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【アルロード視点】どういう意味でしょう
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イオスタ殿下が呼んでいる、なんて言うから、何かあったのかと若干緊張したというのに、話してみれば大したことのない内容で拍子抜けする。
こんな事ならルキノとの話を優先させたかったくらいだ。
まさかルキノがオメガで、あんな悩みを抱えていただなんて思いもしなかった。
いつも瞳をキラキラさせて『推し』だという『あのお方』の事を楽しそうに語っているから、人生を思う存分楽しんでいるかと思っていたのに。
まだ会場にいるだろうか。
「ところでアルロード」
どうやって御前を辞そうかと思っていたら、イオスタ殿下から声がかかる。
「このところ、随分と親しい友人ができたそうじゃないか。どうやらオメガの子らしいね」
「えっ」
驚いてしまって思わず声が出た。
間違いなくルキノの事だろうが……なぜイオスタ殿下がそんな事まで知っているのかと疑問に思う。僕ですら彼がオメガだった事なんて今日初めて知ったというのに。
「大丈夫なのか? もう少し危機感を持つべきだと思うが」
「殿下!」
イオスタ殿下の傍に立っていた兄さんが、咎めるような声を発するけれど、僕はイオスタ殿下の意図が分からず途方に暮れる。
「どういう意味でしょう。彼に何か嫌疑でも?」
「そんな大層な話ではない、単なる老婆心だ。アルロードは将来有望なアルファだからね。彼に下心がないとも限らないだろう? 事故でも起こったらコトだ」
殿下の口ぶりに、僕は衝撃を受けた。
「ルキノはそんな野心がある人物ではありません。そもそも僕の方から彼に話を聞かせて欲しいと頼んだんです。……それに、彼にはとても大切な、心を捧げる御仁がいますので」
ルキノが誤解されていることが悔しくて思わずそう答えたら、イオスタ殿下はなぜか意味ありげに微笑んだ。
「ああ、そうらしいね。けれど彼の父親が彼の縁談を纏めようとしているらしくてね、護衛と思ってくれて良いなどと嘯いてかなり必死なようだと小耳に挟んだものだから、私としては親友の弟が妙なことに巻き込まれないかと心配になってね」
「大丈夫だと言ったでしょう。アルロードは貴方と違って素直に育っているのです、変な勘ぐりや口出しは控えていただきたい」
殿下にぴしゃりとそう言ってから、兄さんはオレの肩をぽんと軽く叩いて微笑んでくれる。
「アルロード、気にしなくていい。このお方はやっと色恋沙汰に関心を寄せ始めたお前をからかいたいだけの大人げないダメな大人だ。本心では別にルキノ君やその御父君の事を悪くなど思っていないから、本当に心配しなくて良いからな」
「兄さん」
「おや、心配しているというのに酷い言い方をする」
「悪ふざけは大概にしてください。自分の身分を考えてくださいよ、殿下が軽々しく彼らを疑うような言い方をしたせいで誤解されて、彼らが不利益を被ったらどう責任をとるおつもりですか」
「ここには私達しかいないんだから、そこまで神経質にならなくても……私は少し大げさに言っただけでまるきり嘘というわけでもないんだ、これくらいいいだろう」
「ダメに決まっているでしょう」
「だがさっきの反応を見るに、アルロードはそのオメガを気に入っているわけだろう?」
「オメガではなくルキノです。彼と話すのは楽しいので、確かに友人として大切に思っていますが」
「そうかそうか。ルキノとやらに恋愛感情を抱いているわけではないんだな。それもそうか、相手は別の男を好いていて、しかもその親は違う男との縁談を探しているんだものなぁ」
「……っ」
「殿下!」
「そう目くじらを立てるな。アルロードがそのルキノとやらを思っているのなら、父親を止めてやるべきかと思っただけだ。だが、取り越し苦労だったようだ」
「貴方が口出しするような事じゃないでしょう。貴方は世話好きな仲人趣味の夫人ですか、まったく。手も口も出さないでください。こういうのは周りが騒ぐものじゃないんです!」
「わかったわかった。悪かったなアルロード、変な勘繰りをして。彼の事は友人として大事にしているだけで、別に恋愛感情は持っていないという事だな。いやぁ、悪かった」
「殿下!!!! アルロード、ここにいたらからかわれるだけだから、もう行きなさい」
殿下を睨みつけて圧をかけながら、兄さんが僕を促す。
「はい……」
ニヤニヤしているイオスタ殿下のお顔からは、いったい何がしたくてこんな事を言うのかを推しはかる事もできない。
釈然としないまま、僕は御前を辞すこととなった。
***
邸に戻ったものの、胸がモヤモヤとして気が晴れない。
あれから会場に戻るなり様々な人物から話しかけられダンスに誘われ、なんとか躱そうにも囲まれていてはどうしようもない。結局はルキノには会えなくて、僕は色々と消化不良な感情を抱えたまま帰路に就くことになったのだった。
今日は思いがけない情報がたくさん入りすぎて、何が自分の感情をこんなにも乱しているのかが分からない。
