魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百二十四話 ちなみにここでフラン倒すとフリーズする

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 怒涛の遠征から帰ってきた僕たちは長官に報告を済ませて家に帰ってきました。
 そして、リビングでホウリさんとフランさん、ノエルちゃんに遠征でのことを話す。


「────という事があったんですよ」
「かなり興味深い出来事だな」
「コマンドデーモンの事か?ミエルの事か?」
「どっちもだ」


 ホウリさんが顎に手を置いて考え始める。なんでも即座に結論を出すホウリさんには珍しい。


「ねぇねぇ、コマンドデーモンってどうだった?強かった?」
「それは死にかけたからね。鬼のように強かったよ」
「1体目はなんとか対処できたのだがな。2体目は流石にきつかったな」
「わしとしては、2体のデーモンコマンドと戦ってみたかったのう。前のハイミノタウロスは手ごたえが無くての」
「それを言えるのはフランさんだけですよ」


 ホウリさんが考えている間に僕たちは盛り上がる。極限の戦いだったけど、今思い返してみるといい経験になったと思う。もう、あんな戦いはごめんだけど。


「……よし。対応方針が決まったぞ」
「今回は少し考えたのう?」
「今回は邪神がらみの可能性が非常に高い。慎重にもなるさ」
「邪神って、他の神様って事ですか?」


 ホウリさんが神妙な面持ちで頷く。それを見たフランさんが眉を顰める。


「待たんかい。なんで邪神が出てくる?気を付けねばならぬ事はわかるが、飛躍しすぎではないか?」
「まずはそこから説明する。去年の夏に海でクラーケンを討伐したのを覚えているか?」
「ロワが一撃で仕留めた奴じゃな」
「最近はフランがハイミノタウロスを仕留めた」
「お肉おいしかったー」
「今回はコマンドデーモン。しかも2体だ」
「本当に今回ばかりはダメかと思いましたよ」
「全て1年以内の出来事だ」
「そうじゃな」


 そう思うと結構いろんな敵と戦ってる。


「これらの魔物は本来は10年に1体くらいの頻度で出現する」
「多すぎるという事か?」
「偶然だろう。以前にも強力な魔物が大量に発生したという事例は存在する」
「確かにこれだけだと偶然で片づけられる。だが、少なくともコマンドデーモンは違う」
「なぜだ?」
「戦術を持って襲ってきている」
「へ?」


 そう言われてもピンとこない。普通に順番に襲ってきただけじゃ?


「1体目で全体を削り、2体目で止めを刺す。そういう戦術を取ってきている」
「待て待て。2体で同時に襲ってきた方が良いじゃろ?」
「相手によっては協力な範囲攻撃を持っている可能性がある。俺が敵なら1体目で様子見する」
「そうか?」


 まだ納得できない。確信できる話とは思えないかな?


「まあ、確かに確たる証拠がある訳じゃない。だが、こうも立て続けに怪しいことが起こっていると、邪神の仕業の可能性も出てくる」
「まあ、怪しくはあるか」


 ホウリさんが怪しいって言うんなら何かあるのかもしれない。偶然で片づけて、本当に邪神の仕業だったら大変だ。


「本当に邪神の仕業なのか、だとしたら目的は何か。それを調べていく必要がある」
「まあ、調べるのはお主じゃし好きにせい」
「ですね」


 ホウリさんなら即座に調べて手を打ってくれるだろう。何かあれば知らせてくれるだろうし、安心だ。


「1つ目はこれで終わりだ」
「2つ目はミエルの白い盾か」
「そうだ。今後のためにも少し調べたい」
「どう調べるんだ?自分でステータスを見ても何もなかったんだぞ?」
「あ、フランさんの鑑定とかですか?」


 フランさんは僕の弓神も見つけられた。ミエルさんのスキルも見つけられるかもしれない。


「自分を鑑定してもらうというのは少し抵抗があるな」
「強くなるためです。少しは我慢しましょう」
「そうだな」
「話はついたな。フラン」
「うむ」


 フランさんがミエルさんに手のひらを向けて、目を閉じる。


「どうですか?」
「……なにも無い」
「へ?」
「なにも無い。海で見た時よりステータスが上がってるくらいじゃ」
「でもさ、ミエルお姉ちゃんは白い盾を使えたんだよね?なんで使えたの?」
「分からん」
「ホウリさんは何か知らないですか?」
「そんな話は聞いたことないな」


 ホウリさんでも知らない、フランさんでも分からない、もうどうしようもないんじゃないかな?


