魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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本格ミステリー 絶海の孤島の密室殺人

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※この話はエイプリールフールの嘘話で本編とは無関係です。ノリがはっちゃっけてますので気を付けてください。


 草木も眠る丑三つ時、窓には暗い空から降った雪が強風によって叩きつけられるのが見える。暖炉の中の赤々とした炎が薄暗い部屋の中を灯す。
 部屋の中にはベッドや椅子、テーブルといった簡素な家具に、バッグや着替えといった物がある。
 そんな中で、一つの影が炎の揺らめきに合わせて揺れる。真っ赤な絨毯がそれによって更に赤黒く染められていく。
 私はそれに近付いて、状況を調べていく。瞳孔は開いていて脈は無い。極めつけは頭にある打撲痕。その傷口から今も血が溢れてきている。首に付いている真っ赤な宝石のネックレスが赤黒い血で汚されていく。
 私はそれから手を放して大きく息を吐く。まぎれもない、これは死体だ。


「……まさかこんな事になるなんて」


 私は簡単な捜査を済ませると、部屋から出ていくのだった。


「刑事さん!?どうでしたか!?」


 部屋を出た私に涙目で縋り付いてくる女性がいた。かなり取り乱している彼女の肩を抑え、ゆっくりと告げる。


「……既に亡くなっていました」
「そんな……」


 その人は膝から崩れ落ちて、そのまま泣きじゃくってしまった。
 隠しきれない事だったとはいえ、もう少し遠回しに伝えた方が良かっただろうか?
 泣きじゃくる彼女を見て、心が痛んでくる。しかし、今は後悔してる場合ではない。出来ることをやらなくては。
 私は騒ぎを聞きつけて集めって来た人達に向かって言う。


「皆さん、ロビーに集まってください。これから事情聴取を行います。くれぐれも怪しい行動はしないように」


 周りの人達はあらぬ疑いを掛けられたくないのか、おとなしくロビーへと集まって来る。
 私は泣きじゃくっている女性にかがんで話しかける。


「ショックな所すみません、お話伺えますでしょうか?今は無理であれば落ち着いてからで構いません」
「……ぐすっ」


 女性は流していた涙を袖で拭うと、弱々しく立ち上がった。


「……私もロビーに行きます。悲しいけど、泣いてばっかりはいられないから」
「ありがとうございます。では、行きましょう」


 私は女性を連れてロビーに向かう。
 ロビーではこのペンションに泊まっている人たちが全員集まっていた。それぞれは椅子に座っていたり、壁にもたれかかっていたりと好きにしているが、一様にピリピリとした雰囲気を纏っている。ただ事ではない事を直感で理解しているのだろう。
 私はロビーにある暖炉の前に立つ。怖いけどやるしかない。


「皆さん、夜分遅くにすみません。私は刑事のラビ・プレンと言います」


 警察手帳を見せながら説明を開始する。これで信じて貰えるはずだ。


「皆さんも気付いているとは思いますが、このペンションで殺人事件が起こりました」


 私の言葉に皆が一斉にざわつく。人が死んだと聞いたら無理もないだろう。
 そんな中で壁にもたれ掛かっている冷静な表情の男性が口を開いた。


「詳しい状況を聞かせてくれ。誰がどう死んでいたんだ?」
「亡くなったのはこの方の友人である木下 縁さんです。頭を殴られていました。凶器は部屋の中にはありませんでした」
「鍵は?」
「扉も窓もかかってました。鍵も部屋の中にありました」
「え?それって……」


 誰かの呟きに私は頷いて答える。


「密室殺人という事です」
「そんな小説みたいな事が本当にあるのでござるのか?」
「あると言っていただろ。聞いてなかったのか?」
「あ?喧嘩売ってるでござるか?」
「ほう?やるか?」


 刀を腰に刺した男と目つきが鋭くガラが悪そうな男が睨みあう。そんな2人をポニーテールの女性がたしなめる。


「あんた達、いい加減にしなさい!今はいがみ合っている場合じゃないでしょ!」
「……ふん!」
「……ちっ!」


 2人はそっぽを向き、何とか喧嘩が終わる。今別の面倒事を起こされるのは困るからかなりありがたい。


「では、皆さんのアリバイを伺っていきます」
「俺らを疑ってんのか?」
「この大雪で外から人が来れるとは思えない。刑事さんの言う通り、俺達の中に犯人がいるのは間違いないだろう」
「そう言う事です。私の左の方から順番に聞いて行きます」


 私に同意した男の人に向き直る。メモを取り出して証言もメモしないとね。
 黒髪に中肉中背の人だ。これといった特徴は無いけど、地味といった印象も無い不思議な人だ。


「お名前は?」
「木村鳳梨。こっちは友人のフランだ」
「フランじゃ。よろしく頼む」


 鳳梨さんの隣にいた赤髪でツインテールの子がペコリと頭を下げる。今のところ怪しい所はないけど、意外とこういう人が犯人の場合もある。油断せずに行こう。


「ここへはどのような用件で?」
「旅行です。スキーをしようと思ってまして」
「事件があった頃は何を?」
「この部屋でポーカーをしてました。ここに何人かいたので証明出来ると思いますよ?」


 周りを見てみると、何人かが頷いていた。アリバイはしっかりしているみたいだ。


「フランさんは何を?」
「この部屋のソファーで寝ておったわい」
「この部屋を離れた時間はありますか?」
「わしはずっと寝てたぞ」
「俺は一度だけトイレに」
「最後に荷物を見せてください」
「分かりました」


 特に反発も無く、鳳梨さんとフランさんが手荷物を出してくる。
 私は荷物を開けて手当たり次第に物を出してみる。特に怪しいものは……


「ん?」


 荷物の中から鍵状になっている棒状の道具が複数出て来た。これって、ピッキングツールじゃない?
 ……いやいや、殺人事件が起きている中で疑われるような道具が入ってるバッグを渡す訳がない。きっと、似ているだけで全く別の道具───


「お、それ俺のピッキングツールじゃねぇか」


 やっぱりピッキングツールだった!?


