忘れられない思い

yoyo

文字の大きさ
62 / 95

昔の話⑹

しおりを挟む
「んっ……」

   目の前にある天井も部屋も見覚えがなく、ガバッと体を起こすと頭がグラっとする。


「った……ここ……どこ?」


   オレは、ソファーに横になっていたようだ。8畳ほどの部屋には机とオレが今横になっていたソファーと、あとは本棚や段ボールなどがあり、どこかの休憩室のような場所のようだった。大人っぽいお洒落なバーに来たことは覚えていたけど、どうして今ここにいるのかは全く、わからなかった。そもそもお酒だって、飲んでなかったはずなのに……
   
   ぐるぐる考えていると、ドアが開いて1人の見覚えのある男の人が入ってきた。



「お、目、覚めたか?具合悪くないか?」

「えっ……なんで……ここに?えっと……泰輔の……お兄さん?」


   部屋に入っってきたのは泰輔の兄の佑輔さんだった。手に持っていた水のペットボトルを手渡される。佑輔さんはここのバーでバイトをしているらしい。


「お前、泰輔の友達だったよな。確か……」

「あ、奥田です。奥田春人」

「あー、そうそう。奥田くん。奥田くんってさ、もしかしてって思ってたけど、オレと同じ?オレのことは泰輔から聞いてるでしょ」

「えっ?あー、まぁ……はい……」


   1回しか会ったことない人に気づかれるなんて……今日記憶がない時に、何かマズイ行動をしてしまったのだろうか……

    余程、困惑した顔をしていたのか佑輔さんに笑われる。


「オレさ~なんか知んないけど、わかっちゃうんだよね~。百発百中って訳じゃないけど、9割は当ててるかなぁ」

「はあ……」


   やや間の抜けた返事をしていると、佑輔さんは真面目な顔になって話を続ける。


「それはそうと、付き合う人は選んだ方がいいよ。今日だって、どこに連れられたか……」

「え?それって、どういう……なんで俺、ここで寝てたんですかね?一緒にいた人は……」

「何も覚えてない?はぁ……お前はお酒飲まされて、連れて行かれそうになってた」

「お酒……は飲んでないですけど……一応……未成年ですし……飲んでたのは……ジンジャエール……です」

「だからっ、ジンジャエールにお酒が入ってたってこと。騙されて飲まされたんだよ。たぶん、ホテルとかに連れ込まれて、お前今頃やられちゃってたよ」


    そんなことが現実に起こるのだろうか……まるでドラマのようだ。ましてオレは女の子じゃないのに。


「信じられないって顔だな。男でもあるんだよ」

「あの、えっと、ありがとうございました。助けてくれて……」

「なーんか、危機感ないね」


   そんなこと言われても、怖い目にあった訳でもないし、お酒は飲まされたかもしれないけど、楽しく喋って寝てしまった。そんな感じだった。それに仮にそうなっても、逃げられるんじゃないかとも思う。

   そんなことをボンヤリ考えてると、徐に佑輔さんが近づいてきて、一瞬、身体への衝撃があったかと思ったら、気づいたらソファーに押し倒されて、馬乗りにされている。抵抗しようと手を伸ばすが、すかさず両手を押さえ込まれて、身動きが出来ない状態になった。至近距離から見つめられて、一瞬ドキリとする。
   
   そして耳元で「こんなに簡単に押し倒されちゃうよ。自分は男だから、振り払えると思った?」そう囁かれると、ペロッと俺の耳を舐める。



「やめっ……んぐっ」


   手で口を塞がれる。


「声出しても、もうだ誰もいないけど、夜中だからね」



   えっ……と、これは、どういう状況……
   佑輔さんは、やばい人から助けてくれたんじゃなかったの……?

   ってか、全然振りほどけない……
   これって、マズくない?俺、佑輔さんにやられちゃうの……?



   急に、フッと口と体が軽くなる。俺の上に乗っかっていた佑輔さんが離れ、そっちを見るとニヤニヤと笑っている。



「あはっ。そんな顔するなよ。ジョーダンだよ」

「え……」

「お前、自分ならなんとかなるとか思ってただろ。どうだ、実際押し倒された気分は」



   自分の気持ちを見透かされたみたいで、何も言えなかった。
   でも、こんな騙し討ちするような真似しなくても……まぁ、そんなことは言えないけど……



「睨むなよ。悪かったって」

「じゃあ、お詫びに、来週ここでイベントがあるんだ。俺らのような性的マイノリティが集まるイベントで完全な紹介制だから、変な奴も来ないと思うし、それに招待するよ。あんな奴に捕まってるってことは、出会いを求めてるんだろ?」

「や……そんなことは……」

「あ、でもオレがさっきの続きしてもいいけど?」

「へ……は?何言って……」

「えーオレは、全然アリだけどね~。でもまあ、来週のイベントはおいでよ。俺の友達も来るし。好みの人とかいたら、紹介するよ」



   これをきっかけに佑輔さんとは仲良くもなったけど、からかわれるようにもなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

BL短編まとめ(現) ①

よしゆき
BL
BL短編まとめ。 冒頭にあらすじがあります。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ
BL
男子大学生の高梨千秋が引っ越したアパートの隣人は、生涯許さないと決めた男であり、中学の頃少しだけ付き合っていた先輩、柳瀬英司だった。 だが、一度鉢合わせても英司は千秋と気づかない。それを千秋は少し複雑にも思ったが、これ好都合と英司から離れるため引越しを決意する。 しかしそんな時、急に英司が家に訪問してきて──? 年上執着×年下強気  二人の因縁の恋が、再始動する。 *アルファポリス初投稿ですが、よろしくお願いします。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々
BL
なんと!HOTランキングに載せていただいておりました!!(12/18現在23位)ありがとうございます~!!*******超大手企業で働くエリート営業マンの相良響(28)。ある取引先の会社との食事会で出会った、自分の好みドンピシャの可愛い男の子(22)に心を奪われる。上手いこといつものように落として可愛がってやろうと思っていたのに…………序盤で大失態をしてしまい、相手に怯えられ、嫌われる寸前に。どうにか謝りまくって友人関係を続けることには成功するものの、それ以来ビビり倒して全然押せなくなってしまった……!*******百戦錬磨の超イケメンモテ男が純粋で鈍感な男の子にメロメロになって翻弄され悶えまくる話が書きたくて書きました。いろんな胸キュンシーンを詰め込んでいく……つもりではありますが、ラブラブになるまでにはちょっと時間がかかります。※80000字ぐらいの予定でとりあえず短編としていましたが、後日談を含めると100000字超えそうなので長編に変更いたします。すみません。

処理中です...