魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
275 / 472

第二百三十三話 プリンを、2つも食べちゃいます

しおりを挟む
「はー、やっと終わりましたね」
「だな」


 的当てのゴタゴタが終わり、僕らは展示会を後にしていた。数時間の出来事だったけど、疲れで体が重い。


「なんだか疲れました。あとは宿でゆっくりします」
「言っておくが、まだハイファイでの用事は終わっていないからな?」
「え?……ああ、トリシューラですか」
「さては忘れてたな?」
「そんな事はないですよ?」


 正直、疲れすぎて頭から抜けていた。僕の武器の話なのに、腑抜けすぎかも。


「トリシューラってどこで買えるの?とっても高いんでしょ?」
「オークションとか闇市とか色々なんだが、今回は職人から直接買い取る」
「トリシューラの職人って正体が開かされてないんですよね?」
「ホウリお兄ちゃんなら調べられるんじゃない?」
「言われてみればそうだね」


 ホウリさんのおかげで直接買える訳だ。感謝してもしきれない。


「矢を作るところを直接見られますかね?」
「頼んでみたら良いんじゃないか?」
「そうします」


 脆いブルーライトクリスタルの中に模様を彫り込む。どうやっているのか、とても気になる。


「それで職人さんは何処にいるんですか?」
「到着してからのお楽しみだ」
「どういう所だろ?」
「きっと、人通りの少ないところに工房があるんだよ。人目を忍んで、こっそりと凄い物を作る、ロマンがあると思わない?」
「それならさ、いっそ街の外にいるんじゃない?」
「人里離れた場所で一人で作業、いいね。雰囲気あるよ」


 2人であーでもない、こーでもないと言い合いながら、ホウリさんに付いていく。
 歩く事10分。ホウリさんは人気の多い通りにやって来た。見た感じ、旅行者っぽい人が多めかな。通りのお店も旅行者向けのお店が多い。


「こんな所に職人がいるんですか?」
「そろそろ昼飯の時間だろ?何か食べたい物はあるか?」
「もうそんな時間ですか」


 空を見ると太陽が真上まで登り切っていた。いつの間にかお昼ご飯の時間になってたんだ。


「ノエルはハンバーグが食べたい!」
「ノエルちゃんは本当にハンバーグが好きなんだね」
「ロワは食べたいものはあるか?」
「疲れたので力が付くものがいいですね。ステーキが食べたいです」
「ロワも肉か、だったらあそこが丁度良いな」
「いいお店があるんですか?」
「ああ。ここらに上手いレストランがあるんだ」
「じゃあそこでお昼を食べましょうか」


 ホウリさんのおすすめのお店か。これは期待できる。


「どこにあるんですか?」
「近く、というかもう見えるぞ。あそこだ」


 ホウリさんが指さす方向を見ると、装飾品があまりない落ち着いたお店があった。看板には『ヴェニタス』と書かれている。


「なんか美味しそうじゃないね」
「そう思うならノエルはまだまだだな」
「むう、そんなこと無いもん」


 むくれているノエルちゃんを連れてヴェニタスまで向かう。窓から見るにお客さんは入っていないみたいだ。
 普通にお店を探していたんだったらスルーしていたかもしれない。けど、ホウリさんのおすすめって聞くと隠れ家的なお店に感じるから不思議だ。


「こんにちは~」


 扉を開けると、軽いベルの音が鳴り響く。店に入ってすぐに奥から眼鏡を掛けた男の人がやって来た。タキシードを着こなした真面目そうなウエイターさんだ。


「いらっしゃいませ」
「3人ですけどいいですか?」
「大丈夫です。こちらへどうぞ」


 ウエイターさんに促され、厨房に一番近いテーブル席に通される。
 僕はノエルちゃんの隣に座り、向かいにホウリさんが座る。席に着いたと同時に僕らの前にメニューが置かれる。
 メニューは黒い革で覆われていて高級感がある。店内も明るさが抑えられていて、モダンな雰囲気が漂っている。
 いつも行っているファミリーレストランよりも大人な雰囲気だ。


