魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
404 / 472

第三百四十三話 40秒で支度しな

しおりを挟む
「うーん?」


 僕が目を覚ますと、宿の天井が目に入った。


「あれ?僕どうしたんだろ?」


 確か夜中まで街を防衛して、ヘロヘロになりながらも街に帰って、その後は……


「可笑しいな、その後の記憶が全くないや」


 僕が身を起き上がらせると、壁際の椅子にミエルさんが座って読書をしているのに気が付く。


「ミエルさん、おはようございます」
「起きたか。おはよう」


 ミエルさんは本を閉じて傍のテーブルに置く。


「僕はどのくらい寝てました?」
「……その質問に答えるのは難しいな」
「え?どういう事ですか?」


 僕はミエルさんから今までの出来事を聞く。


「……僕が敵に乗っ取られていた?」
「その通りだ。性格から身のこなしまで、ロワと全く同じだった。ホウリに聞くまでは気付かなかったぞ」
「だから記憶が無かったんですか」


 今まで乗っ取られていたんだったら、どのくらい寝ていたか答えにくいのも納得だ。


「調子はどうだ?」
「いつも通りですね」


 軽く体を動かしてみるけど、特に異常は見当たらない。昨日の疲れが少し残っているくらいだ。


「ならば出かけようか。ホウリから街の防壁まで来るように言われている」
「分かりました。すぐに準備しますね」


 ベッドの傍の棚に、僕が付けていた防具が置いてあった。これを付けてすぐに防壁まで向かおう。



☆   ☆   ☆   ☆


 僕たちは指定された防壁の前まで到着した。
 なんだか、壁の外から轟音が響いているけど、何が起こっているんだろうか。
 辺りを見渡すと、防壁の近くでホウリさんが十数人の人達と、資料を手に話していた。


「ホウリさーん!」
「お、来たか」


 ホウリさんは持っていた資料を傍の人に渡す。


「そういう感じで頼む。何かあれば連絡してくれ」
「分かりました」


 ホウリさんにそう指示されると、話していた人達はすぐに散っていった。


「目を覚ましたばかりで悪いな」


 開口一番、ホウリさんは僕に軽く頭を下げた。


「いえいえ、僕も迷惑をかけたみたいですし」
「謝罪は後でいいだろう。それよりも今は状況を教えてくれ」
「そうだな。登りながら説明しよう。着いてきてくれ」


 そう言うと、ホウリさんは壁の梯子を上り始めた。僕たちもホウリさんの後に続いて梯子を上る。


「現状、外に冒険者は配置していない。なにせ、草原を埋め尽くすほどの魔物だ。策だけじゃどうにもならない」
「そうなんですか」
「ならば、防衛は壁まかせということか?」
「ああ。だが、少しだけ工夫している」
「工夫?」
「見ればわかる」


 そう言うと同時にホウリさんが壁の頂上に上り切った。僕達も続いて壁の上に登り切った。


「あれ?もしかして戦闘中ですか?」


 壁の上ではバリスタを草原に放っている人達がいた。確かに魔物の数を減らさないと、防壁が破られちゃうか。


「バリスタや爆弾で数を減らしてはいるんだが、いかんせん数が多い。防ぎきれていないのが現状だ」
「そこでさっき言ってた工夫の出番って訳か?」
「その工夫って何なんですか?」
「草原を覗いてみろ」


 言われるがまま壁の上から草原を覗いてみる。すると、草原には所狭しと魔物が迫ってきていた。そんな魔物の群れをバリスタの矢や爆弾が蹴散らしていた。けど、魔物を倒す速度よりも迫ってくる速度の方が早い。現に壁に向かって何体もの魔物が攻撃をしている。


「これはかなりマズイのでは?」
「ああ。もっても3日くらいだろう」
「3日ももつのか?」
「壁を見てみろ」


 壁をよく見てみると、淡い橙色の光が覆っていた。あれ?昨日見たような?