「あ、あの……なんでピッキングツールを持ってるんですか?」
「何かあった時に必要だろ?」
「何があったらピッキングツールが必要になるんですか……」
「知らない部屋に閉じ込められたりとか?」
「なんで疑問形なんですか」


 私の体から力が抜けていくのを感じる。無実だとしても真顔でピッキングツールを差し出すなんて普通じゃない。
 いや待って、護身用(?)に持っているだけだったらあまり使った事が無い筈。買ったけど使えないんだよねー、みたいな証言があれば一旦は様子見で良いかも……


「しかも聞いて驚け。ホウリはのう、世界ピッキング大会で優勝する程の腕前なんじゃぞ?」
「一番最悪の証言!」
「ホウリは別名『魔術師』とも呼ばれておってのう。ピッキングの跡すら残らぬのじゃ」
「よせよ、照れるじゃねえか」
「容疑が深まってるんですよ!?照れてる場合ですか!?」


 鑑識をしてピッキングの跡が無いから問題ないっていう方法も使えなくなった。頭が痛くなってきた。


「えー、あなたが犯人じゃないんですか?」
「混乱してストレートに聞いて来たのう?」
「俺達にはアリバイがあるから無理だぞ?」
「……そう言えばそうでしたね」


 アリバイがある以上、この二人に犯行は無理だ。それを分かっているから余裕なのかな?


「念のため、フランさんもピッキングが出来るか聞いていいですか?」
「わしは出来んぞ」


 フランさんの言葉を聞いて私は胸を撫でおろす。
 良かった、これ以上怪しい人が増えたら身が持たなく……


「壁をすり抜ける事は出来るがのう」
「……へ?壁を無視して部屋の中に入れるって事ですか?」
「そうじゃ」
「いやいや、そんな事出来る訳ないですよ」


 ピッキングとは違い、壁抜けなんて現実で出来る筈はない。何かの冗談だろう。


「なんじゃ?もしかして本当に出来るか疑ってるのか?」
「だって、そんなの出来る訳ないじゃないですか」
「ならば仕方ないのう。実践してやるわい」


 フランさんはそう言うと、リビングの壁に向かって全力で走り出した。突然の出来事に呆気に取られていると、フランさんの体が壁にめり込んでいき、全身が壁の向こうへと消えていった。


「どうじゃー、信じたか?」
「信じますけど、最悪な形ですよ!?」


 フランさんが壁から顔だけを出してくる。マジマジと見てみるが種も仕掛けも無い。これなら鍵が無くても部屋に侵入出来る。


「言っておくが、わしにはアリバイがある事を忘れるでないぞ?」
「分かってますけど……」


 壁から出てくるフランさんを見て、何と答えていいか分からなくなってくる。ホウリさんのピッキングは技術が凄すぎるだけで現実な方法だったけど、壁抜けに関してはオカルトの域に入っている。
 というか、なんで疑われそうな事を正直にいってくるのだろうか。


「壁抜けなんてどうやってるんですか……」
「抜けようと思えばできるぞ?」
「思っただけで出来るなら苦労しないですよ」


 密室が無視できる人がいきなり出て来た。アリバイがあるから犯行は不可能なのが救いかな。


「とりあえず、ピッキングツールは預かっておきます。他の人が使った痕跡があるかもしれません」
「分かりました」


 疲れで重くなった体を何とか動かして、次の人物に視線を向ける。


「えー、お名前と要件と犯行時刻に何してたかを教えてください」


 ガタイのいい男の人の後ろに、白衣を着た小柄で銀髪の女の子が隠れている。男の人はやれやれと言った様子で答える。


「俺の名前は木部智也。ほら、お前も自己紹介しろ」
「……リルア」


 リルアさんはそれだけ言うと、また智也さんの陰に隠れた。
 智也さんは申し訳なさそうに頭を掻く。


「すみません、リルアは人見知りで……」
「いえ、そう言う人も結構見て来たので大丈夫です。ここには何の御用で来ましたか?」
「リルアが発明家をしてるんですが、静かなところで研究したいと言いまして。結果的にかなり騒がしくなってしまいましたけどね」
「発明家ですか。珍しいですね」


 こんなに小さな子が発明家だなんて。世界には色々な人がいる物だ。


「アリバイはありますか?」
「俺はここでポーカーをしていました」
「リルアさんは?」
「……部屋で発明をしていた」


 リルアさんにはアリバイがない。でも、死因は撲殺だしリルアさんじゃ力も高さも足りない。
 でも、人を見かけで判断するのは良くない。念のため話を聞こう。


「ちなみに、リルアさんは力持ちだったりします?」
「この細腕を見て力持ちだと思うか?」


 リルアさんが白衣の袖をまくって見せる。筋肉が無いのではと思えるほどに細い腕が見える。これだと、2Lのペットボトルすら持てなさそうだ。


「確かにそうですね。お二人はなぜここに?」
「リルアが静かな所で研究したいって言うんで俺が連れて来た。まさか、こんなに騒がしくなるてゃ思わなかったけどな」
「最後に持ち物だけ見せて貰えませんか?」
「分かった。ほら、リルアも出せ」
「君がそう言うのなら仕方ないな」


 2人が荷物を差し出してくる。智也さんは大きなボストンバッグ、リルアさんは小さな手提げかばんみたいだ。
 早速、中を開けて何が入っているか確認する。智也さんのバッグには着替えやアメニティと言った旅行用品が入っている。特に変わった物は見当たらない。
 次はリルアさんのバッグを見てみる。あまり大きくないし、チェックもすぐに済むと思うけど……


「ん?なにこれ?」


 バッグの中から拡声器のような機械が出てくる。これが発明品なのだろうか?
 取り出した機械をリルアさんと智也さんに見せてみる。


「これは何ですか?」
「リルアの発明品だな。俺にはどう使うか分からん」


 智也さんが後ろにいるリルアさんを無理やり前に押しやる。リルアさんはあまり乗り気ではない様子だったが、智也さんに押され渋々話し始める。


「それは私が発明した物だ」
「どういう使い方をするんですか?まさか、鍵を開けたり、壁を抜けたり出来るんですか?」
「そんな常識外れな事が出来る訳ないだろう」
「その常識外れの行動をする人達がいるんですよ」


 思わず後ろの2人を見てしまう。まあ、こんな人達は早々いないだろう。


「で、それの使い方だったか?」
「そうですね。見たところ拡声器みたいですけど?」
「これはタイムマシン、『過去は嘘では欺けない』だ」
「……は?」


 リルアさんの言葉が理解できない。タイムマシン?


