魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百九十五話 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな

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 地獄の朝食を終えて、僕は指定されていた東地区に向かっていた。
 それにしても、ミエルさん相当怒ってたな。帰ったら謝っておかないと。


「はぁ、始まる前にちょっと疲れちゃった」


 これから12時間も戦うのに幸先が不安だ。身から出た錆とはいえ、もう少し手加減してほしいものだ。
 そんな事を思いながら、沢山の人の流れに沿って移動する。
 いつも通りの道を通って、いつも通りの人に挨拶をして、壁の上に向かってワープアローを構える。


「あれ?誰かいる?」


 逆光になっていて顔は見られないけど、誰かがこちらを見下ろしていた。
 僕意外にも壁の上でサポートする人がいるんだろうか。まあ、僕が出来るなら他の人が出来ても可笑しくないか。
 そんな事を考えて、その人に当たらない様にワープアローを放つ。壁面までワープし、壁の上部に手を掛けて一気に登る。


「よいしょっと」


 壁の上に立ってさっき見えた人の方を向く。


「……え?」


 その人の顔を見て僕は言葉を失った。その人はいたずらっぽく笑うと、片手を軽く上げる。


「よお、ロワ」
「ジル!?なんでここに!?」


 その人は幼馴染のジルだった。
 ジルはグランガンの街の領主候補だ。こんなところで戦っている暇はないはずだけど。
 僕が目を丸くしていると、意気揚々と説明を始めた。


「実はよ、ホウリが手練れを集めてるって聞いてな。人国の危機とも聞いたから、急いで駆けつけたってわけよ」
「僕は嬉しいけど、お父さんには何も言われなかったの?」
「むしろノリノリで見送られた。グランガンの代表として弓の腕を見せてこい、だってよ」
「そういえば、そんな感じだったね」


 グランガンって弓の腕で序列が決まるところがあるしね。
 それにしてもグランガンか。街を出発してまだ1年くらいだけど、なんだか懐かしい気がする。それだけ今までの冒険が濃密ということだろう。


「それにしても久しぶりだね。王都で戦った時以来かな?」
「ああ。半年ぶりだな」
「ジルは最近どう?領主になれそう?」
「どうだろうな。頑張ってはいるが、中々厳しい。ロワはどうだ?」
「僕は相変わらずだよ。そういえばさ、昨日新しいエンチャントの矢を手に入れてさ」
「もしかしてスピニングアローか?」
「うん」


 戦闘の準備を進めつつジルと雑談をする。一人で気を張りつつ戦うのは辛かったから、精神的にはかなり楽になるだろう。
 矢が詰まった矢筒を並べて、弓に弦を張り終える。


「よし、戦闘準備完了」
「つーか、ここって本当にオダリムか?かなりの数のミノタウロスが見えるぞ?」


 ジルの言う通り、攻めてきている魔物の中にはミノタウロスも混ざっている。普通なら集団のパーティで挑む相手が複数体もいる訳か。敵のレベルもかなり上がってきている。


「よく防衛できているよね」
「ホウリが腕の立つ奴を魔法陣で連れてきているからな」
「例えばジルとか?」
「分かってるじゃねえか」


 今戦闘している人達は、初日の人達と動きのキレが違う。あれなら1人でミノタウロスを相手にすることも出来るだろう。


「けど、まだ人数が足りないね」
「だな」


 ミノタウロスは見えるだけでも50体はいる。それに対して防衛している人達は40人くらい。他の魔物もいるし、防衛するには人数が足りていない。


「僕達で20人分くらいの活躍をしないとね」
「はっ、俺だけで50人分の活躍をしてやるぜ」
「頼もしいね」


 2人でミノタウロスに向かって狙いを付ける。
 エンチャントの矢も大量に用意したし、ジルもいるしなんとかなるだろう。


「いくぞ!」
「うん!」


 2人で一斉にミノタウロスに向かって矢を放つ。矢は蹴りを繰り出そうとしていたミノタウロスの軸足に突き刺さる。


『ぶもおおお!?』
「ぜりゃあああ!」


 バランスを崩して倒れたミノタウロスの首を、冒険者の剣が切り落す。ミノタウロスの首ってかなり固かった気がするけど一撃か。やっぱり強い人が集まっているんだなぁ。


「援護ってこれでいいのか?」
「そうだね。この調子で他の人達のことを助けよう」


 次の矢を放とうと矢筒に手を伸ばす。瞬間、群の中心の魔物が勢いよく吹き飛んだ。


「な!?何があった!?」


 ジルと一緒に群の中心に矢を向ける。すると、魔物が消滅する時の光の粒を浴びならがら、両手に手斧を持っている人が現れた。


「え?なんであの人が?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、世界最強の斧使いのロットさんですよ」
「強いのか?」
「ホウリさんがいなければ、闘技大会で優勝していたくらいの人です」