「決まりましたらお呼びください」


 ウエイターさんが一礼して厨房に戻っていく。
 メニューに目を通すと、細く優雅な文字で料理名が書かれていた。ちょっと読みにくいんだけど、大人って感じがする。


「決まったか?」
「僕は子羊のステーキでお願いします」
「ノエルは柔らかハンバーグ!」
「俺はキングシュリンプのローストにするか。すみませーん」


 ホウリさんが呼ぶと、ウエイターさんが早足でやってきた。


「注文をお伺いします」
「子羊のステーキと柔らかハンバーグ、キングシュリンプのローストを1つずつ」
「お飲み物はいかがされますか?」
「俺はオレの実のジュース」
「ノエルも同じの!」
「僕はジンジャエールをお願いします」
「かしこまりました」


 伝票に注文した物を書き加え、ウエイターさんは厨房へ戻った。


「良い雰囲気のお店ですね」
「だろ?雰囲気だけじゃなくて味も補償するぜ?」
「楽しみですね」
「それにな、この店は飯だけじゃなくてデザートも美味いんだぜ?」
「さてはそれがメインですね?」
「それもある」


 ホウリさんらしい理由だ。ご飯が美味しいのは本当だろうし、問題はないと思うけど。


「昨日はどこに行ってたんだ?」
「うーんとね、水族館とかゲームセンターとか、色んなところに行ったよ」
「この街の水族館は凄かっただろ?」
「そうですね。王都よりも魚の種類が多かったです」


 昨日の事をホウリさんに話す。ホウリさんは僕たちの話に相槌を打ちながら、静かに聞く。


「それでね、水槽の前でお魚さんを見てたら……」
「お待たせいたしました」


 夢中になって話していると、いつの間にかウエイターさんが料理を運んできていた。
 台車で持ってきた熱々の鉄板とライスを僕らの前に並べる。


「子羊のステーキ、柔らかハンバーグ、キングシュリンプのローストでございます」
「ありがとうございます」


 僕の前に鉄板に乗せられたステーキが置かれる。


「美味しそうですね」
「早く食おうぜ」

 お肉にナイフを入れてみると、抵抗も少なく切ることが出来た。お肉を口に入れてみると、お肉の上品な旨味が口いっぱいに広がった。


「美味しいです」
「おいしー!」
「いい味だ」
「ありがとうございます」


 僕たちの感想を聞いたウエイターさんが軽く頭を下げる。


「これって全部ウエイターさんが作っているんですか?」
「その通りです。調理から配膳、会計や掃除といったすべての事を私が行っております」
「全部一人でなんて、大変じゃないですか?」
「お客さまはそこまで来ませんので、苦ではありませんよ」
「お客さんが来ないと、稼ぎが出ないんじゃないんですか?」
「この店は趣味のようなものなので、問題ございません」


 趣味でこんなお店が持てるなんて、すごくお金持ちなんだろうか。まあ、ストレートに聞くとホウリさんに怒られそうだから黙っておくけど。


「ロワお兄ちゃん、ステーキちょっと頂戴?」
「いいよ。僕もハンバーグ貰っていい?」
「いいよ」
「俺にも分けてくれ」


 皆で分け合いながら料理を楽しむ。
 ものの数分で料理を全て平らげた僕は椅子にもたれ掛かる。


「ふぅ、お腹いっぱいです」
「食後のデザートはいかがですか?」
「僕は大丈夫です。コーヒーだけください」
「ノエルはプリンが食べたい!」
「いくつ欲しい?」
「2つ!」
「じゃあ俺のと合わせて10個頼めますか?」
「じゅう!?……かしこまりました」


