異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央

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第4章:ゴブリン・スタンピード

まぼろし

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「あれは!」

 エミリオががたがたと震え、ソフィアさんがそんな息子を抱きしめた。
 エミリオがネーデの森で落とした黒魔結晶が、ゴブリンをゴブリンジェネラルまで進化させていたのだ。
 上位種のゴブリンたちに囲まれたユリウスは、さすがに苦戦しているようだった。
 そしてそこへ、大剣を振り上げたゴブリンが走りこんで大剣を振り下ろす。
 ユリウスは避けきれなかったのか、左のこめかみと肩から血が流れていた。

「すげぇな! あいつ、ゴブリンジェネラルとでも一人でやり合えるのか! やっぱりユリウスこそルリアルーク王に相応しい! あいつならきっと、あの魔族とだって戦えるはずだ!」

「何言ってんのよ! この馬鹿!」

 ユリウスは今、命がけでゴブリンと戦っているっていうのに、アントニオの物言いにものすごく腹が立った。
 この男は、ユリウスをルリアルーク王に担ぎ上げると言って、魔族に対して矢面に立たせようとしているんだ。
 自分は安全な場所に居て戦わずに、ユリウスにだけ戦わせるつもりなんだ。
 そんなことさせるもんか……だけど、私がこのままだと、ユリウスは私を助けるために、アントニオに従わなくてはならなくなる。
 アントニオに捕まった自分が、ユリウスの足かせになるかもしれない自分が、許せなかった。
 突然、ずきり、と頭が痛んだ。
 そして脳裏に浮かぶ、見たことがないはずなのに、なぜか覚えがある光景。
 金色の瞳、銀色の髪、褐色の肌の男の人……ユリウスにとても良く似ている……今のユリウスと違うのは、彼の髪が長いということだ。
 男性化してすぐのユリウスが、こんな感じだった……この男の人、本当にユリウスによく似ている。
 ずきり、ずきり、と頭痛は続く。
 立っていられなくなって、足元から崩れた。

「おい、どうした?」

「オリエ! どうしたんだい! オリエ! しっかりしな!」

 アントニオとエリザベス様の声が、遠くの方で聞こえた。
 そして、脳裏でユリウスによく見た男の人がチカチカと瞬く。

『彼女に手を出すな! お前たちに従う! なんでもするから!』

 そう叫んだ彼は、しばらくして魔物の大群の前に一人で立っていた。
 彼は魔物相手に一人で戦い、傷つき倒れ、だけど立ち上がる。
 彼がぼろぼろになっても立ち上がったのは、ある女のためだった。
 黒い髪、青い瞳の女――。
 この女が、困っている誰かに同情して、彼に助けてあげてほしいと願ったからだった。
 困っていたはずの誰かは、女を利用し、彼を利用した。
 女は困っていたはずの誰かに捕らわれ、彼は女を守るために利用された。
 女の顔は、今の自分にとても似ていた――私はその女に心の中でクソ女と呟く。
 女は優しかっただけなのかもしれない。
 だけどその優しさを利用されて、一番大切な人を不幸にした。
 今の私は、誰より一番大切な人を守ることを優先させたい。
 絶対にユリウスを、あの彼のようにさせるつもりはない!

「オリエ、オリエ、大丈夫かい?」

「う、うん……」

 少しずつ頭痛が治まって、意識がはっきりしてきた。
 私はまだアントニオに捕まえられたままだった。

「エリザベス様たちは……大丈夫ですよね?」

「私たちかい? 私たちのことは心配しなくても大丈夫さ!」

 エリザベス様の前に居るサラさんたち冒険者が、力強く頷いた。
 そうだ、サラさんたちが居ればエリザベス様たちは大丈夫なはずだし、そもそもアントニオは私が居なくなれば乱暴を働いたりしないだろう。
 さっき見た光景のクソ女は、ただ大人しく捕まっているだけだった。
 だけど私は……今の私は、もう大人しく捕まっているつもりはない!


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