魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百三十四話 分かんないや

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 箱の中のトリシューラを見て、僕は目を見開く。

「思ったよりも多いですね。20本はあるんじゃないんですか?」
「かなり前から注文していたからな」
「いつから注文していたの?」
「王都に付いた次の日には手紙を送ってた」
「あの時ですか?死ぬほど大変な時期ですよね?」


 裁判と闘技大会の準備をしながら、トリシューラの準備もしていたんだ。どんな生活を送っていればそんな事が出来るんだろうか。


「それで、なんでレストランでトリシューラを売ってるんですか?」


 僕が一番聞きたかった事を質問すると、ウエイターさんが答えた。


「このトリシューラは私の妹が作っているのです」
「妹さんが職人なんですか?」
「その通りです」


 なるほど。だから店を趣味で出来るほどにお金があるんだ。


「念のためロワも確認するか?」
「そうですね。使うのは僕ですし確認しておきます」


 ホウリさんがケースをこちらに押して渡してくる。


「ノエルも見て良い?」
「良いけど触っちゃダメだよ?」
「はーい」


 トリシューラは流したMPを3倍の威力にする効果がある。
 ノエルちゃんが間違ってMPを流しちゃうと、暴発した時に全員が無事で済まなくなる。フランさんがいない今、全滅は免れないだろう。


「じゃあ確認しますね」


 僕はトリシューラを1本ずつ確認する。


「んー、良く分かんないや」
「ノエルちゃんは、あんまりトリシューラを見たことが無いもんね」


 流石にトリシューラに詳しくないと、問題ないかは分かんないか。
 見たところ、形も中の模様も問題は無い。全部が寸分たがわず、同じ形や模様で作られている。2本とか3本ならともかく、1年でこのクオリティで20本は凄すぎる。


「問題無さそうですね。流石の精度です」
「ありがとうございます。妹も喜ぶでしょう」


 ウエイターさんがまた頭を下げる。
 こんなに精度の高いトリシューラを作れるなんて、どんな作り方なんだろうか。気になった僕は恐る恐る手を上げる。


「あの、すみません」
「なんでしょうか」
「トリシューラを作っているところを、見学することはできませんか?」


 僕のお願いにウエイターさんが渋い顔になる。何か変なこと言ったかな?


「申し訳ございません。妹は極度の人見知りでして、作業を人に見せることはできません」
「どうにかなりませんか?」
「申し訳ございません」
「そこを何とか!」
「申し訳ございません」


 ウエイターさんが今日一番深く頭を下げる。ここまで頼んで無理なんだ。でも、どうしても見てみたい。何か方法は無いだろうか?


「あの、せめて妹さんに聞いて貰えませんか?」
「無駄だと思いますが……」
「ですよね。あ、そうだ。ノエルちゃん」
「え?なあに?」


 名前を呼ばれると思っていなかったのか、ノエルちゃんがビクリとする。


「確かカメラ持ってたよね?」
「うん」
「貸してくれない?」
「いいよ。はいどーぞ」
「待て、何する気だ?」


 カメラを受け取ると、ホウリさんから冷たい視線を向けられた。多分、何をやるか察してはいるのだろう。


「別に大したことじゃないですよ。ただ、僕の素顔を写真に撮って、妹さんに渡してきて貰おうと思いまして」
「最終手段を簡単に使うな」


 ホウリさんにワイヤーでカメラを取り上げられた。


「何するんですか!」
「こっちのセリフだ。お前の素顔は最終兵器も同然だって言っただろうが。簡単に他人に見せるな」
「あの、話が見えないのですが?」
「このバカの奇行を止めただけなので、気にしないでください」
「辛辣じゃないですか?」
「確かにバカは違うな。ごめんな、クソボケ」
「悪化した気がするんですけど!?」


 ホウリさんがカメラをアイテムボックスに仕舞う。写真を撮るのは諦めた方が良さそうだ。


「なんだかロワお兄ちゃんの熱意が凄いね」
「だってトリシューラの作り方だよ?弓使いだったら、誰もが知りたいと思うよ!」
「そうなんだ」
「ノエルちゃんだって知りたくない!?今まで公開されてないトリシューラの作り方だよ!?」
「あはは……痛いよロワお兄ちゃん」
「落ち着け、ノエルが困ってるだろ」
「あ、ごめんね」


 いつの間にかノエルちゃんの手を握りしめてたみたいだ。ホウリさんに諭されて、ノエルちゃんから手を離す。
 無意識で握りこんじゃってた。少しだけ興奮しすぎたね。


「お願いです。ダメ元でいいので、妹さんに聞いてきて貰えませんか?」
「……分かりました。ただし、妹が拒否したら諦めていただけますか?」
「分かりました。お約束します」
「では少々お待ちください」


 そう言うと、ウエイターさんは厨房の隣にある扉の中へと入っていった。


「あの扉は?」
「この建物の2階にある工房兼住居への出入口だ」
「ここの2階でトリシューラが作られているんですね」


 両手を合わせて天井を眺める。ここの上でトリシューラという芸術品が作られている、そう考えただけで胸がいっぱいだ。


「おーい、まだ工房にすら入ってないのにそんなんじゃ、体が持たないぞ?深呼吸して落ち着け」
「そ、そうですね。スーハースーハー」


 ゆっくりと深呼吸をすることで心を落ち着ける。


「よし、もう大丈夫です」
(ガチャ)
「お待たせしました」
「ひゃい!」


 扉からウエイターさんが出てきて、思わず背筋を伸ばす。
 ウエイターさんは僕等の元へやってくると、扉を手で示した。


「妹が少しだけなら良いと言ってました。これから皆さんを工房へ案内いたします」
「ありがとうございます!」
「こちらへどうぞ」


 ウエイターさんの後に続いて、奥の扉に入ると2階へと続く階段があった。階段の幅は大人がやっと一人通れるくらいには狭い。
 階段を上がると右と左に扉があった。右には住居、左には工房というプレートが掛かっている。


