魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百八話 イエーイ お兄ちゃんの彼女だニャン

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 休日の朝、私は家にラッカを呼んだ。いつもならカフェで待ち合わせをするのだが、今日は皆出払っているので家に呼んだ訳だ。


「今日は来てくれてありがとう」
「『今日も』の間違えニャ。いい加減、休みの日に呼び出すのは止めるニャ」
「魔国で協力してくれると言っただろう?」
「あれは偶に相談に乗るという意味ニャ。こんな頻繁に呼び出されるとは思ってなかったのニャ」


 ラッカがぐったりと机に突っ伏す。そんなに頻繁に呼んでたか?1週間に一度くらいだぞ?
 ラッカの言葉に首を傾げつつ、ホウリに作ってもらっていた冷茶を出す。


「ホウリ特性の冷茶だ」
「ありがとニャ」


 ラッカはコップを持つと、冷茶を一気に呷った。


「ふう、美味しいニャ」
「ホウリ特性だからな。それ飲んだら始めるぞ」
「……あれは何処ニャ?」
「ここにある」

 
 私は桐箱に入った鰹節をラッカに渡す。瞬間、目にも止まらない速さで桐箱が開けられ、ラッカが鰹節をかじる。
 これが無いとラッカのやる気が著しく落ちる。毎回用意するのも面倒だが、付き合ってもらっているのだから仕方がない。


「確かに貰ったニャ」
「齧りながらで良いから始めるぞ」


 ラッカへの相談も随分と回数を重ねたものだ。だが、ロワとの進展はない。どうしたものか。


「それはミエルがヘタレなだけにゃ。さっさと告白して幸せになるといいニャ」
「そういえば、ロワに始めてあった時に色目使っていたよな?ロワの事は好きじゃないのか?」
「親友が狙ってなければ、もう告白してるニャ」
「そ、そうか」


 危なかった、ラッカの奴、本気の目をしていた。というより、ロワの顔を見た奴はロワに盲目になるみたいだが、ラッカには効果が薄いのか?フレズの時はフランの静止すら効いていなかったようだし、個人差があるのは確かか。


「そんな訳でラッカの気が変わらない内に、ロワ君を物にするニャ」
「ぜ、善処しよう」
「じゃ、今日の相談始めるニャ。そういえば、ひとつ気になった事があるんだけどニャ」
「なんだ?」
「ロワ君ってどういう女の子が好みニャ?」


 ラッカの質問に私は眼を丸くする。
 そのまま黙っていると、ラッカが心配そうに声を掛けて来た。


「どうかしたニャ?」
「思えばロワの好みって聞いたことないな」
「1年も一緒にいて、なんで知らないのニャ?」
「だって!そんなの聞いたら告白みたいじゃないか!」
「はぁ……小学生みたいなこと言ってるニャ」


 ここ最近で一番冷たい視線が私を襲う。いたたまれなくなり、目線を逸らしながら話を進める。


「な、ならば今回はロワの好みをどうやって聞き出すかの相談を……」
「回りくどいニャ」


 私の言葉はバッサリと切り捨てられる。ちょっとくらいは優しくしてくれても良いのではないか。


「そんなに回りくどい事をしてたら、ロワ君を落とすまでに何十年もかかるニャ」
「流石にそこまでは言い過ぎだろう」
「ラッカが思うに、ロワ君の好みを聞くまでに2~3年かかって、その好みに合わせようと失敗を繰り返して5年くらいたって、結局失敗して迷走していくニャ」
「いやに具体的な想像だな」


 無いと言い切れないところが辛い。


「じゃあどうするのだ?」
「男の子なんて単純ニャ。色気のある恰好で気を引くのニャ」
「い、色気のある恰好?水着とかか?」


 露出の多い服は恥ずかしいな。思えば、騎士団で仕事している時も休みの日も、露出の高い格好はあまり来ていないな。


「恥ずかしいが、ロワの為に露出の高い服でも買うべきか?」
「ミエルは分かって無いニャ」


 やれやれと首を振るラッカ。無性に腹が立つが、ここで怒るほど私は子供ではない。広い心で許してやろうじゃないか。


「脱げば良い、そんな浅はかな考えはおこちゃまですら持ってないニャ」
「よし、表に出ろ。大剣の錆びにしてやる」
「ラッカの速さにミエルが付いて来れる訳ないニャ。無駄に恥かくだけニャよ?」


 ラッカがナイフを取り出し、ニヤリと笑う。私も大剣を取り出して上段で構える。


「………………」
「………………」


 しばらく睨みあいが続き、同時に武器を仕舞う。ラッカの攻撃は私に効かず、私の攻撃はラッカに当たらない。やるだけ不毛だ。


「なら、ラッカはどうすれば良いと思うんだ?」
「着るものを工夫するのはいいと思うニャ。ミエルはスタイルがいいんだし、それを武器にするニャ」
「どういった服を着ればいいんだ?」


 すぐに思いつくのは胸元が大きく開いた服とかだが、そういうのではないみたいだし。私には見当がつかない。
 ラッカは得意げに笑って口を開く。


「例えば、コンセプトを決めたりすると良いニャ」
「コンセプト?カッコいいとか可愛いとかか?」
「それもあるけど、ここで言うコンセプトはもっと具体的ニャ」
「具体的?どんなのだ?」
「今の流行りは看護師とか魔法使いニャ」
「え?それってもしかして?」
「そう、平たく言えばコスプレだニャ」


 思ってもいなかった答えだ。正直、ピンと来ていない。


「今は普段、そんな服を着るかって話じゃないのか?」
「ミエルがいつも洋服に気を回せるとは思ってないニャ。だから、たまに突飛な格好をして気を引くニャ。一度気を引けば、日常でもちょっとは意識される筈ニャ」
「なるほど、そこまで考えていたんだな」


 ラッカの言う通り、私は衣服に気を回すのは苦手だ。それならば一度だけ記憶に残る恰好をした方が良い……のか?
 良く分からないが、ラッカがそういうのならそうなのだろう。


「私は何を着ればいいのだ?」
「今考えてる所ニャ。ミエルは出る所は出てるけど、締まる所は締まってるし、ライダースジャケットとか良いかニャ?体のラインが出る方が……」
「そういえば、ラッカのズボンって丈がかなり短いな?」


 ラッカの格好は半袖のシャツに丈が短いズボン、所謂ホットパンツだ。下半身の露出はかなり高い。ラッカと同じ格好すれば良いのではないか?


