魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百四十一話 なんとかなれーッ

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 初公演の前日の深夜、わしはリビングで茶を飲んでいた。


「……ふぅ」
「あれ?フランお姉ちゃん?明日早いんじゃないの?」
「ノエルか」


 花柄の可愛らしいパジャマを着たノエルがリビングに入って来た。続けてホウリもリビングに入ってくる。


「どうした?緊張しているのか?」
「まあのう」


 本番が迫ってきていると自覚が出てくると、急に緊張感が増してきた。この年になって緊張で眠れなくなるとはのう。
 ノエルが心配してわしの隣に座る。ホウリもわしの対面に座った。


「怖い物なんて無いと思っておったんじゃがな」
「良いじゃないか。人生にはある程度の緊張感は必要だぜ?」
「そんなものかのう?」


 主役のわしが失敗すると、劇の完成度が一気に落ちる。それが酷く恐ろしい。


「フランお姉ちゃん大丈夫?」


 緊張で震えておると、ノエルが優しくわしの手を握ってくる。ノエルの手の暖かさで少しだけ緊張がほぐれる。


「大丈夫じゃ。明日はわしの雄姿を見ておれ」
「うん!楽しみにしてるね!」


 明日の公演はスターダストの皆も見に来る。これ以上怖がってはおれぬのう。
 その様子を見ていたホウリがしょうがないな、といった様子で立ち上がる。


「俺は準備があるから出かけて来る。劇の直前に落ち合おう」
「分かった」
「あと、今日はノエルと一緒に寝ることを許可する」
「へ?」
「じゃあな」


 それだけ言い残すと、ホウリはリビングから出ていった。後にはわしとノエルだけが残った。


「ノエル、一緒に寝て良いか?」
「勿論!」
「ありがとうのう」


 抱き着いてくるノエルの頭を優しく撫でる。明日の劇、頑張らないとのう。


☆   ☆   ☆   ☆


「フォガートが事故で瀕死の重体じゃと!?」


 劇の公演初日、あと30分で開演というところで、そのような知らせが入って来た。舞台袖で観客たちの様子を見ていたわしには寝耳に水の情報じゃった。
 事故の知らせをしたクランチ監督が滝のような汗をハンカチで拭う。


「工事中の建物が倒壊して、それに巻き込まれたみたいです」
「容体は?」
「回復スキルでなんとか命を保っているみたいです。しかし、予断を許さない状況で……」
「わしが何とかする。運ばれた病院の場所を教えろ」


 わしであれば瀕死の重体であっても一瞬で治すことが出来る。どこの病院であろうと、全力で移動すれば往復に10分もかからん。
 じゃが、わしの言葉にクランチ監督は困ったように汗を拭く。


「あと30分で開演なんですよ?フォガートさんが心配なのはわかりますが、ここは冷静にいきましょう」
「しかし……」
「クランチ監督の言う通りだぜ。俺達だって心配なんだが、今は劇が優先だ。楽しみにしている観客達をガッカリさせる訳にはいかない」
「そういうことではなくて……」


 クランチ監督とギオハに窘められる。
 くぅ、わしの力はヌカレ以外には、明かしておらんから説得が難しい。仮に説明したとしても信じてはもらえんじゃろうし、どうしたものか……。


「フラン」


 迫る開演時間に焦りつつ、思考を巡らせていると舞台袖の奥からホウリに呼ばれた。


「少し外すぞ」


 そう断ってわしはホウリの元へと向かう。すると、傍にはヌカレもおった。


「どうした?」
「フォガートが事故にあったっことは知っているな?」
「ああ。すぐにわしが治して連れて来る」
「そうもいかなくなってな」
「どういう事だ?」
「これは事故じゃない、故意に起こされた事件だ」
「な!?」
「なんだと!?」