「こういう時って古い文献とかを漁るんですよね。なんだかワクワクします」
「知識が偏ってないか?」
「ロワが古文書を読むと、5秒で寝そうじゃな」
「容易に想像できるな」
「僕に対するイメージについて話し合う必要がありそうですね」


 皆さん失礼ですね。1分は持ちます。


「古文書なんて俺が全部読んでるに決まってるだろ。どれだけ漁っても無駄だ」
「じゃあ無理ですね。諦めましょう」
「諦めが早過ぎる。コマンドデーモンと戦った時くらいの意地を見せろ」
「だって他に方法はないでしょ?奇跡の力だと思って諦めましょうよ」
「真面目に考えろ。お前にも関係があるかもしれないんだぞ?」
「僕に?」


 首をかしげるとホウリさんが頷く。


「分からないと言っても、目星は付いてるんだよ」
「目星?」
「神級スキルだ」
「あ、そっか。ミエルお姉ちゃんとロワお兄ちゃんは神級スキルを持ってるんだっけ」
「神級スキルが変化したということか?」
「その可能性がある」


 でも、ミエルさんのステータスには何もなかった。これはいったい?


「危機を感じた時に魂と神級スキルが共鳴して、一時的に特別なスキルに変化した可能性がある」
「そんな事があるのか?」
「特別な力、死の間際の緊張感、特別な魂、それらが揃った時に変化することがある。しかも、絶対に変化するわけでもない」
「中々厳しい条件じゃな。文献がないのも納得じゃ」
「となると、自由に出すのは厳しいか」
「コツさえつかめば、自由に発動もいけるぞ」
「僕も使えたりできますか?」
「可能性はあるな」


 おお、あんな強力な力を使えるのかー。楽しみだ。


「ホウリさんは使えるようになる方法、知ってます?」
「知ってるぞ。なんなら特訓してやろうか?」
「良いのか?」
「勿論だ。ロワも一緒にどうだ?」
「僕も?」
「お前たちが強くなってくれると、俺も都合が良いからな」


 僕もミエルさんみたいに、他の人を守れるくらいに強くなりたいなー。


「一週間は休みですし、明日からお願いします!」
「は?何言ってんだ?今からに決まってるだろ?」
「へ?」


 僕らは遠征からさっき帰ってきたばかりだ。ベッドに飛び込めば1秒で眠りに付くほど疲れている。
 それなのに今から特訓?何かの冗談じゃないだろうか?


「まてまて、流石に今からは厳しすぎるだろう?せめて少し休んでから……」
「どうせ死にかけるんだ。今やろうが後でやろうが変わらないだろ?」
「死にかける?」


 なんだか物騒な単語が聞こえて来たような?


「言っただろ?力を使える条件は死にかける事だ。何回も死にかけて力の出し方を学んでもらうしかない」
「あのー、やっぱり僕は遠慮しておこうかなって……」


 遠慮がちに席を立とうとすると、足を何かに掴まれた。
 ビックリして下に視線を向けると、虚空から腕が伸びてきて僕の足を掴んでいた。


「ひっ……」
「どうしたロワ?顔色が悪いぞ?」


 前を見るとホウリさんが微笑みながら頬杖をついている。これだけ見ると優しそうな印象を受ける。
 けど、僕の背中にはうすら寒い物が走る。これは早急に逃げないと……。


「ミエルさん、ここは協力して逃げましょう」
「それなんだが、足が何かに掴まれて動かないのだ」
「ミエルさんもですか?」
「ロワもか?」


 僕たちがひそひそと話していると、フランさんが無言で両手を見せて来る。そこには、手首より先が虚空の穴に吸い込まれていた。


「お主らを捕まえているのはわしじゃ。悪いが逃がせんぞ?」
「な、なにが起こるんですか?」
「お前らにはフランと戦ってもらう」
「いつもの訓練って事か?」


 それならいつもの事だ。だったらそこまで、身構える必要も……


「ちなみに、俺がフランに戦闘の指示を出す」
「ワープアロー!」
「スラッシュ!」


 ホウリさんが僕のワープアローをワイヤーで絡めとり、新月でスラッシュをかき消す。


「嫌だぁぁぁぁぁ!死にたくなぁぁぁぁぁい!」
「離せ!私にはまだやる事があるんだ!」
「少しは落ち付け。まだ何するかも言ってないだろうが」
「じゃあ、死にかけることはないんですか?」
「油断したら普通に死ぬけど?」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!死にたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「憲兵!誰か憲兵を呼んできてくれ!」


 僕らは逃げる為に力の限り藻掻く。しかし、足はまったく動かない。
 「ホウリさんが指示するフランさん」なんてコマンドデーモンが何百体いても勝てない!早く逃げないと!
 僕らが必死にもがく中、ホウリさんはいつも通りの調子で話す。


