばすぞ!」
「落ち着いてスイトさん!私の苦労が無駄になるし絶対スイトさんの事は言ってないです!」
殴りかかろうとしたスイトさんを必死で羽交い絞めにする。その様子を見たパンケは手を叩きながら笑い始める。
「はっはっは!君たちは検察官からお笑い芸人に転職したほうがいいね!」
「余計なお世話だ!」
飛び出しかねない勢いのスイトさんを私は全力で止める。やっぱり、スイトさんに頼んだのは間違いだったかな?
スイトさんを何とか落ち着けて、大笑いするパンケを睨む。
昨日まであんなに余裕が無かったのに、今日はこんなに余裕の表情をしている。ホウリさんがいない事もあるだろうけど、また何かを企んでいるんだろう。
私は目を閉じて小さく息を吐く。ホウリさんがいない以上、自分の力で戦うしかない。
「……天から見ててください、ホウリさん」
「ホウリの奴まだ死んでないんだよな?」
そうこうしていると、扉が開いて国王が入ってきた。いよいよ決戦だ。
国王が木槌を打ち鳴らし、開廷の合図をする。
「これよりローブオ・サンドの国家転覆に関する裁判の審議に入る。前回、被告の国家転覆の容疑を証明する証言があった。弁護側はそれを覆す証拠はあるか示すように」
あるわけない、普通はそう思うだろう。だが、あのパンケの顔を見るに何か考えがあるのは明白だ。
私の考えの通り、パンケはニヤリと笑うと口を開いた。
「あります」
「ほう?では、根拠を示すように」
「分かりました」
パンケは国王に一例すると一枚の紙を取り出す。
「検察側の証人と検察側として出廷していたキムラ・ホウリがサンドの街で会っていたという証言があります」
「証言の要請ではないのか?」
国王の言葉にパンケが首を振る。
「証言によると、キムラ・ホウリは証人に何かを渡していたようです」
「弁護側は検察側が賄賂を渡していたと主張する気ですか?」
「その通りです」
嘘だ。ホウリさんが賄賂をしている所を見られるとは思えない。多分でっち上げの証言だ。でも何のために?
私が考えている間にも弁護側の主張は続く。
「この証言の正当性が認められれば、検察側の証人の信憑性は低くなります。そうなれば、被告の容疑は証明できないことになるでしょう」
「その証人はどこに?」
「サンドの街から移動中です。明後日には到着するでしょう」
パンケが私の顔を見て気持ち悪く笑う。その表情を見て私はパンケの考えを理解した。
パンケの目的は時間稼ぎだ。今の状況だと勝てる見込みはない。だけど、可能性をちらつかせて時間を稼ぐつもりだ。時間があれば証拠や証言を捏造してこちらの有利を崩していくつもりだろう。
仮にホウリさんがいた場合は捏造なんて見破られるだろうし、そもそも時間稼ぎすらできないだろう。ホウリさんがいない今、相手は全力で時間を稼ぎにくるだろう。
「弁護側は証人の召喚を要求します」
「異議あ───」
スイトさんもパンケの考えが理解出来たようで、異議を申し立てようとする。そのスイトさんの異議を私は口を押えて止める。
「検察側はどうした?異議を申し立てるか?」
「いえ、異議はありません?」
私の言葉にスイトさんが驚いた表情で私を見てくる。
「おい、いいのか。あいつの狙いは……」
「分かってます。相手の狙いは時間稼ぎです」
「だったらなんでだ?」
「考えがあります。私に任せてください」
「よく分からないが分かった」
スイトさんは1度頷くと腕を組んで前に向き直る。
私たちが異議を取り消した後もパンケの主張は続く。
「国家転覆は重い罪です。だからこそ、私たちは真剣に議論していく必要があるのです!」
「弁護側の意見は分かった。では、審議はその証人が来るまでは休廷とする。検察側から異議はないな」
国王が検察に意見を求めてきた。ここが勝負所だ!