「これって特殊結界ですか?」
「その通りだ」


 特殊結界は魔道具の一つで、結界を発生させるものだ。人力以外で結界を発生させられるなんて、かなり画期的な魔道具だと思う。


「この特殊結界で防壁を覆っている。これで時間を稼ぎつつ、バリスタと爆弾で魔物の数を減らす」
「見たところ、この結界はかなりの耐久性みたいだな。だが、この結界を維持するのにはかなりのMPは必要ではないか?」
「MPに関しては問題無い」
「何か考えがあるということだな?」
「ああ」
「そうか」


 ミエルさんはそれだけ言うと、それ以上は聞こうとしなかった。多分、ノエルちゃんに魔石でMPを分けて貰っているんだろう。けど、外でする話でもないから、わざわざ口に出していなんだな。うんうん、僕も分かってきたじゃないか。


「そういう訳だ。お前らにやって欲しいことは分かったな?」
「え?なんですか?」
「ロワは弓、私はバリスタで敵を減らすのだな?」
「その通りだ」
「あ、そういう事ですか」


 僕は弓が使えるし、ミエルさんは他の人よりもMPが多い。壁の上から敵を倒すには適任だろう。


「そういう訳だから、今日からこの壁の上で敵の撃退をやってもらう」
「……あの、なんだか嫌な予感がするんですけど?」
「その予感はあっている」
「取り繕うこともしないんですね」


 深夜までの戦いを思い出してげんなりする。あの過酷な戦いが始まるのか……


「げんなりしている所悪いが、早速戦ってもらうぞ」
「はいはい。分かりましたよ。今回はどのくらい戦えばいいんですか」
「大体3日間だな」
「3日!?」
「ちなみに、休みがあるとは思うなよ?」
「休みなしで!?」
「仮眠は取って良いぞ。飯はエナジーバーな」
「流石に酷くないですか!?」
「襲撃を受けてんだぞ?休んで街が滅んだらどうする」
「それは……」


 ホウリさんの言っていることは分かる。けど、休まないと本来のパフォーマンスが発揮できない。


「み、ミエルさんは休みが無いのは嫌ですよね?」
「ロワ」
「なんでしょうか」
「甘えるな」
「ミエルさん!?」


 味方だと思っていたミエルさんにあっさりと裏切られた!?


「そ、そんな……」
「騎士団は遠征で何週間も移動や戦闘を行うことがある。街が危険なのに3日くらいで音を上げる訳にはいかない」


 ダメだ、ミエルさんの目が騎士団長の厳しい目になっている。これは同意を得るのは難しそうだ。


「……分かりました。僕も頑張ります」
「そう言ってくれて嬉しいぞ」


 言わされたんですけどね。


「それじゃ、早速取り掛かってくれ。何か必要なものがあれば用意するから連絡してくれ」
「分かりました」


 僕は矢筒を背負いながらため息を吐く。これは長い3日間になりそうだ。


☆   ☆   ☆   ☆


 2人を送り届けた後、俺は宿に向かった。


「戻ったぞ~」
「おかえりなさい。フランちゃん帰ってきてるよ」
「そうか。ありがとな」


 ディーヌに礼を言って、宿の中に入る。食堂は賑わっているがフランの姿は無い。つまり、部屋にいる訳か。
 俺は階段を上って、ロワとミエルの部屋に入る。マスターキーを借りといて正解だったな。


「帰って来たか」
「ああ」


 部屋の中には思ったと通りフランがいた。


「それでは、情報の交換会といくか」
「だな」


 俺は部屋に入って扉を閉める。すると、部屋の壁が淡く輝き始めた。
 フランが盗聴防止のスキルを使ったからだ。


「現状はどうじゃ?」
「正直厳しい。魔物の種類次第では城壁が破壊される可能性すらもある」
「そうか」
「魔国はどうだ?」
「魔国は戦闘力だけは高いからのう。魔物の襲撃もオダリムよりは少ないし、楽勝で捌けておるわい」
「それは良かった」


 本当だったら魔国からも戦力を借りたい所だ。だが、魔国へ貸しを作る事になるからと人王が渋っている。だからこそ、俺に何とかするように命令が来ている訳だが。


「問題は戦力の調達が間に合うかどうかだな」
「アテはあるのか?」
「あるが、間に合うか微妙なんだよなぁ」
「間に合わんかったらどうする?」
「ノエルに頼る」


 神の使いであるノエルは表で活躍させたくはない。だが、オダリムの陥落はさせる訳にはいかないから、もしもの時は頼るしかないだろう。


「ノエルか、強力な手段ではあるが、ノエルだけで何とかなるか?」
「手段はある。そもそも、ノエルがいればピンチにすらなっていない」
「そんな手段があるのか」
「使いたくはないけどな」


 そんな事を話しながら、俺とフランは情報交換を進めたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...