 ホウリさん曰く、ロットさんは群を相手にする場合、フランさんを除いて一番適性が高いらしい。今回の防衛戦で一番頼りになる人だ。


「よし、これなら守り切れる。僕達も頑張って援護しよう」
「ああ。あいつだけに良い格好させないぜ」


 魔物は脅威と判断したのか、一斉にロットさんに襲い掛かる。僕達はロットさんを援護するために矢で狙いを付ける。


「……はぁぁぁぁ!」


 ロットさんは回転しながら襲い掛かって来た魔物たちを切り刻む。
 そして、回転の勢いそのままに手斧を投げ飛ばす。手斧は回転しながら円を描くように飛んでいき、周りの魔物を次々と消滅させていく。
 ロットさんは手元に戻って来た手斧を受け止める。結果、魔物の群に円状の空白が出来た。
 たった数秒で100体くらいが消し飛んだ。流石はロットさんだ。


「だが、問題はミノタウロスだ」


 ジルが呟くと同時に、ミノタウロスが一斉にロットさんを囲む。数はざっと20体。これだけの数に囲まれたなら、フランさんじゃない限り死ぬだろう。
 ロットさんは手斧をアイテムボックスに仕舞い、大斧を取り出して肩に担ぐ。


「ロワ、スピニングアローを貸してくれ。あいつがいくら強くても、あの数は厳しいだろ?」
「了解。横に置いておくから好きに使って」


 作っておいたスピニングアローが入った矢筒をジルの横に行く。
 ミノタウロスはというと、大きな斧を構えてロットさんにジリジリと近づいていく。対するロットさんは真剣な表情で大斧を振りかぶる。
 風の音だけが聞こえる中でミノタウロスとロットさんの距離だけが近づいていく。


『……ぶもおおお!』


 ミノタウロスが数体まとめてロットさんに襲い掛かる。


「……はああああ!」


 ロットさんの大斧がミノタウロスに繰り出される。ミノタウロスは柄で斧を受け止めようとする。しかし、


「……無駄だ!」


 ロットさんの斧は柄ごと切断してミノタウロスを叩き切る。そして振り回した勢いのまま、次のミノタウロスを攻撃し、光の粒へと変えていく。


『ぶもう!』


 だけど、隙が出来てミノタウロスの斧がロットさんの頭に命中する。
 斧を当てたミノタウロスが価値を確信しニヤリと笑う。けど、ロットさんは血すら流さずに、ミノタウロスの懐に潜り込んで腹を切り裂いた。


『ぶもおお!?』


 ミノタウロスは何をされたのか分からない様子で光の粒へとなっていった。
 他のミノタウロスは、斧が当たっても平気そうなロットさんを見て一歩引いた。


『ぶ、ぶもおおお!』


 そして、続々と踵を返して逃げていった。
 自分の攻撃は効かず、相手の攻撃を食らうと即死。逃げたくなる気持ちも分かる。
 ロットさんは逃げていく敵を追わずに、斧を振りかぶりグルグルと回り始めた。


「……全員離れろ!」


 ロットさんが回りながら叫ぶ。その言葉を聞いた人達は嫌な予感がしたのか、街壁へ向かって全力で駆けて来た。
 そのまま回転の勢いは増していき、周りに風が巻き起こっていく。


「おいおいおい、何をしようってんだ」
「ぼ、僕にも分からないよ」


 ロットさんの回転数は増していき、巻き起こる風も強くなっていく。そして、地面の土も巻き込んでいき、小さな竜巻のようになった。


『ぶむうううう!?』


 竜巻は近くの魔物を引き寄せていく。必死に耐えようとする魔物たちだったが、徐々に引き寄せられていき竜巻に巻き込まれた。


『ぶもおおおおおおおおおおお!』


 竜巻に巻き込まれた魔物はミキサーのように細切れになっていく。ミノタウロスでさえ、巻き込まれて1秒も経たずに光の粒になっていった。
 最後の1体が倒された後、ロットさんの回転が遅くなっていく。そして、ロットさんの回転が止まった後、草原には魔物の影は無くなった。


「……俺達いらなくないか?」
「……僕も同じこと思ってた」


 そう言って僕たちは矢と弓を仕舞ったのだった。
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