「ありませんよ。あんな新人検察官に有意義な裁判が出来る訳ありませんしね」
「弁護側は口を慎むように。それ以上の暴言は退出を命じます」
「おっと、失礼しました」
緊張で国王とパンケのやり取りが聞こえない。今からの発言は下手をしたら私自身が終わるかもしれない発言だ。そう考えると自然と恐怖で手が震える。口が固まり、声が出なくなる。もし失敗したら……
……いや、そんなのは関係ない。ここでやらないと、目の前の犯罪者が野放しになる。それだけはやっちゃだめだ。
そして何よりも、ホウリさんが浮かばれない。そんなの絶対に嫌だ!
私は小さく息を吐いて国王を見据える。
「検察側から異議を申し立てます!」
「ほう?どんな異議だい子猫ちゃん?」
ニヤニヤと私を見てくるパンケ。だが、私の発言でその笑顔は固まることになった。
「私が異議を申し立てるのは弁護側ではありません。国王様に異議を申し立てます!」
「は?」
私の言葉で部屋の中の空気が凍り付くのが分かる。国王も眉をひそめて不機嫌な表情に変わっていく。
怖い、けどここで怯んじゃだめだ!
「国王様聞きましたか?検察側は国王様に異議があるみたいですよ?」
「その通りです。国王様の決定に対して異議を申し立てます」
「国王様の決定は絶対!何者もその決定を妨げることは出来ない!」
「検察側、どういう意味か説明しなさい」
国王の視線が更に冷たいものになる。そんな中で、私は必死に口を回す。
「今、弁護側は時間を稼ごうとしています!被告人が本当に国家転覆の準備を進めているのであれば、時間を稼いでる間に神の使いを奪取して装置を発動する可能性があります!」
「異議あり!私たちは今まで被告人が有罪かを議論してきました。検察の発言は今までの裁判、及び国王様を否定する発言です!」
「しかし!被告人が有罪であるならば、裁判にあまり時間をかけてはいけません!時間切れは国の滅亡を意味します!」
「くどい!検察は今までの裁判を全て否定する気か!」
「静粛に!」
私をパンケの言い合いを国王が木槌を叩いて止める。
言い合いが止まったのを確認した国王は私を見ながら話し始める。
「そこまで言うのであれば、検察側は何か案があるのですか?」
「はい!検察側は……」
私は精一杯空気を吸い込んで高らかに宣言する。
「今からサンドの街へのがさ入れを要求します!」
「……はぁ?」
私の言っている意味が分からないのか、パンケから間の抜けた声が漏れる。ここは畳みかけるしかない!
「この裁判の論点はサンドの街にMP発射装置があるかどうかです!今から確かめれば、被告人が有罪かを素早く判断できます!」
「い、異議あり!そんな非常識な手段は認められるべきではありません!少なくとも、本日というのは急すぎます!」
「今、この時でないと真実は見えません。少しでも時間を与えると証拠を隠滅される可能性があるからです!被告に罪が無いのであれば、今日がさ入れがあったとしても問題ないはずです!」
私の言葉を聞いた国王が顎に手を当てて考え始める。この主張が認められないと、弁護側に時間を与えてしまう。そうなると、証拠も消されるかもしれないし、私も不敬罪で罰せられる可能性がある。お願い、認められて!
国王は数分考えた後、木槌を響かせる。
「王の決定を伝える。我々はこれより、サンドの街へ行き調査を実行する。弁護側と検察側は我と一緒にサンドまで付いてくるように」
「国王様!?」
国王の決定が信じられないのか、パンケが素っ頓狂な声を上げる。
「弁護側、何か問題があるのか?あるのであれば、検察側のようにハッキリと申してみよ」
「い、いえ……なんでもありません」
国王にすごまれて萎縮するパンケ。
私は嬉しくてガッツポーズしたい気持ちを抑えて平常心を保つ。ここで国王の機嫌を損ねたら、それこそ全てが水の泡に───
「やっほーーーーーい!凄ぇなラビュ!国王様を丸め込みやがったぜ!」
「なんでスイトさんは的確に最悪な行動が出来るんですか!後は私はラビです!」
私はスイトさんの口を塞ぎつつ、上がっている手を抑え込む。スイトさんを連れてきたことを後悔してきているんだけど?
