魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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外伝 えらいハリキリボーイがやってきたじゃねぇか

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 とある日の朝、空は澄み渡り小鳥はさえずっている。私の心も窓の外の景色のように晴れやかだ。
 私は目の前にチョコレートや生クリームで山が形成されている。ホウリに言って、すべて最高級の素材を用意してもらったのだ。
 用意してある食材を前に私は思わず笑みがこぼれる。


「さて、やろうか!」


 満面の笑みでフランとノエルを向く。すると、フランとノエルは対照的に暗く、どんよりとした重苦しい表情をしていた。


「せっかくバレンタインチョコを作ろうというのにどうした?何か気になる事でもあるのか?」
「お主がここにいる事以上に気になることがあるかい」
「私がキッチンにいる事が気になるのか?」
「爆弾が火にくべてあって気にならん奴がおるか?」


 文脈から察するに私が爆弾でキッチンが火だろうか。


「確かに私は料理が少しだけ苦手だ。だが、爆弾は言い過ぎではないか?」
「そうじゃったな。爆弾ではなくニトログリセリンじゃったな」
「悪化してないか?」
「まだ足りんくらいじゃ」


 フランの言い草には不満が残るが、今日はいつもよりも気にならない。それな何故か。


「むふふ」


 再び笑みが零れる。それをげんなりした様子でフランが見て来る。


「お主が目をキラキラさせているのを見ると、無性に不安になるのう?」
「なんだか怖いよー」
「人が張り切っている所を見て怯えるのは失礼じゃないか?」
「正常な判断じゃ」


 解せないと思いながらも私は黙り込む。何を言っても取り付く島もないだろう。


「お喋りはこのくらいにしよう。早く始めようではないか」
「……ああ、そうじゃな。いつまでも足踏みしてる訳にはいかないからのう」


 嫌そうな顔のまま頭巾を付けるフランとノエル。
 さて、今から何をするのか。それを説明するには昨日の夜の出来事を話さねばならない。


☆   ☆   ☆   ☆


「ホウリ!」
「なんだ?」
「私にキッチンを使わせてくれ!」
「断る」


 ホウリはそれだけ言うと、リビングから出ていこうとする。
 そんなホウリに回り込んで土下座をかます。


「一生のお願いだ!頼む!」
「頼まれてもダメだ。王都を壊滅させたくない」


 額を床に擦りつけているからホウリの顔は伺えない。しかし、冷たい視線が後頭部に突き刺さっているのを感じる。だが、ここで引くわけにはいかない。


「そこを何とか!お礼に私に出来ることがあれば何でもするから!」
「そんなので被害の補填が出来ると思うなよ?」


 必死のお願いにも関わらず、ホウリの返答は冷たい。だが、私は諦めない!


「勿論、一人という訳ではない!見張りを付けてもいい!その人の指示は全て聞く!だから頼む!」
「なんでそこまで……バレンタインか」


 ホウリに言い当てられた私はビクリと体を震わせる。


「別にビビらなくていいぞ。ロワには内緒にしておいてやる」


 私の考えを察したホウリが呆れたように言ってくる。


「とりあえず話しづらいから顔を上げろ」


 私は言われた通り顔を上げる。そこには腕を組んで悩んでいるホウリの姿があった。


「俺だってミエルに協力はしたいのは山々だ。だが、王都を危険に晒す訳にもいかない。俺も忙しいから監視出来ないし、どうしたものか」
「自分で言うのは何だが、フランに見張ってもらうのはどうだ?鑑定を使えば問題があるか分かるだろう?」
「実はそうもいかない」


 ホウリは底に紫色の液体が入った頑丈そうな試験管を取り出した。試験管の口は厳重に縛られていて簡単に開きそうにない。恐らく大剣でも壊すのが難しいだろう。


「これが何か分かるか?」
「初めて会った時に私が作ったスープだろう?」
「なんで鑑定を持ってないのに分かるんだよ」
「で、その激ウマスープがどうした?」
「この激ヤバスープなんだが……」


