魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百九話 争え…もっと争え…

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 ある日の夕飯、何故か食卓には重苦しい雰囲気が漂っていた。原因であるロワが醤油を取ろうと食卓の中心に手を伸ばす。すると、同じく醤油を取ろうとしたミエルと手が当たり互いに顔を見合わせる。

「「……ふん!」」


 同じタイミングで同じように顔を背ける。俺が帰って来てからずっとこんな感じだ。
 フランとノエルも居心地が悪いのか、いつものお喋りもなりを潜めている。無言のリビングに食器がぶつかる音だけが響く。咳払いをするのも憚られる程の空気感だ。
 早く食事を終わらせよう。そう思いフォークを動かす手を早くすると、フランが念話で話しかけてきた。


『のう、少し良いか?』
『なんだ?ロワとミエルの事か?』
『そうじゃ。いつもは仲が良いロワとミエルが喧嘩しておるなど、ただ事ではないぞ?』
『なんだか怖いよー』


 ノエルも念話に参加してきた。よっぽど2人の事が気になるらしい。


『何か心当たり無いか?』
『確信できるほどの情報はない』
『その言い草じゃと、少しは知っているのか?』
『昼頃、ラッカがある物を調達していたらしい』
『ある物ってなあに?』
『メイド服と猫耳カチューシャ』
『……へ?』


 予想していた斜め下の回答に2人が言葉を失う。数秒して、フランが何とか言葉を絞り出した。


『なんでそんな物を?』
『ミエルがラッカに恋愛相談して、なんやかんやで着ることになったんじゃないか?』
『にゃんこメイドさんと何か関係あるの?』
『大方、奇抜な格好でロワの気を引こうとしたんじゃないか?』
『そういえば、わしらに2時間くらい家に帰ってくるなと伝言があったのう?わしらにその姿を見せんようにするためじゃったのか』
『それがなんで喧嘩してるの?』
『ロワが余計な事を言ったんじゃないか?』
『『あー』』


 2人はありそうと思ったのか、大きく頷く。その様子を不審に思ったのか、ロワがこちらを睨みつけてくる。


「フランさん?ミエルちゃん?どうしたんですか?まさか、何か内緒話でもしているんですか?」


 ロワの視線が鋭くなる。不信感が丸出しになってるな。いつも以上に機嫌が悪い。


『どうする?』
『俺に任せろ』


 それだけ念話で伝えて、俺はロワを見据える。


「ああ、内緒話してるぜ」
「むう、そういうの気分良くないんですけど?」
「なら参加するか?議題は魔国の経済状況を鑑みての経済政策についてだ」
「あ、やっぱりいいです」


 俺から視線を外してサラダを突くロワ。これでもう話しかけてこないだろう。


『流石ホウリお兄ちゃん。ロワお兄ちゃんが難しい話が苦手な事を逆手に取った作戦だね』
『それロワ本人に言うなよ?』
『で、これからどうする?このまま放っておく訳にもいかんじゃろ?』
『夕飯の後にそれぞれに話を聞くしかないだろ。俺はロワ、フランはミエルに話を聞いてくれ。ただし、俺から聞いたことは知らないフリで頼む』
『分かった』
『ノエルは?』
『何かあれば協力してもらうから待機しておいてくれ』
『はーい』


 そんな訳で、俺たちはこの状況を何とかするためにそれぞれの話を聞くことになったのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 夕飯が終わり、俺はロワの部屋にお邪魔することになった。
 ドアをノックするとロワがドアを開けて出てきた。


「いらっしゃいませ。ですが、いきなりどうしたんですか?」
「要件は中でな」
「わかりました。どうぞ」


 ロワの部屋に入り、ベッドに腰掛ける。部屋の中は弓が壁にかけてあったり、弓に関する本とか、弓関連の物しかない。ベッドも弓のイラストが描いてあって、本当に弓しかないな。
 いつもの感想は置いといて、俺は本題に入る。


「なんでミエルと喧嘩してるんだ?」
「い、いきなりなんですか?」


 突然の質問にロワがアワアワしだす。


「べ、別に喧嘩してませんよ!」
「そういう誤魔化しはいらない。何があったか話せ」
「ホウリさんには関係ないですよ」
「ほう?夕食の雰囲気を悪くしといて俺には関係ないか。ということは、明日には仲直り出来てるって事で良いんだな?」
「うぐっ……」


