忘れられない思い

yoyo

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昔の話⑴

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   今日もまんぷく屋はたくさんの人で賑わっている。今までオレの夕食は、まんぷく屋で済ませることが多かったけど 、真野と付き合ってからは、それもだいぶ減った。
   真野が料理好きだから一緒に作ることが増えたし、真野がいなくても、冷蔵庫の中に作り置きが入ってることが増えた。


   今日も本当は真野とまんぷく屋に来る予定だったけど、急な打ち合わせが入って行けなくなったとメッセージが入った。




「あれ?今日は1人か?真野くんは仕事?」

   ひと段落したらしい泰輔がカウンター越しに声をかけてくる。1人でまんぷく亭に来るのは本当に久しぶりだった。



「あぁ、残業になったみたいだ」

「そっかぁ。それで今日は寂しく1人なんだ」

「うるさいよ」


   オレが早く戻って仕事しろとシッシッと手で追い払う仕草をすると、大げさに肩をすくめて、厨房に戻りかけるが、何かを思い出したように振り向いて声をかけてきた。


「そういえば来週、佑兄ゆうにいが一時帰国するって」

「え?」



   佑兄こと、園田佑輔そのだゆうすけは泰輔の兄で、今はカナダでバーテンダーをやっている。佑輔さんは昔から口が上手くてモテて、常に隣には誰かいた。オレに対しては、からかったりちょっかいかけて来ることが多かったけど、大学で泰輔に出会って、佑輔さんとも知り合って、初めての同じゲイの知り合いで、色々教えてもらったのも事実だ。本当に色々……


   確か最後に帰ってきたのは5年前の泰輔の結婚式のときだ。その時は確か、パートナーも連れてきていた。



「今回は何かあるのか?」

「んーなんだろ。わかんない」

「はぁ~しばらく真野とここに来るの控えようかな……」

「あー。真野くんは佑兄のかっこうの餌食になりそうだしね……佑兄、からかって遊ぶの好きだからねぇ」


   からかわれてしまう真野の姿は容易に想像できた。オレのことも散々からかってきたから。



「ずっと聞いてみたかったんだけど、春人って、佑兄とやったことあるの?」

「ゲホゲホゲホッ……うえっっ?!」



   口に含んでいたお冷やを、むせて豪快に吐き出してしまう。


「あははっ……そんなに動揺するってことは、当たってるんだ」

「えっ?なんで……?え?え?……知ってたの?」

「んー。確信はなかったんだけど、もしかしたらそうなのかなぁ……っていう程度?昔から佑兄には頭が上がらない感じもあったし?」



   オレの初めて相手は、佑輔さんだった。1回だけだったし、お互いに割り切った感じだったから、泰輔には知られてないと思ってた……

   確かに、佑輔さんには頭が上がらない。でも寝たからだけではない。世間知らずで甘ちゃんだったオレの消したい黒歴史を知っているというのもある。


「はぁ……」

   無意識にため息をついていると「真野くんには、内緒にしておいてあげるよ」と笑って、今度こそ厨房の中に入って行った。
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