魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第百六十三話 お前の全てをいただく!

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 私の名前は美少女怪盗ルビー、人呼んで神出鬼没の凄腕怪盗だ。……まあ、今日が初めてのお仕事だけどね。
 でも、今晩には王都中に私の名前が広がるんだから大きな違いはない筈。卵が先か鶏が先って奴だ。


「ここが私の初仕事の舞台ね」


 私は目の前の建物を見上げる。それはどこにでもあるような大きめの一軒家だった。ここはキムラ・ホウリという人の家。私は知らないけど、色々な所で有名な人らしい。
 なぜ美術館や銀行と言った高価な物がありそうな所を狙わないのか。それは、この家にはお金や美術品よりも価値がある物がある……らしい。
 断言できないのは、何があるかを知らないから。私が聞いたのは、この家に凄いお宝があるという事と、家主が留守である事だけだ。


「たかが一軒家だし、大したセキュリティはない筈。さっさとお宝を奪ってトンズラしよ」
 

 そう思って私は用意していた変装用のマスクをかぶる。ここの主人であるキムラ・ホウリの変装用のマスクだ。これを使ってこの家に潜入して、お宝を探して華麗に奪う。
 そのために、色々な準備をしてきた。キムラ・ホウリの事も調べたし、声も真似出来るようになった。完璧な作戦だ。


「あーあー、俺はキムラ……俺はホウリ……」


 声の調整をして万全の状態にする。よし、行こう!
 意を決して玄関に用意していた鍵を差し込む。カチャリという音と共に鍵が開く。少し警戒しながらも家の中に侵入する。
 変装しているとはいえ、人に会ってしまうとバレるリスクがある。極力、人には会わずに盗みを済ませたい。
 住人がいない時を狙えれば良かったが、キムラ・ホウリが長い間いない時はあまりない。このチャンスを逃す訳には行かない。


「おじゃましまーす」


 必要のない挨拶をしながら、家の中に侵入する。お宝がどんなのかは分からないけど、多分キラキラしてるんじゃないかな。それっぽいのを見つけたらとりあえず、いただいてしまおう。
 まずはキムラ・ホウリの部屋から調べてみようかな?いや、キムラ・ホウリの性格を考えると大切な物は思いもよらない所に隠している可能性が高い。


「だとしたら、始めに見るのはリビング」


 そう思った私はリビングに向かう。すると、部屋の中には女の子が一人で座っていた。
 マズいと思った私だったが、女の子と目があってしまった。


「あれ?ホウリさん?兄と一緒に魔国に行くって言ってませんでしたか?」


 女の子が私を見つめながら小首をかしげる。落ち着け、見つかってしまったけどまだバレた訳じゃない。ここは違和感がないように受け答えをしてここを乗り越えよう。
 確か、この子の名前はフレズ・シャルン。斧神であるロットの妹だった筈だ。なんでこんな所にいるか分からないけど、ここは何か答えないと。
 私は不審に思われないように答えを選ぶ。


「ようフレズ。ちょっと忘れものしたから取りに来たんだ」
「そうでしたか。何を忘れたんですか?」


 フレズに質問に言葉が詰まる。当然ながら私に忘れ物なんてない。なんと答えるべきか……。
 あ、そうだ。いっその事、探すのを手伝ってもらってはどうだろうか?
 そう思った私はキムラ・ホウリの声を崩さないように答える。


「名前を言っても分からないと思うぞ?見た目はキラキラしている物なんだが、ここら辺で見なかったか?」
「見てないですね。一緒に探しましょうか?」
「助かる。フレズはこのリビングを探してくれ。俺は2階を探してくる」
「分かりました」


 フレズを残して私は2階に上がる。
 別の人に探させて、私は別の所を探す。こんな手段を思いつくなんて、私って天才かも?
 自分の才能に酔いしれながら、私は2階に上がる。まずは本命であるキムラ・ホウリの部屋から探すといしよう。
 キムラ・ホウリと書かれているネームプレートが掛かっている扉を開ける。瞬間、


「うおっ!?」


 急に何かが部屋の中から飛んできた。私は思わずしゃがんで運よくそれを回避する。
 何が起きたのか分からずに振り返ると、壁に数本の矢が突き刺さっていた。なにこれ!?こんな殺意が高い仕掛けがあるなんて聞いてないよ!?
 呆然と眺めていた私だったが、ハッと気を取り直す。いけない、早い所お宝を見つけてこんな危険な所とはおさらばしないと。
 私は恐る恐るキムラ・ホウリの部屋の中に入る。しかし、部屋の中は予想とは全く違った物だった。


「なにこれ?物が少なすぎるでしょ?」


 部屋の中は殺風景を極めた内装をしていた。家具はパイプベッドとタンスだけで、小物や飾りと言った類の物は見当たらない。強いて言うならば、ボーガンがタンスの上に置かれているが、これはさっきの罠だろう。


「当てが外れたかな?」


 一応タンスの中も見てみるが、それっぽい物は見当たらない。
 ……もしかして、この服がとても高価だったりして?いやいや、落ち着くのよルビー。間違ったものを盗んだとあっては、凄腕怪盗ではなく間抜けな怪盗として世間に知れ渡ってしまう。ここは慎重にいくのよ。
 とはいえ、物を隠せそうなのはタンスくらいしかない。ここじゃないのかな?
 もしかしたら、フレズが見つけているかもしれない。そう思った私は一度リビングに戻る事にした。
 リビングに戻ると、フレズが食器棚を開けて食器を取り出していた。


「フレズー、見つかったかー?」
「いえ、それらしい物は無いですね」


 リビングにもないとなると、調理場?他の人の部屋にある可能性もあるか。無暗に探していたら見つからない。どうしようか?
 どこを探していいか迷っていると、玄関からインターホンが鳴り響いた。来客だろうか?