「タイムマシンって、あのタイムマシンですか?」
「ああ。それを使えば時間を移動することが出来る」
「……どの口が常識外れと言ってるんですか?」


 本当なら常識がひっくり返る程の発明だ。よくも常識人みたいな態度が取れたものだ。というか、ネーミングセンスがひど過ぎる。


「……それさえあれば過去から今日に来て過去に逃げる事も出来ますね」
「それは無理だな」


 私の言葉にリルアさんは首を横に振る。


「その機械は1日後にしか行けず、戻って来る事も出来ない。再使用するにも半日は時間を置かないといけないから連続で使用は出来ない。それに加えてこの機械毎タイムスリップすることは出来ない」
「使用された形跡は?」
「少なくとも今は使える。だからこれを使って脱出してはいないだろう。だからこれを使って逃げたという事もない筈だ」


 私はタイムマシンをマジマジと見つめる。これを使えば昨日の内に部屋に入れば、今日に飛んで進入することは出来る。しかし、機械が使われていないとなると、どのみち鍵を開けて出て行かないといけない。


「凄い物ですけど、今回の事件には関係ないようですね」
「というか、そのタイムマシンって本物なのでござるか?」


 サムライっぽい人が疑問を投げかけてくる。確かに、本物であるという前提のもとで考えていたけど、リルアさんの嘘である可能性もある。


「リルアさん、これがタイムマシンであると証明できますか?」
「昨日、このリビングで試験的に使用している。そろそろ、そのテーブルに飛ばした物が出現する筈だ」


 リルアさんがテーブルを指さす。すると、光に包まれて長方形の真っ白い物体が出て来た。


「これは?」
「豆腐だ」
「何で豆腐!?」
「強度が低い物に及ぼす影響を調べる為だ。少しどきたまえ」


 リルアさんは豆腐に近付くと、様々な角度から観察したり摘まんだりしていたが、すぐに興味を無くしたように智也さんの後ろに戻っていった。


「情報は得た。食べても良いぞ」
「テーブルに直置きされてる豆腐は食べたくないですね……」


 豆腐は置いといてこの2人に犯行は出来なさそうだ。次の容疑者の取り調べへと移る事にしよう。
 次の人は目つきが鋭くかなり不機嫌そうな男の人だった。サムライの人と言い合いをしていたのもこの人だ。
 リルアさんとは違い、寄られれば切られそうなほどに鋭い雰囲気だ。正直話しかけたくない。
 私は怖い気持ちを抑えて事情聴取を始める。


「まずは名前を教えてください」
「小山 祐樹」


 聞かれたこと以外言わないという事か、腕を組んで口を閉ざす。


「あの、ここへは何をしに?」
「放浪していたらここにたどり着いた。こんなにうるさくなると知っていたら他に行ったんだがな」
「持ち物を見せてくれませんか?」


 祐樹さんは睨みつけてきたが、拒んだ方が面倒な事になると思ったのか、素直にカバンを渡してくれる。
 持ち物を見てみるが、あまり怪しい物は入っていない。特に言う事もなく、祐樹さんにバッグを返す。


「ありがとうございます。ちなみに、事件まで何をしていましたか?」
「キッチンで飯を作っていた。自由に使っていいって言われていたからな」
「誰か祐樹さんを目撃した人はいますか?」
「俺がトイレに行った時にはいたぞ」


 鳳梨さんが手を挙げて答える。目撃証言はあるか。でも、途中で抜け出して犯行に及ぶ事も出来るかな?
 考え込んでいる私に祐樹さんは苛立たしげに話しかけてくる。


「もういいか?」
「あ、すみません。最後に特別な力があれば教えてください」


 我ながらバカみたいな質問だと思うけど、前例が3つもあると質問せざる負えない。
 祐樹さんは少し黙っていたが、そっぽを向いて答えた。


「……ない」
「刑事さーん!そやつは嘘を吐いているでござるよー!」


 祐樹さんの言葉に嬉しそうに指摘する侍さん。指もさして顔も凄い笑顔だ。


「どういうことですか?」
「こやつが離れた所にあるカップを引き寄せていたでござる!絶対に何か特別な力があるでござるよ!」
「……ちっ」
「どういう事ですか?」


 バツが悪そうな祐樹さんに私は問い詰めてみる。嘘を吐くという事はやましい事がある可能性が高い。ここは問い詰めた方がいいだろう。


「もう一度聞きます。祐樹さんには特別な力があるんですか?」
「俺は物触れずに動かすことが出来る」
「……サイコキネシスって奴ですか?」
「そうだ」


 祐樹さんがテーブルに手を伸ばすと、豆腐がひとりでに浮き上がった。目を凝らしてみるが、種や仕掛けなどは見受けられない。念のため、上や下に手を通してみるが何も引っ掛かりはない。どうやら、本当にサイコキネシスのようだ。


「これ以外に能力は?」
「無い。これだけだ」
「嘘つくな」


 今度は鳳梨さんからの指摘が入る。指摘を受けた祐樹さんが鳳梨さんを睨みつけた。


「なんだと?」
「俺には嘘を吐いている奴が分かるんだよ。お前、嘘を吐いたな?」
「そうなんですか、祐樹さん?」


 私の質問に祐樹さんが歯を食いしばって鳳梨さんを睨みつける。そして溜息を吐くと観念したように話し始めた。


「俺は透視も出来る。部屋の中も丸見えだ」
「となると、透視で部屋の中を見てサイコキネシスで凶器を動かして殺害。そういう方法も可能ですね?」
「……だから言いたくなかったんだよ」


 私の言葉に祐樹さんが頭を押さえる。確かに、こんな疑われそうな能力を持っていれば隠したくもなる。素直に教えてくれた鳳梨さん達が異常なだけだ。
 それを聞いた侍さんは再び祐樹さんに指を差す。