 ホウリの言葉にわしとヌカレが目を見開く。わしらの反応が想定内だったのか、ホウリは顔色ひとつ変えずに話を続ける。


「犯人は憲兵が捜査中だが、建物の崩壊が人為的に起こされたのは間違いない」
「そいつをぶっ飛ばせば解決という訳か。待ってろ、犯人の首をここに持ってきてやるわい」
「血の気が多すぎるだろ。話を最後まで聞け」


 飛び出そうとしたところを、ホウリに肩を掴まれて止められる。


「犯人が意図してフォガートが狙った場合、犯人の目的が別にある可能性がある」
「別の目的?」
「この劇を滅茶苦茶にするって目的だ」
「なんだと!?」
「待て、根拠はなんだ?その言葉だけじゃ妄言とした思えないぞ?」


 鵜呑みにしそうになったわしは、ヌカレの言葉にハッとする。確かに根拠が無いと信じられん事じゃ。
 以外にもヌカレが冷静じゃな。もっと感情的な奴じゃと思ってたんじゃが。


「して、根拠は何じゃ?」
「こいつだ」


 ホウリは一枚の写真を取り出す。そこには長い黒髪でスレンダーな女が写っていた。


「俳優のナモンではないか」
「この劇には出演していないよな?まさか、ナモンが犯人なのか?」
「あくまでも容疑者の一人だ。だが、ナモンが犯人だった場合はこの劇が狙われることになるだろう」
「なぜだ?」
「こいつは、この劇の主演をやりたがってたんだよ。クランチ監督にも何回か打診が来てた」
「わしの役ということか?」


 ホウリが頷く。始めの頃にそういう話が来ていたなら、役を譲ったじゃろう。じゃが、今はこの役に誇りを持っている。いくら金を積まれても役を譲るつもりは無い。


「俺もクランチ監督も役は決まっているからと断った。だが、かなりしつこく迫ってきてな。一週間前まで打診されてたよ」
「そこまで行くと狂気を感じるな」
「まさにそこだ」


 ホウリがヌカレの言葉に大きく頷く。


「俺もナモンと話していて目の奥に狂気を感じ取った。手に入らないなら壊す、そういう狂気をな」
「じゃから、そこまで警戒しておるわけか。ん?そこまで執着しておるのなら、わしらに嫌がらせくらいするのではないか?わしに覚えはないぞ?」
「俺も嫌がらせされた覚えはないな?」
「ただでさえ稽古の期間が短いんだ。嫌がらせで稽古が止まらないように、俺がガードしていた」
「お主のおかげじゃったか」


 確かに嫌がらせなどあっては、稽古に集中できなかったじゃろう。今までわしらに伏せていたのも、余計な心配を掛けたくなかったからか。
 ホウリの説明にヌカレが顎に手をあてる。


「だったら、劇をすぐに中止しないと。監督に掛け合ってくる」
「やめろ」


 クランチ監督の元へ行こうとしたヌカレの肩をホウリが掴む。ヌカレは何事かとホウリを睨みつけた。


「なぜ止める?このままだ劇が危ないんだろ?」
「この劇はスポンサーがかなり気難しくてな。急に中止すると次回以降の公演の資金が下りなくなる」
「だが!このままだと俺達も観客も危ないんだろ!金が人命に代えられるか!?」
「最後まで聞け。まだ説明の途中だ」


 ホウリの言葉にヌカレがショックを受けたように震える。うん?なんでショックを受けておる?


「まさか、わしと同じことを言われて、屈辱に思っているわけではなかろうな?」
「……ホウリ、説明を続けてくれ」
「おい!まさか図星か!?」
「追及は劇が終わってからやってくれ。今は時間が無い」
「むぅ」


 仕方ない。四肢の骨を砕いておくだけで勘弁するか。
 わしの思考が伝わったのか、ヌカレが体をビクリと震わせた。察しの良い奴じゃ。


「で、このままだと人命と劇の命運のどちらかを犠牲にする必要がある」
「お主の事じゃ。人命も劇も犠牲にしない考えがあるんじゃろ?」
「まあな」
「勿体ぶるな。何をするつもりじゃ?」
「ズバリ、『フランに全部丸投げしよう作戦』だ」
「は?」