国王はこちらを一瞥したが、特に何を言うでもなく木槌を打ち鳴らす。
「30分後に魔方陣よりサンドの街へ移動する。弁護側と検察側は必ず同行するように。これは王の命令である。以上!」
そう言うと、国王は再び木槌を打ち鳴らす。こうして、私たちはサンドの街へと行く事になった。
スイトとビタルは双子であり、本名をそれぞれ「スイト・フォガー」と「ビタル・フォガー」という。兄であるスイトは大雑把で明るい性格だが、記憶力に優れており一度見たものは忘れることはなく、直感も優れている。一方、弟のビタルは暗く他人を寄せ付けない性格だが、思考力に優れており、数々の事件を解決してきた。2人揃ったときに解決できない事件はないと言われているが、ビタルが中々スイトと裁判をしようとしないため、意外にも2人揃う事は少ない。────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
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上手くいけば、今日で決着をつけることも出来るだろう。私にとっての正念場といっても良いだろう。
「……よし」
頬を軽くたたいて気合を入れる。せっかくホウリさんが私を信じてくれたんだ。その想いには答えたい。
隣にいたスイトさんはそんな私をスイトさんが微笑ましそうに見てくる。
「おー、気合入ってるな」
「スイトさん、よろしくお願いします」
「よろしくな。でもよ、サポートが俺でいいのか?ビタルとかの方がいいんじゃないか?」
ビタルさんが不思議そうに尋ねてくる。確かにビタルさんは部屋で爆薬を使っちゃうような人だ。他の人からしたら正気を疑われると思う。現に検察室でビタルさんにサポートをお願いした時は精神科を紹介された。
念の為に言っておくが、私は気が狂ったわけではなく、ちゃんと考えがあってビタルさんに頼んだのだ。
「確かにビタルさんはちょっと変わってますけど、知識は検察の中で一番です。その力を私に貸して欲しいんです」
「そう言われたのは初めてだ。嬉しいぜ」
私の言葉にビタルさんが笑顔を深める。いつも笑っているような人だが、今は本当に嬉しそうな笑みだ。今言ったことも本心だが、実はもう一つ理由があるんだけど、今は黙っておこう。
「そういえば、ホウリは重症を負ったと聞いたが大丈夫なのか?」
「ホウリさんのお仲間から命を取り留めたと聞きました。ですが、意識は戻っていないらしいです」
ミエルさんからは念のため昨夜の出来事は話さない方が良いと言われた。何も分からない素振りをすることで私の身を守るためらしい。何も知らなくても襲われる可能性がある訳だけど、何もしないよりはマシだろう。
「そういえば、昨日、連続殺人犯が捕まったって聞いたんですけど何かあったんですか?」
私は何も知らないフリをして聞く。
「そうなんだよ。長年追ってた殺人犯が急に出頭してきてな。しかも怯えていて尋問が楽過ぎるんだよ。過去の犯行は聞いてもいないのに話し出すしよ。俺たちとしては難事件が解決して安心したような、拍子抜けのような感じだ」
「誰が捕まえたんですか?」
「さあな。いつの間にか憲兵所の前に縛られて放置されてたんだとよ。あのチイラに勝てるんだから只者じゃないのは確かだけどな」
スイトさんに嘘をついている様子はない。どうやら、フランさんの存在は憲兵には知られていないようだ。
「で?今日はどうすればいいんだ?ホウリから何か聞いてたりするのか?」
「ホウリさんからは仕込みだけは聞いていますが、戦略は私が考えました。それに……」
「それに?」
「戦い方はホウリさんから学びました」
「そうか、頑張れよ」
スイトさんが力いっぱい私の背中を叩く。力が強すぎて肺から空気が強制的に吐き出される。
「ごはっ!」
「あ!悪い!」
せき込む私の背中をスイトさんが優しくさする。その様子を見ていたのか、向かいの席から噴き出すような笑い声が聞こえた。
せき込みながら向かいの弁護席を見ると、バカにしたように笑っているパンケがいた。
「はっはっは、傑作だな。保護者がいないと、なにも出来ないと見える。まるで飼い主がいない時の子猫みたいだな?」
私は何も言い返さずにパンケを睨みつけるだけに留める。確実にこいつらがホウリさんと私を襲ったんだ。今すぐにでも殴りかかりに行きたい気分だ。
だが、ホウリさんから煽りに乗るのは意味が無いと学んだ。私は腸が煮えくり返る気持ちを抑えて、ぐっと堪える。
「ああん?俺のどこが子猫だぁ?ぶっ飛ばすぞ!」
「落ち着いてスイトさん!私の苦労が無駄になるし絶対スイトさんの事は言ってないです!」
殴りかかろうとしたスイトさんを必死で羽交い絞めにする。その様子を見たパンケは手を叩きながら笑い始める。
「はっはっは!君たちは検察官からお笑い芸人に転職したほうがいいね!」
「余計なお世話だ!」
飛び出しかねない勢いのスイトさんを私は全力で止める。やっぱり、スイトさんに頼んだのは間違いだったかな?
