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2.入団試験
しおりを挟むこれは、ノアが初めてエルと出会った日のこと。
ノアは、魔法師団長として魔法師団の入団試験会場となる鍛錬場へとやって来た。既に受験者は集まっていて、緊張した面持ちをしている。それを見学しに、手の空いている団員達もやって来ていた。その中で一際目立つ、ここにいるはずのない赤髪の無精髭を生やした大男と、ノアは目が合った。
「よお、ノア。遅かったな」
「フレッド、魔獣討伐から戻ってきていたのか」
「おう!俺の相棒にかかれば、あっという間だ」
そう言って、背負っている大剣を親指で指してニッと笑った。騎士団長自らが、最前線で大剣に炎を纏って魔物を蹴散らしていくのだ。「爆火の大剣」の二つ名を持つ騎士団長について行く部下たちの苦労も忍ばれる。
そういうノアも、いざとなると同じ行動をとるので、魔法師団員たちの苦労も同様だ。同じような上司を持つおかげで、騎士団と魔法師団は意外と仲が良い。
フローラ国民は花を咲かせる。花魔法とも呼ばれる木属性の得意な人が多い変わった土地柄だ。花じゃなくても、水や土の魔法も使える人が多い。もちろん他の属性も使える人もいる。のんびりゆったりとした平和な国だ。
とはいえ、魔獣が出ることには変わりはなく、他国から逃げ込んだ破落戸を捕縛し送り返したり、そのまま討伐することもある。観光客も多く訪れるので、普段はそちらのトラブル対応も多い。
「ノア師団長。実は陛下がお忍びで見学に来ています」
副師団長がノアに近寄ってくると、困り顔でそちらに視線を向ける。確かに近衛を連れた見覚えのある人物がそこにいた。フレッドとノアは顔を見合わせるとそちらに向かった。
「陛下、このようなところで何をしているのです。執務はよろしいのですか?」
「ノア。余にも楽しみがあっても良いとは思わないか?」
「……あとで母上に叱られても知りませんよ?」
「ソフィアなら、あそこの窓から見ておるぞ」
そう言って、陛下が最上階の窓に手を振ると、にこやかに手を振り返す王妃の姿があった。ノアの両親は有能なのだが、好奇心旺盛だ。
思わずため息を吐いたノアは、今頃執務に追われているだろう王太子である兄を不憫に思った。
兄はきっと少し困った顔をしながらも、両親から受け継いだ才能で、テキパキ両親の分も執務をこなしているはずだ。ノアにとって優しくて尊敬できる兄だ。
もう一人の兄は外交を任されていて、現在は外遊中だ。ノアと正反対の夏の太陽のように明るい性格だが、兄弟仲は良い。他国の話を聞くと、我が国の王族は温かい家族であると思う。
ノアが縁談を嫌がると、いつか大切に思える相手に出会えるからと、自由にさせてくれた。本当に、そんな相手に出会えるのか疑問ではある。だが、家族が信じて疑わないので、ノアはそういうものなのかと思っている。
「父上も兄である私達も実際に愛する人に出会えただろう? ノアもきっと出会えるよ」
王太子である兄はノアにそう言って、温かい春の陽射しのように微笑んだのだった。
実技試験の予定時刻になり、監督役の団員が受験生に指示を出す。
「受験者は並んで、こちらでくじを引いてください。同じ番号の二人が対戦します。相手が降参するか、審判からストップがかけられる事で勝敗を決めます」
先日は筆記試験も行われていた。
午前中の、この対戦の勝ち負けで必ずしも合否が決まるわけではないが、やるからには勝ちたいだろう。午後の得意分野の魔法を見せる魔力を残しつつ、受験生は戦わなければならない。次々と対戦していくのをノアは冷静に見極めていく。
「大柄な方は魔力は多いが、操作がまだまだだな。おお、あの馬鹿力は騎士団に来て欲しいぞ。鍛えがいがありそうだ」
「フレッド、引き抜こうとするな。操作方法を鍛えれば使えるようになる」
「対戦相手は、魔力は平均より多い程度だが、練度はなかなかいいな」
「ああ。この勝負は彼の方が有利だろう」
ほどなくして、大技の隙をついた青年が勝った。
「ふーん、さっぱりした性格のヤツのようだな。笑顔で負けを認めた」
「ああいう奴は伸びる。楽しみだ」
対戦した二人は、お互い戦った感想を言いながら待機場所に戻る。
「おお、いいコンビになりそうだ」
今年は新入団員に期待が持てそうだとノアは思った。
「次、十八番前へ」
監督役にそう言われて出てきた受験生の一人に、ノアは目を引かれた。プラチナブロンドの方は、小柄だが立ち振る舞いに隙がない。もう一方の焦げ茶色の髪の毛の青年は、肩に力が入ってしまっている。
「小柄な方、期待できるな」
「ああ。剣術も出来そうだ。プラチナブロンドの方は侯爵子息のエル、焦げ茶色の方は伯爵子息のジュードだ」
フレッドの言葉にノアはそう答えた。
「はじめ!」
先手必勝とでも言うように、ジュードは風の刃を発動させた。魔力の操作は滑らかだ。
しかし、エルは完全に見切って円形に回転させた水の刃で反撃する。それをジュードは風で軌道をそらし、今度は砂埃を巻き上げ複数の竜巻を発生させる。それを見たエルも同じように、大量の水を出現させると水流の渦を竜巻にぶつけて相殺した。エルは的確に魔力を操作してジュードの技を抑え込む。
様子を見るように防戦に徹していたエルが動いた。水流の渦を正面から繰り出し、水の刃をその後方に潜ませる。ジュードは竜巻をぶつけて一瞬気を緩ませたが、水の渦から飛び出した水の刃に慌てて風の壁を張った。
同時に、エルは姿勢を低くして、ジュードとの間合いを詰めていく。それに気づいたジュードが離れようとしたが、足元から蔦が現れ身体の自由を奪われていった。
ジュードが魔力を使って蔦を切り刻み逃れようとした瞬間、エルのレイピアがジュードの喉元に突き付けられる。
「そこまで!」
わっ!と、周囲から歓声が沸く。
「ジュードも悪くなかったが、エルの方が数段上手だったな……ノア?」
「あ、ああ」
フレッドが反応の鈍いノアを訝しげに見る。ノアは、輝くプラチナブロンドの彼から目が離せない。先ほど感じたエルの魔力に惹き付けられる感覚に戸惑っていた。
「この感覚は……」
エルの魔力の残滓を感じた瞬間。そして、一瞬絡んだ空色の瞳の視線に、ノアの鼓動は確かに高鳴ったのだ。
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