「やはりお主が犯人でござるな!そうとしか考えられないでござる!」
「いや、それは無いな」


 意外にも、侍さんの言葉を否定したのは鳳梨さんだった。
 鳳梨さんの言葉に侍さんが動揺したような表情になる。


「な、なんででござるか?」
「考えても見ろ。サイコキネシスで部屋の外から殺したとして、凶器の始末はどうするんだ?刑事さんが言うには凶器は部屋に無い筈だろ?」
「そうですね、凶器は部屋にありませんでした」
「サイコキネシスでは凶器は処分できない。そうだろ?」
「ま、窓から捨てたのでは?」


 侍さんはどうしても祐樹さんを犯人にしたいみたいだ。さっきのやり取りを見るに、2人はかなり中が悪そうだ。


「窓には鍵がかかってるとも言っていたから無理だ。ちなみに、刑事さん」
「なんですか?」
「窓の傍は濡れていましたか?」
「いえ、濡れてませんでした」
「この吹雪の中で窓を開けたら濡れていないと可笑しい。つまり、窓から凶器を捨てることは出来ない」
「そ、それは……何かこう…………あっと驚くようなトリックを使ってでござるな……」


 鳳梨さんの言葉に侍さんが目を泳がせる。どれだけ祐樹さんを犯人にしたんだろうか。


「ありがとうございました祐樹さん。言いにくい事を聞いてしまってすみませんでした」
「俺が無関係だと分かってくれればそれでいい」


 そう言うと、祐樹さんは再びソッポを向いた。どうやらまだ怒っているようだ。後でちゃんと謝っておかないと。


「えーっと、次はあなたですね。名前をお願いします」


 私は祐樹さんの隣にいた女の人に事情聴取をする。
 女の人はポニーテールでかなりスポーティーな格好をしていた。その性かかなり活発な印象を受ける。


「私の名前は花田 絵里。ここへはスキーをし来たわ。あと、バッグも確認するんでしょ?」
「あ、ありがとうございます」


 ここまでの流れから聞かれている事が分かっていたのか、絵梨さんがスムーズにバッグを差し出してくる。
 私は受け取ったバッグを確認するが、やはり変わった物はない。凶器になりそうな物もないかな。


「ありがとうございます。次に時間があった時のアリバイをお願いします」
「ここでポーカーをしていたわ」
「アリバイはある訳ですね。最後に……」
「特殊な力ね。お察しの通りあるわよ」
「やっぱりですか」


 もう驚かなくなってきちゃったな。


「どんな能力ですか?」
「単純よ、力が異常に強いの」
「異常に?どのくらいですか?」
「10㎜の鉄板に穴を開けられるわ」
「……大したことなさそうに思いましたけど、かなり凄いですね?」


 それほどの力があるとすると、凶器があっても殴って殺せるかな?でも、血が服とかにも付くだろうし、何より力が強いだけでは鍵も無く部屋に入る事は出来ない。アリバイもあるしこの人は無理そうだ。


「ありがとうございます。えーっと最後の方……」
「拙者の出番でござるな!」


 最後の人である侍さんが笑顔で手を挙げる。和服に刀、顔には無精毛を蓄えており髪は後ろで乱暴にまとめられている。誰が見ても侍と答える風貌だ。
 あまりのテンションの高さに気圧されながら、私は事情聴取を続ける。


「お、お名前を教えてくれますか?」
「拙者は角谷 倫太郎。見ての通り侍をしているござる」
「侍をしているって何ですか?」
「侍とはなんか……こう…………人助けをするとか、そう言う感じでござる」
「かなり曖昧ですね?」


 格好だけかと思いきや、本当に侍みたいだ。今更、侍くらいじゃ驚かないけど。


「さて、次はここに来た理由でござったな?」
「そうですね」
「ズバリ!運命の人がここにいると言う予言を聞いたのでござる!」
「運命の人?」
「そうでござる!ここにそう書かれているでござる!」


 倫太郎さんが興奮したようにとある本を取り出す。女性に人気のサブカル雑誌だ。


「この本のこのページに書かれているのでござるよ!」


 倫太郎さんは雑誌のとあるページを開くと、とある場所を指さす。


「えーっと、『かに座のあなたは超ラッキー。運命の人に会えるかも。ラッキーアイテムはスキー場のペンション』?」
「そう!このスキー場のペンションで運命の人に出会えるというお告げがあったのでござる!」


 ラッキーアイテムがスキー場のペンションってなんだろう、という的外れな考えが頭の中に湧いてくるが、必死で押し込めて話を続ける。


「そ、そうだったんですね。運命の人は見つかりましたか?」
「見つかったでござるよ!」


 倫太郎さんの答えに私は思わず目を見張る。こんな雑誌の占いが当たる事なんてあるんだ。


「誰ですか?」
「お主でござる!」
「……わたし?」
「そうでござる!」


 思いもよらなかった展開になってきて私の頭がショート寸前になる。さっき会ったばかりの人に運命の人だと言われる人はこの世に何人いるだろうか。少なくとも良い物だとは限らないと声高々に叫びたい気分だ。
 倫太郎さんは片膝を付くと、顔を下げて私に手を差し出してきた。


「一目見た時からビシッと来ました!拙者と結婚を前提に付き合ってください!」
「えーっと、ごめんなさい?」


 反射的に断ると、倫太郎さんが絶望した表情になりそのまま両膝を両手を付いた。


「ま、またダメだったでござる……一体何がいけないんでござるか……」
「だ、大丈夫ですよ。きっと良い人が見つかりますよ。だから元気出してください」
「そいつは甘やかさなくていいぞ。どうせ、明日になったら元通りになるんだからな」


 倫太郎さんに向かって祐樹さんが冷たく言い放つ。自分がフッた事もあってそんなに簡単に切り捨てられない。とはいえ、どうすればいいんだろか?


「……倫太郎、全部終わったら女性を紹介してやる」
「事件があった時はここでポーカーをしていたでござる。次は荷物の確認でござるな。これが拙者の荷物でござる」


 倫太郎さんが素早く状態を起こして、風呂敷を差し出してくる。気持ちの持ち直しが早過ぎない?まあ、落ち込みっぱなしよりはマシかも。
 倫太郎さんに呆れながらも風呂敷を広げる。


「これは……着替えだけですか?」


 倫太郎さんの風呂敷の中には着替えの服しか入っていなかった。財布も携帯電話も入っていない。


「他には何も持っていないんですか?」
「そうでござるよ。拙者、放浪しているでござるからな」
「放浪するにしてもお金はいりますよね?それに、このペンションだってタダじゃないですし」
「そこは拙者の必殺技でなんとかするでござる」
「必殺技?」


 やっぱり、この人も特別な能力があるのだろうか?


