魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter

文字の大きさ
412 / 472

第三百五十話 何やってんだミカァ!

しおりを挟む
 森の中でロットと女は対峙する。2人の間には張り詰めたような緊張感が漂う。


「あなたはロットで間違いないですか?」
「……その通りだ」


 女の質問にロットの眉が微かに上がる。


「名前が知られているということは、戦闘スタイルも知られているのではないか、そう思いましたよね?その通りです」


 女は光の板を四方に表示させて操作していく。
 ロットは手斧を投げつけるが、光の板に弾かれて防がれる。


「あなたはステータスを向上させるスキルを使う斧使いです。ステータスの上り幅が高く、ドラゴンすらも叩き切るとか」


 女は光の板を操作しながら話を進める。ロットは攻撃をしても無駄だと悟ったのか、戻って来た手斧を受け止めて話に耳を傾ける。


「言っておきますが、私に戦闘経験はありません」
「……なら道を開けろ。むやみに怪我をさせたくない」
「勘違いしないでください」


 女は無表情のまま指を這わせる。


「私の能力があれば戦闘経験が無くても、あなたに勝てます」


 女が眼鏡を上げつつ、光の板から手を離した。すると、女の体を七色の光が包み込んだ。


「お待たせしました、始めましょうか」
「……いくぞ!」


 先手必勝で決めようと、ロワが接近して手斧を振り下ろす。だが、女は避けずに手斧を頭に受けようとする。


「……なっ!!?」


 無抵抗とは思っていなかったロットは咄嗟に斧を引き戻そうとする。だが、完全には抑えきれずに手斧が女の頭に直撃する。


「それで全力ですか?」


 手斧の下から女の無表情な顔がのぞく。直前で力を抜いたとはいえ、斧神の手斧を受けて無傷。ロットは目の前の女が只者ではないことを感付く。
 ロットは後ろに大きく跳んで、手斧を構えなおす。


「……どうやら、本当に強いみたいだな」
「疑っていたんですか?」
「……少しな」
「そうでしたか」
「……だが、もう油断はしない。全力でいかせてもらおうぞ」


 ロットが目つきを鋭くして手斧をアイテムボックスに仕舞う。そして、身の丈を越える大斧を取り出した。
 だが、女は無表情のまま、恭しく頭を下げる。


「……なんの真似だ?」
「よく考えてみますと、こちらだけ能力を把握しているのはフェアではありません。大変失礼いたしまいした」
「……可笑しな奴だ。能力を秘密にすることなんて、誰もがやっていることだぞ?」
「私が気にするのです。なので、あなたには私の能力をお伝えいたします」
「……はぁ?」


 戦いの最中に自分の能力の説明、聞いたことが無い状況にロットの思考が一瞬止まる。


(嘘の説明で能力を誤認させる気か?それとも、俺に疑念を抱かせるのが目的か?)


 無表情で真意が読み取れずに困惑していると、女は説明を始めた。


「まずは自己紹介からさせていただきます。私の名前は安田 美香やすだ みか。この世界で侵略者をしております」
「……もう少し言い方があるだろう?」
「取り繕っても仕方ないでしょう。侵略しているのは本当なのですから」


 話を聞いて、ロットは更に女のことが分からなくなる。律儀だが侵略することに罪悪感がある様子は無い。更に「この世界で」という言い方に引っ掛かりを覚えた。
 その違和感の正体を確か練るために、ロットは更に話を聞く。


「私達は能力を2つずつ貰いました。私は広範囲、大人数にバフを掛けるスキルが1つ目。2つ目は自信へのバフです」
「……それが斧を受け止めても平気だった理由か」
「その通りです。今の私は、あなたのステータスを上回っています」
「……なるほどな。だから戦闘経験が無くても勝てると言っていたのか」


 ステータスの高さで戦うロット。だが、目の前の敵は自信のステータスを上回る強敵だ。普通だったら怯むところだろう。
 だが、ロットの目は闘志で燃えていた。


「……これは気を引き締めないとな」
「説明は以上です。何か質問はありますか?」
「……あっても答えてくれないだろう?」
「そんなことありません。可能な限りお答えしますよ」
「……質問は無い」


 美香の質問にロットが律儀に答える。それを聞いた美香が眼鏡を上げる。


「かしこまりました。では、始めましょうか」


 そう言って美香がファイティングポーズを取る。その構えはぎこちが無く、戦闘経験が無いことは本当であると分かる。だが、ロットは油断せずに、両手で大斧を構える。


「……行くぞ!」


 ロットが美香に向かって接近し斧を振り下ろす。美香は左手で斧をガードすると、右手でロットに殴り掛かる。
 ロットは美香の拳を躱そうと身を反らせる。だが、完全に拳を躱せずわき腹に掠る。
 拳はロットの脇を少し抉り、脇から血が溢れ出す。