自室で温かいお茶を飲みながら考えに耽っていたら、コンコン、とノックの音がした。
「アルロード」
「兄さん?」
慌てて扉を開けたら、兄さんが申し訳なさそうな顔で立っていた。
こんな事ならルキノとの話を優先させたかったくらいだ。
まさかルキノがオメガで、あんな悩みを抱えていただなんて思いもしなかった。
いつも瞳をキラキラさせて『推し』だという『あのお方』の事を楽しそうに語っているから、人生を思う存分楽しんでいるかと思っていたのに。
まだ会場にいるだろうか。
「ところでアルロード」
どうやって御前を辞そうかと思っていたら、イオスタ殿下から声がかかる。
「このところ、随分と親しい友人ができたそうじゃないか。どうやらオメガの子らしいね」
「えっ」
驚いてしまって思わず声が出た。
間違いなくルキノの事だろうが……なぜイオスタ殿下がそんな事まで知っているのかと疑問に思う。僕ですら彼がオメガだった事なんて今日初めて知ったというのに。
「大丈夫なのか? もう少し危機感を持つべきだと思うが」
「殿下!」
イオスタ殿下の傍に立っていた兄さんが、咎めるような声を発するけれど、僕はイオスタ殿下の意図が分からず途方に暮れる。
「どういう意味でしょう。彼に何か嫌疑でも?」
「そんな大層な話ではない、単なる老婆心だ。アルロードは将来有望なアルファだからね。彼に下心がないとも限らないだろう? 事故でも起こったらコトだ」
殿下の口ぶりに、僕は衝撃を受けた。
「ルキノはそんな野心がある人物ではありません。そもそも僕の方から彼に話を聞かせて欲しいと頼んだんです。……それに、彼にはとても大切な、心を捧げる御仁がいますので」
ルキノが誤解されていることが悔しくて思わずそう答えたら、イオスタ殿下はなぜか意味ありげに微笑んだ。
「ああ、そうらしいね。けれど彼の父親が彼の縁談を纏めようとしているらしくてね、護衛と思ってくれて良いなどと嘯いてかなり必死なようだと小耳に挟んだものだから、私としては親友の弟が妙なことに巻き込まれないかと心配になってね」
「大丈夫だと言ったでしょう。アルロードは貴方と違って素直に育っているのです、変な勘ぐりや口出しは控えていただきたい」
殿下にぴしゃりとそう言ってから、兄さんはオレの肩をぽんと軽く叩いて微笑んでくれる。
「アルロード、気にしなくていい。このお方はやっと色恋沙汰に関心を寄せ始めたお前をからかいたいだけの大人げないダメな大人だ。本心では別にルキノ君やその御父君の事を悪くなど思っていないから、本当に心配しなくて良いからな」
「兄さん」
「おや、心配しているというのに酷い言い方をする」
「悪ふざけは大概にしてください。自分の身分を考えてくださいよ、殿下が軽々しく彼らを疑うような言い方をしたせいで誤解されて、彼らが不利益を被ったらどう責任をとるおつもりですか」
「ここには私達しかいないんだから、そこまで神経質にならなくても……私は少し大げさに言っただけでまるきり嘘というわけでもないんだ、これくらいいいだろう」
「ダメに決まっているでしょう」
「だがさっきの反応を見るに、アルロードはそのオメガを気に入っているわけだろう?」
「オメガではなくルキノです。彼と話すのは楽しいので、確かに友人として大切に思っていますが」
「そうかそうか。ルキノとやらに恋愛感情を抱いているわけではないんだな。それもそうか、相手は別の男を好いていて、しかもその親は違う男との縁談を探しているんだものなぁ」
「……っ」
「殿下!」
「そう目くじらを立てるな。アルロードがそのルキノとやらを思っているのなら、父親を止めてやるべきかと思っただけだ。だが、取り越し苦労だったようだ」
「貴方が口出しするような事じゃないでしょう。貴方は世話好きな仲人趣味の夫人ですか、まったく。手も口も出さないでください。こういうのは周りが騒ぐものじゃないんです!」
「わかったわかった。悪かったなアルロード、変な勘繰りをして。彼の事は友人として大事にしているだけで、別に恋愛感情は持っていないという事だな。いやぁ、悪かった」
「殿下!!!! アルロード、ここにいたらからかわれるだけだから、もう行きなさい」
殿下を睨みつけて圧をかけながら、兄さんが僕を促す。
「はい……」
ニヤニヤしているイオスタ殿下のお顔からは、いったい何がしたくてこんな事を言うのかを推しはかる事もできない。
釈然としないまま、僕は御前を辞すこととなった。
***
邸に戻ったものの、胸がモヤモヤとして気が晴れない。
あれから会場に戻るなり様々な人物から話しかけられダンスに誘われ、なんとか躱そうにも囲まれていてはどうしようもない。結局はルキノには会えなくて、僕は色々と消化不良な感情を抱えたまま帰路に就くことになったのだった。
今日は思いがけない情報がたくさん入りすぎて、何が自分の感情をこんなにも乱しているのかが分からない。
自室で温かいお茶を飲みながら考えに耽っていたら、コンコン、とノックの音がした。
「アルロード」
「兄さん?」
慌てて扉を開けたら、兄さんが申し訳なさそうな顔で立っていた。
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