「ラッカのは動きやすくするための物で、実用性重視なんだニャ」
「ラッカの趣味だと思ったんだが違うんだな」
「趣味の部分もあるニャ」


 ラッカがお尻を突き出して尻尾を左右に振る。仕事で好きな格好出来るのは良いな。


「で、肝心のミエルの格好なんニャけど……」


 ラッカが私の体を舐め回すように見てくる。気心知れた相手とは言え、ここまで露骨に視線を感じると恥ずかしい。
 思わず体を手で隠すと、ラッカはニッコリと笑った。


「うん、ミエルならあの服がピッタリだニャ」
「……大丈夫か?」
「何か不安かニャ?」
「お前、王都で爆破事件を起こした時と同じ目をしてるぞ?これが不安にならない訳ないだろ?」
「にゃははは、そんな事無いニャ。ラッカにドーンと任せるニャ」


 ラッカが自信満々に胸を叩く。だが、私の不安は消えることは無い。
 はたして、この猫にまかせてもいいのだろうか?任せっきりでは酷い目に合うのではないか?だが、断った所で他に手はない。私一人では何もできないだろう。
 私はひとしきり悩んだ後、答えを出す。


「分かった。ラッカに全て任せよう」
「そうこなくっちゃニャ!早速、準備するニャ!」


 ラッカが勢いよく家を飛び出していく。その後ろ姿を見て、私は言い知れない不安を感じるのだった。


☆   ☆   ☆   ☆


 ラッカが持ってきた服に着替え、玄関でロワを待ち構える。ホウリに頼んでフランとノエルには帰ってくる時間を遅らせて貰った。これで、他の者に痴態を見られることはないだろう。
 ロワを待っている間、私は自分の格好を改めて見る。


「……なんでこんなにスカートが短いんだ?」
「短い方が可愛くないかニャ?」
「露出が高いのはダメなんじゃないのか?」
「ダメとは言ってないニャ。脱げば良いって単純な考えはダメって意味ニャ」
「そういう物なのか?」
「そうニャ」


 なんだか納得いかないが、ラッカがそういうのならばそうなのだろう。
 正直、滅茶苦茶恥ずかしいがロワの為だ。多少の恥は我慢しよう。


「セリフは覚えたニャ?」
「一応覚えた。だが、このセリフも必要なのか?」
「勿論ニャ。ラッカは手伝えないから、一人で頑張るニャ」


 ラッカが肩を叩いて元気付けて来る。思えばラッカにも色々と助けられたな。ロワとの関係が進展したら、鰹節を沢山送ってやろう。
 そう思っていると、扉の向こうから足音が聞こえた。ロワが来たことを察知した私は衣服を調える。
 ラッカはというと、音も無くこの場から姿を消した。流石は魔国のエース調査員だ。
 深呼吸して気持ちを落ち着ける。すると、足音が止まり扉が開いた。


「ただいま戻りましたー」


 ロワがいつものように挨拶をして家の中に入ってくる。そして、私を見たロワは目を見開いて固まった。
 私は片足を上げて両手首を軽く曲げて顔の横に持ってくる。


「お、おかえりなさいませ、ご主人様……ニャン」


 私が着ているのはメイド服。ただし、エンゼお爺ちゃんの屋敷にいるようなメイド服よりもスカートの丈が短い。そして、頭にはラッカと同じような猫耳のカチューシャをつけている。
 ラッカ曰く、コンセプトは『猫メイド』だそうだ。これでロワのハートもいただき!……らしい。


「……ミエルさん?」
「な、なんニャ?ご主人様?」


 恥ずかしさで顔が熱くなっていくのを感じる。しかし、ここで引いては準備した意味がなくなってしまう。
 ラッカには衣装代を支払ったし、ホウリには人払いの代償を払っている。ここで引く訳にはいかない。
 恥ずかしさを堪えつつ、私は笑顔を作る。


「ご、ご主人様。お茶の準備が出来てるニャ。さ、リビングに来るニャ」
「………………」


 ロワは引きつった顔で私を見つめると、無言で扉を閉めた。


「ロワ!?」


 私は咄嗟に玄関を開ける。外には早歩きで家から離れようとするロワの姿があった。


「ロワ!」
「あ、ミエルさん。大丈夫ですよ。僕は何も見ませんでした」
「ロワ!?違うんだ話を聞いてくれ!」
「大丈夫ですよ。趣味は人それぞれですから」
「そんな優しい目で見るな!これには事情があるんだ!」
「あはは」
「乾いた笑いはやめてくれ!」


 必死に説明しようとするも、ロワは乾いた笑いを浮かべるだけだ。


「うんうん、僕はここに来ませんでした。あと一時間してから帰ってきますね」
「違うんだ!話を聞いてくれ!」
「大丈夫です。誰にも言いませんよ」
「だーかーら!話を聞いてくれー!」


 この後、ロワに必死に説明してなんとか分かってもらう事は出来た。
 ラッカには数発、拳を打ち込んでおいた。
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