 わしがキョトンとしておると、ホウリが笑顔でサムズアップをつくる。


「怪しい奴がいたらフランが拘束して、劇が終わったら憲兵に引き渡す。以上だ」
「何が『以上だ』じゃ!わしに全部丸投げしておるだけではないか!」
「作戦名でもそう言ってるだろ?」
「わしは主演じゃぞ!?芝居をしながら、怪しい奴も探すことなんて出来るわけなかろう!?」
「まあ、為せば成るんじゃないか?」
「適当じゃな!?」


 ホウリはそれ以上説明しようとせん。つまり、作戦は本当にこれだけという訳じゃ。


「そんなのわしへの負担が大きすぎるじゃろ。出来る気がせんぞ?」
「全部丸投げって訳じゃない。俺とヌカレも余裕がある時に探す。怪しい奴を見つけたらフランに報告し拘束する。完璧な作戦だろ?」
「非の打ち所がないな」
「わしへの負担が解決してぬけどな!」


 見つけさえすれば、眠らせるなり、結界に閉じ込めるなりできる。じゃが、初めての劇で、主演で、更に怪しい奴も見つける?無理じゃろ?


「犯人探しをするのであれば、皆にも説明して協力してもらうのはどうじゃ?」
「不安にさせるだけだ。これを知らせるのは最小の人数で抑えたい」
「だったら、なんで俺には伝えたんだ?」


 ヌカレが最もな疑問を投げかける。
 最小の人数に抑えるだけであればわしだけに伝えればよい。わざわざヌカレに伝える必要性がない。


「ヌカレは他の奴と違ってフランの強さを知っているからな」
「わしの強さ?」
「ヌカレ、フランの強さを思い浮かべてくれ」
「ああ」


 ヌカレが目を閉じる。おそらく、山での出来事を思い出しておるのじゃろう。


「フランが傍にいます。でも、観客席から攻撃が飛んでくる可能性があります。不安か?」
「全く不安は無いな」
「だろ?」
「確かにフランの強さを知っているかは重要だな」


 そういう理屈じゃったか。これは楽は出来ぬか?ん?いや待てよ?


「そうじゃ、ホウリが探せば良いのではないか?お主は出演しないじゃろ?」


 ホウリの観察眼を持ってすれば怪しい奴が分かる。演劇中の暗い中であれば、こっそりと拘束することも可能じゃろう。演技しているわしよりも適任の筈じゃ。
 そう思っていると、ホウリが呆れた表情になった。


「あのな、今は欠員が出てるんだぞ?」
「そうじゃな」
「誰がその欠員が埋めると思っている」
「……まさか?」
「俺がフォガートの代わりに出演する」


 フォガートの役を忘れておったわい。重要な役じゃし、無かったことにして続けるわけにもいかない。


「わしが治して連れて来てはダメか?」
「フランがいない間に犯人に行動を起こされたら、守り切れる保証がない。だから、フランには極力ここにて欲しい」
「むぅ、そう言われると、お主に頼るしかないのう」


 すぐに出演できて、セリフも劇の雰囲気も把握して、演技力もある。ホウリ以外に考えきれぬな。


「そういうことだ。俺とヌカレも頑張るから、犯人の拘束は頼めないか?」
「それしか方法は無さそうじゃな」
「ちょっと待て、フォガートの役は女だぞ?ホウリに出来るのか?」
「あら?私じゃ不満かしら?」


 ホウリが声質を女を見分けがつかぬように変える。そして、艶めかしヌカレの頬に触れる。恰好も顔も男の筈なのに、見ているこちらがドキドキしてしまう。そんな色気を感じてしまう。
 ヌカレは顔を赤くしながら、ホウリの手を振りはらう。


「わ、分かった。俺からの異論はない」
「なら良いんだ。じゃ、行くぞ」
「うむ」


 わしも腹をくくって頷く。わしの初公演がこんな形になるとはのう。
 この苛立ちは犯人にぶつけるとするか。
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