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お前はそれでいいのか?
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それって……?
ああもう頭が回らない。
「明日にでもあなたがどうしたいか聞くつもりでいたのよ。婚約が整ったアルファとオメガならば、確かに婚約者と発情期を過ごすことは普通だそうよ? けれど」
「馬車の用意ができた。動けるか?」
コク、と頷けば父さんがオレを抱き上げてくれる。
馬車にそっと乗せられて、あとはホテルに着くまで我慢するだけだ。毎回手間も金もかけさせてしまって家族には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
けど、家族がいるところでみっともない姿はどうしても見せたくなかった。
ホテルに着いたら、思いっきりアルロード様の香りに包まれて幸せな時間が過ごせる。それまでなんとか我慢しなくちゃ。
腕の中の枕をギュッと抱きしめた。
「ルキノ」
「……?」
そっと目を開けたら、父さんが心配そうな顔でオレを見てる。
どんどんヒートが進行してきて意識が朦朧としてきてるから、一刻も早くホテルに行きたいのに……。
「お前が嫌ならば公爵家には伝えない。まだ今日婚約が成ったばかりだ。アルロード様はすぐにお前と番いたいようだが、お前が無理をすることはないんだ」
「アルロード、様……」
そのお名前を聞くだけで多幸感に包まれる。
「そうだ。さっき母さんも言っていただろう? お前に発情期がきたら駆けつける、とアルロード様が仰っていたそうだ。だが……」
「アルロード様に、会える……?」
「あ、ああ、公爵家に連絡すればな。お前はそれでいいのか?」
「アルロード様に会えるの、嬉しい……」
「……そうか」
「着いたら御者が起こしてくれるわ。少し眠りなさい」
「うん……」
父さんと母さんの声が遠くに聞こえて、オレは枕を抱きしめたまま目を閉じた。
いくらヒートでも、父さんと母さんの前でみっともない姿は見せたくない。でも抱きしめた枕から、体に巻き付けたシーツから、アルロード様の香りが漂ってきて、思考はどんどん削られていく。
それでも、一度このかぐわしい香りを感じてしまうと、手放すなんてできなかった。
目を閉じて、もう少しだけ我慢すれば。
そう思うけれど、もう馬車の振動すらも辛くて。
早くついて欲しい。
いつもよりも道のりが長く感じるのは、すでにヒートの症状が強く出ているからなのか。
はぁ、はぁ、と荒くなる息をこらえ、太ももをもじもじとこすり合わせて耐える事どれくらいか。
ようやく、馬車の振動が止まって、オレはホッと息をついた。
こんなに体が疼いているのに眠るだなんてとてもじゃないけど無理で、一刻も早くこの疼きをなんとかしたい。
キィ、と小さな音がして扉が開く。
「ルキノ様、大丈夫ですか?」
「うん……ありがと」
いつもホテルまで送ってくれる御者のマルクは、オレからいつもいい含められてるから不用意に触ったりしない。ちょっとの刺激で反応してしまうから、この距離感がありがたかった。
できるだけ自分の身体に刺激を与えたくなくてのろのろと馬車から出て……オレは息を呑んだ。
「どこ? ここ……」
目の前にはすごくデカイお屋敷。
周囲には森と湖しかなくて、いつものホテルの周辺とは似ても似つかない。
もう足を進める気力もなくて馬車から降りたところでペタリと座り込んだ時、デカい邸の扉がすごい勢いで開いた。
「ルキノ!」
「え……」
居るはずのない人の声が聞こえて、走ってくる人のシルエットが見慣れた『あのお方』の姿に見えて、オレは妄想まで見るようになってしまったのかと呆然とする。
「可哀そうに、大丈夫?」
走り寄ってきたのはやっぱりアルロード様で、返事をする間もなく姫抱きで抱きあげられて邸の中に運ばれた。
運ばれる振動に、触れる身体の体温に、何よりも、包み込まれるみたいなアルロード様の香りの濃厚さに、頑張って抑え込んでいた熱が一気に昂ってくる。
「な……ん、で、アルロード様……」
「ルキノがヒートを起こしていると聞いていても立ってもいられなくて。ごめんね、僕がルキノの部屋に入ったせいで発情期が早まったんじゃないかと思うと心配で」
「そんな……あ、」
そっとベッドに降ろされたのに、そのわずかな衝撃にさえも体が反応してしまう。
「辛い?」
心配そうにのぞき込まれると、その美しい青い瞳がまたオレの身体に火をつける。どんどん高まってくる体の中の熱が怖くて、オレはアルロード様の視線から逃れるように枕に顔を埋めて、身を包むシーツをきゅ、と握りしめた。
「どうしよう~アルロード様の幻が実体持ってる風に見えるぅ……うう、ごめんなさい、アルロード様」
これだけ濃厚なアルロード様の香りに包まれてたら幻の存在感が強くなっちゃうのも仕方がないけど。
声も表情もなんだかすごく色っぽく見えて、今日もまたアルロード様をおかずにするの決定だ。申し訳ない気もする。でももう結婚することになるんだからいいのかな。
「アルロード様……っ」
我慢できなくなってきて、枕をぎゅっと握りしめながら自分の中心にもう片方の手を伸ばした。
「枕を抱きしめるくらいなら本人に抱き着いて欲しいんだけど」