 痛い所を突かれたのかロワが表情を歪める。
 俺だって当人同士で解決できるなら口出ししたくない。が、今回は当人同士に任せると悪化する可能性が高い。だからこそ、俺はこうしてロワに話を聞きに来ている訳だ。


「分かったら話を聞かせろ。何かアドバイスが出来るかもしれない」
「……分かりました。ただし、話せない部分はぼかしますけど良いですか?」
「勿論だ」


 ロワは俺の隣に座って、少しずつ話を始めた。
 要領を得にくい話だったからまとめると、ロワが帰ってくるとミエルが奇抜な格好をしており、見なかった事にしようとしたら急に怒られた、という事らしい。


「僕は優しさから見て見ぬフリをしたんですよ?怒られるのは可笑しくないですか?」
「起こる前にミエルは何か言ってたか?」
「話を聞いて欲しいみたいな事は言ってた気がします」
「聞いたのか?」
「いえ、何も聞かずに察するのが優しさだと思いましたので」


 ロワの答えに頭を抱える。大方予想通りだったが、ここまでバカだとは思わなかった。


「どうしましたホウリさん?」
「なんでミエルの話を聞いてあげなかったんだ?」
「それが優しさかと思いまして。察しているのに説明させるのは相手に失礼じゃないですか?」
「ロワの考えが間違っている可能性は考えたか?」
「え?」


 まったく考えていなかったのか、ロワが首をかしげる。


「僕の考えが間違っている?」
「その人が考えている事は、その人しか分からないものだ。だからこそ、話し合いって言うのが大事なんだよ」
「ですが、ホウリさんは言わなくても色々と察してくれますよね?」
「俺は色々と察しないと生きていけない環境にいただけだ。俺を基準にしたら色々とおかしなことになるぞ?」
「……そうですね」


 俺の言葉にロワが顔を覆って落ち込む。


「……僕、ミエルさんにひどい事をしたのでは?」
「言い訳も聞いてもらえず、一方的に話を打ち切られるのは酷いだろうな」
「……どうすれば良いでしょうか?」
「俺に相談しなくても分かってんだろ?さっさと行ってこい」
「分かりました。僕、ミエルさんに謝ってきます」
「おう。今度は失敗するなよ」


 ロワが慌てて部屋を飛び出す。
 ロワの素直な所は利点だな。ただ、それを余りあるアホなのが玉に瑕か。まあ、後はロワに任せるかな。



☆   ☆   ☆   ☆



 夕食後、私は剣を持って庭に出た。こういうモヤモヤしている時は体を動かすに限る。
 シンと静かな庭の中心に立ち、剣を構える。そして、振り上げた剣を無心で…………


「ミエル?」
「うおっ!?」


 振り下ろした瞬間に背後から声がした。私は剣を放り投げそうになった剣を必死で掴みなおす。
 振り返ってみるとフランがヒラヒラと手を振りながら歩いてきていた。


「すまぬな。驚かせるつもりは無かったんじゃ」
「別にいいが、どうしたんだ?」
「そのセリフはわしから贈ろう。どうした?ロワと何かあったか?」


 フランの問いに私は言葉を詰まらせる。正直に昼間の出来事を言うべきか?しかし、昼間の出来事を言うという事は、私の醜態を言うという事になる。それだけは避けたい。
 しかし、さっきの食事を思い出すとかなり空気が悪かった。原因が私とロワにある以上、全く話さないというのも気が引ける。どうしたものか。


「……抽象的な話になるが良いか?」
「良いぞ」
「ロワの為に頑張ったのだが、当のロワに変な意味に取られてしまってな。弁解しようとしたのだが、全く話を聞いてもらえずに怒鳴ってしまったのだ」
「それで今に至る訳か。それはロワが悪いのう」
「……いや、私が悪いのだ」


