【完結】花降る王国の魔法師団長は、新米魔法師の僕を愛でる

金浦桃多

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4.エルは気付かない

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 エルは無事、魔法師の試験に合格出来た。先日行われた筆記試験は首席合格だったし、今日の実地試験もハッキリとは順位は出されなかったが、好成績のようだった。
 午前中に対戦した伯爵子息のジュードも、無事に合格していた。仲良く出来たら良いなと思いつつ、待っていた馬車に乗り、自宅の侯爵家へと帰った。詳しい書類は後日届くとの事だった。

「ああ、憧れのノア魔法師団長に会えてすごく幸せだったな。これからは魔法師団でずっと一緒なんだ」

 エルはノアの姿を見て、必ず合格するんだと気合いを入れて試験に臨んだ。学園では今日この日のために、一生懸命頑張って勉強した。そのおかげで座学も実技も首席で卒業が決まったのだ。学友たちと離れ離れになるのは寂しいけれど、それ以上に魔法師団に入団することの喜びの方が大きかった。
 エルが魔法師団を目指していたのは学友たちには知られているので、合格したことを教えれば一緒に喜んでくれるだろう。

「ノア師団長……カッコよかったなぁ」

 エルは馬車に乗りながら、実技試験で見ることのできたノアを、口元を緩めながら思い返していた。 

 
 エルは、学園に入学する前に、その年に魔法師団に入団したばかりのノアを見たことがあった。
 フローラ王国最大のお祭りである復活の日のメインイベントでのことだった。当時入団したてのノアが、キラキラ輝く氷の花を舞わせて民衆の頭上に降らせたのを体験した。この幻想的な光景は今でもエルの胸に刻まれている。
 触れた瞬間にひんやりとした感覚を残して消えていく儚い花。その魔力は、エルに染み込んで心が温まった。胸がキュンとなり鼓動が高まる。
 この儚くも美しい魔法を使ったノアを見つめていた。艶やかな黒髪にアメジストの瞳。しっかりと鍛えられているとわかる姿に釘付けとなった。

「僕、魔法師になって、ノア殿下と一緒に働きたい。学園で頑張って勉強するよ」

 一緒に来ていた両親は、微笑ましくその話を聞いていた。エルは以前から、治癒師か魔法師になりたいと言っていたのだ。今回の素晴らしい体験で、心が決まったのだろうと思った。しかし、エルの次の言葉で両親は固まった。

「ノア殿下の魔力は温かいね。何だかドキドキする。これはなに?」

 胸を押さえてうっとりしているエルを見て、両親はまだ学園に入学もしていない幼さすら感じる我が子の反応に驚きを隠せなかった。
 なぜなら、魔力の相性が良くないと起きない現象だからだ。しかもこの微量な魔力に反応するなんて、抜群に相性が良いのだろう。父親である侯爵は、陛下にのみ、このことを知らせておこうと考えた。ノア殿下もまだ学園に入学もしていない子が相手だと知れば戸惑うだろうと思ったからだ。

「エル。魔法師団に入るには、座学も実技も本当に頑張らないといけないよ。やれるかい?」
「うん、がんばります!」
「そうか……なら、応援するよ。頑張りなさい」
「はい!」

 魔法師団に入団出来れば、二人は気付くだろう。そう思い、侯爵夫婦は後日、陛下に謁見して、エルの反応を伝えたのだった。陛下は王妃にそのことを伝えると、ノアへの見合いの打診を全て断り、エルの成長を心から楽しみにしていた。
 魔法の相性の良い者同士は、たとえ同性同士でも子を授かることが出来る。現に数は多くはないが、そうして生まれた子はいるのだ。もちろん同性同士の婚姻も可能である。
 そして、エルの実地試験当日、待ちきれなかった陛下は、お忍びで直接二人の出会いを見に行くことにしたのだった。

「ただいま帰りました」

 エルが入団試験から帰ると、一家総出で出迎えた。

「おかえり、エル。どうだった?」
「父様、母様、兄様たち! 僕、合格しました!」
「おめでとう! さすが俺の弟。それで? 憧れのノア魔法師団長に会えたのか?」
「直接はお話できなかったけど、実技試験を見ていたよ。練習していた花を降らせるのも上手くできたんだ!」
「ノア師団長は気づいたかしら。エルが真似をしたの」
「母様、僕なりにアレンジしていますよ……でも、バレてたら恥ずかしいな」
「エル、どちらにしろノア師団長もエルの魔力に触れたのだな?」
「え……? はい。花を降らせた時に触れていましたよ」

 父親が念を押してきたのに戸惑ったが、エルは事実をきちんと伝えた。

「……そうか。とうとう」
「父様?」
「エル、着替えておいで。みんなでお祝いだ」
「はいっ!」

 そういうとエルは自室に一度戻って行った。

 ◇◇◇

「本当にこの日がきたのか……」
「父上、エルの応援をしないといけませんよ」
「わかっておる」
「エルにはどんな花嫁衣装が似合うかしらね」
「母上も少し我慢しておきましょう」 
「ところで、父上。王家に連絡しなくていいのか?」
「既に把握済みだろう。むしろ朝イチで書状が届きそうだ」

 とうとう、この日が来たのだ。侯爵家もエルとノアが出会ったことを知ると、会うべくして出会った二人に、感慨深い思いだった。
 ちなみに、エルの次兄が言ったことは的中した。侯爵のもとに、王家の紋章入りの書状が届いた。密やかに王家と連絡を取り合いながら、二人の行く末を見守るようになったのだった。
 
 
 エルはまだ気付かない。なぜこんなにもノア師団長に惹かれるのか。頭を撫でられるたびに、ノアが魔力をほんの少し流して気づいてほしがっているのも。無意識にエルからも魔力をほんの少しだけ流してしまっている事も。

「エル、今日も頑張っていたな」
「はい! ノア師団長」

 二人の不器用な恋を見守るのは、魔法師団の癒しになっていた。誰もがこの後に訪れる不穏な影に、気付くことは出来なかった。 
 
 
 
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