「必殺技って何ですか?」
「拙者の華麗なる土下座でござるよ」
「土下座を必殺技って言うのやめてくれませんか?」
「大抵はこの必殺技で何とかなるでござる」
「それ呆れられてるだけですよ?」


 なんだろう、話しているだけで疲れてくる。適当な所で切り上げてさっさと次に行きたい。
 帰りたい気持ちをグッと堪えて、話を続ける。


「その刀はなんですか?」
「これでござるか?拙者の相棒でござるよ」
「見ても良いですか?」
「良いでござるよ」


 倫太郎さんから刀を受け取る。十中八九、竹光とかだろうけど何か手掛かりとかあるかもしれないし確認しないとね。
 ズッシリとした重さを感じながら、私は刀を抜いてみる。なるほど、刃は本物みたいに鈍色に輝いている。刃の文様もあるし、銘も刻まれている。まるで本物そっくりだ。


「……って、本物の刀!?」
「当たり前でござろう。切れない刀を持ち歩く理由が無いでござる」
「切れる刀を持ち歩く理由もないですよね!?」


 よく銃刀法違反で捕まらなかったものだ。


「これは私が預かっておきますね」
「そんな殺生な!?」
「凶器になりそうなものですから当たり前です!」
「しかし、拙者の能力はその刀が無いとつかえないのでござるよ」
「しれっと言いましたけど、倫太郎さんも能力があるんですか?」


 私の言葉に倫太郎さんが大きく頷く。


「その刀を返してくれれば教えてあげるでござるよ?」
「……危険な能力の可能性もあるのでダメです」
「そんなぁ……」


 倫太郎さんが雨の日の子犬のような潤んだ目で見てくる。しかし、私は刀をしっかりと抱きしめて倫太郎さんから距離を取る。


「今の私は皆さんを守らなくてはいけません。少しでも危険である可能性がある以上、刀を返す訳にはいきません」
「そんな正義感が強い所もステキでござるな。やっぱり、拙者と付き合ってくれぬでござるか?」
「冗談は顔だけにしてください」
「つれないでござるな。分かったでござる。その正義感に免じて拙者の能力を教えるでござるよ」


 倫太郎さんが観念したように手を挙げる。


「拙者の能力は何でも切れる能力でござる」
「なんでもって鉄とかダイヤとかでもですか?」
「それくらいなら簡単に切れるでござるな」
「逆に切れない物を教えてくれませんか?」
「無いでござるよ。鉄や水、ダイヤや人との縁まで切れるでござる」
「それは危険すぎませんか?」


 流石に縁を切るというのは冗談だとしても、それが本当であればどんな防御も意味をなさない事になる。悪用しようと思えばいくらでも出来るだろう。


「……やっぱり、この刀は返せません、あなたが犯人じゃないとしても、人に危害を及ぼすかもしれません」
「拙者の能力を聞けば無理もないでござるか。拙者を信じられと思えた時に返してくれればいいでござる」


 そう言うと、倫太郎さんはそれ以上に何か言う事は無かった。
 

「さて、これで皆さんの証言は聞けましたね」


 全員が別のベクトルで怪しいのに、それぞれが絶妙に犯行が不可能な理由がある。怪し過ぎて目星がつかないだなんて初めてだ。
 私が考え込んでいると、鳳梨さんが話しかけて来た。


「ちょっと待ってください、まだ証言を聞いていない人がいますよ」


 鳳梨さんの言葉に私は首を傾げる。全員から証言は聞いたと思うけどな?


「誰ですか?」
「刑事さん本人だ」
「私?」


 思わず自分を指さすと、鳳梨さんが首を縦に振る。


「刑事さんだって容疑者ですよね?」
「わ、私は刑事です!殺人なんてしません!」
「ここでは全員が平等に容疑者です。そこに職業の差はありません。それとも、私が警官だって言えば疑念が晴れるんですか?」


 鳳梨さんは笑顔で丁寧な口調だが、その言葉には有無を言わさない迫力がある。確かに私自身は無実である証明は出来ない。他の人から見たら私が犯人の可能性もある訳だ。
 鳳梨さんの言葉を聞いた祐樹さんがニヤリと笑う。


「今度は俺達が聞く番だ。まずは名前から教えてもらおうか?」
「分かりました。ラビ・プレン、刑事をしています」
「ここへは何をしに来たの?」
「実はここのオーナー、今回の被害者に呼ばれたんです」
「知り合いだったのでござるか?」
「学生時代からの知り合いなんです。新しくペンションをオープンしたから泊まりに来て欲しいって言われたんです」


 色々な人達から質問されるとなんだか尋問されている気分になる。というか、何人かは楽しんでいると思う。


「事件の時は何をしてたんですか?」
「えっと……」


 素直に答えようとしたけど、思わず言葉を飲み込んでしまう。


「どうした?言えないのか?」
「いえ、その……」
「誰か刑事さんを見た奴はいるか?」
「拙者は見てないでござるよ?」
「私も見てないわね」


 皆から不審な目を向けられる。この中で私だけが行動が不明なのだ。無理もないだろう。でもなあ、なんだか言いにくいんだよなあ。


「やっぱり怪しいな?」
「とりあえず拘束した方がいいか?」
「わ、分かりました!言います、言いますから許してください!」


 縄を持ちながらジリジリと近付いてくる鳳梨さんに思わず叫ぶ。すると、鳳梨さんは縄を持ったまま元居た場所に戻った。
 危ない、このままだと本当に縛られる所だった。


「それで、ラビ殿はどこにいたんでござるか?」
「えーっと、(ごにょごにょ)えんにいました」
「なんだって?」
「う、ウサギ園にいました!」


 このペンションにはサウナやシアタールームといった様々な施設がある。ウサギ園もその一つだ。どうやら、私がウサギ好きと知っていたオーナーがわざわざ作ってくれたみたいだ。
 ちなみに、事前にウサギ園があると知っていた私はペンションに着いてからウサギ園に籠りっきりだった。なので、何が起こっていたかは全く分からないし、このリビングに来るまで誰とも会っていない。


