魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百六十二話 サスケェ!

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 ノエル達はキュアお兄ちゃんと一緒に道路を進む。本当はバスで快適に移動したかったんだけど、ホウリお兄ちゃんでも直すのは無理みたい。
 暑くて干からびそうだけど、ジュースで水分を補給しながら何とか進む。


「ねぇねぇ、どこまで歩くの?」
「騎士団の拠点だ」
「いつ着くの?」
「もう着くぞ」
「え?ほんと?」


 周りを見ても建物なんかない。見渡す限り草原だ。
 もしかして野宿?そう思っていると、キャお兄ちゃんがポケットをまさぐった。


「騎士団の拠点は普通の方法ではいけないんだ」
「じゃあ、どう行くの?」
「こう行くんだよ」


 キュアお兄ちゃんは鈍く輝く銀色のカギを取り出した。


「なにそれ?」
「聖なるカギ。騎士団の拠点に行くために必要なアイテムだ」
「カギだけあっても意味ないんじゃない?」
「それはどうかな」
「ひょ?」


 キュアお兄ちゃんが草原に入ると、カギを空中に突き刺して回す。瞬間、なにも無かった草原に、透明なベールが捲られていくかのようにコテージが現れた。


「おおー!凄い!」
「この世界に来てから、凄いってしか言ってないな?」
「だって凄いんだもん!」


 コテージ……というか、丸太小屋って大きさかな。何も無かったのにこれだけの建物が現れるなんて凄い!


「どうやったの!?」
「このコテージは元々ここにあった。だが、邪悪なる者から見つからない様に隠していたんだ」
「それを解いたのがそのカギ。聖なる力を使えるものが使うと、隠れていたものを見つける効果がある」
「へぇー、かくれんぼに便利だね?」
「よりによってかくれんぼに使おうとするのか」


 苦笑いしながら、キュアお兄ちゃんがコテージの扉を開けて中に入る。ノエルとホウリお兄ちゃんも後に続いて中に入る。
 コテージの中は暖炉とかテーブルとか椅子とかしかない。装飾品は何も無くて、実用的なものしかない。
 明かりはついていないけど、窓から差し込む日差しが部屋の中を照らしている。埃っぽくは無いし、頻繁に使われているのかな?
 キュアお兄ちゃんは部屋の隅にある箱を持って、テーブルの上に置いた。


「よいしょっと」
「なにこれ?」


 箱の中を開けると、キュアお兄ちゃんが持っているような真っ白い剣が5本入っていた。


「これって白剣ってやつ?」
「そうだ。これを取るためにここまでやって来たんだ」
「ふーん」


 触りたいって思う心を押えて、見るだけに留める。
 それに気が付いたのか、ホウリお兄ちゃんが白剣を1本取り出して、ノエルに差し出してきた。


「触りたいか?」
「いいの?」
「ああ。ノエルも戦えるようになって貰う必要があるからな」
「ちょっと待ってくれ。聖剣ほどではないが、白剣だって貴重なんだ。子供に触らせるのは感心しないな?」
「ノエルは剣の扱いを心得ているから問題ない」
「……そうか」


 キュアお兄ちゃんは納得いっていないみたいだけど、何も言わなくなった。
 好奇心も限界だし、ノエルは遠慮なく白剣を手に取る。


「これで魔物と戦うんだ」


 長さは普通の直剣と同じくらい。重さは魔装しないと持てないくらいには重い。


「これに聖なる力を込めると、魔物を倒せるようになる。ノエルには1時間でこれを使いこなしてもらう」
「1時間?冗談だろう?」
「冗談じゃない」
「冗談じゃなければ、気が狂ったとしか思えないな。白剣を1時間で使えるように?舐めてるのか?」
「俺は出来た。だからノエルも出来る」
「お前とその子を一緒にするな」


