忘れられない思い

yoyo

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事故⑴

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   季節は夏から秋に変わり、夜になると肌寒く感じることが増えた。ボクと先生は、大きく変わらずだったけど、キスしたりハグしたりのスキンシップは増えた。先生は、ゲイであることをカミングアウトしてるわけではないから、外では今まで通り変わりないけど……

   今日は、先生とご飯を食べる約束をしていて、残業せずに帰りたかった。でも、就業間際に資料室で必要なはファイルを探すことになって、少し気が急っていたのかもしれない。

   下段の棚には見つからず、最上段のボックスにも手を伸ばす。何とか背伸びをしてギリギリ取れそうな高さだったから、不精をして踏台を使わずに取っていたところに、一緒に探していた都築さんが軽くぶつかってきた。ボックスは、なかなかの重さで、思いっきり姿勢を崩してボックスごと転倒してしまう。


「うわー」

「真野!!」

   ボクは持っていたボックスの中身を盛大に撒き散らして、意識が途切れた。
   1分程意識が消失していたようで、気づくと都築さんが必死にボクの名前を呼んでいる。


「あぁ……よかった……気づいたか……」

「いっ……た」


   体を起こそうとすると、無理するなと止められた。

「ごめんな。俺がぶつかったせいで」

「大丈夫です。踏み台を使わなかったボクが悪いので……」


   意識は戻ったものの頭を打っているということで、そのまま病院に担ぎ込まれてしまった。病院では、軽い脳震盪と右手小指の亀裂骨折で全治2週間と言われ、念のため1日入院になってしまった。

   あーあ……ついてない……

   
「真野、本当にごめん。オレのせいでこんな怪我させてしまって」


   病室で頭を下げ続ける都築さんがいる。都築さんは、病院に付き添ってくれて、全ての検査が終わって病室のベットにいるボクに頭を下げていた。診察を終えて、仰々しく右手につけられたギプスを見て、都築さんはまた顔を歪めてしまったのだ。


「顔を上げてください。都築さんは悪くないですよ。もう、謝らないで下さい。痛みはほとんどないですから」

「俺がボーッとしてたから……」


   確かに、今日の都築さんはずっと上の空で、調子が悪そうだった。


「何かあったんですか?」

「え……?」

「今日の都築さんは、いつもと様子が違ったから……」


   都築さんは、一瞬バツが悪そうな顔をしたけど、ボクへの負い目からか観念して口を開く。


「俺に年下の彼女がいるのは知ってるよな……」

「あー、高校生の?」

「……まあ……そうだ。その子とちょっと揉めてて……はぁ……真野には何だか偉そうなこと言ってたのに、俺も上手くコミュニケーションが取れてなかったってことだよ……」

   頭をガシガシ掻いてショボくれている都築さんの姿は、新鮮で何だか笑ってしまう。


「都築さんでも、そんなに余裕がなくなちゃうことがあるんですね。あははっ」

「何だよそれ。笑うなよ」

「彼女のこと、すごく大切なんですねー。ふふふふ……」

「あーもう、うるさいなぁ!」
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