 先ほどの事を思い出して、私は項垂れて剣を取り落とす。


「何故じゃ?話を聞く限りお主は悪くないようじゃが?」
「ロワに分かってもらおうと必死になってしまった。私が我慢して引いておけば、ロワと喧嘩する事もなかったのだ」


 そこまで言って、自分の顔に何かが伝って来ているのを感じた。顔に手を当ててみるとそれが涙なのだと分かる。
 自分が泣いているのだと自覚した瞬間、せきを切ったように涙があふれて来た。あふれた涙を袖で必死に拭く。


「ぐすっ……私が我慢さえしていれば。こんなんじゃ、ロワと付き合えてもすぐに嫌われてしまう……。だから私が……」
「ミエル」


 瞬間、物凄い力でフランに抱き寄せられる。私がビックリしていると、フランが優しく話し始めた。


「よしよし、良く頑張ったのう」
「な、なにを……」
「良いかミエル。どんなに仲が良い奴でも喧嘩くらいするもの。喧嘩もせん関係など浅いものじゃ。一緒になっても幸せになどなれんよ」
「しかし、私の両親は喧嘩しないが幸せそうだぞ?」
「お主に見せておらんだけじゃ。陰で大なり小なり喧嘩しておる筈じゃぞ?」


 フランは私を抱きしめたまま、優しく頭を撫でてきた。


「喧嘩は悪い事ではない。喧嘩した後に仲直り出来れば、その絆はより強固な物になるじゃろう。じゃから、お主はロワが謝ってきた時に許してやれ」
「…………ありがとう」


 こんな泣き顔ではロワと話す事など出来ないな。フランから離れ涙を拭き呼吸を整える。


「ふー、よし」
「元気でたみたいじゃな」
「ああ。フランのおかげだ」
「ならば、わしの出番は終わりみたいじゃな。後はロワとゆっくり話すが良い」


 そう言ってフランは私の後ろを指さす。振り返ってみると、ロワが真剣な表情で私の元へと歩いてきていた。


「ロワ!?」
「ミエルさん」


 いつの間にかフランは庭から姿を消しており、庭には私とロワが取り残された。
 ロワはわたしの前に立つと、気まずそうに頭を掻いた。静寂な庭に取り残された私たちの間に気まずい雰囲気が流れる。


「その……お昼の事なんですが……」
「あ、ああ」
「すみませんでした!」


 ロワが勢いよく頭を下げる。


「ミエルさんの言う事を聞かずに、一人で盛り上がってしまいました。僕は最低な人間です」
「い、いや、勘違いされるような事をしてしまった私も悪かった」
「いえ、僕が悪かったです。なので……」


 ロワが私の手を取って真っすぐと目を見て来る。


「ミエルさんの言葉を聞かせてください!」
「……へ?」


 ロワの言葉に私は言葉を失う。よく考えたら説明を聞いてもらえるからって、なんと説明すればいいのだ?
 猫耳カチューシャとメイド服を着ている事を正当化できる理由?そんなのホウリくらい口が上手くないと出てこないだろう。


「一言も聞き漏らしません。だから、言いたい事は全て言ってください!」
「ちょ、ちょっと待って!」


 ロワの熱意を受けつつ、助けを求めるように家の方へ視線を向ける。しかし、家はいつものように静かで、誰かが出てくる様子は微塵もない。
 私が困っている間もロワの猛攻は続く。


「分からなかったら質問もします!勘違いなんてもうしません!」
「だから待って」
「ミエルさん!」
「早速、話を聞けてないのではないか!」


 くそっ……なんとか誤魔化せないか……。
 そう考えていると、ラッカのとある言葉が頭の中に響いてきた。


『ミエルはここぞという時に守りに入る癖があるニャ。ガンガン攻めないと、恋愛は攻めあるのみニャ!』


 そうだ。ここで誤魔化しては何も変わらない。ここは攻めあるのみだ!


「ろ、ロワの為に着たんだ」
「……へ?」


 思ってもみなかった返しに、ロワの手から力が抜ける。


「僕の為に?」
「…………そういう事だから!」


 私はドクドクとうるさい心臓を抱えて、逃げるように家まで駆け抜ける。庭にはポカンとした表情のロワだけが残った。
 後日、事の顛末をラッカに言うと、よくやったと褒められた。てっきり逃げたことを呆れられるかと思った私は、少しだけ前進した気がして嬉しくなった。
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