「つまり、呑気にウサギをモフってたら悲鳴が聞こえて駆け付けた訳か」
「本当だったらアリバイがあるとは言えないな」
「ラビだけにラビットと戯れていた訳か」
「別に名前のせいで好きな訳じゃないですからね?」
「証人もアリバイも無いとなると、一気に怪しくなったな?」
「ウサギ達は証人になりませんか?」
「なる訳ないじゃろ」
「ですよね……」


 マズい、今の所、目撃されていない私が一番怪しい。しかも、現場に入ったのも私しかいないから、その時に鍵を部屋に置いたと言われたら否定できない。


「ああ、ウサギのレモンとかチョコが話せたらなぁ。私の無実を晴らしてくれるのに」
「リルア、確か動物と話せる発明が無かったか?」
「本当ですか!?」


 そんな発明品があるのなら私の無実が晴らせるかもしれない!一縷の望みを駆けてリルアさんに尋ねる。


「リルアさん!本当にあるんですか!?」
「あるにはある。しかし、今日は持って来ていない」
「そう……ですか……」


 確かに動物と話せる発明品なんて持って歩くような物じゃない。そう簡単にはいかないか。


「次は持ち物だな」
「拙者が確認するでござるよ」
「あの、恥ずかしいので女性に見て貰っていいですか?」
「そうでござるか……」


 残念そうな倫太郎さんを無視して、絵梨さんに荷物が入ったバッグを渡す。


「……特に怪しい物は無いわね。拳銃でもあるのかと思ったけれど」
「非番に拳銃は持ち歩きませんよ」
「え?警察って一日5発は撃つんでしょ?」
「そんな訳ないですからね?」


 警察官を何だと思っているのだろうか?


「最後に特別な能力を教えて貰おうか?」
「無いです」
「何も無いのか?」
「そんな訳にないだろう」
「ラビちゃん、正直に言ってみなさい」
「何で絶対にある前提なんですか!?普通は特殊能力なんてないんですよ!?」
「あー、そう言えばそうだったな」
「周りにこれだけ能力持ちがおると感覚がマヒしてくるのう?」


 これだけ能力を持っている人がいればフランさんの話も分からなくもない……かな?


「で、全員の話を聞いた訳だが、これからどうするつもりだ?」
「単独行動は危険ですので助けが来るまで、ここで集まって待ちましょう。助けはさっき呼びました」
「その前に一ついいですか?」


 鳳梨さんが手を挙げる。さっきから、この人が話を主導している気がする。


「なんですか?」
「俺達も現場を見ておきたいです。扉の外からならいいでしょう?」
「ですが、関係が無い人に現場を見せる訳には……」
「わしらが見れば新しい発見があるかもしれぬぞ?別に現場に入れてくれという訳じゃないんじゃ」
「そうですね……」


 確かに、今の状況では手がかりが少なすぎる。少しでも情報を得る為に現場を見せるのは良いかもしれない。


「分かりました。ですが、現場には本物の死体があります。慣れていない人にはショックが大きいので、苦手な人は残った方がいいです」
「分かった」


 話し合いの結果、絵梨さんと智也さんとリルアさん、泣きじゃくっていた女性はリビングに残る事になり、他の人達は現場を確認することになった。
 現場である部屋の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。


「無理やり破ったので鍵は壊れています。しかし、始めは鍵が掛かっていました」
「確かに力ずくで開けた跡がありますね」


 壊れたドアノブを掴んでドアを開ける。しかし、私の目の前に予想外の光景が広がっていた。


「遺体が……無い?」


 部屋の中に遺体が無くなっていた。その事実に私は動揺を覚える。
 私が部屋に入って再び調査をしてみる。遺体があった場所には血の跡とネックレス、そしてさっきは無かった紙切れだけしかない。その他に血痕らしきものはない。移動させたとしても、全く血痕を残さずに移動させる事は難しい。しかも、大きな問題は別にある。


「私達は全員同じ部屋にいた。つまり、私たちの中で遺体を隠せる人はいない……」
「つまり、このペンションの中に俺達以外の人物がいる訳か」


 祐樹さんが更に目を鋭くして、周りを警戒する。
 他の人物がいる、その事実に私の背中が冷たくりながらも、紙切れを手に取る。


「刑事さん、何が書いてあったんですか?」


 私は無言で部屋から出て拾った紙を見せる。そこには赤く『ツギハオマエダ』と紙一杯に書かれていた。


「なんじゃこれ?」
「どうやら、事件はまだ終わってないようだな?」
「皆さんにも知らせましょう」


 私たちは急いでリビングに向かう。リビングに飛び込んできた私に向かってリルアさんは冷たい視線を向けてくる。


「血相を変えてどうした?」
「大変です!遺体が消えました!」
「詳しく話してくれ」


 リルアさんに言われ、私は説明を始める。
 遺体が消えた事、新しい血痕などの痕跡は無かった事、紙が落ちていた事、起きた事をすべて話す。


「落ちていた紙を見せてくれ」


 リルアさんに紙を渡す。紙に書かれた文字を見たリルアさんは眉を顰めた。


「ツギハオマエダ、か。誰か心当たりがある奴はいるか?」


 リルアさんの言葉に答える人はいない。誰かは分からないけど、まだ狙ってくるみたいだ。気を引き締めてかからないと。
 皆の様子を確認するために周りを見渡してみると、泣いている女の人の顔色が変わった気がした。
 心配になった私は女性に声をかけてみることにした。


「あのー、大丈夫ですか?」
「ひ!?」


 声を掛けられた女性は小さく悲鳴を上げて私を見る。


「すみません、驚かせちゃいました?」
「……いえ、大丈夫です」
「そういえば、お名前を聞いてませんでしたね?聞いても良いですか?」
「私は田中 愛です」
「愛さんですね。さっきの言葉に何か覚えはないですか?」
「いえ、何も……」


 目を反らしながら愛さんが答える。私は愛さんが嘘を吐いていると直感する。この人は何か知っている?だとしたら、あのオマエっていうのは愛さんの事?


