魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第九十五話 罠か……

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 魔国に向かう事が決まり、俺たちは馬車に揺られながら王都から魔国へ向かっていた。俺は手綱を握りながら進行方向へと目をやる。
 外には草原が広がっており、道が地平線まで続いている。見ているだけで穏やかな気持ちになる景色だ。


「……すぅー、すぅー」
「ノエル?……眠ってしまったか」
「天気が良いからな。昼寝したくなる気持ちも分かる」


 フランの肩に寄りかかりながら、ノエルが寝息をたててる。暖かい陽気の中で昼寝をするのはさぞ気持ちがいいだろう。
 だが、ロワはつまらなさそうに頬杖をつきながら呟く。


「僕は暇ですけどね。移動してるから何も出来ませんし」
「やることならあるぞ。魔語の勉強とMP操作練習、好きな方を選んでいいぞ」
「……僕もお昼寝したいです」
「ほっほっほ、ダメ」
「ですよね」
「分かったら単語帳を開け」
「はーい……」
 

 ロワに単語帳を開かせて単語を読ませる。


「えーっと、ruragiri……意味は裏切りですか。ondoluruが本当に、tolutinが人質」
「心なしか単語が物騒だな?」
「気のせいですよ」


 ロワの単語音読を聞きながら俺は手綱を操る。虚ろな目をしながら単語を暗唱するロワをミエルは心配そうな目で見る。


「大丈夫かロワ?休憩はいらないか?」
「大丈夫です。僕だけ魔語が喋れないので頑張ります」
「さっきまでサボろうとしていた奴のセリフとは思えないな。ミエルに良いところ見せたいのか?」
「別にそんな事ないですよ?」
「……そうか」


 露骨に残念そうな顔をするミエル。なんか可哀そうだからだから助け船だすか。


「ミエル、ロワに魔語を教えてくれないか?俺、馬の操縦に集中したいからよ」
「私は別に構わないが、ロワはいいのか?」
「僕もいいですよ。お願いしますミエルさん」
「わかった、微力ながら力を貸そう」


 ロワとミエルが単語帳を開きながら勉強を始める。
 こうして、思い思いの過ごし方をしながら旅は続くのであった。


☆   ☆   ☆   ☆


 夜、満点の星空の下で俺たちはキャンプの支度をしていた。
 俺とミエルは焚火を起こして料理をする。その様子をノエルが興味深そうに見てくる。


「何作ってるのー?」
「スープだな。今日は献立はスープとパンだ」
「えー、それだけ?」
「旅では豪華な食事が出来ないのが普通だ。少しは慣れておかないとな」


 スターダストでは普段は美味い飯を食うようにしているが、旅をしているといつも美味い飯が食えるとは限らない。だから普通の飯にも慣れるために、定期的にあまり美味くない飯も食うようにしている。今日はその日って訳だ。


「そろそろ出来るぞ。ロワとフランを呼んできてくれ」
「はーい。フランお姉ちゃーん、ロワお兄ちゃーん!ご飯だよー!」


 器に人数分のスープを注ぎ簡易テーブルに並べる。そこへノエルがロワとフランを連れてやってきた。


「もう飯か。今日の献立は……なんじゃこれ」
「パンとスープだ」
「今日は質素デーですか。僕はこの献立好きですよ」
「私も遠征した時によく食べていたな。好きにはなれなかったが」

 
 三者三葉の反応をしながら夕飯を食べ始める。
 すると、パンを齧っていたロワがポツリと呟いた。


「それにしても、こうして静かにご飯を食べるのも久しぶりですね。この前まで領地から追われてましたし、最後にゆっくりご飯を食べたのはいつでしたっけ?」
「確か、1週間前の夕飯以来か?」
「そこまで時間経ってないのう?」
「裁判したり戦闘したり忙しかったからな。短期間でも昔のように感じるな」
「かなり濃密な時間でしたね」


 今までの事を思い出しながらパンをちぎる。思い返してみたらかなり危ない橋を渡ってきたものだ。いつもの事だが。


「僕、もうあんな危ない事したくないですよ」
「このパーティーにいる限りは定期的に危ない橋を渡るから覚悟しとけよ?」
「え?今まで見たいな事がこれからもあるんですか?」
「そんな訳ないだろ」
「ですよね。あんな事はそうそう……」
「今までがどれだけ楽だったか教えてやる」
「あれ以上ですか!?」


 ロワが顔を引きつらせながらスプーンを落とす。少し怖がらせ過ぎたかもしれない。


「冗談だ。あんなピンチは近いうちは無いだろう」
「近くないうちにはあるんですね」


 顔を引きつらせながらスプーンを拾う。その様子を見たフランがため息を吐く


「これこれ、怖がらせるでない。ロワが顔面蒼白じゃぞ」
「悪い悪い、からかいたくなってな」
「心臓に悪いですよ……」
「笑えない冗談はやめろ。そういえば、これから行く魔国はフランの故郷だったな?何か観光地でもあるのか?」


 ミエルが強引に話題を変える。強引すぎる気がしないでもないが、ここで掘り返すのはやめておくか。
 ミエルの言葉にノエルが小首をかしげる。


「ミエルお姉ちゃんは魔国に行った事あるんだよね?遊ばなかったの?」
「基本的には仕事だったからな。ラッカに連れられて色々な店には行ったが、あまり観光ということはしなかったな」
「そうじゃったか。ならば、今回で存分に観光するがよい」
「どんな観光地があるんですか?」
「自然だと大きな滝とかキレイな湖とかがあるのう。街の中じゃと劇場とか有名じゃな。ご飯も美味いぞ」
「故郷だけあって詳しいな」
「この本に書かれている事じゃ。間違いない」
「本頼りかよ」