スイトさんを何とか落ち着けて、大笑いするパンケを睨む。
昨日まであんなに余裕が無かったのに、今日はこんなに余裕の表情をしている。ホウリさんがいない事もあるだろうけど、また何かを企んでいるんだろう。
私は目を閉じて小さく息を吐く。ホウリさんがいない以上、自分の力で戦うしかない。
「……天から見ててください、ホウリさん」
「ホウリの奴まだ死んでないんだよな?」
そうこうしていると、扉が開いて国王が入ってきた。いよいよ決戦だ。
国王が木槌を打ち鳴らし、開廷の合図をする。
「これよりローブオ・サンドの国家転覆に関する裁判の審議に入る。前回、被告の国家転覆の容疑を証明する証言があった。弁護側はそれを覆す証拠はあるか示すように」
あるわけない、普通はそう思うだろう。だが、あのパンケの顔を見るに何か考えがあるのは明白だ。
私の考えの通り、パンケはニヤリと笑うと口を開いた。
「あります」
「ほう?では、根拠を示すように」
「分かりました」
パンケは国王に一例すると一枚の紙を取り出す。
「検察側の証人と検察側として出廷していたキムラ・ホウリがサンドの街で会っていたという証言があります」
「証言の要請ではないのか?」
国王の言葉にパンケが首を振る。
「証言によると、キムラ・ホウリは証人に何かを渡していたようです」
「弁護側は検察側が賄賂を渡していたと主張する気ですか?」
「その通りです」
嘘だ。ホウリさんが賄賂をしている所を見られるとは思えない。多分でっち上げの証言だ。でも何のために?
私が考えている間にも弁護側の主張は続く。
「この証言の正当性が認められれば、検察側の証人の信憑性は低くなります。そうなれば、被告の容疑は証明できないことになるでしょう」
「その証人はどこに?」
「サンドの街から移動中です。明後日には到着するでしょう」
パンケが私の顔を見て気持ち悪く笑う。その表情を見て私はパンケの考えを理解した。
パンケの目的は時間稼ぎだ。今の状況だと勝てる見込みはない。だけど、可能性をちらつかせて時間を稼ぐつもりだ。時間があれば証拠や証言を捏造してこちらの有利を崩していくつもりだろう。
仮にホウリさんがいた場合は捏造なんて見破られるだろうし、そもそも時間稼ぎすらできないだろう。ホウリさんがいない今、相手は全力で時間を稼ぎにくるだろう。
「弁護側は証人の召喚を要求します」
「異議あ───」
スイトさんもパンケの考えが理解出来たようで、異議を申し立てようとする。そのスイトさんの異議を私は口を押えて止める。
「検察側はどうした?異議を申し立てるか?」
「いえ、異議はありません?」
私の言葉にスイトさんが驚いた表情で私を見てくる。
「おい、いいのか。あいつの狙いは……」
「分かってます。相手の狙いは時間稼ぎです」
「だったらなんでだ?」
「考えがあります。私に任せてください」
「よく分からないが分かった」
スイトさんは1度頷くと腕を組んで前に向き直る。
私たちが異議を取り消した後もパンケの主張は続く。
「国家転覆は重い罪です。だからこそ、私たちは真剣に議論していく必要があるのです!」
「弁護側の意見は分かった。では、審議はその証人が来るまでは休廷とする。検察側から異議はないな」
国王が検察に意見を求めてきた。ここが勝負所だ!