 キュアお兄ちゃんとホウリお兄ちゃんが言い争う。
 やっぱり、ノエルがこれを持ってちゃいけないのかな?そう思って、箱の中に白剣を戻そうとしたところで、ホウリお兄ちゃんが手を打った。


「じゃあ1時間でノエルが白剣を使えなければ諦める。これでどうだ?」
「……分かった、それで手を打とう。だが、1時間経っても使えなかったら諦めてくれよ?」
「約束しよう」


 2人がガッチリと固い握手を交わす。よかった、仲直りしたみたい。
 ホウリお兄ちゃんは手を離すと、パソコンを取り出してニッコリと笑った。


「そうと決まれば、ノエルを指導してやってくれ」
「はぁ?お前がやれよ」
「俺は他にやる事がある。どうせ、ノエルが特訓している間は暇だろ?」
「おいおい、丸投げするつもりだったのかよ」
「俺はやる事が多いからな。じゃあ、頼んだぜ」


 そう言うと、ホウリお兄ちゃんは椅子に座ってパソコンを操作し始めた。
 それを見たキュアお兄ちゃんはため息を吐いて、ノエルの方に向いた。


「ホウリはああなると、梃子でも動かない。仕方ないから君の特訓は俺が見よう」
「よろしくお願いいたします」


 白剣を持ったまま、キュアお兄ちゃんに頭を下げる。


「じゃあ、外にいこうか」
「はい!」
「いい返事だ」


 そんな訳で、キュアお兄ちゃんとコテージの外に出る。


「まずは構えてみてくれ」
「はい!」


 ノエルはいつもみたいに剣を構える。すると、キュアお兄ちゃんの口から「おお」という言葉が漏れる。


「本当に剣には慣れてるみたいだね」
「ホウリお兄ちゃんに教えて貰ったんだ」
「そうだったのか。次は素振りしてみてくれる?」
「はい!」


 ノエルは言われた通りに素振りをしてみる。


「うん、問題無いね」
「ありがとうございます!」
「でも、剣に慣れてるだけじゃ白剣は扱えない。次は聖なる力を剣に込めてみよう」
「はい!」


 ノエルは剣を掲げて目を瞑る。そして数秒して目を開けると首を傾げる。


「聖なる力ってどうやって込めるの?」
「まずそこからか」


 キュアお兄ちゃんは白剣を抜くと、中段で構えた。


「聖なる力っていうのは、心の中にある清い力のこと。まずはそれを感じて、剣に流し込むようにイメージするんだ」


 キュアお兄ちゃんの剣が光り始める。そして、剣が振るわれると、斬撃となった光が飛んでいった。


「これが聖なる力だよ」
「うーん?」


 良く分かんないけど、魔装とは違いそう。試しに魔装をしてみるけど、白剣は光らない。
 もっと別の何かを白剣に込めないといけないんだ。


「コツとかって無いの?」
「そうだねぇ、清い力は楽しい時とかに感じやすくなるよ。楽しい時を思い出して、その力を白剣に移すようにしてみよう」
「楽しい時かぁ」


 一番楽しかった記憶を掘り返してみる。海に行った時は楽しかったなぁ。あとは、皆でハロウィンしたときも面白かったなぁ。あとは、部活したりお勉強したり、そして……


「今も楽しいかな」


 思い出を頭の中に浮かべていくと、心の中にぽかぽかを感じる。
 そのぽかぽかを白剣に移すようにイメージをする。


「……へぇ?」


 キュアお兄ちゃんが感嘆する声が聞こえて目を開ける。そこには淡く輝く白剣があった。
 ノエルはその光を消さない様に慎重に剣を振り上げる。


「やあ!」


 剣を振るうと薄い斬撃が飛んで、すぐに霧散した。


「やるね。初めてにしては上出来だ」
「えへへ」
「だが、戦うには威力が足りないな。残りの時間で素早く多くの聖なる力を込められるようになろう」
「はい!」