 一瞬だけウエイターさんに同様の色が見えた。けど、すぐに無表情になって開いた皿を持って厨房へと向かった。


「ホウリさんのスイーツ発言で動揺する人って久しぶりですね」
「俺が悪いんじゃない。慣れてない周りが悪いんだ」
「それは暴論だと思いますよ?」


 そんなことを話していると、ウエイターさんが10個のプリンを台車に乗せてやってきた。


「お待たせいたしました」


 ノエルちゃんの前にプリンが2つ、ホウリさんの前に8つ、僕の前にコーヒーが置かれる。平皿に盛られている山型のプリンで、上からカラメルが滴っている。
 皿が前に置かれた瞬間、ホウリさんは間髪入れずにプリンを食べ始める。


「うん、美味いな」
「ありがとうございます」
「本当においしー!何個でもいけそう!」


 ノエルちゃんも夢中になってプリンを食べる。そんなに美味しいんだ。


「マスクの方はいかがですか?」
「マスク?ああ、僕ですか」


 このマスクについて言及されたのは久しぶりだ。最近はマスクを取らずに食事をするのも慣れたし、マスクがない方が違和感ある。慣れって怖い。


「僕は甘いものが苦手なので、大丈夫ですよ」
「さようでございますか。失礼いたしました」


 ウエイターさんが恭しく礼をする。細かな対応に関心しながら、コーヒーを口に含む。


「お、コーヒーも美味しいですね」
「ありがとうございます。今日のコーヒーは『ガテマエ』産なんですよ」
「コーヒーの明産地で知られている魔国の領地だな」
「そうなんですか?」
「山に囲まれてて暑いところなんだよね?授業でやったよ」
「小学生でも知ってることを知らないのか?」
「あはは……」


 笑って目を反らせて誤魔化す。見てないけど、皆の視線が僕に向いているのが分かる。


「……コーヒーが美味しいですね」
「誤魔化せないからな?」
「……勉強がんばります」


 諦めて前を向くとホウリさんの皿が全て空になっていた。目を離していたのは数秒だったと思うだけど、いつの間に平らげたんだろう?


「どうした?」
「いえ、考えても仕方のないことです」


 ホウリさんだし、不思議ではないか。ノエルちゃんも二つ目のプリンを食べ終わり、お腹を軽く叩く。


「ふぅ、お腹いっぱい」
「満足したか?」
「うん!」
「僕も大満足です」
「じゃあ、今日のメインいくか」
「メイン?」


 まだ何か食べるんだろうか?でも、デザートも食べたし何かを食べるとは思えない。
 不思議に思っていると、ホウリさんがウエイターさんに耳打ちをした。


「……かしこまりました、すぐに持ってまいります」


 そう言うと、ウエイターさんは開いた皿を持って厨房へと戻っていった。


「まだ食べるの?」
「いや、今日のメインは料理じゃない」
「じゃあ何?」
「なんだと思う?」
「うーん?」


 ここには突発的に来たわけだし、何かあるとは思えない。
 頭を捻るが全く思い当たることがない。


「うーん、分かんない!」
「だろうな。ヒントも無しに分かる事じゃない」
「じゃあなんで聞いたんですか?」
「暇つぶし」
「ホウリお兄ちゃんの意地悪」


 そんな事を話していると、ウエイターさんが大きなケースを持ってきた。大きさはバイオリンのケースよりも2周りくらい大きい。
 ケースを見た瞬間、僕の脳内に海に行った時の光景がフラッシュバックした。


「来たみたいだな」
「あのケース何だろうね?」
「…………」
「ロワお兄ちゃん?」
「……もしかして、あれですか?」
「流石ロワだ」


 ホウリさんがニヤリと笑うのを見て、僕は自分の考えが正しいと確信する。
 ウエイターさんがテーブルにケースを置く。


「お確かめください」


 ホウリさんはケースを開けて中を凝視する。


「いい出来だ」
「恐縮です」
「ねーねー、ノエル達にも見せて」


 ホウリさんは僕たちにも見えるようにケースを回す。
 そこにはケースの中に詰め込まれていたトリシューラがあった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...