 ドヤ顔でガイドブックを取り出すフラン。誇れるような行動じゃないと思う。


「それにしても、覚悟してましたが魔国って遠いですね。一日中馬車の中にいるのは疲れますよ」
「フランのワープクリスタルが使えればいいのだが、そうもいかないしな」
「もう少しでワープ出来る地点に付く。それまでの我慢だ」


 ワープには大量のMPが必要になるとはいえ、距離によっては魔石を大量に集めれば移動できない事もない。
 好きに移動できてしまうと奇襲や泥棒がしやすくなるため、この世界では勝手にワープできない法律がある。広大かつ移動に危険が伴う区間は例外的にワープが認められているが、その区間以外でワープをすると即刻逮捕されて、最悪の場合死刑になる。
 この法律は魔国と人国の両方にあるから注意が必要だ。
 何気ない雑談を繰り返しながら、俺たちは食事を楽しむ。全員の器が空になり、フランが全員の器を回収し始める。
 時間は10時くらい、頃合いだな


「さて、そろそろ始めるか」
「何をですか?」
「決まってるだろ」


 俺は木刀を出してニヤリと笑う。


「夜戦の特訓だ」



☆   ☆   ☆   ☆



 ライトを消し頼れるものが月明かりだけになった野原の中に俺は立っていた。
 勝負は1撃ルール、誰かに1撃当てられたら負けのシンプルなルールだ。こういう特殊な訓練は中々できないから有難い。しかも。皆も動きたかったのか、かなり乗り気だったし丁度いいだろう。
 俺は暗い中で目を凝らして周りを確認する。月が出ているとはいえ、暗くてかなり見えづらい。まあ、俺は夜目が効くから明るい時と同じくらいの見え方だが、他の奴らはそうはいかないだろう。
 この草原は座れば身を隠せるくらいに草が高い。全員、身を低くしながらチャンスを伺っていることだろう。
 その中で立っている俺は格好の的の筈だ。多分、この状況で先に動くのは……。
 俺が考えを巡らせていると、何かが軋む音が後ろから聞こえた。
 俺は音がした方向へ向き直り、一気に距離を詰める。すると、草の陰から矢が俺に目掛けて飛んできた。
 俺は矢を手甲で弾き、さらに距離を詰める。これで誰が狙ってきたのかは大体分かった。後は位置を特定してぶん殴るだけだ。
 俺は次々と飛んでくる矢を弾きながらさらに距離を詰める。更に走って矢を放った人物との距離が攻撃可能な程に縮まる。俺はそのままの勢いで……


「オラァ!」
「うおっ!?」


 草の間に目掛けて新月を投げつけた。すると、乾いた音と共に弓が宙へと舞った。
 俺は新月に結んでいたワイヤーを巻き取って新月を回収する。そして、すかさずそいつへと飛びつき喉元に新月を突き立てた。


「一本だ、?」
「バレとったか」


 手を上げて降参の意思表示をしているフランの喉から新月を離す。すると、フランは悔しそうにつぶやいた。


「矢を使えばロワだと油断して飛び込んでくると思ったんじゃがな。なぜ分かった?」
「矢の起動が微妙に修正されて飛んできたからな。ロワなら修正しなくても当てられるから、お前がロワのフリをしていると分かった」
「弓の使い込みが足りなかったか。スキルに頼り過ぎじゃったかのう」
「それで強いから手に負えないんだがな」


 さて、一番厄介なフランは倒した。後はあの3人だな。
 俺がそう思っていると、脱落したはずのフランの口がグニャリと歪んだ。


「ホウリや」
「なんだ」
「実を言うと、わしの策は
「……なるほどな、罠か」


 フランが囮になってここにおびき寄せて、俺を包囲するって訳か。体張った作戦だこと。
 俺がフランの意図に気が付いた瞬間、周りに3つの気配が表れた。フランのスキルで気配を隠していたって所か。


「結託してやがったか。個人戦の筈なんだがな」
「決着ならばちゃんと付けるぞ?お主を倒した後でな」
「俺に対するヘイトが高すぎるんだよ」


 自業自得だと思う所もあるが、それにしても俺を負かそうという思いが強すぎる。
 まあ、だからと言って


「負けるつもりは無いがな」


 この程度の逆境なんざ今まで散々経験してきてんだよ!


「行くぞお前ら!」


 静かな夜の野原に俺の叫びが木霊した。こうして、夜は更けていくのだった。



☆   ☆   ☆   ☆


 次の日の朝、俺たちは地平線から上る太陽と共に起床した。


「ふぁあああ、気持ちのいい朝じゃな」
「んんん、そうだな」


 大きく伸びをするフランの横で、俺も大きく伸びをする。こういう景色を見ながら起きると良い一日になる気がするな。


「フランさーん!ホウリさーん!朝ご飯出来ましたよー!」
「分かった!今行くー!」


 ロワに呼ばれ、朝食が置かれた席へと付く。


「それじゃ、いただきます」
「「「「いただきまーす!」」」」


 こうして、時にゆっくりと、時にはちゃめちゃな俺たちの旅が始まったのだった。
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