 ホウリは試験管を光にかざして眉間に皺をよせる。


「フランが鑑定しても毒が検出されなかった」
「つまりどういうことだ?」
「お前が毒を作ってもフランが気付かないって事だ。万が一がある以上、俺の目の届かないところでは料理させたくないんだよ」
「フランのいう事は全部聞くと言ってもダメか?」
「正直なところ、ミエルの手で調理されたら毒になりそうな気がするんだよな」


 ホウリが私の手を凝視してくる。私は手を後ろに隠してホウリを睨みつける。


「流石にそこまで言われる筋合いはないぞ」
「冗談だよ。分かった、キッチンを使う許可を出そう」
「本当か!?」
「ただし」


 身を乗り出そうとした私をホウリは人差し指で制する。


「1つ、余計な物は入れるな。2つ、フランの指示に逆らうな。3つ、ちょっとでも怪しい真似をしたら即刻中止させる。そして」
「そして?」
「4つ、後悔の無いしろ。これが条件だ。守れるか?」


 私は首が取れそうなほど力強く頷く。ホウリはそんな私を信用が無さそうに見てくる。
 こうして、私はキッチンの使用許可をもぎ取ったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 そんなことがあり、私は久しぶりにホウリ抜きでキッチンに立っていた。今の私を止めるものは誰もいない!


「しつこいようじゃが、わしが見張っておるからな?少しでも怪しい動きをしたら、即刻キッチンから叩き出すからな?」
「分かっている。早く始めようじゃないか」
「まったく……ノエルと楽しくチョコ作り出来ると思ったのじゃがな……」(ぼそっ)
「何か言ったか?」
「何でもない」


 フランが不満そうにノエルの為の踏み台を置く。


「ありがと、フランお姉ちゃん」


 ノエルが踏み台に乗り、ボウルを手に取る。ノエルの身長だと、まだ踏み台なしでは料理が出来ない。料理を手伝う時も愛用のタンパンマンの踏み台を使っている。
 私もボウルを取ってチョコレートを手当たり次第に入れていく。


「よし、次はチョコを溶かして……」
「ちょと待て、何をしておる」


 チョコが山盛りになったボウルをコンロにかけようとした手をフランに掴まれる。


「チョコレートを溶かそうとしているだけだぞ?」
「直接火にかけるでない。湯煎を知らぬのか?」
「ゆせん?身分の良い悪いか?」
「それは貴賤じゃ。なぜ貴賤を知っていて湯煎を知らんのじゃ」
「ノエル知ってるよ。お湯でチョコを溶かすんでしょ?」
「その通りじゃ」
「なるほどな」


 チョコはお湯で溶かすのか。勉強になった。早速お湯を沸かしてボウルの中にお湯を……


「待てぇい!」
「今度はなんだ?」
「チョコ入りのボウルにお湯を入れるでない!せっかくのチョコが台無しじゃろうが!」
「ホウリお兄ちゃんから聞いたんだけど、チョコとお水は仲が悪いんだって。だから一緒にしちゃいけないんだって」
「そうなのか。だったらどうやって溶かすのだ?」
「別のボウルにお湯を入れて、その中にチョコが入ったボウルを入れるんじゃよ」
「それなら水とチョコレートが一緒になる事は無いな」


 3人で湯煎しながらチョコレートをヘラでこねくり回していく。すると、フランが私の手元に視線を集中させながら口を開く。


「ミエルはロワにチョコを作っておるのか?」
「その通りだ」
「どんなチョコを作るつもりなんじゃ?」
「ザッハトルテを作ろうと思っている」
「普通に溶かしたチョコを成型するだけで良いと思うぞ?」
「ノエルもそれがいいと思う!」
「え?でも───」
「ロワお兄ちゃんは溶かして成型したチョコが好きって言ってたよ!」
「チョコレートは溶かして成型した物が大半じゃないのか?」
「細かいことは気にするでない!型は星や熊、ハートなど色々あるぞ!」
「あ、ああ……」


 2人の圧に負けた私はチョコレートを成型するのであった。
 四苦八苦しながらチョコレートの形を整え、アラザンで飾り付けまで終わらせる。


「これでよし」
「ふむ、中々良いのではないか?」
「そうか?安っぽいのではないか?」
「可愛くていいと思うよ?」


 フランとミエルには好評みたいだが、やはり安っぽい気がする。ザッハトルテとかトリュフとか良かったのではないか?まあ、せっかく作ったんだし、今更変えなくてもいいか。
 フランが出来上がったチョコレートを摘まみ上げてゆっくり頷く。


