忘れられない思い

yoyo

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昔の話⑻

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   佑輔さんがワーキングホリデーで日本を離れるまで、1ヶ月を切っていた。オレの大学生活も、もうすぐ1年が経とうとしていて、大学では、泰輔を中心に仲の良い奴、何人かとつるむことが多く、入学当初絡まれた中学時代の女子とも全く会うこともなくなった。泰輔の前では、素の自分でいられたし、佑輔さんを含めて同じ性癖の知り合いもできて、高校時代よりもずっと毎日が楽しかった。

   ただ友達関係は充実したけど、恋愛の方はからっきしだった。紹介されたり、飲み会で仲良くなった人といい感じになったことはあったけど、それ以上の関係になかなか踏み出せなかった。中学の頃やこの間のネットで知り合った人に騙されたことなどがあり、信用して付き合うことが怖かった。

   あの人たちとは違うと頭ではわかっていたけど、心と身体はついてこなかった。


   この間も、飲み会で知り合って何度か外でデートしたり、家で宅飲みしたりしてた人にキスを迫られて、咄嗟に避けてしまった。その人とは、このまま付き合うんだろうなという予感もあったし、家にあげた以上、そういう事になっても構わないと思っていた人だった。
   だけど身体は拒み、その人は「ごめん」と一言謝ってオレから身体を離した。その後は、お互い何となく気まずくて、連絡しないまま、すでに2週間が経っていた。

   モヤモヤした気持ちのうさを晴らそうと、佑輔さんのバーに行くが、今日に限って顔見知りは誰もいない。だけど、帰る気にもなれなくて、ケータイを弄りながら、誰か知り合いが来ないかと時間を潰していると、声を掛けられた。
   顔を上げると、30代くらいのスラッと背の高い男の人が「隣いーい?」と少しオネエ的な口調で話し、承諾する前から、座り始める。


「誰か待ってるの?」

「えっ……あーいやー」

「一人なら、一緒に飲もうよー」

「いや……オレ、まだ飲めないので……それに友達来ると思う……ので……」

「でも、さっきから見てたけど、もう30分は一人でいるわよね。もう今日は来ないんじゃない?奢ってあげるから、あっちで一緒に飲みましょ」

   やや強引に腕を掴まれそうになったところに、割り込んで入ってきた背中が見える。


「すいません。佐藤さん、こいつ俺の連れなんですよ。バイト終わるまで待ってて貰ってたんです」

「なんだー。佑ちゃんの連れ?それじゃあ、手は出せないわね。残念」   そう言うと、その場を立ち去っていく。

「バカっ!!何で一人でこんなとこにいるんだよ!そもそもここは、お酒出すバーなんだから、一人では来んなっつたよね!」

   佑輔さんは、すごい剣幕で睨んで怒鳴ってくる。

「え、いやー誰かいるかなと思って……大雅さんは、毎日のようにいるし……」

「大雅も今日は実家帰ってるから、来ないし、今日は帰れよ」


   そう言われても、今日はなんだか素直に聞き入れられず、黙って俯いていると、大きなため息が聞こえて来る。

「俺、今日早番だから、10時には上がれるから、裏の事務所で待っとけ。今日はもう、店禁止」

「……うん」
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