私は人形ではありません

藍田ひびき

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「アリシア嬢!この度のことは本当に申し訳なかった。貴方の冷静な判断に感謝する」

 数日後、ハーネット伯爵とアリシアは、オールディス公爵家を訪れていた。オールディス家はアシュレー侯爵家の主人筋にあたり、言わば寄り親のような存在である。オールディス公爵の仲介により、両家の話し合いの場が設けられたのだ。

 謝罪を述べるアシュレー侯爵に対して、クライヴは明らかに不満そうだ。父親に無理矢理連れてこられたのは明らかだった。

「あの男爵令嬢とは手を切らせた。今回のことは若さ故の気の迷いということで、許してくれ。まあ、男にはよくあることだ。アリシア嬢も、あまり騒ぎ立てずどんと構えたまえ。君はいずれ侯爵夫人になるんだしな!」

 謝罪しているとも思えぬ居丈高な態度に、ハーネット伯爵は勿論、オールディス公爵も渋面である。それに気づかないのか、アシュレー侯爵はガハハと下品に笑った。


 ぱぁん。
 
 あとは二人で話し合ったらどうかというハーネット伯爵の提案により部屋に二人きりになった途端、アリシアはクライヴに頬を叩かれた。
 じんじんと痛みが伝わってくる。

「俺に恥をかかせやがって。生意気な女め!」

 ――自分を持った女性の方が良いと言ったくせに。
 
「おかげで父上に怒られた。全部お前のせいだ!そこまで言うなら婚約は継続してやる。ただし余計なことを父上に言ったら、こんなものじゃ済まさないからな」

 ふん、とクライヴが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「髪を切ったのか?ちょっとはマシな見た目になったようだが、フレデリカとは雲泥の差だ。俺に愛されようなんて思うなよ。そんな棒っきれのような身体、抱く気にもならない」

 ――地味にしろと言った癖に。
 
「フレデリカは側室でもいいと言ってくれている。健気な女性だ……お前とは大違いだ。大人しい女だから嫁にすれば好きなようにできると父上に言われたからお前と婚約したのに、見込み違いだった。俺が侯爵家を継いだらフレデリカを第二夫人に迎えるからな。文句は言わせないぞ」
「それはどういうことだね、クライヴ君!」

 怒気をはらんだ声で表れたのは、ハーネット伯爵だった。その背後にはオールディス公爵の姿もある。慌てるクライヴに、ハーネット伯爵が詰め寄った。

「その男爵令嬢とやらとは手を切ったんじゃなかったのか?」
「え、そ、それは……」
「しかも私の娘に対する暴行まで。もう勘弁ならない。婚約はそちらの有責で破棄させて貰う!」
「侯爵にも弁明してもらわねば。これは仲介をした我がオールディス家の顔にも泥を塗る行為だ」
「そんな、待って下さい!誤解なんです。アリシア、お前からも何とか言ってくれ」
「誤解と言われましても……。先ほどご自分で仰ったではありませんか。私を抱く気もないし、フレデリカ様を側室へ迎えると。私、そのような不実な方に嫁ぎたくありません」

 必死で縋るクライヴを冷ややかな眼で一瞥した後、アリシアは父親と共にその場を後にした。
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