「少なくとも鑑定では異常は無い。不審な動きも無かった」
「だったら食べても良いの?」
「油断はダメじゃ。その油断でわしらは全滅しかけたんじゃぞ?」
「そういえば……」


 ノエルがごくりと唾を飲み込む。


「でも、だったらどうやって……」
「そんなの一つしかないじゃろう?」


 フランは爆弾を持つように慎重にチョコレートを摘まみ上げる。


「わしが食べてみるんじゃ」
「そんな……、それじゃフランお姉ちゃんが……」
「……ノエル」


 フランがノエルの頭を優しくなでる。その目には涙が浮んでおり、日の光でキラリと光る。まるで、今から死地に赴く兵士のようだ。


「わしを信じよ」


 フランが優しく微笑む。その笑顔はどこか悲しく、切なくなるような笑顔だった。その笑顔をみたノエルも同じように悲しい笑顔で頷く。
 フランが意を決してチョコレートを口に入れる。神妙な面持ちで咀嚼するフランをノエルは心配そうに見守る。


「……美味い」
「ほんと?」
「ああ、わしは生きておるぞ!」
「フランお姉ちゃん!」
「ノエル!」


 2人が満面の笑みで抱き合う。それは、まるで生き別れの姉妹が10年ぶりに合ったようだ。


「というか、テンション間違ってないか?まるで死地を潜り抜けた末の再開みたいだぞ?」
「その通りじゃよ」
「フランお姉ちゃん!助かってよかった!」
「おー、よしよし。怖かったのう」


 涙目のノエルをフランが慰める。何が起こっているか分からんが、これは怒っていいよな?
 握った拳をなんとか収めて、出来上がったチョコレートを手で包み込む。後はこれをロワに渡すだけだ。


「なにをニヤけておる」
「うおっ!」


 私の顔の横からフランが顔をのぞかせる。ビックリした私は思わずチョコレートを取り落としそうになる。
 私は急いでチョコレートをアイテムボックスに入れる。


「に、ニヤけてなんていない!」
「隠さんでもよい。上手にできたのが嬉しかったんじゃろ?」
「……うん」
「ならば、すぐにロワに私に行って来い。今の時間ならば弓道場にいるじゃろう」
「分かった。行ってくる!」


 エプロンと頭巾を脱ぎ捨て、私はキッチンを飛び出す。待ってろ、ロワ!


☆   ☆   ☆   ☆


「ねーねー、ノエル達はどうするの?」
「今からホウリにでもチョコレートを作るか?」
「それいいね!じゃあ早速溶かしたチョコを固めて……」
「それよりも、ミエルが言っていたザッハトルテを作らんか?普通にチョコを固めるよりも楽しいぞ?」
「それいいね!」
「では始めるか」
「はーい!」


☆   ☆   ☆   ☆


 弓道場に向けて私は走る。欲を言えば全力疾走したい所だが、今は昼間。人通りも多いから小走りで人の隙間を縫っていく。
 いつもなら数分で着く距離なのに、今は数時間かかっているように感じる。心持でこんなにも変わるものなのか。
 はやる気持ちを押えつつ、私は弓道場に急ぐ。ロワは休みの日には弓道場で昼まで特訓し、昼からは魔語の勉強をする。だから、本来であれば昼まで待てば探しに行く必要はない。
 だが、私はこうして走っている。それほど早くロワに会いたいのだ。


「うおおおお!ロワアアアア!」
「あれ?団長?」


 必死に走っていると後ろから声を掛けられた。振り向くと、同じ部署のケットとリンがいた。


「不審者丸出しで何やってるんだ?」
「不審者丸出しとはなんだ。人聞きが悪いな」
「叫びながら走っているのは不審者以外の何物でもないと思うわよ?」
「そういえば、今日はバレンタインだったな。チョコくれよ」


