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事故⑵
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「真野?」
ベットのすぐ隣の戸口から、聞き慣れた声が聞こえて、視線を向けると奥田先生が立っていた。今日、先生と会う約束をしていたから、入院することになってしまったことを連絡していたのだ。大丈夫だから心配いらないって言ったんだけど、面会時間に間に合うように急いで来てくれたようだ。
「先生……」
「おまっ……何が大丈夫だよ。腕も怪我してるんじゃ……」
「いや……ギプスで大袈裟に見えるだけで、小指にヒビが入っただけなんですよ」
険しい顔の先生に詰め寄られ、なんとかなだめる。
「あ……あのぅ……えっと……」
突然の険しい表情の先生の来室に、困惑気味の都築さんがいる。
「あーえっと……こちらは……」
都築さんに先生を紹介しようとして、なんて言っていいか迷う。
どうしよう……何て言えばいいのかな……
そんなボクの様子を察してか、先生が言葉を繋げる。
「あーオレは、奥田春人と言います。真野……匠とは、親戚みたいなものです」
「え……あ……俺は同じ職場の都築秋平と言います。すいません。俺のせいで真野に怪我させてしまいました」
都築さんは先生に向かって深々と頭を下げる。
「先生、違うんだ。都築さんは悪くないから。ボクが不精しちゃったから……」
一瞬会話が途切れた時、面会時間終了のアナウンスが流れてきた。
「都築さん、こいつもこう言ってるし、あなただけが悪いわけではなさそうですから、頭を上げてください。あと、ま……匠、何かいるものはないか?買ってくるけど」
「あ、いや。明日退院できるし。今日必要な物は、都築さんが用意してくれたから」
「そうか……」
さっきから、先生に苗字ではなく名前で呼ばれて、密かにドキドキしていた。今日は先生と会う約束していたし、このまま先生と一緒に帰れないことが寂しい。
「じゃあ真野、明日退院するとき迎えに来るよ。その手じゃ何かと不便だろ」
「いや、明日はオレが来るから、都築さんは大丈夫ですよ」
先生は微笑んではいるけど、何だか都築さんに対して圧が強い。
変な誤解をしていなきゃいいんだけど……
「都築さん。先生に迎えに来てもらうので……ありがとうございます」
「え……あ……そうか。じゃあ、お大事にな。それでは俺はこれで……」
「今日は、遅くまでありがとうございました。それと……早く彼女さんと仲直りしてくださいね」
最後の一言に、やや苦笑して病室から出て行く。
都築さんがいなくなると、先生は徐ろにカーテンを閉めて2人だけの空間を作る。
「先生?」
「はぁー。やっと2人になれた。ほんっとにお前は……心配したよ」
そう言うと、ボクを優しく抱きしめる。
「先生っ……ここ、病室ですよ……」
「見えてないよ。ちょっとだけ……」
「もしかして、都築さんに妬いてました?」
「……そんなことないよ……」
ちょっとだけと言っていた割には、しばらく離してくれなくて、先生には怪我だけでなく、かなり心配をかけてしまったようだ。
ベットのすぐ隣の戸口から、聞き慣れた声が聞こえて、視線を向けると奥田先生が立っていた。今日、先生と会う約束をしていたから、入院することになってしまったことを連絡していたのだ。大丈夫だから心配いらないって言ったんだけど、面会時間に間に合うように急いで来てくれたようだ。
「先生……」
「おまっ……何が大丈夫だよ。腕も怪我してるんじゃ……」
「いや……ギプスで大袈裟に見えるだけで、小指にヒビが入っただけなんですよ」
険しい顔の先生に詰め寄られ、なんとかなだめる。
「あ……あのぅ……えっと……」
突然の険しい表情の先生の来室に、困惑気味の都築さんがいる。
「あーえっと……こちらは……」
都築さんに先生を紹介しようとして、なんて言っていいか迷う。
どうしよう……何て言えばいいのかな……
そんなボクの様子を察してか、先生が言葉を繋げる。
「あーオレは、奥田春人と言います。真野……匠とは、親戚みたいなものです」
「え……あ……俺は同じ職場の都築秋平と言います。すいません。俺のせいで真野に怪我させてしまいました」
都築さんは先生に向かって深々と頭を下げる。
「先生、違うんだ。都築さんは悪くないから。ボクが不精しちゃったから……」
一瞬会話が途切れた時、面会時間終了のアナウンスが流れてきた。
「都築さん、こいつもこう言ってるし、あなただけが悪いわけではなさそうですから、頭を上げてください。あと、ま……匠、何かいるものはないか?買ってくるけど」
「あ、いや。明日退院できるし。今日必要な物は、都築さんが用意してくれたから」
「そうか……」
さっきから、先生に苗字ではなく名前で呼ばれて、密かにドキドキしていた。今日は先生と会う約束していたし、このまま先生と一緒に帰れないことが寂しい。
「じゃあ真野、明日退院するとき迎えに来るよ。その手じゃ何かと不便だろ」
「いや、明日はオレが来るから、都築さんは大丈夫ですよ」
先生は微笑んではいるけど、何だか都築さんに対して圧が強い。
変な誤解をしていなきゃいいんだけど……
「都築さん。先生に迎えに来てもらうので……ありがとうございます」
「え……あ……そうか。じゃあ、お大事にな。それでは俺はこれで……」
「今日は、遅くまでありがとうございました。それと……早く彼女さんと仲直りしてくださいね」
最後の一言に、やや苦笑して病室から出て行く。
都築さんがいなくなると、先生は徐ろにカーテンを閉めて2人だけの空間を作る。
「先生?」
「はぁー。やっと2人になれた。ほんっとにお前は……心配したよ」
そう言うと、ボクを優しく抱きしめる。
「先生っ……ここ、病室ですよ……」
「見えてないよ。ちょっとだけ……」
「もしかして、都築さんに妬いてました?」
「……そんなことないよ……」
ちょっとだけと言っていた割には、しばらく離してくれなくて、先生には怪我だけでなく、かなり心配をかけてしまったようだ。
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