(思ったよりも攻撃力が高い。躱しきるか防御しないとやられてしまうな)


 ロットは大斧を大きく薙ぐ。美香は回避しようとせず、大斧をお腹で受ける。
 しかし、美香はうめき声もあげずに、再び拳を振り上げる。


(渾身の攻撃だったが、ダメージを受けている様子は無いな。だったら……)


 ロットは大斧の柄で拳を受け流し、大斧で思いっきり切り上げる。
 大斧の刃は顎に命中すると、美香の目が少しだけ揺れた。そして、美香はゆっくりと前に倒れた。


「な、なんですかコレ?」
「……顎を攻撃して脳を揺らした。ダメージは無いだろうが、平衡感覚が無くなって立てない筈だ」


 ロットは倒れ伏した美香の上で回り始める。回転させることで斧の威力を上げる『龍断』だ。
 龍断は回転させる速度を上げるほどに斧の威力が上がる。だから、斧を回す時間が無いと威力を発揮することが出来ない。回転させる隙を見つけることが重要なスキルだ。


「……はああああああ!」


 ロットの回転で周りに竜巻のような風が巻き起こる。木々は地面から引っこ抜かれそうなほどに大きく揺れる。回転の勢いが増すほどに大斧の刃の光が増していく。
 そして、回転の勢いが最高潮に達した時にロットは大きく跳びあがる。


「龍断!」


 まばゆく光る斧を倒れている美香に打ち付ける。美香はというと、斧を躱そうと必死に立ち上がろうとする。
 だが、立ち上がれずに大斧を左手で受け止めようとする。
 大斧は左腕に命中すると、轟音を上げて真ん中からへし折れた。地面にはクレーターが出来て、斧の威を物語っている。


「ぐあっ!?」


 流石に無傷とはいかずに、美香の表情が大きくゆがむ。だが、ロットは逆に焦りを感じた。


(今のは俺の全力の攻撃だ。だが、腕を折るしかできなかった。少なくとも気絶はさせられると思ったのだが……)


 ロットは後ろに大きく跳んで再び距離を取る。
 思ったほどでは無かったが、ダメージは与えられた。コレを続けていれば、いつかは倒せるだろう。
 そう確信したロットは大斧を再び握りこむ。すると、腕を折られた美香はゆっくりを立ちあがった。



「お見事です。私が相手でなければ勝てる可能性もあったのでしょう」
「……どういう意味だ?」
「こういう意味です」


 瞬間、美香の折れた左腕がメキメキという音と共に、元に戻っていった。


「私のバフは回復力も上がります。腕が切り落されても、数秒で生えてきます」
「……つまり、俺の攻撃ではお前を倒すことができないと?」
「その通りです。降参するなら命は助けますよ?」


 美香が無表情でロットの言葉を肯定する。
 美香へ攻撃をしてもほとんど通らず、龍断でダメージは与えてもすぐに回復される。さらに、美香の攻撃は掠るだけでも大ダメージになりかねない。
 状況は絶望的、普通であれば逃げるか降参するところだろう。だが、ロットは


「……まだ戦える」


 大斧の柄を更に強く握りしめた。
 その様子を見ると美香は眉を顰めた。初めて美香が表情を見せた瞬間だった。


「その表情。もしかして、まだ何か手があるのですか?」
「……ああ」


 ロットは目を瞑ると大きく息を吐く。そして、神経を集中させると体の中の力を放出させる。


五龍断ごりゅうのたち


 そう呟くとロットは目を開けた。その目は黄金に輝いていたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党
ファンタジー
人類が滅亡した後の世界に、俺はバンパイアとして蘇った。 常識外れの怪力と不死身の肉体を持った俺だが、戦闘にはあまり興味がない。 俺は狼の魔物たちを従えて、安全圏を拡大していく。 好奇心旺盛なホビットたち、技術屋のドワーフたち、脳筋女騎士に魔術師の少女も仲間に加わった。 迷惑なエルフに悩まされつつも、俺たちは便利で快適な生活を目指して奮闘するのだった。

僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めでめで汰
ファンタジー
バッファーの少年カイトのバフスキルは「ステータス欄の中に入って直接数字を動かす」というもの。 しかし、その能力を信じなかった仲間からカイトは追放され迷宮に置き去りにされる。 そこで出会ったLUK(幸運)値の高い少女ハルと共にカイトは無事迷宮から生還。 その後、カイトはハルの両親を探すため地下迷宮の奥へと挑むことを決意する。 (スライム、もふもふ出てきます。女の子に囲まれるけどメインヒロインは一人です。「ざまぁ」もしっかりあります)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート

みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。 唯一の武器は、腰につけた工具袋—— …って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!? 戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。 土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!? 「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」 今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY! 建築×育児×チート×ギャル “腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる! 腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...