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「その婚約破棄、お受けすることはできません」
そうして迎えたダンスパーティの日。
伸ばしていた前髪を切り美しい銀髪を結い上げ、ガーネットの瞳に良く似合うワインレッドの上品なドレスを着たアリシアはそう答えた。
それを聞いたクライヴは、驚愕のあまり言葉を失った。今まで一度も口答えをしてこなかった婚約者が、きっぱりと彼の申し出を拒絶したのだから。
「な、何を言っている!お前に拒否権など」
ようやく口を開いたクライヴだが、アリシアはそれには答えず言葉を続けた。
「理由は三つ。まず、私と貴方の婚約は、アシュレー侯爵家とハーネット伯爵家、それぞれの当主が結んだもの。当主以外に、それを破棄する権限などございません」
「は?次期当主の俺が破棄すると言っているのだぞ」
「二つ目。この婚約は、アシュレー侯爵と我が家の共同事業の盟約の証です。つまり婚約を破棄するということは事業提携を切るということ。今まで事業を立ち上げるために費やした時間、費用、人材……どれほどの損失が出るか、お分かりになりませんか?」
「そ、それくらいの金額、我が侯爵家ならば大したことはない」
父親の仕事を手伝っていると言っていたが、その実クライヴはほとんど何もしていなかった。きちんと事業に関わっていたのならば、その損失が侯爵家にどれほどのダメージを与えるか分かっただろうに。
「最後に三つ目。我が国の法では、不貞を働いた者、つまり有責者からの結婚、もしくは婚約の破棄は認められておりません」
婚約の解消を申し出ることが可能なのは、瑕疵の無い側のみ。そんなことは、この国の貴族なら誰でも知っていることだ。
「不貞だなんて。私たち、そのような関係ではございませんわ」
「そうだ。これは謂われのない侮辱だ。俺とフレデリカに謝罪しろ!」
「貴方がたが学園内で密接に触れ合っている様子は、多くの方が目にしております。婚約者がいるにも関わらず他の女性と必要以上に親しくなさっているのは、不貞ではございませんか?」
背筋を伸ばし、婚約者に真っ直ぐな瞳を向けて理路整然と答えるアリシア。その凛とした姿に、令息たちは勿論、令嬢たちすら見とれていた。
「っ……うるさいうるさい!いいから俺の言うとおりにしろ!」
怒気をはらんだ眼でクライヴが怒鳴りつける。
彼の行いに正当性は無く、またこの場を切り抜ける弁舌を思いつくほどの頭も無かったのである。
固唾を飲んで見守っている者たちにもそれが伝わったのだろう。どこからともなく、失笑が沸き上がる。
「言い返せないものだから、怒鳴るしかないのね」
「見苦しいな。あれが次期当主とは、アシュレー家も先は無いようだ」
周囲の刺すような視線に気づいたクライヴは「ふん!行くぞ、フレデリカ」と男爵令嬢の手を取り、慌てて会場から出て行った。
そうして迎えたダンスパーティの日。
伸ばしていた前髪を切り美しい銀髪を結い上げ、ガーネットの瞳に良く似合うワインレッドの上品なドレスを着たアリシアはそう答えた。
それを聞いたクライヴは、驚愕のあまり言葉を失った。今まで一度も口答えをしてこなかった婚約者が、きっぱりと彼の申し出を拒絶したのだから。
「な、何を言っている!お前に拒否権など」
ようやく口を開いたクライヴだが、アリシアはそれには答えず言葉を続けた。
「理由は三つ。まず、私と貴方の婚約は、アシュレー侯爵家とハーネット伯爵家、それぞれの当主が結んだもの。当主以外に、それを破棄する権限などございません」
「は?次期当主の俺が破棄すると言っているのだぞ」
「二つ目。この婚約は、アシュレー侯爵と我が家の共同事業の盟約の証です。つまり婚約を破棄するということは事業提携を切るということ。今まで事業を立ち上げるために費やした時間、費用、人材……どれほどの損失が出るか、お分かりになりませんか?」
「そ、それくらいの金額、我が侯爵家ならば大したことはない」
父親の仕事を手伝っていると言っていたが、その実クライヴはほとんど何もしていなかった。きちんと事業に関わっていたのならば、その損失が侯爵家にどれほどのダメージを与えるか分かっただろうに。
「最後に三つ目。我が国の法では、不貞を働いた者、つまり有責者からの結婚、もしくは婚約の破棄は認められておりません」
婚約の解消を申し出ることが可能なのは、瑕疵の無い側のみ。そんなことは、この国の貴族なら誰でも知っていることだ。
「不貞だなんて。私たち、そのような関係ではございませんわ」
「そうだ。これは謂われのない侮辱だ。俺とフレデリカに謝罪しろ!」
「貴方がたが学園内で密接に触れ合っている様子は、多くの方が目にしております。婚約者がいるにも関わらず他の女性と必要以上に親しくなさっているのは、不貞ではございませんか?」
背筋を伸ばし、婚約者に真っ直ぐな瞳を向けて理路整然と答えるアリシア。その凛とした姿に、令息たちは勿論、令嬢たちすら見とれていた。
「っ……うるさいうるさい!いいから俺の言うとおりにしろ!」
怒気をはらんだ眼でクライヴが怒鳴りつける。
彼の行いに正当性は無く、またこの場を切り抜ける弁舌を思いつくほどの頭も無かったのである。
固唾を飲んで見守っている者たちにもそれが伝わったのだろう。どこからともなく、失笑が沸き上がる。
「言い返せないものだから、怒鳴るしかないのね」
「見苦しいな。あれが次期当主とは、アシュレー家も先は無いようだ」
周囲の刺すような視線に気づいたクライヴは「ふん!行くぞ、フレデリカ」と男爵令嬢の手を取り、慌てて会場から出て行った。
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