「何か心当たりを思い出したらいつでも言ってくださいね」


 ここは糾弾せずに様子を見よう。何かあれば言ってくれるだろうし。


「さて、遺体が無くなったとすると俺達の中に犯人はいないという事なるな。これからどうする?」
「先ほど言った通り、ここに明日まで固まっていましょう。集団でいれば犯人も襲ってこれない筈です」
「俺は反対ですよ」


 ここで、鳳梨さんから反対意見が出てくる。


「何でですか?」
「犯人の目的が分からない以上、犯人を見つけない方が危険です。最悪の場合、標的を仕留める為にペンションを放火するかもしれません。そうなれば固まっていた方が危険です」
「俺もそう思う。探し出してぶっ飛ばした方が手っ取り早い」
「拙者も探すに一票でござる」
「私も探す方に賛成よ」


 周りの人達がどんどんと鳳梨さんの意見に乗っかっていく。このままだと、全員が犯人を捜しに行ってしまう。


「ちょ、ちょっと待ってください!犯人がどこにいるかもわからないんですよ!?動き回らない方がですよ!」
「さっきも言いましたがどちらにせよ危険はあります。であれば、俺達は攻めをするだけです」
「そうじゃな。待つのは性に合わん」
「そうと決まれば分担しよう。各部屋ごとに担当を決めて調べた方が効率が良い」
「俺は厨房にする。ついでに作りかけの料理も歓声させてくる」
「拙者はシアタールームにするでござる」
「私はジムにするわ」


 どんどんと役割が決まっていく。ど、どうすれば皆を説得できるだろう……?


「あ、あの!」


 私が必死に考えていると、後ろから大きな声が聞こえて来た。驚いて後ろを見ると、愛さんが肩で息をしながら喋っていた。


「あの、私心当たりあります」
「本当ですか?」


 やっぱり愛さんは何かを隠していたみたいだ。けど、今話さないと自分が危険になると思ったのか話す決断をしてくれたようだ。
 愛さんは大きく深呼吸をすると、意を決したように話始めた。


「実は、私は過去に人を殺した事があります」
「……何ですって?」


 思った以上に衝撃的な真実に、私は目を丸くする。
 愛さんの話はこうだ。3年前、愛さんはとある家庭に強盗に入った。その時に弾みでその家庭の夫を殺してしまった。妻が泣きじゃくる中、愛さんは必死に逃げ帰った。幸いなことに、証拠は残らずに愛さんが逮捕されることは無かった。
 しかし、人を殺した事実は愛さんの心に重くのしかかった。ある日、愛さんは罪の重さに耐えかねて茶子に相談をした。全てを話した後に茶子は自首するように促した。
 愛さんはその言葉通り、自首しようとしたが勇気が出せずに今日になってしまった。


「……つまり、夫を殺された妻が愛さんに復讐しようとしたって事ですか?」
「だったら何でオーナーを殺したんだ?」
「多分、私と話しているのを見て仲間だと誤認したんだと思います」
「……良く話してくれましたね」


 愛さんのやったことは許されることじゃない。明日、応援が来るまで私が責任をもって彼女を守ろう。
 これで犯人の目的は分かった。これで皆も愛さんを守る方向に進んでくれ───


「そんなの信用できると思うか?」


 祐樹さんの口から衝撃の言葉が出て来た。


「ゆ、祐樹さん!なんてこと言うんですか!愛さんは勇気を出して告白してくれたんですよ!?」
「助かりたいから口から出まかせを言ってるかもしれないだろ?明日になって全部嘘でしたなんて言うかもしれないぜ?」
「祐樹の言う通り、証言自体が嘘の可能性がありますね。やっぱり、皆で犯人を捜した方がいいですね」
「そんな……これ以上どうすればいいんですか……」
「証拠があれば話は別だぜ?何か物的証拠は出せるのか?出せないよな?どうせ嘘なんだろうからよ」


 祐樹さんがそう吐き捨てて部屋を出て行こうとする。
 すると、愛さんが泣きそうになりながら首に着けていたネックレスを取りだした。ネックレスには大きなダイヤモンドが付いた指輪が繋がれている。


「それは?」
「私が奪った指輪です。これで証拠になりませんか?」
「見せてみろ」


 祐樹さんは愛さんに近付くと乱暴にネックレスを引きちぎる。


「……確かに物的な証拠だな」
「こ、これで守ってくれますか?」


 愛さんが上目遣いで祐樹さんに縋り付く。
 祐樹さんはチラリと愛さんを見たが、そのまま指輪を鳳梨さんへと投げる。鳳梨さんは指輪を受け取るとそのままビニール袋を取り出して中に入れる。


「これでいいのか?」
「ああ、十分だ」
「終わったあああ!」
「やっとでござるか。こんな大人数必要だったでござるか?」
「何かあった時の為に必要なんだよ。そんな事よりも打ち上げだ。祐樹、飯は出来てるか?」
「あと少し掛かる。待ってろ」


 そういうと、祐樹さんはリビングから出ていった。まだ、理解が追い付いていない私は首を傾げる。


「あの、何が起こっているんですか?」
「ん?ああ、刑事さんに説明がまだだったか」


 忘れてたと呟きながら鳳梨さんは頭を掻く。


「端的に言うと、殺人事件は全部嘘だ」
「……へ?でも、遺体がありましたよ?」
「あれはオーナーさんを遺体に偽装したものだ。特殊メイクで頭を凹ませて、特殊なコンタクトで瞳孔を操作した。脈はテニスボールを脇に挟むことで止める事が出来る」
「じゃあ、私が見たものは?」
「死体に偽装した生きているオーナーじゃな」
「なんだかややこしいでござるな?」


 全てを理解した私の体から力が抜けていく。良かった、誰も死んでなかったんだ。


「ですが、なんでこんなことを?」
「その強盗犯を捕まえたいっている以来が有りまして。俺は警察じゃないので、一芝居打つことにしました」
「依頼?」
「言ってなかったか?鳳梨は探偵じゃ」
「探偵!?」