 話の流れをぶった切ってケットが手を差し出してくる。


「お前にやるチョコは無い」
「ケチだな。ロワには渡す癖に仲間の俺には渡さないのかよ」
「そんなの……、ってなんでロワに渡す事を知ってるんだ!?」
「あれだけ叫んでいてバレてないと思ってんのか?」
「呆れた。恋は盲目っていうけど、ミエルはよっぽどね」


 そんなに分かりやすかったのか。なんだか恥ずかしくなってきた。


「ところで、ロワ君にはどんなチョコを渡すの?」
「バカみたいに高いチョコか?それなら俺が味見してやろうか?」
「そんな特別なチョコじゃない。私の手作りってだけだ」
「ミエルの?」
「手作り?」
「ああ」


 私は作ったチョコを取り出す。
 それを見たケットとリンが顔を見合わせて、徐々に顔を青くしていく。そして、2人は私に向かって手を伸ばしてくる。


「ミエル!さっさとその危険物を渡せ!」
「人が必死に作ったものを危険物とはなんだ!」
「うるさい!そんな物がロワ君の口に入ったら一発でお陀仏になるでしょ!」
「そんな事は───」
「「ある!!!!」」


 2人に断言されて私はたじろぐ。


「隙あり!」
「うおっ!」


 奪われそうになったのを寸での所で躱し、チョコをアイテムボックスに仕舞う。


「何をする!」
「問答無用よ!ケット!」
「おう!」


 リンが身を低くして私に迫ってくる。だが、チョコは既にアイテムボックスの中だ。これではどうしようも……。


「アイテムスティール!」
「な!?」


 リンの手が黄色に輝き、私に迫る。私はとっさに盾を出して、リンの手を弾く。


「今のはアイテムスティール!?」
「その通りだ!これを使えば体に触れるだけでアイテムボックスの中の物を奪う事が出来る!」
「くそっ!」


 アイテムボックスに入れていると逆に不利という事か!だったらアイテムボックスから取り出すしかない!
 アイテムボックスからチョコを取り出して懐に仕舞う。これで安心───


「安心している場合か?」


 リンとスイッチしてケットが私に向かってくる。職業がシーフなだけあって素早い。騎士の私ではケットにはかなわないだろう。
 逃げようにもすぐに追いつかれるだろうしピンチだ。こうなれば対話でなんとかするしかない!


「ま、待て!このチョコは安心安全だ!」
「そんなの信じられるか!」
「本当だ!チョコを溶かして固めただけだし、ちゃんと味見もしてもらった!」
「……本当か?」


 ケットとリンが油断なくこちらを睨みつけてくる。ここの返答を間違えればすぐに襲ってくるだろう。私は頭を必死に回しながら慎重に返答する。


「本当だ。フランに食べてもらって問題ない事は確認してある」
「……嘘は吐いてないみたいね」


 ケットとリンが構えを解いて表情も柔らかくなる。どうやら分かってもらえたみたいだ。


「察するに一人で作った訳じゃないのか?」
「不本意だがその通りだ」
「通りでまともな物が出来た訳だ」
「どういう意味だケット?」
「な、なんでもねえよ!ほら!噂をすればロワが来たぜ!」
「そんなウソに騙されるわけが───」
「あれ?ミエルさん?」


 思わず振り返ると、汗ばんだロワが立っていた。首にはタオルをかけていて、頬はほんのりと赤くなっている。


「ろろろろロワ!?」
「こんな所でどうしたんですか?」
「えっと、リンとケットとばったり会ったから話していたんだ」
「先輩たちですか?どこにいるんです?」
「すぐそこにいるだろう?」


 私が振り向くと、リンとケットが跡形もなくいなくなっていた。なんて素早い奴らだ。この実力を仕事でも発揮してほしいものだ。
 ん?となると、ロワには私が独り言を話していたように見えるって事か?それって頭の可笑しい奴に見えないか?


