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3.ノアは気付く
「ノアよ、どうしたのだ? ぼうっとして、お前らしくもない」
「父上、それが……」
国王である父親まで、ノアの反応をどこか面白そうに観察している。ノアは動揺がおさまらず、どう答えるべきか迷ってしまった。
その時、いまだに納得のいっていないジュードの声が響いた。
「武器を使うなんて、反則ではないのですか!」
「何度も言うが、きちんと説明はしてあるはずだ。武器を持ち込むことに問題はない」
「今まで対戦していた受験生は、使わなかったではありませんか!」
「今年は、たまたまそうだっただけだ。例年は使用した者たちもいるんだ」
困った顔をしたエルと、何度説明しても納得しないジュードに手を焼いている監督役や審判役の団員。そこに騎士団長のフレッドと、一瞬にして普段の落ち着きを取り戻した魔法師団長のノアが近付く。
「審判の言う通り問題はない。案内にも武器の持ち込みを許可すると書いていたはずだ。現に私も剣を持ち戦っている」
ノアは、自分も帯剣しているのが見えるように、ローブをめくってジュードへと指し示した。
「それを言うなら、俺だって騎士だが魔法を使うぞ」
フレッドは、騎士団の試験でも魔法と併用で試験を受けることに問題ないとも言った。ノアもそれに頷く。エルも言葉を添える。
「本当は魔法だけで戦って勝ちたかった。でも君が強かったから、本当は使う気はなかったけれど、念の為に持ってきた剣を使っちゃったんだ」
悔しそうな伯爵子息のジュードだったが、ノアとフレッドに言われては、言い返せるわけもなく引き下がった。
「あの伯爵家の坊主は、入団したら手を焼きそうだな」
「そうだな。あの二人が、いいライバルになれば良いが」
エルとジュードの力量を見て、二人は自然とこんな会話をしていた。
一度、昼食を挟んで始まった午後の試験は、制限時間内に自分の得意としている魔法を見せるものだ。
受験生たちは、次々と今までの努力の成果を披露していく。
ジュードは風魔法を繊細に操って、木彫りの龍の彫刻を作った。生き生きとした見事な出来栄えに周囲もどよめきが起きる。
「確か、彼は東国に留学をしていたらしいな」
「へぇー。それで龍の木彫りか」
東国では、龍を神として祀っているのは有名な話だ。
次は最後の受験生だ。エルは一度大きく呼吸をすると、手を肩幅程度に広げて魔力を練っていく。繊細な作業であることが見ている皆がわかった。魔力の球体が徐々に大きくなっていく。一定の大きさになったときに、両手で魔力の珠をふわりと空へと高く掲げた。そのままシャボン玉のように浮上していく球体を誰もが固唾をのんで見守った。訓練場の結界の上限近くまで昇った魔力の珠は、パチンと弾けると結界に沿うように広がった……そして。
「あっ! 花だ!」
見学者の誰かが叫んだ。それと共に歓声が上がる。ひらひらと色とりどりの小花が降ってきたのだ。
花に触れようと手を上に掲げて待つ者、ただただその光景に見惚れる者。幻想的な雰囲気の中で、ノアもまた、エルの魔力の花に触れると、ほろりと溶けて流れ込んでくる感覚に幸運を噛み締めていた。
エルは柔らかな微笑みを浮かべて、一面に花を降らせてみせた。花魔法、風魔法、聖魔法を見事に編み込んだ高度なものだった。
そして、エルの魔法はそれだけじゃなかった。
「おお? 余の腰の痛みがなくなったぞ」
「そういえば、討伐でしくじってつけた擦り傷が消えてる」
それ以外の人たちは、安らぎを感じているようだ。
ノアはエルの魔法に触れて確信した。エルと魔力の相性が抜群に良いのだと。
ノアは水と風と氷。あまり公にはなっていないが闇も使える。魔法師団長として数多くの魔法師と接してきたが、相性がここまで良いと思えたのは生まれて初めてだった。ノアはエルから目が離せなかった。
「……ノア、あの子か?」
我が子の普段は見せない表情にいち早く気付いた国王は、ノアに耳打ちをした。ハッとエルに見惚れていた自分に気付いたノアは、表情を取り繕ったが、目尻の赤さはそのままに小さくうなずく。
国王は嬉しそうに、「そうかそうか」と喜んでいた。
「侯爵家の三男だったな。ソフィアたちにも教えてやらねば。それと──」
「父上、私が動きますので大人しくしていてください。王命になってしまいます」
「そうか……。では、しっかり心を掴むのだぞ」
「ノア、良かったな!」
フレッドはニヤリと笑ってノアの背中を叩いた。
こんなやり取りがあったなどは、エルは知らない。自分の魔法が成功したことに満足したように、微笑んでいた。
「あの癒やしの花を、我が国民にも味わって貰いたいものだのう」
当然ながら、エルは合格した。筆記と実技の両方で首席合格だった。
国王の鶴の一声で、今年の復活の日のメインイベントの大役に、新米魔法師のエルが大抜擢されるのであった。
さすがに国王からの指名となると、新米魔法師にはプレッシャーになるだろうからと、ノアが魔法師団長として指名したことにした。
ノアは魔力の相性だけではなく、エルの訓練に真摯に取り組むところや、周囲の仲間を気遣うところが好ましい。何よりも、キラキラと輝く空色の瞳でノアを見て嬉しそうに微笑むエル。
その全てに愛おしさを募らせていくのであった。
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