魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

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第二百九十六話 S・H・I・T

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 敵の姿が見えなくなった後、僕とジルは草原に降り立ってロットさんの元に向かう。


「ロットさーん」
「……ロワか」


 僕は駆けながら大きく手を振る。
 ロットさんは油断なく手斧を構えながら、視線だけこちらに向けた。


「お久しぶりです」
「……久しぶりだな」


 それだけ言うと、ロットさんは周囲に視線を巡らせる。


「もう魔物はいないですよ?少しくらいは肩の力を抜いて良いのでは?」
「……いや、まだ何かがいる気配がする」
「そうか?何もいないぞ?」


 僕とジルは周りを見渡すけど、魔物の姿は無い。というか、あの竜巻に耐えられる魔物なんてそうそういないだろう。


「……確かに姿はない。だが、気配はする。油断せずに武器を構えろ」


 ロットさんの斧を持つ手に更に力が入る。ロットさんほどの実力者がここまで警戒するなんて。本当にまだ何かがいるのかな?
 僕とジルも弓を取り出して、いつでも矢を射れるように準備する。
 全神経を集中させて周りに異常が無いかを探す。
 ロットさんから逃げた冒険者の皆さんも、武器を構えて周りを見渡す。


「………………」


 風の音だけが聞こえる中、3人で背中を合わせて警戒をする。瞬間、


「うおっ!?」


 ジルが持っていた弓が空中に投げ出された。


「何が起こった!?」
「分かんないけど、何かいる!」


 姿は見えないけど、弓に干渉している。ということは!
 僕はとある考えのもとで、空中の弓に向かって矢を放つ。けど、矢は何にも刺さる事はなく、そのまま通り過ぎていった。


「透明な何かがいると思ったけど違う?」
「……いや、それは当たっている」


 今度はロットさんが弓から少し離れた位置に向かって手斧を投げつける。
 すると、手斧は透明な何かに命中し。そして、手斧は命中した場所から鮮血が溢れ出し、徐々に魔物の姿が現れた。


「……バルクカメレオンか」


 全長5mくらいの黄色く大きなカメレオンの魔物。それがバルクカメレオンだ。
 全身を透明に出来て、かなり敏捷性が高い。普通の矢は放ってからでも避けられてしまうくらいに素早く、弓使いとは相性が悪い。


「おいおいおい、俺達で倒せるのか?」
「一筋縄ではいかなさそうだね。ロットさんはどう思います?」
「……俺は敏捷性が低い。一人では仕留めるのに苦労するだろうな」
「そうなんですか?」
「……俺は攻撃力と体力、防御力が高く、それ以外は低めだ。早い敵に対する手段はあまりない」


 ロットさんって無敵かと思ってたけど、そんな弱点があったんだ。なんだか意外だ。


「それに、あいつって透明になるんだろ?見えなく素早い相手なんてどうやって戦えばいいんだ?」
「それは……気合?」
「考えが無いことは分かった」


 フランさんとの訓練で透明な敵との戦いはやった事がある。けど、どうにも苦手でいまだに慣れてないんだよね。
 ノエルちゃんみたいに気配だけで正確な位置を補足できるか、フランさんみたいに広範囲を一気に攻撃できるなら戦いようもあるんだけどね。
 そんな事を考えていると、バルクカメレオンが徐々に姿を消していく。


「……完全に姿を消す前に仕掛けるぞ」
「分かりました。ジルはこれ使って」


 丸腰のジルに携帯弓を手渡す。


「横のスイッチを押せば弓として使えるから。威力は低いけど無いよりはマシでしょ」
「ありがとな」


 携帯弓を起動して、矢を番えるジル。


「……準備は良いな。行くぞ!」
「はい!」


 ロットさんが手斧をバルクカメレオンに向かって投げる。
 バルクカメレオンは手斧が届く前に右に回避し、鮮血が滴る舌を口の中にしまう。そして、頭から徐々に透明になっていった。


「させるか!」


 ジルがスピニングアローを放つ。けど、速度が足りずにバルクカメレオンに難なく回避される。


「読んでたよ!」


 バルクカメレオンが回避した先に劣化トリシューラを放つ。他の矢だと速度が足りないけど、トリシューラなら当たるはず。
 そう思って放たれたトリシューラは、更に加速したバルクカメレオンの胴体に掠った。


「あれ以上速くなるの!?」


 しまった、速さを見誤ったせいで、劣化トリシューラが直撃しなかった。
 見えるときにダメージが与えられなかったのは不味い。もう一度劣化トリシューラを射ろうとするけど、バルクカメレオンは既に姿を消してしまった。


「くそっ、完全に見えなくなりやがった」
「……どうにかして場所を特定する方法は無いか?」


 戻って来た手斧をキャッチしつつロットさんが聞いてくる。


「足音を聞こうと思ったんですが、草原の風の音に掻き消えてしまいますね」


 耳を澄ませても草が風で揺れる音しか聞こえない。僕は耳が良い方なんだけど、複数の音かを聞き分けるのは苦手なんだよね。しかも、バルクカメレオンは足音がかなり小さい。音で判断するにはホウリさんくらいの耳の良さが必要だろう。