「…………」
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない」
「そうだ。どうせなら一緒に帰りませんか?」
「あ、ああ」


 笑顔のロワと並んで帰路を辿っていく。まずい、このままでは何事もなく家に付いてしまう。その前にチョコを渡さないと。
 私の心情を知らないロワは楽しそうに話を始める。


「ミエルさん聞いてくださいよ。弓道場で弓を使っていたら弦が切れた人がいまして。僕の弦をあげたんですよ」
「そうか」
「そうしたらお礼にチョコを貰いまして」


 そう言ってロワは綺麗にラッピングされたチョコを取り出す。


「せっかくなので貰ったんですけど、それ以外でもチョコをいっぱい貰ったんですよ。なんででしょうね?」
「もしかして、女から貰ったのか?」
「良く分かりましたね?……あ、そうか。今日はバレンタインでしたね」


 やっと思い至ったのかポンと手を叩く。くっ、出遅れてしまったか。


「通りでチョコが沢山もらえた訳です」
「い、いつも貰うのか?」
「いつもは貰いませんよ?今日はバレンタインだからじゃないですか?」
「ちょっと見せてもらってもいいか?」
「良いですよ」


 ロワからチョコを受け取り、じっくりと眺めてみる。チョコの種類はトリュフでかなり手が込んでいるように見える。
 ラッピングもシールや色紙など多彩な装飾がされており、リボンを巻いただけな私のチョコよりも可愛らしく見える。


「…………」
「どうしました?」
「……返す」
「ありがとうございます?」


 ロワが首を捻りながらチョコを受け取る。
 これって本命か?これって私が勝てる所無くないか?私があげる必要ないんじゃないか?


「…………」
「どうしました?気分悪いですか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか?」


 私の答えに納得してないのかロワが首を捻る。
 こんなに素晴らしいチョコを渡されてしまったら、私のチョコなんて霞んでしまうのではないか。
 そんなネガティブな考えが私の頭を満たしていく。もう、諦めてしまおうか、そう考えた瞬間にとある言葉を思い出す。


『4つ、後悔の無いしろ。これが条件だ』


 そうだ、せっかく頑張って作ったのに諦める訳にはいかない。
 ここで渡さなかったら一生後悔する。拙くても今の私をぶつけるんだ。


「ろ、ロワ!」
「はい!?」


 急に大声を出してしまい、ロワが驚いて飛び上がる。周りの目も私に向き、思わず縮こまる。


「す、すまない、いきなり大声を出してしまったな」
「大丈夫ですよ。それで、どうかしました?」


 ロワが立ち止まって私を見つめて来る。
 なんだか渡しづらいが、ここで怯んではダメだ。ドラゴンと対峙した時を思い出せ。あの時に比べればチョコを渡すくらい……ドラゴンの方がマシじゃないか?
 ああもう!ごちゃごちゃ考えるとどんどんネガティブになる!ここは勢いに任せるに限る!
 私はロワと目をしっかりと合わせる。


「ロワ!」
「はい!」
「これ!」


 勢いに任せて持っていたチョコを差し出す。すると、ロワは目を丸くしながらチョコを受け取る。


「これ、ミエルさんが作ったんですか?」
「チョコを溶かして固めただけだが、ちゃんとフランに味見してもらったから安心な筈だ」
「ちょうど小腹が空いていたんですよ。食べていいですか?」
「勿論だ」


 ロワがチョコを1つ取り出して口に含む。私はドキドキしながらロワが咀嚼する様子を見守る。

「(モグモグ)美味しいですね。甘さが抑えられて僕でも食べやすいです」
「良かった……」


 笑顔でチョコを頬張るロワを見て、私は胸を撫でおろす。良かった、変なところはなかったみたいだ。
 ロワは次々とチョコを頬張る。そんなにお腹が空いていたのか。


「そうだ、ひとつ言い忘れてた」
「なんでしょう?」


 ロワは次々にチョコを食べて満足げに微笑む。


「実はな」
「はい」
「一つだけこ
「……へ?」


 ロワが既に空となった袋を持って目を丸くする。


「隠し味にこっそりと特性のスパイスを入れてな。疲れ切っている体を優しく癒してくれるはずだ」
「…………」
「ロワ?」


 ロワの肩に軽く触れる。すると、ロワが白目を剥いて泡を吹きながら倒れた。


「ロワ!?ロワ!?」


 ロワを抱き起こすが白目を剥いたまま意識を取り戻さない。
 結局、すっ飛んできたフランとノエルが2人がかりでセイントヒールを掛けることでロワは意識を取り戻した。
 私には再びキッチンの立ち入り禁止が言い渡された。
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