 ノエルはぽかぽかを白剣に込める。


「やあ!」
「最初よりは良くなった。だが、まだ足りない。反復して感覚を掴むんだ」
「はい!」


 ぽかぽかを白剣に込めて放つ。それを何回か繰り返していく。


「そういえばさ、キュアお兄ちゃんってホウリお兄ちゃんと知り合いなの?」


 少し余裕が出て来たから、気になっていたことを聞いてみる。


「まあね。ホウリには色々と助けてもらった」
「助けてもらったってどんな感じ?」
「話すと長くなるんだが───」


 キュアお兄ちゃんのお話をまとめると、神殿の近くで行き倒れていたホウリお兄ちゃんを助けたのが最初の出会いらしい。
 助けてくれたお礼として、ホウリお兄ちゃんが神殿の雑用を手伝ってくれた。掃除、洗濯、料理、なんでもやったらしい。


「それで、ある日ホウリが白剣を磨いているのを見つけたんだ」


 白剣は貴重だから、騎士団の人以外に触らせることは無い。だから、焦ってホウリを突き飛ばして白剣を奪ったみたい。
 やりすぎたと思ったキュアお兄ちゃんだったんだけど、ホウリお兄ちゃんの言葉は思いもよらないものだった。


『それは未完成だな?』


 確かに白剣は微調整がまだだった。けど、騎士団の人以外でそれを見抜いたことに、キュアお兄ちゃんはとっても驚いたみたい。


「で、何よりその調整をホウリが済ませたんだ。あまつさえ、白剣を使いこなした」


 白剣の何本かは、ホウリお兄ちゃんが調整を済ませたらしい。そして、聖なる力を込めるのも難なくやってのけたらしい。


「通常の騎士団員と同じくらいの力で使いこなしていたんだ。初めて見た時は目が飛び出る位には驚いたね」
「流石はホウリお兄ちゃんだね」
「まあ……そうだな」
「あれ?どうしたの?」
「ホウリの潜在能力はな、かなり低かったんだ」
「え?初めてで普通の人くらいの力は使えたんだよね?」
「ああ」


 ホウリお兄ちゃんの噂は瞬く間に騎士団中に広まった。結果、ホウリお兄ちゃんは騎士団に入る事になったらしい。けど、問題はそこからだった。
 ホウリお兄ちゃんの力は一向に強くならなかったんだ。


「そこで本人に聞いてみた、力が強くならない心当たりは無いか、ってね」
「なんて答えたの?」


 ホウリお兄ちゃん曰く、俺の力は最初から100%、これ以上に強い力は使えない。


「その言葉を聞いたときに、俺は可哀そうだって思った」
「可哀そう?」
「だってそうだろう?頑張っても強くなれない。ピンチの時にいつも以上の力が出ることも無い。それに加え周りは自分を追い抜いていく。俺なら耐えられるか分からない」


 ホウリお兄ちゃんの力は、十数年くらい頑張ったら普通の人は追い越せる。それくらいに弱かったらしい。
 だけど、普通の魔物と戦うくらいなら何とかなるから、騎士団からは脱退しなかったみたい。
 けど、最初の期待を大きく裏切ることになったホウリお兄ちゃんは周りから白い目で見られるようになって肩身が狭くなった。


「っと、思ったんだがな」


 キュアお兄ちゃんの予想を裏切って、ホウリお兄ちゃんの存在は騎士団の中で大きくなっていった。
 理由は色々あって、これぞっていう物はないらしい。人柄も良いし、戦い方も上手い。相談ごとをすれば、必ず良いアドバイスをする。そういう事の積み重ねみたい。


「もちろん、俺もホウリの事は大切に思っていた。そんなある日、あの事件が起こった」
「事件?」


 キュアお兄ちゃんは重々しく頷く。
 ある日の深夜、集団の魔物が近くの街を襲うという情報が入った。その情報が入ったのは襲撃の30分前、迎え撃つ準備するには時間が足りなかった。