アルロード様の幻が、そんな甘いセリフを囁きながらオレの頬や瞼、おでこに唇を落とす。
ああもう頭が回らない。
「明日にでもあなたがどうしたいか聞くつもりでいたのよ。婚約が整ったアルファとオメガならば、確かに婚約者と発情期を過ごすことは普通だそうよ? けれど」
「馬車の用意ができた。動けるか?」
コク、と頷けば父さんがオレを抱き上げてくれる。
馬車にそっと乗せられて、あとはホテルに着くまで我慢するだけだ。毎回手間も金もかけさせてしまって家族には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
けど、家族がいるところでみっともない姿はどうしても見せたくなかった。
ホテルに着いたら、思いっきりアルロード様の香りに包まれて幸せな時間が過ごせる。それまでなんとか我慢しなくちゃ。
腕の中の枕をギュッと抱きしめた。
「ルキノ」
「……?」
そっと目を開けたら、父さんが心配そうな顔でオレを見てる。
どんどんヒートが進行してきて意識が朦朧としてきてるから、一刻も早くホテルに行きたいのに……。
「お前が嫌ならば公爵家には伝えない。まだ今日婚約が成ったばかりだ。アルロード様はすぐにお前と番いたいようだが、お前が無理をすることはないんだ」
「アルロード、様……」
そのお名前を聞くだけで多幸感に包まれる。
「そうだ。さっき母さんも言っていただろう? お前に発情期がきたら駆けつける、とアルロード様が仰っていたそうだ。だが……」
「アルロード様に、会える……?」
「あ、ああ、公爵家に連絡すればな。お前はそれでいいのか?」
「アルロード様に会えるの、嬉しい……」
「……そうか」
「着いたら御者が起こしてくれるわ。少し眠りなさい」
「うん……」
父さんと母さんの声が遠くに聞こえて、オレは枕を抱きしめたまま目を閉じた。
いくらヒートでも、父さんと母さんの前でみっともない姿は見せたくない。でも抱きしめた枕から、体に巻き付けたシーツから、アルロード様の香りが漂ってきて、思考はどんどん削られていく。
それでも、一度このかぐわしい香りを感じてしまうと、手放すなんてできなかった。
目を閉じて、もう少しだけ我慢すれば。
そう思うけれど、もう馬車の振動すらも辛くて。
早くついて欲しい。
いつもよりも道のりが長く感じるのは、すでにヒートの症状が強く出ているからなのか。
はぁ、はぁ、と荒くなる息をこらえ、太ももをもじもじとこすり合わせて耐える事どれくらいか。
ようやく、馬車の振動が止まって、オレはホッと息をついた。
こんなに体が疼いているのに眠るだなんてとてもじゃないけど無理で、一刻も早くこの疼きをなんとかしたい。
キィ、と小さな音がして扉が開く。
「ルキノ様、大丈夫ですか?」
「うん……ありがと」
いつもホテルまで送ってくれる御者のマルクは、オレからいつもいい含められてるから不用意に触ったりしない。ちょっとの刺激で反応してしまうから、この距離感がありがたかった。
できるだけ自分の身体に刺激を与えたくなくてのろのろと馬車から出て……オレは息を呑んだ。
「どこ? ここ……」
目の前にはすごくデカイお屋敷。
周囲には森と湖しかなくて、いつものホテルの周辺とは似ても似つかない。
もう足を進める気力もなくて馬車から降りたところでペタリと座り込んだ時、デカい邸の扉がすごい勢いで開いた。
「ルキノ!」
「え……」
居るはずのない人の声が聞こえて、走ってくる人のシルエットが見慣れた『あのお方』の姿に見えて、オレは妄想まで見るようになってしまったのかと呆然とする。
「可哀そうに、大丈夫?」
走り寄ってきたのはやっぱりアルロード様で、返事をする間もなく姫抱きで抱きあげられて邸の中に運ばれた。
運ばれる振動に、触れる身体の体温に、何よりも、包み込まれるみたいなアルロード様の香りの濃厚さに、頑張って抑え込んでいた熱が一気に昂ってくる。
「な……ん、で、アルロード様……」
「ルキノがヒートを起こしていると聞いていても立ってもいられなくて。ごめんね、僕がルキノの部屋に入ったせいで発情期が早まったんじゃないかと思うと心配で」
「そんな……あ、」
そっとベッドに降ろされたのに、そのわずかな衝撃にさえも体が反応してしまう。
「辛い?」
心配そうにのぞき込まれると、その美しい青い瞳がまたオレの身体に火をつける。どんどん高まってくる体の中の熱が怖くて、オレはアルロード様の視線から逃れるように枕に顔を埋めて、身を包むシーツをきゅ、と握りしめた。
「どうしよう~アルロード様の幻が実体持ってる風に見えるぅ……うう、ごめんなさい、アルロード様」
これだけ濃厚なアルロード様の香りに包まれてたら幻の存在感が強くなっちゃうのも仕方がないけど。
声も表情もなんだかすごく色っぽく見えて、今日もまたアルロード様をおかずにするの決定だ。申し訳ない気もする。でももう結婚することになるんだからいいのかな。
「アルロード様……っ」
我慢できなくなってきて、枕をぎゅっと握りしめながら自分の中心にもう片方の手を伸ばした。
「枕を抱きしめるくらいなら本人に抱き着いて欲しいんだけど」
アルロード様の幻が、そんな甘いセリフを囁きながらオレの頬や瞼、おでこに唇を落とす。
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