「妹は左の工房にいます」


 ウエイターさんが扉を3回ノックして開ける。


「入るぞ」
「お邪魔します」
「邪魔するなら帰って~」
「ノエル、今はそれは言わない方が良いぞ」
「お約束じゃないの?」


 不思議そうなノエルちゃんを背に僕らは工房へ入る。
 工房の中には座って使うくらいの低めの台や、鉛筆のように細長い物、何かを削るようなヤスリなど、色んなものが雑多に置かれていた。台の上には手の平サイズのブルーライトクリスタルが乗っている。
 そして、工房の真ん中には熊のぬいぐるみで顔を隠している女の子が座っていた。白いシャツの上にぶかぶかのカーディガンを羽織っている。この子が職人さんかな?


「ラティエ、お客さんだぞ」
「あの……ラティエって言います」


 ラティエさんがペコリと頭を下げ、藍色の髪が零れる。


「僕はロワです。よろしくお願いします」
「ノエルはノエルです。よろしくお願いします!」
「ホウリだ。よろしく」
「あの……その……」
「一度に話しかけられて驚いているみたいですね。マスクの方……ロワ様が主に話せば良いと思います」
「わかりました」


 ラティエさんへ少し近づき、正座をで目線を合わせる。


「今日は見学の許可をしていただき、ありがとうございます。いつもは正体を隠していると聞いてますが、なぜ許可をしてくれたんですか?」
「えっと……」


 僕の質問にラティエさんが、視線を逸らしながら答える。


「お兄ちゃんが、もう少し人と話した方が、良いって言ってたから。少しだけ会ってみようかなって……」
「そうでしたか。ありがとうございます」


 人に慣れる為か。だったら、いつもよりも丁寧に話したほうがいいかな。


「えっと、職人さんって聞いてたのでもっとお年を召しているかと思ったんですけど、お若いですね?」


 見た感じ、ラティエさんは20代くらいだ。あんな繊細で精度の高い加工ができるとは思えない。


「その……父が職人だったので、色々と教わったんです」
「ラティエは筋が良いって父も言ってましたね」
「へぇー、凄いんですね」
「えっと……ありがとう、ございます」


 顔を赤くしてラティエさんがぬいぐるみに顔を埋める。ちょっと馴れ馴れしかったかな?
 ラティエさんがぬいぐるみから顔を上げるのを待つ。1分くらいでラティエさんは顔を上げて台の上にあるブルーライトクリスタルを手に取った。


「あの、それじゃ、始めますね」
「お願いします」


 ぬいぐるみを傍に置いて、ペンのような魔道具を両手に1つずつ持つ。瞬間、ラティエさんの目が鋭くなり、空気が張り詰めた。


「ラティエさん?」
「…………」


 僕が話しかけても、ラティエさんの返事は無い。ものすごい集中力だ。
 僕も口を挟まずに作業を見つめることにする。見たかったのはどうやって中に模様を彫り込むかだ。長年の謎がついに解き明かされると思うと、ワクワクする。
 右手の魔道具からレーザーがブルーライトクリスタルに発射される。すると、レーザーはブルーライトクリスタルをすり抜けた。これじゃ加工は出来ない。
 不思議に思っていると、左手の魔道具からもレーザーが発射された。そして、レーザーの交点が白くなる。


「え?なんで?」


 僕が首を捻っていると、ホウリさんが解説を始めた。


「レーザー1つだとブルーライトクリスタルをすり抜ける威力しかない。けど、レーザーの交点ではブルーライトクリスタルに模様を掘れる威力になる。それを利用して内部に模様を掘っている訳だ」
「なるほど。でも、それってかなり難しくないですか?」


 右手と左手を微調整して模様を掘っていく。木の板を削るよりも何十倍も難しそうだ。


「ああ、この精度で模様を刻めるのはラティエ以外にはいない」
「ホウリさんでも出来ないんですか?」
「俺は出来る」
「流石です」


 話している間にも模様はどんどんと刻まれていく。
 模様を掘り始めて30分、ブルーライトクリスタルには見事な魔法陣が刻まれた。


「……ふぅ」
「お疲れ様です」
「……え?」


 ラティエさんは横にいる僕を見ると、すぐに置いてあったぬいぐるみで顔を隠した。


「あわあわわわ……」
「す、すみません。驚かせてしまいましたね」
「ち、違うんです。あなたが横にいるのを忘れてしまっただけで……」


 顔を赤くしてぬいぐるみに顔を埋めるラティエさん。これは嫌われちゃったかな?


「おーい、長居するのは悪いし見学が終わったら行くぞー」
「あ、はい」


 立ち上がろうとすると、袖をラティエさんに引っ張られた。


「どうしました?」
「あの、えっと……」


 ラティエさんは目を泳がせる。けど、手は離そうとしない。何か気に障るような事をやったのかな?
 ドキドキしながら待っていると、ラティエさんは少しずつ話し始めた。


「あの……もしよかったら、また来てください」
「良いんですか?」


 ラティエさんが小さく頷く。良かった、怒っている訳じゃないみたいだ。


「じゃあ、また来ますね」


 僕の言葉にラティエさんは微笑んで、再び頷いた。
 こうして僕らはレストランを後にした。
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