「……なら、やる事は1つだな」
「ロットさん?何をするつもりですか?」


 なんだか嫌な予感がして、ロットさんに質問する。すると、ロットさんは答える事なく駆け出していった。


「ロットさん!?待ってくださいよ!」


 僕の静止もむなしく、ロットさんが草原のど真ん中で孤立するかたちになる。
 更にロットさんは手斧を仕舞って丸腰で仁王立ちする。


「一体何を?」
「あいつ、かなり無茶するな?」


 僕が首を傾げていると、ジルは何をするか分かったのか頭を抱えた。


「え?何をするか分かったの?」
「ああ。とりあえず矢を構えていつでも射られるように準備しとけ」


 そう言って、ジルは弓を引き絞った。良く分からないけど、説明しないってことは説明する時間も惜しいってことだ。ここは大人しく従っておこう。
 スピニングアローを弓に番えて引き絞る。
 待つこと数秒、突如ロットさんの体が引き寄せられた。


「ロットさん!」
「いいから黙って待て!」


 駆け出そうとしたところをジルに止められる。
 その言葉で駆けだそうとした足をなんとか止める。ジルは分かってて止めた。ということは、僕が不用意に飛び出すとロットさんの邪魔をする可能性がある。ここは我慢だ。
 ロットさんは踏ん張りつつ、不可視の何かを掴む。もしかして……


「あれってバルクカメレオンの舌に捕まえられてる?」
「ああ。ああやってバルクカメレオンにわざと捕まり、動きを止めようとしてるんだろう」
「あー、なるほどね」


 ロットさんなら力負けしないだろうし、耐久力もある。足止めには最適だろう。


「じゃあ、ロットさんの前にバルクカメレオンがいるってこと?」
「だな。今の内に仕掛けるぞ」


 そう言ってジルは矢を空中に向かって放つ。すると、バルクカメレオンの胴体に矢が命中し、姿を現した。
 威力が足りなかったのか、刺さるまでにはいかなかった。けど、姿を現した今なら攻撃できる。


「くらえ!」


 スピニングアローをバルクカメレオンの頭部に向かって放つ。瞬間、


「な!?赤くなった!?」


 バルクカメレオンの体が赤に変化した。赤いバルクカメレオンはスピニングアローをまともにうけると、そのまま弾き飛ばした。
 バルクカメレオンの特徴その2、体色を変化させることでステータスが変化する。
 黄色い時はスピード、赤い時は攻撃力と耐久性に特化しているステータスになる。つまり、今はちょっとやそっとの攻撃は効かないってことだ。


「え?どうしよ?」
「トリシューラはないのか?」
「劣化のほうも純正も持ってないよ。敵なんていないって思ってたし」


 そういえば、騎士団でコマンドデーモンと戦った時も同じような事になったっけ。
 今後は危険じゃなくてもトリシューラ1本は持ってこよう。


「取りに行くか?」
「いくらロットさんでもそこまで持つとは思えないよ」


 どうしようどうしよう、このままだとロットさんも危ない。かと言って、ダメージが通る攻撃方法も無い。何か方法は……


「そうだ、ロワ、あれ出せ」
「あれ?」


 悩んでいると、ジルが手を突き出してきた。


「ヘビーウェイトだよ。どうせ持ってるんだろ?」
「ああ!なるほどね!」


 ジルの考えを理解し、僕はヘビーウェイトを10本くらい取り出す。
 そのうちの5本をジルに渡して、矢を弓に番える。


「俺は反対をやる。お前はここから狙え」
「了解!」


 そう言ってジルがバルクカメレオンの向こう側に走っていく。その間に僕はヘビーウェイトをバルクカメレオンの周りに放つ。
 ヘビーウェイトはそれぞれの矢の間の物質を重くする矢。矢の数が多ければ多いほどに物質の重さは増していく。そんな矢が10本も周りにあったらどうなるか。


「射終わったぞ!」


 ジルの言葉と同時にバルクカメレオンの体が大きく沈み込む。重すぎて地面にヒビが入るほどだ。
 動きが完全に停止したのを見て、僕はスピニングアローで舌を切断する。


「今ですロットさん!」


 ロットさんは僕らの意図を理解したのか、大斧をアイテムボックスから取り出す。そして、眼の前のバルクカメレオンに飛び掛かった。


「……はあぁぁぁぁぁ!」


 大斧の一撃がバルクカメレオンの頭を粉砕し、光の粒へと変えた。


「よ、よかったぁ……」


 周りに魔物がいないことを確認し、僕は草原に寝っ転がる。
 こうして、なんとかバルクカメレオンを退けたのだった。
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