「だから、騎士団のリーダーの俺は街を見捨てる選択をした」
「ええ!?なんで!?」
「急いで突っ込んでも騎士団員の死者が多数出るからだ。街の人が死んでも代わりはいるが、魔物と戦える俺たちの代わりは少ない。当時はそう考えていた」
「そんなの可笑しいよ!」
「ああ。今考えたら可笑しい。だが、その時は魔物の襲撃によって騎士団員の数が減っていたんだ。だから、あんなあり得ない決定をした」


 そんな中で、待機命令を無視して飛び出したのがホウリお兄ちゃんだったらしい。
 引き留める間もなく、ホウリお兄ちゃんは街へ走り去った。そして、その30分後、街は火の海になったみたい。


「人がいっぱい死んじゃったの?」
「俺達もそう思った。遠くからでも街が崩れていく様子が見えたからだ」


 早朝、騎士団は準備を整えて街に向かった。少ないかもしれないが、生き残りがいるかもしれないし、ホウリお兄ちゃんも探しに行く必要があったから。
 けど、街についた騎士団が見たのは、予想とは違う光景だった。
 そこには街の皆と、傷だらけだけど無事そうなホウリお兄ちゃんがいた。


「罪悪感から幻覚を見てると思ったね。なにせ、街の人の死傷者は0。唯一の負傷者はホウリだけだったんだから」
「大群だったんでしょ?どうやって街の皆を守ったの?」
「大きな要因は無いらしいよ。ただ、街の地形とかを利用して確実に敵の数を減らして、街の人達は一番大きなお屋敷に一か所にまとめた、ってホウリは言ってたね。それでも、1人で大群を退けるなんて普通じゃないよ。しかも、素質が一番ないって言われてるホウリがだよ?」
「流石ホウリお兄ちゃん」


 街に着いた騎士団が呆然としていると、気付いたホウリお兄ちゃんが近づいてきたらしい。
 キュアお兄ちゃん労いの言葉を掛けようと、大きくを手を振ったんだけど……


「その時にホウリに頬を思いっきり殴られたんだよ」


 殴られて地面に倒れたキュアお兄ちゃんに跨って、ホウリお兄ちゃんは胸倉を掴んだらしい。


「その時に言われたよ、『命に価値を付けるな。絶望的な状況でも全員を救う方法を模索しろ』ってね」
「有言実行したホウリお兄ちゃんが言うと説得力があるね」


 その言葉で、自分が何をしたのかキュアお兄ちゃんは悟ったらしい。そんなキュアお兄ちゃんをホウリお兄ちゃんは更にボコボコにしたみたい。


「可笑しくない?自分の行いを悔いている人をボコボコにしたんだよ?」
「まあ、ホウリお兄ちゃんらしいね」
「君も覚えがあるのかい?」
「まあね」


 その後、自分の行いを悔いたキュアお兄ちゃんに兵法とかの戦い方を叩き込んだ後、ホウリお兄ちゃんは騎士団をやめたらしい。


「もう俺がいなくても大丈夫だろ?最後の言葉はそれだった」
「結局さ、ホウリお兄ちゃんの目的って何だったの?」
「推測だが、俺に人を守る心を取り戻させることと、俺自身に戦い方を叩き込むためだったんじゃないか?」
「そのために行き倒れていたフリをしてたってこと?」
「そうじゃないと、ホウリが行き倒れなんて考えられないしな」
「確かに」


 ホウリお兄ちゃんが騎士団をやめた後も、時々は手伝いにきたり情報を渡したりと交流はあったみたい。今回の聖剣も、そういう経緯があってホウリお兄ちゃんに協力を頼んだんだって。


「これで昔話はおしまいだ」
「面白かったー」
「分かったら、特訓を進めよう。制限時間まであと30分もないぞ」
「はーい」


 こうしてノエルは聖なる力の特訓を頑張った。
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