「はーい」


 フレズが玄関に向かう。この家の住人が帰って来たのかな?だとしたら、フレズと同じように探して貰うのもありかもしれない。私って天才だからバレる事は無いと思うし、他の人を利用するのも手だ。
 そう思って私はリビングでやって来た人を待つ。さて、誰が来た───


「お邪魔します」


 リビングに来客した人が入って来た瞬間、私の背筋が凍り付いた。
 そこには検察官である、ラビ・プレンの姿があったからだ。怪盗の天敵がなぜここに!?


「あれ、ホウリさん?1週間くらい留守にするって言ってませんでしたっけ?」
「あ、いや……」


 おおおお落ち着け、まだバレた訳じゃない!ここはバレないように立ちまわってなんとか切り抜けないと!
 私は焦りが表情に出ないように気を付けながら答える。


「ちょ、ちょっと忘れ物をしてな」
「忘れ物?」


 私の言葉にラビが目を細める。明らかに警戒度が上がっている。


「な、なにかおかしな事言ったか?」
「ホウリさんが忘れ物するなんて、信じられないですね?いつもは忘れ物なんて絶対にしない筈なのに?」
「俺だって人間だ。忘れる事だってある」
「うーん……」


 私は必死に弁解するも、ラビの心象は悪くなっていく。キムラ・ホウリって、どういう人なの!?
 私がどう言いくるめるか必死に考えていると、玄関の扉が開く音がした。


「お、俺がでる」


 私は逃げるように玄関に向かう。このまま逃げようかとも考えたけど、お宝を前に逃げるなんて怪盗の名が廃る。ここを切り抜けて、私は凄腕怪盗として世間に名を轟かせて見せるんだ!
 心を落ち着けて私は玄関に向かう。まずは、他の人を味方に付けてラビの疑念を払拭しよう。


「ただいま戻りました」
「ただいまじゃー」
「おかえりー」


 私は満面の笑みでリビングから顔を出す。
 そこには紙袋を抱えたロワ・タタンとフラン・アロスがいた。この家の住人だ、味方に付ければ心強いだろう。愛想よくして心象をよくしよう。


「随分買ってきたな?少し持つか?」


 私が笑いかけると、ロワが小首をかしげた。


「ホウリさん……じゃないですね?誰ですか?」
「ほー、ホウリに化けるとはいい度胸じゃな?」


 一瞬で見抜かれた。


「ななな何を言ってるんだ。俺はキムラ・ホウリだぜ?」
「雰囲気が全く違うので分かりますよ」
「そんな事……」
「まだ認めぬか。ならばテストしてやろう。なに、ホウリであれば答えられる簡単なテストじゃ」


 フランはいたずらっぽく笑った。なんか遊ばれている気がする。しかし、キムラ・ホウリの事は調べてある。ある程度の事であれば答えられるはずだ。どんな質問でもドンと来いだ。


「な、なんだ?」
「この近くにシュトーレという菓子屋がある。そこで売っているショートケーキの値段はいくらじゃ?」
「…………」


 そんなの分かるか!
 黙っている私をフランが楽しそうに覗き込んでくる。


「どうした、答えられないのか?」
「そんな事分かる訳ないだろ?」
「え?ホウリさんなら全てのお菓子屋さんの値段どころか材料も全て把握してますよね?」


 本当にキムラ・ホウリってどういう人なの!?
 2人に詰め寄られ、思わず後ろに下がる。すると、後ろに気配を感じた。振り向くと、ラビが仁王立ちで私を睨んでいた。


「やっぱりホウリさんじゃなかったですね?」
「じゃあ、この人は誰なんですか?」
「それは本人に聞くしかないじゃろ?」


 3人の視線が私に注がれる。
 ……こうなったら、最終奥義を出すしかない。


「逃げる!」


 ロワとフランの脇を抜けて家の外に全力で駆けだす。


「あ!待って!」
「待てと言われて待つ人はいません!」


 振り返りもせずに家の外に走る。こうして、私の初めての怪盗業は終わったのだった。



☆   ☆   ☆   ☆


「あ!待って!」
「待てラビ」
「どうしたんですか!?早く追いかけないと!?」
「あの程度の奴であれば問題ない。ホウリが帰って来てから知らせればよいじゃろう」
「そんな悠長でいいんですか?」
「この家に無策で乗り込んでくるような奴じゃ。大丈夫じゃろ」
「フランさんがそう言うならいいですけど。そういえば、あの人は何でこの家に忍び込んだんでしょうか?」
「そうじゃな……心当たりが多すぎるのう?」
「この家ってどうなっているんですか……」
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