「ありませんよ。あんな新人検察官に有意義な裁判が出来る訳ありませんしね」
「弁護側は口を慎むように。それ以上の暴言は退出を命じます」
「おっと、失礼しました」
緊張で国王とパンケのやり取りが聞こえない。今からの発言は下手をしたら私自身が終わるかもしれない発言だ。そう考えると自然と恐怖で手が震える。口が固まり、声が出なくなる。もし失敗したら……
……いや、そんなのは関係ない。ここでやらないと、目の前の犯罪者が野放しになる。それだけはやっちゃだめだ。
そして何よりも、ホウリさんが浮かばれない。そんなの絶対に嫌だ!
私は小さく息を吐いて国王を見据える。
「検察側から異議を申し立てます!」
「ほう?どんな異議だい子猫ちゃん?」
ニヤニヤと私を見てくるパンケ。だが、私の発言でその笑顔は固まることになった。
「私が異議を申し立てるのは弁護側ではありません。国王様に異議を申し立てます!」
「は?」
私の言葉で部屋の中の空気が凍り付くのが分かる。国王も眉をひそめて不機嫌な表情に変わっていく。
怖い、けどここで怯んじゃだめだ!
「国王様聞きましたか?検察側は国王様に異議があるみたいですよ?」
「その通りです。国王様の決定に対して異議を申し立てます」
「国王様の決定は絶対!何者もその決定を妨げることは出来ない!」
「検察側、どういう意味か説明しなさい」
国王の視線が更に冷たいものになる。そんな中で、私は必死に口を回す。
「今、弁護側は時間を稼ごうとしています!被告人が本当に国家転覆の準備を進めているのであれば、時間を稼いでる間に神の使いを奪取して装置を発動する可能性があります!」
「異議あり!私たちは今まで被告人が有罪かを議論してきました。検察の発言は今までの裁判、及び国王様を否定する発言です!」
「しかし!被告人が有罪であるならば、裁判にあまり時間をかけてはいけません!時間切れは国の滅亡を意味します!」
「くどい!検察は今までの裁判を全て否定する気か!」
「静粛に!」
私をパンケの言い合いを国王が木槌を叩いて止める。
言い合いが止まったのを確認した国王は私を見ながら話し始める。
「そこまで言うのであれば、検察側は何か案があるのですか?」
「はい!検察側は……」
私は精一杯空気を吸い込んで高らかに宣言する。
「今からサンドの街へのがさ入れを要求します!」
「……はぁ?」
私の言っている意味が分からないのか、パンケから間の抜けた声が漏れる。ここは畳みかけるしかない!
「この裁判の論点はサンドの街にMP発射装置があるかどうかです!今から確かめれば、被告人が有罪かを素早く判断できます!」
「い、異議あり!そんな非常識な手段は認められるべきではありません!少なくとも、本日というのは急すぎます!」
「今、この時でないと真実は見えません。少しでも時間を与えると証拠を隠滅される可能性があるからです!被告に罪が無いのであれば、今日がさ入れがあったとしても問題ないはずです!」
私の言葉を聞いた国王が顎に手を当てて考え始める。この主張が認められないと、弁護側に時間を与えてしまう。そうなると、証拠も消されるかもしれないし、私も不敬罪で罰せられる可能性がある。お願い、認められて!
国王は数分考えた後、木槌を響かせる。
「王の決定を伝える。我々はこれより、サンドの街へ行き調査を実行する。弁護側と検察側は我と一緒にサンドまで付いてくるように」
「国王様!?」
国王の決定が信じられないのか、パンケが素っ頓狂な声を上げる。
「弁護側、何か問題があるのか?あるのであれば、検察側のようにハッキリと申してみよ」
「い、いえ……なんでもありません」
国王にすごまれて萎縮するパンケ。
私は嬉しくてガッツポーズしたい気持ちを抑えて平常心を保つ。ここで国王の機嫌を損ねたら、それこそ全てが水の泡に───
「やっほーーーーーい!凄ぇなラビュ!国王様を丸め込みやがったぜ!」
「なんでスイトさんは的確に最悪な行動が出来るんですか!後は私はラビです!」
私はスイトさんの口を塞ぎつつ、上がっている手を抑え込む。スイトさんを連れてきたことを後悔してきているんだけど?
国王はこちらを一瞥したが、特に何を言うでもなく木槌を打ち鳴らす。
「30分後に魔方陣よりサンドの街へ移動する。弁護側と検察側は必ず同行するように。これは王の命令である。以上!」
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