「暴れたままで良いから話を聞いててくれ」
「よくそのままで話せますね!?」
「そうだ!ノエル!助けてくれノエル!」
「ノエルなら友達との待ち合わせがあるって出ていったぞ?」
「ノエルちゃぁぁぁぁぁぁん、カムバァァァァァック」


 僕の叫びはむなしく虚空に響く。ホウリさんは気にせずに話す。


「今から家の庭でフランと戦ってもらう。俺はフランと視界を共有しつつ、丁度良い感じにロワとミエルを殺しにいくように指示を出す。お前らは必死に抗ってくれ」
「殺しに行く!?明言するんですか!?」
「言うまでもないことだが、フランを倒せると思うなよ?」
「思うか!」
「トリシューラが何千本あっても勝てませんよ!」


 一通り叫んだ僕らは肩で息をしながら机に突っ伏す。


「つ、疲れた……」
「お疲れさん。じゃあ処刑場に行こうか」
「いま何か言いました?」
「何も?」


 無表情で席を立つホウリさん。その背中に大きな鎌のようなものを幻視する。
 いやいや、仮にも仲間ですよ?本気で殺しにくるなんて……


「ッシャア!久しぶりに本気のぎゃくさ……戦いが出来るわい!」
「今、虐殺って言い掛けませんでした!?」
「殺すのは良いが、俺の指示には従ってくれよ?」
「殺す方を止めてくれ!」


 こうして僕らは強制的に庭に連行されていった。


☆   ☆   ☆   ☆


「うおおおおおお!プロフェクションガードォォォォォォ!」
「複製トリシューラ!」


 フランさんの巨大な火球をミエルさんが受け止め、僕が全力の一撃を叩き込む。
 フランさんは複製トリシューラを片手で弾き、邪悪に笑う。


「その程度の攻撃でわしを倒せると思っておるのか?」
「思ってませんよ!使える手段がこれしかないだけです!」


 周りにはフランさんの結界があるから、どうあがいても逃げられない。かといってフランさんを倒すのも無理。
 これなら武器無しでコマンドデーモンを相手したほうが勝機があるだろう。


「くぅ、ついにプロフェクションガードも使ってしまった。MPポーションもない。次の攻撃は絶対に防げないぞ」
「絶対絶命ですか」


 戦闘という名の虐殺が始まって10分。全力でフランさんの攻撃を防ぎつつ攻撃をして、僕たちの力は限界を迎えていた。
 ホウリさんの言葉は冗談ではなく、フランさんは殺意を持って僕らを攻撃してきている。一手でも間違えれば確実に死んでいただろう。というか、まだ生きているのが不思議でならない。


「そ、そろそろ許してくれませんかね?」
「この特訓は私の白い盾を出すための物だ。恐らく、私が白い盾を出すまで続くだろう」
「じゃあ出してください!じゃないと僕ら死にますよ!」
「簡単に言うな!」


 言い争っていると、煌々と赤い光が降り注いできた。
 上を見てみると、フランさんが宙に浮いていた。頭上に家を飲み込むほどの火球が浮んでいる。


「……ミエルさん、あれは受け止められます?」
「……プロフェクションガードが無いと無理だな」


 これは死にました。もう抵抗する気も起きない。


「あーあ、こんなことなら買うか迷っていた弓を買うべきだったな」
「諦めるな!まだ何とかなる!いや、私が何とかする!」


 そう言ってミエルさんが天に手を掲げて叫ぶ。


「うおおおおおお、死んでたまるか!」


 瞬間、ミエルさんの目が金色に光り始める。


「シン・ダブルプロフェクション!」


 ミエルさんの言葉と共に、火球に劣らない程の大きな白い盾が僕らの前に現れる。コマンドデーモンの時よりも明らかに大きい。


「いっけぇぇぇぇぇ!」


 火球が白い盾に接触し跡形もなくはじけ飛んだ。
 白い盾が消えると、後には青い空と空に浮かぶフランだけが残った。


「ふー……ふー……」


 ミエルさんの目から金色の光が消え、倒れ始める。僕は咄嗟にミエルさんの体を受け止めた。


「大丈夫ですか!?」
「ああ、問題ない。少し疲れただけだ……」
「ミエルさん!?」
「安心せい、気絶しただけじゃ」


 フランさんがいつの間にかミエルさんの横に立っていた。


「あの、もう戦闘は終わりって事で良いですか?」
「ああ終わった。ホウリに白の盾の情報を渡したから、お主らはゆっくりと休むがよい」
「ありがとう……ございます……」


 安心した僕は一瞬で意識が遠くなる。こうして、長かった遠征は終わったのだった。
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