 変わった人だと思っていたけど、まさか探偵だとは思わなかった。確かに探偵だと分かれば今までの行動にも整合性が……無いかな。


「刑事さんと強盗犯以外は俺が集めたメンバーだ」
「こんなに能力持ちが集まるなんて、仕込みでもしない限りありえないわよね」
「冷静に考えたらそうですけど……」


 よく考えたら、一人いるだけでも可笑しいけどそこは言わない方が良いのだろうか?
 私たちが呆然としていると、お盆に料理を持った祐樹さんが入って来た。



「出来たぞー」
「おお!寿司にターキーにピザとは豪華じゃな!」
「麻婆豆腐もあるのか」
「料理までが契約だからな」
「お主、どんな契約したんじゃ?」
「護衛と犯人確保の協力と料理だ。報酬は前金で1000万」
「この仕事って報酬100万じゃったよな?祐樹への報酬だけで400万の赤字になるんじゃが?」
「儲け目当てでやってる訳じゃないからな。金なんて配りまわる程にはあるからな」
「今さらな疑問じゃったな」


 雑談をしながら皆さんが料理に舌鼓を打つ。色々と言っていたが、つまり鳳梨さんは愛さんを捕まえるように依頼を受けた。恐らく、被害者の奥さんからだろう。
 証拠を手っ取り早く見つける為に、殺人事件をでっち上げた。そして、犯人に自分が危なくなると思わせ、自白と証拠を回収した。


「もしかして、私が呼ばれたのも?」
「俺がオーナーさんに頼んで呼んでもらったんです。刑事さんが現場にいた方が話が早いですよね?」
「確かにそうですけど……」


 話しながら鳳梨さんがピザにタバスコを掛ける。そこまで考えていたなんて……。


「あ、刑事さんも食べます?」
「え?いや……」


 私は目の光を失っている愛さんに視線を向ける。自分がひた隠しにしていた事件を、騙される形で晒されたのだ。どういう心境なのか想像すらできない。
 拘束した方が良いんだろうけど、そんな気にならない。


「あの……えっと……」


 私が何と言葉をかけていいか分からずにいると、愛さんが肩を落として細かく震え始めた。



「えっと……何を言えばいいか分からないですけど……元気出してください」
「……ははは」
「愛さん?」
「あーはっはっはっは!」


 愛さんは細かく肩を震わせながら笑い始めた。
 愛さんはゆっくりと立ち上がると、光の無い目で食事している鳳梨さん達を睨みつけた。


「やってくれたねぇ。私を敵に回してタダで済むと思っているのかい?」
「どうするって言うんだ?」
「こうするのさ!」


 愛さんが懐からスイッチを取り出して突き出す。
 倫太郎さんがターキーの骨にしゃぶりつきながら首を傾げる。


「なんでござるか?」
「これを押せばこのペンションに仕掛けられた発火装置が作動し、1時間でこの屋敷は燃え尽きる」
「それ、お前も巻き込まれないか?」
「その心配はないわよ」


 麻婆豆腐ご飯を書き込んでいる祐樹さんに愛さんがニヤリと笑ってとある装置を取り出す。


「それは、タイムマシン?」
「そう。これを使って私だけ明日に逃げれば、あんた達だけ燃えるって訳さ」


 愛さんが舌なめずりする。
 これはハッタリじゃない。本気で私たちを殺す気だ!


「そうはさせない!」
「遅い!」


 私が飛びつこうとするも、愛さんの指がスイッチを押しこむ。


「これでこのペンションは終わりだ!あばよ!」


 愛さんが勝ち誇った表情でタイムマシンを自分に向けて、起動ボタンを押す。しかし、


「……何も起こらない?」


 タイムマシンを使った筈の愛さんはまだその場にいるし、火の気も全くない。


「い、一体どうなってるんだい!」
「そう言えば、発火装置っていうのは……」


 鳳梨さんが何かを床に投げ捨てる。


「これの事か?」
「!?」


 それは、真っ二つになっている何かの装置だった。鳳梨さんの口ぶりからするにこれが発火装置なのだろうか?


「いつの間に……」
「俺達と刑事さんがコントをしている時があっただろ?」
「コントしてる自覚はあったんですね?」
「コントしてる奴に視線が向いている中で、フランが発火装置を探していたんだよ」
「わしは壁抜けが出来るからのう。そやつの部屋で発火装置を見つけたんじゃよ」
「タイムマシンが起動しなかった理由はなんだ……」
「答えは簡単、それはタイムマシンじゃないという事だ」


 リルアさんがデザートのみかんソフトに舌鼓を打ちながら話す。


「え、でもさっき豆腐が出てきましたよね?」
「その装置は中に食材を格納できるという物だ。さっきのは装置内の豆腐をテーブルを出しただけだ。タイムマシンは別にある」
「タイムマシン自体はあるんですか!?」
「君、ここのオーナーは今どこにいると思う?ヒントは一番安全な所だ」


 リルアさんがスプーンで私を指してくる。茶子が生きているのなら、どこかに隠れている筈だ。でもどこに?


「しかして、あのネックレスは……」
「そうだ。答えは、明日だ」


 あの赤いネックレスがタイムマシンで、茶子は明日のペンションにいる。明日には警察も来るし、一番安全な所だろう。


「つまり、君が我々をどうにか出来たとしても、一番殺したかったオーナーはいない訳だ」
「一番殺したかった相手?」
「発火装置なんて物騒なもの人を殺す以外に使わねぇだろ。事情を知ってるオーナーをペンション出た後に発火して殺そうとしたんだろうよ」


 考えてみれば確かにそうだ。発火装置なんて殺人以外に使い道は無い。つまり愛さんは始めから茶子を殺すためにペンションに来た?


「これが真相だ」
「ちなみにだがよ……」


 祐樹さんがドアノブに手を掛けている愛さんに向かって指を差す。


「逃げられると思うなよ?」


 愛さんの動きがパントマイムのように固まる。


「刑事さん、拘束しておいた方がいいのでござらぬか?」
「あ、はい。そうですね」


 倫太郎さんに言われるがまま愛さんの手と足を縛る。


「さ、パーティーの最後はケーキで締めるか。俺が特製ケーキを作っておいた」
「ほう、ホウリの手作りケーキか。期待できるのう?」


 そのままパーティーは続き、一つの事件は幕を閉じたのだった。
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